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【9月22日(土)〜26日(水)】


 デュアル文庫の中編書き下ろしシリーズから出る乾くるみ『マリオネット症候群』の解説。『Jの神話』『匣の中』『塔の断章』……と続く中ではいちばんまとも。だと思うがよくわからない。まあ、最後まで読んで怒り狂うひとはあんまりいないと思います。人格転移ネタの学園SFで、フーダニットの趣向はあるものの、ネタの転がし方もミステリというよりSF。乾くるみ作品なのにこんなに楽しく読めていいのか、みたいな。
 媒体を過剰に意識してないのもいい感じで、こういう小説がどんどん入ってくるとさらに幅が広がるんだけど。

 月刊アスキーのコラムは先月のサーカム感染話につづいてニムダ話。角川書店S戸氏提供のネタが使えたので感謝したい。しかし、先月みたいなネタで書くと、パーティとかで、「ウイルスに感染したそうですね。だいじょうぶですか?」みたいなことを何人かから言われて、月刊アスキーも意外と読まれていると再認識。

 今月はもう一本、イアン・M・バンクスの〈カルチャー〉シリーズ日本初上陸長編、『ゲームプレイヤー』(Player of Games 浅倉久志訳/角川文庫たぶん10月刊)の解説を頼まれてたんだけど、ゲラをしまい込んだまま完璧に忘れ去っていたので大あわて。
 S澤編集長に頼んで送ってもらった邦訳既刊本をあわてて読み、書庫の奥に眠っているシリーズ既刊の原書を眺め、インターネットでバンクスのインタビュー/エッセイをチェック――と3日ぐらいつぶれてしまいました。4ページしかないのに。
 角川文庫なので、SFな人は見逃さないように。



【9月27日(木)】


 大手町・銀行協会ビルのクラブ関東で第13回日本ファンタジーノベル大賞授賞パーティ。ロケーション的には、スタート当初に使ってた本家・三井倶楽部に次ぐ会場。ここだと来るのも簡単でいいなあ。
 既報の通り、大賞受賞は粕谷知世さん「太陽と死者の記録」、優秀賞は畠中恵さんの「しゃばけ」。粕谷さんは空想小説ワークショップのメンバーだし、畠中さんはなんと同じ池袋コミュニティカレッジで都筑さんの教室を受講してるんだそうで、今回は池袋コミュニティカレッジのワンツー・フィニッシュ(笑)。おふたりともおめでとうございました。
 ちなみにあのとき言ってたタワンティンスーユ(=インカ帝国)もののミステリっていうのは、講談社ノベルスじゃなくて、原書房〈ミステリー・リーグ〉で出た愛川晶の根津愛シリーズ最新作、『巫女の館の密室』でした>粕谷さん(ここを読んでいるらしい)。

 今回は(翌日が休みじゃない)平日ってことで、歴代受賞者の参加は少な目。斉藤直子、山之口洋、佐藤茂、藤田雅矢、南條竹則、それに審査員の鈴木光司……ぐらい?
 二次会は例によってホテル・オークラのオーキッドバー。 山之口洋氏と日本SFの定義的な問題に関して意見交換。小林泰三との議論再開に向けて着々と準備を整えている模様。山之口さんのような説を表だって主張し、堂々と論陣を張る人は最近めったにいないので(笙野頼子はちょっと別)、本格的な論戦に期待したい。
 ただし、日本SFの文学性に関して批判するなら、同時代の非SF作品で高い文学性を持つものを具体的に挙げて比較対照する作業が必要だと思いますがどうですか――みたいな話を少々。もっとも、小林泰三のSF観と大森のSF観はまったく違うので、予備調査としてはあまり意味がなかったり。
 SF観についてわりと一致するなあと思うのは、田中啓文・牧野修・北野勇作あたりで、つまりオレがメンタリティを共有してる集合は、1960年前後に生まれた関西文化圏の文系SFファンってこと? そんな気もする(笑)。世代間格差と文系/理系の差と西/東の差ではどれがもっとも大きいかは今後の検討課題としたい。




【9月28日(金)】


 20世紀FOX試写室で、『サベイランス/監視』
 マイクロソフトとビル・ゲイツの陰謀を暴き、オープンソースのすばらしさをたたえるプロパガンダ映画、AntiTrustの邦題がなぜこうなるのか――は、映画を見るとよくわかる。ていうか、日本で公開しても、ぴんと来る人は少ないんじゃないですか。字幕では、「オープンソース」という単語は一回も登場しないし(無視されるか、「ソース公開」と訳されてます)。
 ティム・ロビンズがビル・ゲイツ役(作中ではゲイリー・ウィンストン)で、形態模写はところどころ爆笑。天才プログラマをどんどん殺してソースを盗むっていうのは、MS(作中ではN.U.R.V.社)的な企業買収のメタファーですか?
 衛星を使ったグローバルなデジタル・コンバージェンス・プロジェクトが焦点になるんだけど(イリジウム衛星がモデル?)、そんなものの通信システムのソースコードを公開してなんの意味があるのかよくわからない。だいたいオープンソースって、むしろ開発手法の問題なのでは。独占ソフト/フリーソフトの話にするんなら、架空のものすごいOSとかを題材に使ったほうがよかった気がする。でもWindows XPって、ソースコードを公開することにしたんだっけ?
 サンマイクロシステムズのティム・リンドホルムが協力してるらしいんですが、結果的に見ると反MS映画として有効に機能しているとは思えない。
 監督はピーター・ハウィット。『スライディング・ドア』は悪くなかったし、今回も演出ではそれなりにがんばってるんだけど、よくわかんない脚本をよくわかんないまま撮っちゃった感じ。
 まあしかし、こういうテーマの映画がつくれちゃう分だけ、アメリカの懐が深いとも言える。たとえば日本なら、NTTグループをモデルに、巨大通信キャリアのブロードバンド/次世代携帯市場独占を狙う陰謀を暴く! みたいな映画になるんだろうけど、そんなのどう考えても製作できないでしょ。
 それを別にしても、たぶん史上初のオープンソース映画(笑)なので、その筋のひとは話のタネに見ておくといいかも。

 6時から、ひさしぶりの鮎川哲也賞授賞パーティ@飯田橋ホテルエドモント。
 短編賞の受賞者は氷上恭子さんで、最終候補が発表になった時点から声優おたく系の人々のあいだでは話題騒然だったそうですが、もちろんラビアン・ローズな人とは同姓同名の別人。ご本人に紹介してもらったとき、いちばん最初に確認したのが名前のことなんだけど、
「え? おなじ名前の人がいらっしゃるんですか? 全然知りませんでした」
 なんの気なしにつけたペンネームがたまたま一致しちゃったらしい。東京創元社の編集部でも、声優の氷上恭子を知ってる人はいなかったのか。
 それは別にして、受賞作「とりのなきうた」は非常によくできた短編で、有栖川さんの絶賛選評を聞いたあとで読んでもがっかりしないのは立派。『創元推理21』に掲載。

 あとから読んだ長編賞受賞作の門前典之『建築屍材』は、ストーリーテリングに問題が多々あるものの、メイントリックはけっこう好き。読み終わってみればバレバレの書き方してるのに、うかつにも気づきませんでした。ただしそれ以外の小ネタとか、あのダイイング・メッセージはちょっと。そこまでしなくてもよかったのに。良くも悪くも非常に鮎川賞らしい作品。

 迫水さんといっしょに来てた劇団てぃんか〜べるの宝珠千琴さん、湖条圭子さんとはひさしぶりに対面。宝珠さん、その節はたいへん失礼いたしました。てぃんか〜べるの次回公演は11月22日〜25日、『魍魎の匣』の再演。でもチケぴも劇団予約もチケット完売とか。

 一次会終了間際にエドモントを抜け出し、新宿で開催中の河出文庫《20世紀SF》完結記念打ち上げに合流。中村融・山岸真の編者コンビに、翻訳者陣からは小尾芙佐・浅倉久志・内田昌之・白石朗・安野玲の各氏が参加。小尾さんにお目にかかるのはすごくひさしぶり。小尾・浅倉のツーショットも最近では貴重かも。

 ふたたび飯田橋にとって返し、タゴール(および周辺各地)の鮎川賞二次会へ。喫茶店で奥様たちの集まり(麻耶夫人・有栖川夫人・喜国夫人etc.)をやってるかと思えば、亭主たちだけで飲んでるグループがあったり、路上に立ったまま詰め碁の本を読みつつ人を待っている囲碁ミステリ作家の人がいたりして、もうなんだかわからない状態。メイン会場は例によってすさまじい人口密度。暑くて死にそうなので、人が減るまで各地を巡回してました。
 最後は例年通りカーニバルでカラオケ。倉知淳氏の歌を初めて拝聴する。さすが初代本格ミステリ王。




【9月29日(土)〜30日(日)】


 浅倉さんにファックスしてもらった訳者あとがきとネタがかぶらないように配慮しつつ、イアン・バンクス『ゲームプレーヤー』(角川文庫)の解説を仕上げ、北川歩実『金のゆりかご』の解説用に既刊の再読を開始。




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