【8月8日(水)〜9日(木)】


 WOWOWでチャンピオンズ・リーグ予選のパルマ×リール戦。パルマは全然ダメ。弱いときのインテルみたい。ミロセビッチもひどかったが、中田はダミーコの密着マンマークにあって、いないも同然。ホームで2−0負けはほぼ絶望的。あと2週間で立て直せるのか。夏休みとかとってる場合じゃないと思うんだけど。

 第13回日本ファンタジーノベル大賞受賞作決定。大賞が粕谷知世『太陽と死者の記録』、優秀賞が畠中恵『しゃばけ』。大賞はオレの箱だったので読んでます。マジックリアリズム系歴史小説の秀作。全然知らなかったんですが、森下さんの日記によると、粕谷さんは空想小説ワークショップのメンバーだそうです。おめでとうございます。




【8月10日(金)】


 ソニー・ピクチャーズ試写室で映画版『カウボーイ・ビバップ』。うーん、出来は悪くないんだけど。TV版がすごく好きな人と、TV版まったく見てない人向けかなあ。世界観を生かしてオリジナルの劇場版をつくるとどうしてもこうなってしまう。TV版との距離が近すぎ?

 ホテル・ニューオータニに投宿中の小松さんのスイートで小松左京賞懇親会――というか、候補作をすべて読み終えた小松さんが、予選担当者の感想を聞く会。
 例によって本題は30分で終了し、事実上、ここで小松左京賞は決まっちゃったんですが(選考委員は小松左京ひとりだけなので、「選考会」は主に脳内で開かれる。前回は春樹社長が聞き手役で小松さんが各賞を決めていく――という形式をとったんですが、さすがに今回はそうもいかないのでこういうかたちになったらしい)、結果発表は9月なのでそれまでひみつ。
 それから4時間は例によって小松さんの独演会。「SF作家クラブで東海村の原子力研究所見学に言ったときの星新一の言動」とか、それは小学校のとき歴史の教科書で読みましたよ――みたいな話でも、小松先生の口からナマで聞くと感動しますね。
『ネコジャラ市の11人』の元ネタが、『ホーマーくん』シリーズだった(あれをSFに置き換えるのが発想の原点だった)って話は初めて聞きました。なるほどそうだったのか。
 あとは大伴昌司氏が亡くなったときの話とか、『さよならジュピター』製作中の話とか。最近の宇宙作家クラブの話もちょっと出ました。




【8月11日(土)】


 コミケをパスして仕事。FF:SWをスニーカー版にローカライズする作業。
 翻訳文体をティーンズノベル文体に近づけていく――といっても、中身がティーンズノベル的な話じゃないので、文字遣いの変更とか、算用数字の多用とか、「と彼はいった」を根絶させるとか、そういう小手先レベル。あと、行頭・行末にダッシュやリーダーをがんがん使うとか。たとえば、地の文の"××は無言だった"は「…………」に変換されます(笑)。
 改行の方法も当然かわりますね。ゼウス砲撃つところで「ちゅどーん!」とかやってみたい。やらないけど。これがあかほり文体で訳せるようになれば一人前か?
 まあしかし、こういう作業してると、翻訳業界のお約束がいかに特殊化してるかにあらためて気がつく。とくに文字遣いとか。

 岡山帰りの柳下毅一郎が来訪。津山取材は楽しかったらしい。




【8月12日(日)】


 昼頃起きたので最終日の夏コミへ。東ホールと西ホールをつなぐ通路がめちゃ混みで驚く。はしもとさちこさんちの『SF少女エス子ちゃん』の新刊が傑作。
 本の置き場所に困ったエス子ちゃんが冷蔵庫にどんどんSFをしまってお母さんに怒られる話なんですが、当然マニアなひとなので、冷蔵する書名には配慮してある。マイクル・コニイ『冬の子供たち』とか、アンナ・カヴァン『氷』とか。
 思いきりツボだったのは、ラストのお母さんのツッコミ。「でも『猫のゆりかご』までしまうのはどうかしら。アイス・ナインの融点は42.3度よっ!」みたいな(笑)。
 しかしその続編で、ガスレンジの魚焼きグリルに本をしまうのはちょっと無理がある気が。




【8月13日(月)〜16日(火)】


 さらにスニーカー仕事。全長版からページ数にして20パーセント弱減量。スニーカー版オリジナルのプロローグを追加。坂口監督から要請のあった説明を追加。章立てを変更。
 でも視点人物はそのままだし話は変わらないので、全体的な印象はそう変わらない気が。リーダビリティはスニーカー版のほうがやや高いかも。

 チャレンジカップ、日本×オーストラリア戦。アジアとオセアニアのチャンピオン同士で一番を決める大会らしいが、事実上、アジアカップ・ウィナーがオーストラリアと戦うカップ戦。まだしもアジア・アフリカでAAチャレンジカップとかやったほうがいいのでは。
 オーストラリアは全然やる気なし。このチームに3−0で勝ってもなあ。




【8月17日(金)】


 子連れで幕張へ。SF大会の自主前泊。家は近いんだけど、まあ前日ぐらいゆっくりしたいじゃないですか。
 ベビーカー押して西葛西の駅まで行って東西線で西葛西、総武線に乗り換えて幕張で降り、タクシーで幕張ニューオータニというルート。電車はがらがらで楽勝でした。
 先に到着していた小浜徹也・三村美衣夫婦とラウンジで軽く食事してから、設営作業が進行中の幕張メッセ展示ホール7こと「SF広場」へ。まだほとんどなんにもなくてがらんとしてるところに畳や赤いカーペットが敷かれてゆく。
 武田さん、てんちょさんに進行状況を取材。オープニングアニメはできるかもしれないしできないかもしれないらしい。参加者はスタッフ、ゲスト含め、2000人超の規模になりそうとか。

 ブロッコリーの大高さんにクルマで送ってもらって、すぐ近所のカルフールへ。カルフール評論家の三村美衣によれば、店内レイアウトやシステムはフランスと同じだけど、棚に並んでるのが日本のものばっかりなんで気持ち悪いらしい。
 書籍コーナーのレジが独立してなくて、スーパー部分といっしょになってるのが驚きました。あれって、本だけ買う人には不便じゃないの?

 ふたたび迎えにやってきてくれた大高さんのクルマでニューオータニに戻り、ホテル内のイタリアンレストラン、マーレ・ディ・オータニで夕食。なんでホテルの中でばかり飯を食ってるかというと、一泊につき6枚×2人分のクーポンがついてるから。




【8月18日(土)】


 9時過ぎに起きてホテルの朝飯食べてから、オープニングアニメを見にいく。赤井孝美入魂の力作。すばらしい。いやもうこれだけで幕張まで来た甲斐があったね。1万9000円の参加費は安すぎる(オレは払ってないけど)。SF史に残る作品と言えよう。

 とか、あとで会った赤井さん本人に向かってどんどん絶賛してたら、
「大森さん、よくそんなことがべらべらしゃべれますね。あんたは鬼や。ほんまに性格が悪いわ」
 と思いきりいやな顔をされました。こんなに誉めたのに(笑)。
 なんか、ほんとにギリギリまでマジで完成をめざして作業をつづけてたらしく、最終的にこりゃあかんと断念したのは当日の午前4時だったそうです。
 どうせならかわりに、武田・庵野で「快傑のーてんきvs帰ってきたウルトラマン」とかやればよかったのにね。前代未聞の生オープニングアニメ(笑)。
 武田さんはさらっと流しすぎでしょう。いつもの参加者にはあれでいいけどさ。
 それにひきかえ、アシスタントをつとめた尾山さんは異様に気合いが入ってました。あの舞台テンションは見習いたい。
 台本握った手が小刻みにぷるぷる震えちゃうくらい緊張してた(推定)のに、声と態度にはまったくそれが出てこない。最初は一瞬、プロのイベントの人かと思いました。

 というわけで、オープニングは一瞬で終了し、イベントホールはそのまま『教養』ライブに突入。
「赤井孝美のアニメなんか、この先いくらでも見る機会はあるでしょう。そりゃ、ナマの小松先生のほうがはるかに価値がありますよ」
 と赤井さんは力説してました(←言葉は多少変更してあります)。でもオレはアニメのほうが見たかったな。
「息子にはじめて見せるアニメはSF大会のオープニングアニメ」と決めてたのに。人生設計がすでに狂ってしまった。まあ人生なんてそんなもんか。

 大森担当1コマ目の企画「SF/ミステリの今」のゲストキャッチに控え室へ向かう途中、野田昌宏氏に遭遇。さっそく名刺交換。トキオの名刺もわたしたら、
「最初に会っちゃったからしょうがないな」
 と大元帥はカバンからNASAのロゴ入りベビー服をとりだし、いきなりプレゼント。サンタクロースのおじさんみたいでした。いつか宇宙作家クラブに入れるような立派な宇宙人に育つのか。でも、でじこおたく、みたいな。

 ゲスト控え室/打ち合わせ室の場所は当日になって変更されたため、混乱が続出。だれもいない会議室で待ちぼうけを食った人が大量に出たらしく(とくに、初めてSF大会に来た人に多かったらしい)、ゲスト受付での告知をもっと徹底しておくべきでしたね。当日配布物なんて、その場でいちいち見ないでしょう。
 SF/ミステリ企画でも、森博嗣・山田正紀組と綾辻行人・西澤保彦組が1階と2階に分裂し、最終的には2階で合流。1階レストランの一画のゲストスペースはちょっと狭すぎ。

 というわけで混乱のうちにスタートした1コマめの詳細は、安田ママさんのレポート参照。オリジナル版『猿の惑星』を見てない人も安心して読めるレポートです(←と思ったらその後修整されてネタバレに(笑)。関係ないけど、仲間美由紀じゃなくて仲間由紀恵です>ママさん)。考えてみればバートン版って、文字通り『2001年猿の惑星』だったんだから、骨を宙に投げ上げるシーンとかほしかったよね。あ、でもラストのアレ(ペリクリーズが降りてくるところ)はもしかしてモノリスのつもりだったのか? しまった、こないだの原稿に書けばよかった。
 ところで『スカイ・クロラ』は森博嗣版『戦闘妖精雪風』である、という説を唱えてるんですが、SF読者にはあまり読まれてないのか? ジャンル的にはどう見てもSFだと思うんだけど。

 2コマ目は鈴木力司会のSF翻訳話。SF人妻レポートによれば、司会者がたいへんかわいそうだったらしい。なお、柳下毅一郎はパネリストじゃなくて客席。前にいたのは大森、山岸と嶋田洋一氏です。

 なお、このパネルに関して柳下毅一郎わいく、
〈二十一世紀のSF翻訳〉のパネルで、司会の鈴木力が大森望が『ザップ・ガン』解説で、「ディックをSFファンの手に取り戻そう」とアジったことを取り上げていた。ぼくはあのころから大森望のSFマニア主義にはずっと違和感があったのだが、きちんと議論できなかった(その能力がなかった)のはきわめて残念なことだ。結果を見ればわかるだろう。今、ディックはSFファンの手に取り戻された。で、どうなった? 全然売れなくなっちゃったじゃないか!
 SFマニア主義の正否はともかく、ディックが「全然売れなくなっちゃった」ってのはどういう意味?
 bk1で検索してもらえればすぐわかりますが、ディックはいまも売れてます。死んでから20年近くたつのに、いま手に入る本が29冊。『ザップ・ガン』が出たとき、サンリオSF文庫廃刊とソノラマ文庫海外シリーズ終了の余波で、新刊書店ですぐ手に入るディック本が10冊ぐらいしかなかったことを思えば、当時より今のほうがはるかに売れているという見方もできる。だいたい、データが証明する通り、ディックの売れ行きを左右するのは主に映画化の有無でしょ。いや、『インポスター』あらため『クローン』じゃダメだろうけどさ(笑)。
 この種の風説はそこだけ独立して流布しやすいので(「柳下毅一郎の日記で読んだんだけどさ、ディックって、今は全然売れてないんだってね」「そりゃそうでしょ、SFは冬の時代とかいうじゃん」「そうかあ、ディックでもダメならSFはもう終わりだねえ」とか)、強く訂正を求めてゆきたい。ちなみに、「全然売れなくなっちゃった」が、「新訳の長編が出なくなっちゃった」の意味なら、それはディックのせいでもSFマニア主義のせいでも東京創元社のせいでもなく、ひとえにオレのせいですが(笑)。

 ついでにもうひとつ。柳下がその前のところで書いてる、
「はっきり言っておくが、サイバーパンク・ブームのとき、SFはファッショナブルでお洒落なものであり、当然ながら売れていたのだ。だが、SF界はそれを嫌い、外からのSFへの注目をことごとく拒否した。サイバーパンク以降SFが売れなくなったとしたら、それはサイバーパンクをSFの外へ追いやったからである」
 についても、後半は歴史認識が全然違いますね。大森(と水鏡子)は「拒否した」と言われても仕方ないかもしれないが(笑)、当時、商業誌でサイバーパンク・ブームに水を差すような発言をしていたSF関係者は圧倒的に少数派だったはず。たいていの人は外からの注目を歓迎していたと思う。だいたいオレだって、SF専門誌(って当時は《小説奇想天外》にしか書いてませんが)以外の媒体では、サイバーパンク礼賛原稿を書いていたのである(《宝島》のサイバーパンク特集とか)。
 したがって、「SF界はそれを嫌い、外からのSFへの注目をことごとく拒否した」という状況でなかったことは断言してもいい。「わずか十五年前のことなのに、すでに歴史の捏造がはじまっている」のか(笑)。

 3コマ目はデュアル作家パネル。一条理希若木未生荻野目悠樹北野勇作の4氏がパネリスト。後半はコバルト内幕話に話題が集中したような……。作品に関してあんまり突っ込んだ話が振れなくてすみません。結局、ジャンル意識を強く持ってるのは北野さんだけだったしなあ。北野勇作は瀬名秀明説得要員として次のパネルに出てもらったほうが正解だったかも。

 4コマ目はトランスジャンル作家パネル。津原泰水小林泰三瀬名秀明高野史緒の4氏がパネリスト。
 なんかたいへんなところに呼ばれたらしいと直前に気づいたらしい津原さんはしっかり予習してきてくれて、鋭いツッコミを連発。予想外の方向に転がったのがいい感じでした。小林泰三はオフラインでは戦闘能力が弱すぎ。というか、壇上では性格の悪さを十全に発揮できないらしい。

 というわけで、90分×4コマ、6時間分のパネルを消化したときにはもうへとへとで死ぬかと思いました。ここまで書いて疲れたので続きは次回。名刺交換したゲストの名前リストとか入れる予定(笑)。


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