【6月1日(金)】


 ぼちぼち社会復帰しなきゃいけないのに全然仕事になりません。新人賞の箱を開けてだらだら読む。読まなきゃいけない新刊も山積み。生活に追われて仕事ができないとはこういうことなのか(笑)。

 試写で『アリーテ姫』『クイーン・コング』をはしご。『アリーテ姫』は傑作。原作は政治的に正しいおとぎ話(フェミニズム・バージョン)なんだけど、映画は遠未来SFに換骨奪胎。『今僕』的というか、Chalk Giants的というか、いい感じの世界に仕上がってます。
 対する『クイーン・コング』もフェミニズムSF――というか、ウーマンリブSF(笑)。試写じゃなかったら頭の15分で席を立ってたね。ダメなものにはけっこう抵抗力があるほうなんだけど、それにしてもダメすぎる。まあ、クイーン・コングがアメリカ上陸してからは、まだいくらか楽しめるところもあるんだけど。特撮は意外とがんばってました。広川太一郎の吹き替えはやりすぎ。まあここまでダメだと語りぐさとしての価値はあるのか。




【6月2日(土)】


『星界の戦旗』読本の取材で森岡(浩之)さんの新居へ遊びにいく。まだ段ボールが開いてなくて、寝室以外はみごとに片づいてます。単身者住居としてはめちゃくちゃ広い。四方山話をしつつ、《ザ・スニーカー》の特集用に実家から送ってもらったという幼少時のアルバムとか見てなごんだり。
 だいたいパーソナル・プロファイルは《ザ・スニ》で完璧にフォローされているのでネタがない。いったい何を書くんだろうな。
 あとは森岡さんの案内で近所の商店街を散歩。おすすめの肉屋で巨大チキンカツを買い、タクシーで帰宅してコンフェデレーションズ・カップ。

 フジテレビのカナダ戦中継に業を煮やし、速攻でCSチューナーを申し込んだんだけど、アンテナ工事が試合開始に間に合わず。結局、カメルーン戦をフジの中継で見ている最中、ベランダでアンテナ工事が進行することに。
 うちの場合、ベランダは東向きで南側にはアパートが建ってるので、角度的にギリギリかなあとやや不安だったんだけど、わりとすぐ映った模様。

 工事終了とほぼ同時に試合も終了、SF大会の打ち合わせのため馬場に出る。大森担当企画で言うと、一日目のSF/ミステリー企画は、森博嗣・西澤保彦・綾辻行人・山田正紀の各氏が出演予定。あとはまだ確定してないんですか、デュアル文庫系の作家パネルとか、《三人のゴーストハンター》ライブとか、SF作家と名乗らないSF作家(ex.瀬名秀明)のパネルとか。あ、なんかSF翻訳系の企画もあるらしい。もうコンベンションからは引退しようと思ってたのになあ。最後のご奉公か。

 帰宅してスカパーの番組をチェックしてみると、映らないチャンネルがやたらに多い。パーフェクTVのほうは問題ないんだけど、スカイのほうがほぼ全滅だと判明。だめじゃん。




【6月3日(日)〜5日(火)】


 前回と同じ工事の人に来てもらってCSアンテナの再調整。スカイの受信状況はギリギリ。もうちょっと外に出さないとどうしようもないので、取り付け用の部品を発注。




【6月6日(水)】


 第一回ムー伝奇ノベル大賞授賞パーティ。さいとうよしこに、「今日は伝奇ノベル大賞だから」と言ったら、「電気のベル大賞」と聞き違えられる。賞品はブザーですか?

 会場で、新創刊の学研《伝奇M》をいただく。厖大な伝奇ブックガイドの執筆者がすごい。半村良のガイドを川又さんが書いてるんだけど、これが爆笑。

 わたしも原稿頼まれたのに出産前後のドタバタの渦中だったんで断ってしまい、肩身が狭い。よく考えたらまったく仕事をしていない会社のパーティなんでした。

 二次会は銀座のライオン。菊地秀行・夢枕獏の両御大が並んで座り、健康法について語り合う姿がラブリーでした。しかしこの夜、圧倒的なテンションで満座の注目を集めたのは平山夢明。飯野文彦が大人しく見えるほどの飛ばしぶりで、語りにいちいちアクションがつく。
 徳間で処女長編の『SINKER 沈むもの』を書いてたとき、原稿に煮詰まってた平山さんに対して、担当者の関智(元徳間書店・現《関猿》代表?)が言ったセリフがすばらしい。
「ぐじぐじ悩むことないんだよ。どうせこれからがんがんベストセラー飛ばして賞とってビッグになるんだからさあ。こんなのはキャメロンにとっての『殺人魚フライングキラー』なんだから。ぱぱっと書いちゃえばいいの」
 励ましてるんだか貶してるんだかよくわかりませんが、なんとなく納得する。しないか。
 あとは幼少時の鬼畜な所業の数々が披露され、平山さんの小説に書かれていることは概ね実体験だったという事実が判明する。ということは、当然、牧野修も小説に書いているような行為を実践しているに違いない。まさかそんな人だとは。

 三次会は川又さんの引率でなじみの店へ。が、そこが満席で、結局、近くの《東方見聞録》に落ち着く。平山夢明が去ったあとは東野司の独演会。なんか知らんけどすごかったなあ。あんな人とは思いませんでした。

 ヤフー・オークションにやっぱり出た2002年W杯日本戦チケットのネタで《アスキー・ネットJ》原稿。




【6月7日(木)】


 午後1時、新宿センチュリー・ハイアットで《新SFインターセクション》の京極夏彦インタビュー。他媒体とは若干色合いの違うインタビューになるかも。ま、『ルー=ガルー』に関してはそんなに違わないんだけど。

 取材が終わってから、S澤編集長と別れて一路横浜へ。コンフェデレーションズ・カップ準決勝、日本×オーストラリア戦。グループリーグを2位抜けしてればフランス戦だったのになあ。オーストラリアの1・5軍が相手では、「日本代表が勝つところをナマで観る」ぐらいしか楽しみがないじゃん。とか試合前は憎まれ口を叩いてたんですが、いやまさかあんなことになるとは。
 試合前にPHSで三村美衣に連絡をとったら埼玉は豪雨で、しかも雨はだんだん東に向かってる模様――と聞いていたものの、降り始めるまではなめてましたね。オレの席はバックスタンド側の前から15列目ぐらいで、ギリギリ屋根がかかるあたり。風向きによっては全然濡れずにすむので、こりゃちょうどいいやと思ってたら甘かった。あの雨に1分でも打たれると、もう濡れっぱなしなのと一緒。一瞬でパンツの中までぐしょぐしょになり、寒いのなんの。おかげで一生忘れないだろうサッカー観戦になったんで、長い目で見ればお得だったに違いない。
 試合のほうはとにかくあの豪雨なのでまともにボールが回らず、スタンドで観てると前半押されっぱなしの印象。そうそうに森岡がケガで上村と交替し、ますます悪い予感が漂う。こりゃダメかと思ったところで中田英寿のフリーキック。燃えました。

 試合終了後、携帯で連絡をとりあって、三村美衣、柳下毅一郎と合流。国樹由香嬢も来てたらしいけどすれ違っちゃってすいません。
 それにしても、全身ずぶ濡れになると寒いのなんの。試合中は小机駅前の露天で買った2002Korea/Japanのパチもんジャージを来てたので、それを脱いで乾いたTシャツに着替えたけど焼け石に水。スタジアム隣接のスポーツセンターのプロショップで靴下とかタオルとか買ったけど、それもほとんど無駄。スニーカーはがぼがぼだし、ジーンズはまったく乾く気配もない(翌日になってもまだ乾いてなかった)。

 とりあえず屋根の下で休憩してから、新横浜目指して歩き、横浜ラーメン博物館へ。国際競技場を埋めた5万観衆の半分ぐらいが流れてきたんじゃないかという大混雑で、青いジャージの人だらけ。いちばん空いてた沖縄ラーメンの店に30分並んで入り、なんとか体をあたためる。しかしここって、まるで『オトナ帝国の逆襲』みたいなコンセプトなのね。昭和30年代風。内装やるのは楽しいだろうと思いますが、見て楽しいのか? しかも全然においがしないので雰囲気とまったく合わない。においに着目した点では、クレしんはえらかった。まあ映画じゃどうせにおいは出ないんだけどさ。




【6月8日(金)】


 渋谷アロッサで、ENIXエンターテインメントホラー大賞の予備選考慰労会スポンサード・バイ・アトリエサード。ワインで酔っ払った三村美衣がどんどんボルテージを上げてとにかくうるさい。岩田恵も相当にうるさい。高橋良平は人間ができているとつくづく思いました。接待してるんだかされてるんだか(笑)。いや、食事はおいしゅうございました。




【6月9日(土)】


 沖縄から打ち合わせのために上京して飯田橋滞在中の藤木稟さんおよびマネージャーのY田嬢と神楽坂で会食。ミステリ業界とSF業界の話とか。沖縄は環境的には抜群だけど、食事がまずいので、秋から大阪に戻ってくるそうです。新作の『テンダーワールド』(『イツロベ』の姉妹編)はガチガチのSFらしい。
 なぜかうちに二冊だぶっていたサンリオSF文庫版『アークトゥールスへの旅』を前にさしあげたので、かわりに食事をおごっていただく。エビで鯛。




【6月10日(日)】


 新・SFインターセクション、京極夏彦インタビューの原稿まとめ。ミステリ・チャンネル《ベスト・ブックス》国内編用の未読処理に着手。




【6月11日(月)】


 五反田イマジカで『パール・ハーバー』。日本のシーンはぜんぶカットすればよかったのに。軍事・政治がらみの場面はぜんぶ不要。ラストの中国もいらない。それにしてもいまどきこんな古典的三角関係ドラマをよくやるなあ。真珠湾攻撃シーンはたしかに凄いけど長すぎるので飽きます。というか、寝そうになったよ。




【6月12日(火)〜15日(金)】


 国産ミステリ未読消化がつづく。
 小川勝己の第二作『彼岸の奴隷』(角川書店)が凄い。『葬列』のときはまだ抑えていたのか。ふつうの人がまったく出てこない異常な話。
『葬列』は、桐野夏生『OUT』に似てるとか奥田英朗の『最悪』に似てるとか言われたけど、『彼岸の奴隷』は、奥田英朗が『邪魔』で完成度重視の方向に行ったのと正反対の方向にハンドルを切った感じ。むしろ戸梶圭太方向? キャラクター小説系のクライムノベルはむしろ00年代の主流なのかも。
 五條瑛『断鎖 escape』もわりとそういう路線かなあ。まあ、サーシャ以外はリアリズムっぽい造型だから、こちらは年配読者も満足しそう。うまい。
 このへんの路線にくらべると、真保裕一『黄金の島』(講談社)は明らかにおやじ系。おやじ系週刊誌連載だから当然だとしても、日本側の冒頭場面のダイアローグはあまりに演歌すぎて、思いきり引いてしまいました。ベトナムの話はいいんだけどなあ。小説のバランスから言うと、海洋冒険小説の部分がもっと長いほうがよかった。
『断鎖』と同じ不法入国/不法出国の話なので、合わせて読むのもいいかも。

 横溝賞の二作はどっちもいまいち。川崎草志『長い腕』(角川書店)は、後半が綾辻《館》シリーズへのオマージュっぽい感じ。それをいまどきのゲーム業界内幕話と組み合わせるのはいいんだけど、ゲーム系のエピソードがよくある特殊業界モノに見えてしまい、あんまりそそられない。まあ全然知らないわけでもない業界だからそう見えるのかもしれないが。
 鳥飼否宇『中空』(角川書店)のほうは、もはや国産本格の主流になりつつある特殊共同体モノ。この手の話だと、リアリティの閾値をどこまで下げられるかで楽しめるかどうかが決まる気がする。
 大倉崇裕『三人目の幽霊』(東京創元社)は落語雑誌編集長が探偵役をつとめる連作。北村薫《円紫》シリーズと違って、業界モノ的なエピソードも多い。ワインの話がよくできてて好きかな。水準の高い短編集。

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