【5月14日(火)〜15日(水)】


 最後から二番めの毎日中学生新聞コラム原稿を『ふわふわの泉』で書く。
 本格ミステリ大賞の締切なのであわてて投票。悩みに悩んだ挙げ句、小説部門は倉知淳『壺中の天国』、評論・研究部門は都筑道夫『推理作家の出来るまで』に入れました。問題はコメント。紙に出力する環境がない(プリンタをつないでない)ので、結局手書き。こんなに長い文章(400字とか)を手で書いたのは十年ぶりかも。まあ、手で字を書くという古典的な技術を忘れずにいるためには貴重なんだけど、せめてコメントだけはメールもしくはFAX送信可にしてほしいと思った。




【5月17日(木)】


 ギャガ試写室で「マンボ!マンボ!マンボ」。北アイルランドはベルファストが舞台のインディペンデント映画。なんでこんなの見たかというと、それはケリー・ラッセル萌えだから――というわけじゃなく、半分サッカー映画だから。
 主人公は地元ハイスクールのサッカー少年。地元のクラブチーム、ベルファスト・ユナイテッドに入団してプロ選手になるのが夢。そのベルファストUにブラジルから新加入したカルロスがTVのインタビューで一言、「サッカーに必要なものは、リズムだ!!」
 そうか、サンバのリズムが重要なのか。と目からウロコを落とした主人公は早速ダンス・スクールへ……。
 と、ここから先の展開は、シンガポール映画『フォーエバー・フィーバー』とまったく同じ。でもケリー・ラッセルがかわいいのでOK。
 最後は、優勝を狙うダンスコンテストとベルファストUの入団テストが同じ日に勝ち合い、どんでん返しが一発あったあと、めでたしめでたしで幕。
 サッカー場面のカメラワークに(技術はともかく)愛がないのは致命的な欠陥ですが、映画としてはけっこう好きかも。サッカーネタのギャグはけっこう笑えます。

 試写のあと、浜田山にまわって、山本周五郎賞待機宴会中の恩田陸/新潮社チームに合流。ていうか、合流したときにはすでに結果が出てました。本人の携帯に電話して、「落ちました」と聞かされる失礼なオレ。まあ恩田さんはいくらでもチャンスがあるので。だいたい山本賞を先にとってしまうと大藪賞の候補にならなくなるから(推定)順番が重要。
 候補にする側にも、この作品でいいのかと迷いがあるのでは――という話から、帯にジャンルを明確に書いておけばいいんじゃないの、とか。

 二次会は神楽坂のブラッセルズ。山本文緒さんとか重松清さんとか合流、最後は無関係な酔っぱらいにからまれた新潮社某が受けて立ち、大立ち回り寸前――のひと幕もあったらしいですが、オレは深夜当直のため途中帰宅したのでよくわかりません。

 ほんとは新宿の中原昌也祝勝会に寄って、三島賞受賞祝いを一言述べて帰ろうかと思ったが、どうせ受賞パーティもあることだしと電話だけでお祝い。しかしこっちは予想通り。『ハンニバル』試写で会ったとき「《新潮》に200枚の新作を書いた」と聞いた瞬間、三島賞は鉄板だと思った。でも芥川賞とらないと売れないんだよな。
 それにしても、同時受賞が青山真治『ユリイカ』ってところがさらに笑える。芥川賞・三島賞を通して(直木賞・山本賞を含めても)ノベライゼーションでの受賞はたぶん初でしょう。次は黒沢清が山本周五郎賞? ってそれは無理か。




【5月18日(金)】


 第一回本格ミステリ大賞開票と結果発表。
 小説部門は倉知淳『壺中の天国』、評論・研究部門は権田萬治・新保博久監修『日本ミステリー事典』。下馬評からすると意外だけど、考えてみると順当か。まあ都筑さんは推理作家協会賞とってるし、本格ミステリとは無関係な内容が大半を占めるからなあ。




【5月19日(土)〜20日(日)】


 ハヤカワ文庫から出る清原なつのSF短篇集の解説を書くために、さいとうよしこ実家からさいとう弟に回収してきてもらったりぼんマスコットコミックスその他をまとめて読み返す(70年代後半から80年代前半にかけて蒐集した少女マンガの山は、まるごとタイムカプセル状態で栃木に保存されている)。
 清原なつのっていうと、いちばん思い出深いのはやっぱり『花岡ちゃんの夏休み』。受験生時代にバイブルだったマンガなので、解説も冷静には書けません。というか、ほとんど個人的な体験に終始した気が。
 今回読み返して感心したのは、「金色のシルバーバック」と「銀色のクリメーヌ」。まるでティプトリーみたい。クリメーヌのラストはとくに凄絶。




【5月21日(月)】


 我孫子武丸・千織夫妻、河内実加、白城るた、あしかふみこの各氏来訪。トキオは女性陣にモテモテ。人生でもっともモテる時期かも。

 途中で抜けて、《a night of wonder 難波弘之 Live at 目黒ブルースアレイ》。いや、SF作家クラブ主催の「難波弘之を励ます会」なんだけど、主賓は出ずっぱりで働いてました。「鉄腕アトム」からはじまり、「火星人ゴー・ホーム」「Benson Arizona」(『ダーク・スター』のタイトルバックに流れるアレ)、「Galaxy Song」(『モンティ・パイソン 人生狂騒曲』挿入歌)、「See You Later Alligator」(『ハイペリオン』つながり)……と来て、さらに『アウターリミッツ』『ウルトラQ』『Xファイル』のテーマ曲メドレーが入り、「残酷な天使のテーゼ」のあと「リング・ワールド」で締める第2部15曲が圧巻。トークをはさんで「夢中楼閣」、エンディングはごぞんじ「夏への扉」という構成。これをかぶりつきで鑑賞できるのは超お得かも。
 波津博明・関口芳昭・門倉純一がトリオで挨拶に立ち、キーボードの前の難波さんとファンダム伝統芸能的やりとりを交わすのも感涙でした。「ここに岡本安司がいたらきっとこう言うね」ネタとか。しかし作家クラブもすっかり新しい人が増えているせいか、客席の反応はいまいちでけっこう悲しい。わたしはこれが見られただけでも来た甲斐があった感じなんだけど。もはやBNFって言葉も死語でしょうか。
 出番を終えて降りてきた波津さんに挨拶する。
「覚えてますか?」
「あ、えーと、きみは……」
 十七年ぶりぐらいなので名前が出てこないのも無理はない。たぶんオレが大森望だということも知らないに違いない。というか、大森望も知らなかったりして。

 川又さんはいきなり禁煙。横山宏も禁煙している。「なに、大森くん、まだ煙草吸ってるの? 遅れてるんじゃない?」ほっといてください。

 一次会終了後、早々に西葛西に戻り、我孫子夫妻と河内さんをお見送り。




【5月22日(火)】


 《アニメージュ》の原稿。
 観たときに書くのを忘れてましたが、ネタは各所で話題の『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』。三十代独身おたくは(子供がいないので)21世紀に生きる必要はない。過去にどっぷり浸って暮らしててもかまいませんという主張。子づくり推進映画という意味では、『ホーホケキョ となりの山田くん』と同じジャンル?
 コレ観ていちばん強く思ったのは、1960年前後生まれが「おたく団塊の世代」化してるってこと。オレはこの映画にとってストライクのターゲットなので、当然、大阪万博ネタも「今日までそして明日から」もチャコとケンちゃんも、すべてが気持ちよくフィットするわけだけど、そういう気持ちよさは気持ち悪くないですか。
 70年代以降に生まれたアニメファンは怒りの声をあげるべきだと思うが、たんに自分とは関係ない映画ってだけのこと?




【5月23日(水)〜24日(木)】


 毎日中学生新聞最後の原稿を『新・SFハンドブック』で書いてようやくお役ご免。やめたいと言ってから一年がかり(笑)。これで毎週締切からも隔週締切からも解放されて、残るは月刊締切だけ。育児休業は無理にしても、多少は余裕のある生活になるはず、だが。

 フジカワ氏と名乗る人物から突然電話。同和文献保存会の人で、刊行書籍セールスらしい。話を聞きながらgoogleで「同和文献保存会」を検索すると、たちまち「不良図書販売業者」(えせ同和)リストがヒット。ここに載ってるトーク例とあんまりそっくりなので、思わず笑ってしまいました。5万3千円だそうです。いや、『貼雑年譜』買ってなかったら考えたけどさ(うそ)。半分笑いながら、「いや、けっこうです」と言ったらあっさり引き下がってくれました。しかしなんの名簿で電話してるんだろう。文芸年鑑?


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