【4月13日(金)】


 水玉螢之丞氏来訪。リフォーム自宅とさいとうよしこの腹の見物。明日の土曜日に収監予定のさいとうは、娑婆の最後の夜を満喫すべく夜中までカラオケ。「カラオケボックスで産気づいて一生ハナシのタネにされる」という計画を病院に察知されたのかも。




【4月14日(土)】


 午前10時、ひまつぶしグッズを山ほど抱えてタクシーでさいとうよしこの入院作業。個室の内装はパステル調。いかにもいまどきの産院。テレビ、冷蔵庫、シャワー・トイレ完備ですが、思いきりせまいうえにシングルの一泊料金はシティホテル並み。三食付きだけど食事は別料金だし。まあ病院の個室は贅沢料だからしかたないのか。オレが入院した新葛西病院の特別室はこの三倍ぐらい広くてさらに和室がついてて、値段はもっと安かったのに(半額サービスだったけど)。
 午前中は検査とか診察とかいろいろあるけど、基本的にはとにかく安静に寝てなさいということらしい。病院着に着替えてベッドに横たわるといきなり病人らしく見えますね。じっさい体はけっこう疲れていたらしく、ひまつぶしグッズを消費するヒマもなくどんどん寝てしまったらしい。
 減塩食はそんなにまずくない模様。でも量が足りないと文句を言う妊婦。まあついでに禁煙とダイエットを実現すれば入院費のモトがとれるかも。やっぱり当分は出してもらえないらしい。




【4月15日(日)】


 宇都宮在住のさいとう妹がやってきたので病院に連れていく。気候がいいので病院通いは楽ですね。真夏や真冬じゃなくてよかった。
 注文してあったベッドマットが代引きで届くので、さいとう妹を連れていったん帰宅。こないだ購入したDysonのデュアルサイクロン掃除機を試用。というか、さいとう妹が試してみたいというので、ついでに自宅の掃除をやってもらう。
 大森はひとり暮らし歴も長いので、妻がいなくても困らないんですが、問題は洗濯だな。学生時代はずっとコインランドリー使ってたので、うちの二槽式洗濯機はよくわからない。全自動で乾燥機まで一体化してるやつを3月末に注文してあるんだけど(これは斉藤友子のリクエスト)、家電リサイクル法のおかげで全然現物がないのだった。




【4月16日(月)】


 朝2時間ほど仕事してから病院。マサコさん妊娠の可能性の臨時ニュース。さいとうよしこは彼女と同い年(早生まれなので生まれ年ではひとつ下だけど)なので、あそこもそろそろでしょうとか言ってたんだけどやっぱりそうですか。

 7時から新宿・池林房で「目黒考二、本の雑誌社社長退任を祝う会」。懐妊もめでたいが退任もめでたいらしい。幹事は角川S戸と茶木則雄の両氏。目黒考二と本の雑誌にお世話になった各社編集者および翻訳者・ライターが集まってお祝いする――という趣旨で、貸し切りの池林房は超満員。
 作家にはいっさい声をかけなかったらしいけど、大沢在昌・馳星周・島村洋子・森巣博・今野敏など各氏が来てました。椎名さんなんか、こういう会があること自体をそもそも知らなかったらしく、「新潮社の打ち合わせで池林房に来てみると7時から貸し切りになってるから、なんのパーティだろうなあと思ったら目黒のパーティで驚いた」とか言ってました。ほんとなのか。
 珍しい顔では、鏡明氏と嵐山光三郎氏。大森は新潮文庫時代、嵐山さんの担当だったんですが、顔を合わせるのはものすごくひさしぶり。鏡さんも池林房で見ると不思議な感じですね。ワセミスの憧れの大先輩を前にした石倉笑が妙に緊張して、「お忘れかと思いますが、二十何年か前、宇宙塵20周年のパーティの手伝いに駆り出されて、そのときにお目にかかった石倉です」とか殊勝な挨拶をしてるのが妙におかしい。しかしすぐそれにつづけて、
「あのときの鏡さんは髪の毛がすごく長くて」とか言っちゃうところが石倉さん。

 一部で話題は《ダ・ヴィンチ》最新号の作家カラオケ交友録の最後についてる相関図。この線がこうつながるのはおかしいとか、こことここが結ばれるのは常識でしょう、とか、文句多数。いや、あれを見たとき、一言オレに取材してくれればぜんぶ教えてあげたのにと思いました。なにしろ大森は、あの相関図に出てくる全員とカラオケに行ったことがあるのである←最近の主な自慢。新本格系ミステリ作家はともかく、いとうせいこう、ナンシー関、奥泉光、北方謙三、大沢在昌を制覇している人はあんまりいないと思う。島田雅彦とか入ってたらアウトだったんだけど。
 あのカラオケ座談会に集英社のC塚K子嬢が参加してたのは、やっぱりあれですか、小説雑誌ではじめてカラオケ座談会を企画・実現したという歴史的栄誉の重み?

 佐野眞一『だれが本を殺すのか』では、《ダ・ヴィンチ》のことがクソミソに書いてあるんだけど、あれを読んで、大森はすっかり《ダ・ヴィンチ》派になりましたね。あの本って、前半の書店や取次や版元の話のところでは、出版は文化だという幻想にしがみついて旧態依然の先細り商売から脱却しようとしない人たちを批判してるのに、書評の話になったとたん、著者のがんこおやじぶりが露呈する。音楽業界とか映画業界とかで、「ランキングに振りまわされる消費者はまちがってる」とか、「作品を語らずにクリエーターばかりにスポットを当てるのはどうか」とか、いまどきそんなことをいう人はいないと思う。
「読者」がいなくなって「消費者」ばかりになってしまった――というのは小田光雄の論法そのままですが、「読者」幻想的なものは、音楽や映画や芝居の世界ではとっくのむかしに絶滅している妄想でしょう。
 まあ幻想には幻想の有効性があって、たとえばSFファン幻想(ファンダム幻想)は、自分がSFファンでありつづけるために新刊のSFを義務的に買ってくださるお客さんを生産してきたわけだし、いまもSF購買層の中核を埋めてると思うけど、「話題作だから」「ベストテン作品だから」という理由で買ってくれるありがたい「読者」をどうして否定する必要があるのかさっぱりわかりません。

 12時ぐらいまで池林房にいて、さすがにくたびれたので終電帰宅。




【4月17日(火)】


 病院、原稿、読書。真堂冬樹『カリスマ』は上巻までしか読めず。この思いきり下世話なところがいい感じですね。基本的には退屈なんだけど、ときどきあまりのおやじくささに笑ってしまう。中学受験する小学生のセリフがツボ。
 ほかにもいろいろ読んでるけど、そっちのコメントはまたヒマなときに。そういえば試写に行った映画の感想も書いてないなあ。スペイン映画の『パズル』は、ミステリファンは一応見たほうがいいかも。アルバトロス配給の『コンヴェント』は初期の東京ファンタのオールナイトでよく見たような感じ。懐かしいだけっていうか。ホラードキュメントの『アメリカン・ナイトメア』はかなりいい出来です。




【4月18日(水)】


 2時に病院。さいとうは結局、来週火曜日に強制出産ってことになった模様。出てこない場合は強制排出。「帝王切開シーザリアン」という戦隊物はどうか。
 しかし予定日より三週間もはやいので、すべての段取りが崩壊。もしかしてこれはゴールデンウィーク進行? どうしても連休前に入れなきゃいけないのでライターをカンヅメにして仕事をさせるという。
 病院に堺三保、白石朗来る(夜には美由紀さんも来てくれたらしい)。

 夕方からミステリチャンネル《ベストブックス》の収録。近藤プロデューサーは本日限り。次回からは隔月収録になるので、毎月十数冊、国産ミステリを読む義務からは解放されそう。
 トヨザキ社長は予想通り、『煙か土か食い物か』と『ペニス』がいたくお気に入り。国内編はほとんどこの二冊の話でした。




【4月19日(木)】


 歯医者に寄ってから産院へ。
 個室の数が足りなくなったとかで、さいとうよしこは特別室に移転。でも料金は据え置きなのでかなりお得。それとも特別室はだいたいどこも半額提供されるものなのか? 今度の部屋はさすがに広い。ようやくシティホテルのシングル並みに昇格した感じ。これなら見舞客が増えても対応できそう。



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