【4月1日(日)】


 小説すばるの書評を舞城王太郎のデビュー作、『煙か土か食い物か』(講談社ノベルス)で書く。めちゃめちゃ面白い。戸梶圭太が新本格を書いたらこうなるかも、みたいな。しかし構成はけっこう緻密。あの文体にだまされてはいけません。帯と表4にはミステリーノワールとか書いてありますが、全然ノワールではありません。まあノワール奉行((C)豊崎由美。主に吉野仁を指す)ならぬ大森が言っても説得力はないけどな。連続主婦殴打事件の被害者となり、頭を殴られて自宅の庭に埋められちゃったお母ちゃん(救出されて生きてるけどまだ意識不明)の仇を討つため、サンディエゴ帰りの天才外科医・四郎くんが探偵に乗り出す話。書評ではとりあえずヒップホップ新本格≠ニか適当にキャッチをつけたけど、むしろこの家族像はタランティーノ描くところのイタリアンマフィアに近いかも。福井の僻地に住むラテン一家。寺内貫太郎一家どどう違うのかは言葉だとちょっと説明しにくい。ルンババ12も登場します。本格ミステリのひねりかたとしては、殊能将之と好一対かも。この手があったか的意外性では、むしろ舞城王太郎のほうが上かな(黒い仏』のパターンは部分的に『××・○○』や『×の△△』が先行してるので)。

 SFマガジンのキース・ロバーツ特集用にむかしのロバーツ短篇をぽつぽつ読みはじめる。メリルがお気に入りのManscarer(England Swings SF に入ってるやつ)とか、短編集表題作のPassing of the Dragonsとか。むかし読んで感心した渋めの単発SF短篇は、いま読むとどうもぴんと来ませんね。むしろ、Winterwoodとかに入ってるブリティッシュ・ホラーな短篇のほうが出来がいい気がする。ていうか、ロバーツのホラー短編集をオリジナル編集で出すと英国怪奇小説愛好家に高く評価されるのでは。まあもとから文体と雰囲気の作家なので、当然と言えば当然ですが。ぼくの好みから言うと、Winterwood(表題作)みたいなのは渋すぎるんだけど。




【4月2日(月)】


 《本の雑誌》用にどんどん文庫本を読む。

▲若木未生『オーラバスター・インテグラル 月光人魚』(徳間デュアル文庫五〇五円)
▲一条理希『鬼童来訪』(徳間デュアル文庫五六二円)
 上遠野浩平『ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド』(電撃文庫五三〇円)
○秋山完『天象儀の星』(ソノラマ文庫五三三円)
△瀬川ことび『夏合宿』(角川ホラー文庫四九五円)
 幸森軍也『あなたの待つ場所』(角川ホラー文庫七〇五円)
 中原文夫『霊厳村』(ハルキホラー文庫六〇〇円)
▲福澤徹三『怪の標本』(ハルキホラー文庫五六〇円)
 秋里光彦『闇の司』(ハルキホラー文庫五二〇円)

 みたいな感じでしょうか。『あなたの待つ場所』は人工生命SFなので注意。

 書くのを忘れてましたが宮部みゆき『模倣犯』も出てすぐ読みました。二日に分けて8時間がかり。人物描写を徹底することで、ありそうにない話(名犯人タイプの劇場型連続殺人鬼)をいかにリアルに見せられるか、っていうのがポイントだと思う。そのためにはこれだけの枚数が必要だったわけで、読んでるあいだその長さが気にならない筆力はすばらしい。しかし、いくらディテールと人物を書き込んでも、そうだよなあと納得できる結論に(読者側が)到達するかというとまた別の問題。エンターテインメントの文法(というかプロットの派手さかげん)と社会的リアリティを両立させるのは、宮部みゆきの筆力をもってしても不可能だった――という印象。『火車』『理由』から一歩先に進もうとものすごくエネルギーを使ったけど、そこにはたどつかなかったっていうか。それでもエンターテインメントとしてはちゃんと成功してるし、今年のベストに数えられる秀作には違いない。




【4月3日(火)】


 三池崇史『天国から来た男たち』@松竹試写室。全編タイでロケしたプリズン物。原作はたぶんまだ出てないけど、まあ『P.I.P. プリズナー・イン・プノンペン』みたいなもの。脱獄までは非常にいい感じだけど、いつもああいうとこへ逃げちゃうねえ。




【4月4日(水)〜5日(木)】


 本の雑誌、サイトで〜た、メンズエクストラの原稿をやっつけて締切は一段落。

 某出版社から届いた新刊SF長編ハードカバー600ページの原書プルーフをぱらぱら読みはじめたらとまらなくなり、十時間ぐらいぶっ通しで読んでしまう。英語だと極端に読書速度が落ちるので(むかしはもうちょっと速かったのになあ)、それだけ読んでも半分に達しません。




【4月6日(金)】


 WEB本の雑誌、新設掲示板の打ち合わせふたたび@本の雑誌編集部。今回は西上心太(ミステリ)、吉田伸子(恋愛小説)、東えりか(ノンフィクション)の各掲示板管理者(室長)も参集し、博報堂サイドの説明を聞く会。べつにわざわざ人を集めてうち合わせしなくてもいいと思うんだけど。まあそのへんが本の雑誌らしいのかも。北上次郎は仕事が忙しいらしく、ちょっと顔を出したものの今日は麻雀なし(笑)。




【4月7日(土)】


 SF大会の打ち合わせに呼ばれてユタ。コンベンションに関してはぼちぼち引退しようかと思ってるんですがダメですか。すでにいろいろ考えるのがめんどくさい状態。この人とこの人とこの人とこの人から選んで企画をひとつ。とか言われるほうがまだよかったり。すっかり疲れているのはリフォーム後遺症かもなあ。
 夕食@ねぎしでは、牧紀子の山形浩生評に爆笑。いやまったくその通りです。しかしあの性格は一生治るまい。




【4月8日(日)】


 きのう突然決定したリフォーム住宅展示宴会。
「だいたい3時ぐらいからね」とか適当に声かけて、どうせ人が来るのは4時ぐらいだろうと思ってぐーぐー寝てたらいきなり2時前にSF人妻夫妻(という呼び方はどうよ)が登場。書庫(すでに仕事場ではありません)の古雑誌の山とか古ファンジンの山とかを見せる。
 古本展示会から自宅にもどると柳下毅一郎と堺三保と白石朗が来てました。改装前の状態をよく知ってる人ほど感動する模様。もっとも「なんだ、ふつうの家になっただけじゃん」の声も。ふつうを実現するのがいちばんたいへんなんだよっ。
 小浜徹也・三村美衣・牧紀子が到着したところで、行船公園までてくてく歩いて花見に出かける(体重の重い人は白石パパのクルマに乗車。パパは先に帰宅)。恵比寿から自転車でやってきた添野知生が合流。メイン企画の予定だった動物園は4時半に閉園してました。だからはやく来いとゆったのに。
 小浜家差し入れのおにぎりを食いつつ日本庭園でまったり。帰り際に林哲矢と茅原ちゃん@ジュンク堂が古本屋(ブックス西葛西)合流。自宅にもどって、柳下差し入れのシフォンケーキなど食いつつ過去20年の写真アルバム閲覧会(このへんで藤元直樹登場)。人間の顔ぶれはたいしてかわってませんが、人によって体重の増減が激しい。いや、たいていは増えたり増えたりですが。山岸真は20年前から何キロ増えたんだろう。




【4月9日(月)】


 えんえん読んでた英語の本を読了。これは傑作。あんまりSFじゃないけど、いやすばらしい。詳細はまたいずれ。




【4月10日(火)】


 渋谷・ロッキンオン編集部で、北上次郎・渋谷陽一と《SIGHT》書評ページ・リニューアルの打ち合わせ。《SIGHT》はますます渋谷陽一の趣味の雑誌になりつつある模様。すでにHappy Retirementな人の道楽っていうか。まあしかしある意味では理想ですね。会社的には儲かってるんだろうし、カネを稼ぐ雑誌は若いやつに任せて、自分は好きな雑誌を好きにつくる、と。
 まあ《SIGHT》も、いちばん売りにくい読者層(30代以上の男性?)を対象にしているわりには検討しているらしく、号によってはまずまずの売れ行きとか。ていうか、やっぱりミュージシャンが表紙だと売れるらしい。だめじゃん。
 新しい新刊紹介コーナーは、大森と北上次郎の対談書評(対決書評?)になる模様。どうせなら北上次郎vs山形浩生とか、斎藤美奈子を交えた鼎談のほうが個人的には読みたいんですが、編集部的には安全策を選択したらしい。書評対象は、編集部推薦のベストセラーおよび話題作プラス、大森・北上の推薦作。おやじの声が大きいので、なしくずし的に『ハドリアヌスの長城』とかゴダードとかを読まされる羽目に。よく考えたら北上推薦枠が4冊でオレが1冊ってのは納得いかんなあ。SF入ってないし。あとはせいぜい本番で鋭く対決したい。

 打ち合わせ終了後、北上次郎と近くのサンドイッチ屋で遅いパスタランチ。一昨日うちにデジカメを忘れていった柳下毅一郎(そのせいで、せっかく生トヨエツやナマ浅野忠信に会ったのに写真が撮れなかったらしい(笑))が忘れ物の回収にやってきたので北上おやぢを紹介。なんとなく音楽業界の話になり、衝撃の事実が発覚。
 北上次郎が生まれて二枚目に買ったCDは、プロデビュー前のフライング・キッズの限定盤だった! わたしはものすごく驚きました。なんでも、当時たまたま毎週のようにイカ天(そのむかし、「イカす! バンド天国」というアマチュアバンドコンテスト番組があったんですよ)を見てて、とつぜんフライング・キッズにハマり、ファンクラブに入会して限定CDを購入したんだそうで、人は見かけによらないというかなんというか。その話を《本の雑誌》の編集後記かなんかに書こうとしたら、「イメージが壊れるからやめなさい」とデスクに止められたらしい(爆笑)。
 ちなみにその次に買ったのは八代亜紀のCDだそうで、こちらはイメージぴったり。ヴァージンの店内を必死にさがしまわってやっと見つけたんだと自慢してました。しかしなぜフライング・キッズ。カラオケで「幸せであるように」とか歌ってほしい。無理か。




【4月11日(水)】


 吉川英治賞の授賞パーティを蹴飛ばして、上海ジェットの旗揚げ前夜祭公演「赤ずきん」@新宿パンプルムスへ。平日6時開演にもかかわらずキャパ80人とかいう客席は満員で、100人以上入ってたんじゃないでしょうか。こっそり見にいこうと思って前々日に電話予約したんだけど、いきなりその携帯に出たのが仙台エリで、
「すいません、上海ジェットのチケット予約したいんですけど」
「はい。お名前は?」
「……大森です」
「え? 大森さんですか」
 とバレバレ。とっさに偽名が思いつかなかったのが敗因か。
 小学六年生の赤ずきん役は仙台エリ。「メダロット」のイッキ役でおなじみの山崎みちる嬢が看護婦役。
 仙台エリが「太陽のFuturizm」(ジャングルDEいこう)を歌って踊る野尻抱介垂涎のファンサービスまであったのに、CDが音飛びしまくり。あんまり絶妙のタイミングで飛ぶんで、もしかしたら演出?と思ったけど、やっぱりハプニングだったらしい。
 舞台としては、役者の身の丈にあったサイズと構成なので好感が持てる。しかし役者の声が通らないケースが多いのはなんとかしたほうがいいと思う。うしろのほうの席の人はつらかったのでは。ちなみにうちの席はとなりが三重野瞳嬢(題字担当)でした。

 終了後、小林治@SFオンライン、W辺@ポニーキャニオンの両氏&さいとうよしこと新宿食堂のロフト席で食事。




【4月12日(木)】


 病院に出かけたさいとうよしこがいきなり予防&食事制限入院を言い渡される。足がむくむ〜とかずっと文句言ってたんだけど、もとから足は太いので(笑)本人もそんなに心配してなかったところ、妊娠中毒症が悪化してるので、食生活改善と安静と万一の場合の迅速な処置のためにただちに入院せよと命じられた模様。
 今日から入院できますかと言われたのをなんとか逃げて土曜からの入院になったらしい。足が太いのをのぞけば全然元気なので、ひたすら減塩の病院食を食べてあとは寝てるだけの生活になる模様。
 妊娠中毒を治すクスリとかはないらしく、ということは入院したってすぐ状況が改善されるとは思われず、最低でも一週間は監禁されるのでわ。いまから長く退屈な日々を予想してぶつぶつ文句言いまくりのさいとうよしこ。オレなら喜んで入院するけどなあ。ぐだぐだベッドで本読んでビデオ見て寝て、「仕事は医者にとめられてるので」とか言ってればいいんだし、それは天国かも。でも煙草が吸えないのはちょっとつらいか。というわけでさいとう見舞客はたぶん歓迎でしょう。ちなみに面会時間は午後2時〜8時らしい。
 あ、妊娠中毒というからには当然妊娠しているわけで、本来の予定日は五月中旬なんだけど(木村拓哉くんちとほぼ同じ)、すでにピョン吉(仮)は2800グラムの体重を誇り、異様に元気らしい。おかげでさいとうはめちゃめちゃ腹でかいっす。ナマ特撮っていうか、ナマ特殊メイクな感じ。入院からそのまま分娩に突入する可能性もなくはないので、場合によってはSFセミナー皆勤も途切れるかもだな。ちなみに性別はたぶん牡で、名前は未定。ショタを見込んで「正太郎」とか、本名と合わせると回文になる「保英」(または一文字で「英」)とか、いくつかのご提案を頂いてますが、オレとしては木村拓哉(または工藤静香)の出方を待って決めたい。


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