【3月11日(日)〜14(水)】


 《本の雑誌》の原稿とミステリチャンネル《ベストブックス》収録のためにひたすらSFとミステリを読む。前者は、

○森岡浩之『星界の戦旗III』(ハヤカワ文庫JA)
▲オースン・スコット・カード『エンダーの子供たち』上下(田中和江訳/ハヤカワ文庫SF各六六〇円)
?竹本健治『連星ルギイの胆汁』(e-NOVELS/六八〇円)
○東海洋士『刻Y卵』(講談社ノベルス八八〇円)
◎津原泰水『ペニス』(双葉社二〇〇〇円)
△『NOVEL21 少女の空間』(徳間デュアル文庫六四八円)

 みたいな感じでしょうか。いやあ津原さんの『ペニス』は凄いね。とか字で書くぶんにはいいけどなあ。電車の中では話題にしにくいと思いました。『刻Y卵』(Yは漢字ね。半村良の『XY伝説』が読める人なら問題なく読めまるはず。どうせなら『Xの悲劇』『Yの悲劇』はどうか)も悪くないけど、ちょっとつくりすぎかなあ。『フリッカー、あるいは映画の魔』とか『ジョン・ランプリエールの辞書』が好きな人におすすめ。  その『刻Y卵』を大絶賛している竹本さんの『ルギイ』は、竹本ファン必読。しかしふつうのSFファンにはつらいだろう。『少女の空間』は『少年の時間』に負けてると思った。
 国産ミステリのほう(2月奥付分)は、

▲辻真先『悪魔は天使である』(東京創元社)
○荻原浩『噂』(講談社)
★森福都『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(祥伝社)
×黒岩研『ロスト・ボーイ』(光文社)
▲石田衣良『赤・黒(ルージュ・ノワール)』(徳間書店)
△小野不由美『黒祠の島』(祥伝社ノン・ノベル)
▲氷川透『最後から二番目の真実』(講談社ノベルス)
△物集高音『大東京三十五区 冥都七事件』 祥伝社 ※ 
△恩田陸『MAZE〔メイズ〕』(双葉社)
▲大沢在昌『灰夜 新宿鮫Z』(光文社カッパ・ノベルス)

 だったかなあ。『噂』はありがちな部品の寄せ集めみたいな印象もあるんだけど、まとめかたのセンスは悪くない。小野不由美と恩田陸は、作家に要求する水準と比較しての評価ですね。『双子幻綺行』はめちゃめちゃ好み。『ロスト・ボーイ』は、SFおたく的にどうしても許容できないタイプ。いまどきこのネタでこれはないでしょう。エンターテインメントの仕掛けと割り切ればそれなりによくできてる気もするが、やっぱりダメ。このネタはミステリの鬼門かもしれない。『冥都七事件』は『血色』ほどのインパクトがない。個々の連作のネタと解決方法があんまり趣味じゃないだけかもしれないけど。『最後から二番目の真実』は同名のPKD長篇とは無関係。むしろ『黒い仏』イージータイプか。もっとも、エレガントな解決を否定したあとにつまんない解決が来るという必然を排除したのが『黒い仏』だとすれば、思考経路が同じで結論が正反対の小説とも言える。それとも関係するけど、導入の楽屋落ちディスカッションが笑えます。シリーズの前作よりこっちのほうがいいと思うな。

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【3月15日(木)】


 アスキー・ネットJのオークション・ウォッチング連載で「宝塚ベルばらチケット」ネタを使おうと思い立ち、田中啓文みのうらに電話取材。
 みのうらいわく、「千秋楽が17万? それは安いですよ。安すぎる!」
 田中啓文いわく、「だいたい宝塚見るのに十万も二十万も出すなんてね、そらもう考えられませんよ。宝塚の駅へ行くでしょ、そしたら看板がかかってて『本日空席あり』と。ほなら行こか。てなもんでね、いっちゃん安い席に座ってのんびり見物して、休憩時間にビール飲んで、あとは気持ちようなって寝てる。いうのが宝塚です」
 この世界も奥が深いというかなんというか。
 しかしネットJの隔週連載はあまりにしんどいので(ネタがするっと見つかれば楽なんだけど、そうじゃないときに漫然とあちこちオークションサイトを見て回るのがつらい)、そろそろやめさせてくださいと交渉中。だいたい誰か読んでるのか、このコラム。




【3月16日(金)】


 WEB本の雑誌に新設する掲示板の打ち合わせ。博報堂の担当者と、ウェブデザインをやってる会社の担当者と日本橋で落ち合い、近くの洋食屋で夕食。新しく掲示板つくるだけなのに企画書が20ページぐらいあったり。最近の広告業界の話を聞く。

 博報堂と言えば、SONYがクライアントの企画で、《文藝春秋》5月号にアーサー・C・クラークのインタビューが載るらしいんですが、なぜかその記事の内容チェックを担当。そもそも別ルートからインタビュアーでスリランカに行ってくれないかという話があり、あんなところは一回行けばもういいよと断ろうとしたら断るまでもなく誰かべつの人が行ったらしいんですが、談話原稿が上がってきたところよくわからない話がたくさん出てくるので見てほしい、と。で、「Road from the SeaはRoad to the Seaのまちがいでしょう。「海へいたる道」のタイトルで、短編集『十の世界の物語』(ハヤカワ文庫SF)に収録されています」とか、「「パーフェクト・ペット」は、たぶん最新のエッセイ集Greetings, Carbon-Based Bipeds! に入ってるやつだと思いますが、現物を見てないので不明」とか、わかる範囲で適当に答えていたところ、「アレクサンドラ図書館の火災のことについてご存知でしたら、お教えください」とか、「カオス理論に関する一般的な解説を」とか、質問がどんどん増える。オレは物知り博士ですか? でも故・日立デジタル平凡社の世界百科事典とか現代用語の基礎知識とかは意外と物知りなので、適当に調べて回答。それはアレクサンドラじゃなくてアレクサンドリアでしょ、とか。
 なんだかんだで3時間ぐらいは投入したので、ギャラをいくらふっかけてやろうかと手ぐすね引いてたんだけど、SFインターセクション5回分ぐらいの金額があっさり提示されてしまったので拍子抜け。インタビューして原稿まとめるより高いかも。ていうか、エスクァイアの仕事でスリランカ行ったときのギャラとおなじぐらい? もっとも今回は事実関係のまちがいの訂正と改善箇所の指摘と注釈の素材提供をやっただけなので、最終的な原稿の内容に責任は持ちません。オレならDon't panickは当然「あわてるな」と訳します。




【3月17日(土)】


 ミステリ・チャンネル《ベストブックス》収録。香山さんは『黒祠の島』イチ押し。終了後、パレスサイドビル地下の居酒屋でたらふく食べ、西葛西へもどる。

 馬場から召喚した林哲矢に手伝ってもらって、仕事場の本の整理を少々。スチールラック6本組み立ててもらって、とにかく空いてる場所に設置し、山積みの本をどんどん並べてゆく。あっという間にいっぱいになっちゃって、どうするんだこれから。




【3月18日(日)】


 午前7時に寝て11時に起きて、タクシーで新橋の翠園酒家。黒丸尚氏の命日の会。アキラくんと山岸真は仮面ライダークウガを語る会を自主開催してました。そんなに好きか。
 翠園酒家は香港のジェイドガーデンの日本支店。本家より上品な感じがするのは日本人の客が静かだから? 点心はどれもうまいがワゴンがあんまりまわってこない。やっぱり食べきれないぐらいテーブルに並ばないと。

 文芸年鑑の2000年SF総括原稿。日本推理作家協会報の2001年3月号に書いた原稿を流用。ちなみに元原稿はすでにウェブ上で読めます。ダイレクトリンクは以下に。大森の「SF界2000年」原稿と、日下三蔵の「推理小説・二〇〇〇年」原稿。田中哲弥のエッセイも読めます。しかし田中哲弥を全然知らない人がいきなりこの近況を読んでなんと思うのか。





【3月19日(月)】


 便利屋の《ベンリー》を呼んで荷物移動第二弾。スチールラックも運び出したので自宅のほうはけっこう広々した感じ。そのかわり仕事場マンションはすし詰め状態。すでに一トンぐらい雑誌を捨てたのに、全然減った気がしないのはなぜ。いると片付けはじめて仕事にならないので外出。
 渋谷のブックファーストを巡回し、『鈴木いづみ語録』を購入。こんな本いつのまに出てたの? 鈴木いづみ全集の別巻みたいな本で、中身はアフォリズム集というか、『はみだしっ子語録』みたいなもん。鈴木あづみ、荒木経維、末井昭の座談会がところどころ面白いが、本としてはちょっとなあ。
 ブックファースト一階の喫茶店でしばらく仕事してから、クレストンホテル一階のしゃぶしゃぶ屋で、『ブレアウィッチ2 暗黒の書』の打ち上げ宴会。デザインの苦労話を聞く。この本、アメリカ版とはレイアウトがかなり違います。ページ単位のデータじゃなくて、素材のデータがぜんぶ来たので、日本語の文字量に合わせてデザインをやりなおしたらしい。共同通信が配信する記事とかだと、見出し・本文・写真は同一のものを使用してても、各地方紙の整理部のレイアウトによって全然違う記事みたいに見えることがありますが、ああいう感じね。手書きの英語はすべて手書きの日本語にローカライズ。デザインがこんなに凝るなら翻訳ももうちょっと凝ればよかったなあ。ぱらぱら眺めるとけっこう笑えます。

 たらふく食ったあと、そう言えば今日は山形浩生ライブの日だったなと思い出し、タニグチリウイチに電話して、「どっか流れてる?」と訊くと、表参道にいますとの回答。半蔵門線でひと駅乗って、山形組が集合しているスペイン料理屋へ。柳下毅一郎とか森山和道とか。山形ファン掲示板に集まる人々に関するレクチャーを聞く。
 そういえば、引用箇所の訳文をメールした返礼として、ローレンス・レッシグ著『CODE』(山形浩生・柏木亮二訳/翔泳社2800円)を頂く。アスキーのコラムのネタになりそうだなあと思いつつぱらぱら読みましたが、山形本としては訳文にやや疑問あり(訳語の選択はまあ趣味の問題か)。
 内容についてはまだぜんぶ読んでないので第一印象だけ。ネットのほうがじつはコントロールしやすいっていうのはまあその通りかなと思いますが、けっきょくルールより運用の問題なのでは。リアルライフだと毎日十個ぐらいは法律に違反してる気がするが、ふつうはそれで捕まったりしない(でも運が悪いと捕まったり罰金をとられたりする。賭け麻雀とか駐車違反とかパロディ同人誌とか)。ネット上だからルールの運用が厳密になると考える根拠はそれほど強くない。とはいえ、そうなったときのことを考えてリスクを減らす方法を用意しておいても損はないのか。
 あ、『山形道場』はまだ届かないんですが待ってれば届くんでしょうか>山形くん。




【3月20日(火)】


 あらきりつこ(白城るた)・あしかふみこの新居披露会。都内某所の新築高層ビルで景色が圧倒的にすばらしい。ブロードバンド接続つき。こんな都心どまんなかのマンションがこのお値段で!? 今のマンションが十年前の値段で売れるならすぐに買い換えるけどな。しかし二部屋のリフォームであの騒ぎじゃ、引っ越しなんか考えたくもない。




【3月21日(水)】


 奥泉光『グランド・ミステリー』角川文庫版の解説を書くために単行本版を読み直す。'90年代ベストSFの投票に入れるのをすっかり忘れてましたが、国内部門のベスト5ぐらいには入っておかしくないと思う。これに関しては、聞きたいことはみんなSFマガジンのSFインターセクションで著者にインタビューしてるので便利かも。
 この連載インタビューはいずれhtml化したいと思ってるんですが、ハヤカワ・オンラインでやったりするのかなあ>阿部さん。要相談事項。

 川尻義昭監督版『バンパイアハンターD』がようやく日本で劇場公開されることになり、そのパンフに原稿を書く仕事。原作の『妖殺行』をひさしぶりに読み直す。大きな声では言えないが、これは原作より映画のほうがいいんじゃないかなあ。
 昔の『D』(「吸血鬼」に「バンパイア」とルビがつくほう)はブレイク前の小室哲哉が音楽やってて、5年前に幕張のオラクルオープンワールドで取材した小室ライブのときに見たこれのキーボードソロ生演奏がめちゃめちゃよかったんですが、アニメ技術的にはやっぱり80年代前半のOVAなので。菊地秀行原作ものをずっとやってた川尻監督だけに、今回の『D』はめちゃめちゃ気合い入ってます。DのSFな部分をきっちり引き受けてるしね。4月公開らしいのでぜひ劇場で見ていただきたい。こういう感じで山田風太郎の忍法帖をアニメ化するのはどうかとちょっと思った。

 表参道のカフェ・フローレで、こばやしユカ嬢を幻冬舎のH川に紹介。なんだかよくわからない企画の相談。いや、売れセンだとは思うけどどうかなあ。

 打ち合わせ終了後、神田にまわって早川書房で新版SFハンドブック用の森岡浩之・藤崎慎吾対談の収録。森岡さんの海外SFおたくぶりが爆発。「小学生の頃いちばん好きだった作家はアラン・E・ナース」とか(笑)。



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