【2月1日(木)】

『SFが読みたい!2001年版』の鏡明・山田正紀対談30枚をまとめる。伝統芸能的はお笑いは分量的にほとんど入らず。山田正紀の魂の叫びを聞け! みたいなトーク。
 博物座談会のほうは、出席者からの訂正が入ったバージョンが到着。菅ちゃんは笑うところをばっさり削除。瀬名さんもいちばん笑うところを半分削除。なにも削除しないのは野尻抱介だけ。えらいぞのじりん! 失うものがなにもないのはきみだけだ! しかしこれでは結果的に野尻さんがいちばんおいしいのでは。もうキャラ立ちまくりですね。

 すっかり忘れてましたが、文春《Title》のウェブ版、《sub-Title》に、「大森望が選ぶIT時代のSFベスト5&モア5」という原稿が載ってます。使われなかった前書きは、
「IT時代のSF」――と言っても、たいがいのSFはなんらかの意味で情報技術と関係しているわけで、考えはじめるときりがない。
 そこでとりあえず、ウィリアム・ギブスン登場以降の現代SFに範囲を絞り、コンピュータとかネットワークとか人工生命とか、ありがちなキーワードでひっかかってくる作品を選んでみた。
 5年ぐらい前まではコンピュータ系のSFっていうと「素人には意味不明」みたいなイメージが強くて、一部のマニアにウケるかわり全然売れなかったんですが、「そのへんのおばさんもウェブサイトでチェリーパイのレシピを交換している」(ウィリアム・ギブスン)この時代には、むしろ日常感覚の延長で読めるかもしれない。
 みたいな感じで、選んだ10作は以下の通り。内容は上記url参照。

【ベスト5】
ニール・スティーヴンスン『スノウ・クラッシュ』日暮雅通訳/アスキー出版局
グレッグ・イーガン『順列都市』山岸真訳/ハヤカワ文庫SF
ガードナー・ドゾア&ジャック・ダン編『ハッカー/13の事件』浅倉久志ほか訳/扶桑社ミステリー(文庫)
ヴァーナー・ヴィンジ『遠き神々の炎』中原尚哉訳/創元SF文庫
柾悟郎『ヴィーナス・シティ』ハヤカワ文庫JA

【モア5】
井上夢人『パワー・オフ』集英社文庫
ルーディ・ラッカー『ハッカーと蟻』大森望訳/ハヤカワ文庫SF
デイヴィッド・ブリン『ガイア』酒井昭伸訳/ハヤカワ文庫SF
ブルース・スターリング『ネットの中の島々』小川隆訳/ハヤカワ文庫SF
ダン・シモンズ『ハイペリオンの没落』酒井昭伸訳/早川書房(ハヤカワ文庫版も近刊予定)




【2月2日(金)】

 40歳おたんじょうび宴会@西葛西。
 堺三保が幹事で、主としてSFオンラインな人たちと近所のSFな人たちが集合。15人ぐらい? 30歳のおたんじょうび宴会の顔ぶれとたいして変わってない気もしますが、祝っていただけるだけでありがたいことである。次は50歳ですか? あまり考えたくない。
 会場は南口のほうの狭いイタ飯屋だったんですが、コージーな雰囲気で悪くない。値段も異様に安いし、薄くて四角いピザ(ピザと言わないのか?)が上々でした。

 二次会はロイヤルホスト(笑)。4時間ぐらいえんえんうだうだしゃべる。三次会はカラオケ。酒井昭伸のカラオケ力爆発。Gacktとラルクと石井竜也。初めて聞く曲多数でした。勉強になるなあ。

 午前5時に解散、三村美衣を連れて帰宅。おたんじょうびプレゼントにもらったドラムマニアのドラムセット型コントローラを組み立て、さらにギター・フリークスのギター型コントローラを接続。絵的はかなり笑えます。しかしドラムマニアはめちゃめちゃむずかしい。ペダルをコンピュータにまかせ、残りを二人がかりでやってもなおかつクリアできない曲が多数。今日からドラマーを尊敬することにしました。人間業じゃない。




【2月3日(土)】


 夕方起き出し、ドラムマニアをちょっと遊んでから三村美衣と出かける。駅前で別れて一時間仕事。馬場に出てユタ。いつも飯食う店と同じビルでワセダミステリクラブOB会の二次会をやってるというので白石朗に呼ばれて覗きにいくと飯野文彦に拉致され、霞流一・芝尾英令その他と最近の邦画/ゲーム話。
 部外者がワセミスと呼ぶのはしょうがないが、現役のクラブ員自身がワセミスと呼ぶのは情けない。「サークル員」という呼び方もなんとかしろ――というのが今日のテーマだったらしい。でも関西では20年前からワセミスと呼んでました。WMCなんて言ってる人はいません。OBはだいたい「ミステリクラブ」とか略してた気がする。

 11時に解散したあと、日下三蔵、S見@ブロッコリー、G司@ドラゴンマガジンのワセミス組3人と早稲田の怪しい雀荘。真っ暗な古い下宿みたいな建物にどんどん入ってって勝手に電気つけて、しかも学生料金で打つらしい。まあレートも学生レートでしたが。
 始まったと思ったら、日下三蔵が割れ目の親満に二回連続で振り込んでくれる。おたんじょうびプレゼントですか? 朝5時までやって、学生レートで1万5千ガバスの収入。たくさんプレゼントをくれたのでみんないい人だと思いました。
 しかし日下三蔵は、始発で自宅に帰って2時間後にはまたこの雀荘にやってきて大会に出場するらしい。いいのか、仕事は。
 なんでも伝言板に書いた、SFオンライン賞第一長編部門推薦作リスト問題は、日下三蔵に確認して解決。『ラクトバチルス・メデューサ』『DOMESDAY』は「本が出てこなかったので言及しなかった」らしい。手元にない本については書かないポリシーだそうです。ふうん。




【2月4日(日)〜6日(火)】

 日本推理作家協会の会報に載せる2000年SF界総括の原稿に着手。ミステリ界総括は日下三蔵が書くので、どう考えてもまだ全然余裕がある気がするのだが。ネタはSF新人賞、SF専門レーベル、ティーンズノベルSFの隆盛の三本柱。ホラー系もこっちで扱ってほしいと言われてるんだけど、枚数的にとても収まりません。
 さらに《SIGHT》と《サイトでーた》と《毎日中学生新聞》のコラム原稿。




【2月7日(水)】

 日本ホラー小説大賞の二次選考会@角川書店。まあだいたい予想通りの結果でした。
 終了後は例によって摩天楼飯店。クリスマスイブにやってたときを思うと2カ月以上遅くなったわけか。
 終了後は例によって麻雀。どうしても家に帰って仕事をしなければと言っていた人がなぜか混じっていたような気もするがきっと気のせいだろう。
 麻雀は日下三蔵を懲らしめていい気になっていたのが祟り絶不調。記録的大敗で、7万ガバス近く沈む。大森としては生涯最大のマイナスなんだけど、それでも池上冬樹氏の記録を破るには至らなかった模様。結果は角川S戸氏のひとり勝ち。それだけ勝っても借金の利子にしかならないのに。ここにはいないはずの人といっしょにタクシー帰宅。




【2月8日(木)】


 ようやく一息ついたので、来月収録のミステリチャンネル《ベストブックス》日本編の候補作を整理。バンクーバー行きの飛行機で読んだ本とかも混じってますが、めんどくさいのでまとめてコメント。

殊能将之『黒い仏』(講談社ノベルス)
 最近どこへ行って誰と会っても『黒い仏』の話になるのは何故。

打海文三『Rの家』(マガジンハウス)
 杉江松恋とこの小説の話をしてて、
「なんか前半は村上春樹みたいだよね。ちょっと『青い体験』入ってるけど」とか言ってたら、杉江松恋いわく、
「そうそう。『手で育てられた少年』かと思いました」
 そんなタイトルをすぐ思いつく人はいません(ちなみにサンリオで出てたオールディスの自伝的な少年小説です)。
 基本的には母親探し(主人公が幼い頃に死んだ母親の自殺の原因を探ろうとする)の物語なんですが、逆サイドから書くと三池崇史映画みたいになったはず(じっさい、タランティーノふうのシナリオに託して真相を語るエピソードが後半に出てくる)。それがどうしてこういう小説になるのか。謎としか言いようがないが面白い。とくにそれぞれのキャラクター造型が抜群。

安東能明『鬼子母神』(幻冬舎)
 ホラーサスペンスの一次でオレの箱に入ってて、「ああこれで第一回の受賞作ナシという事態は避けられるな」と思ったんですが、話が地味だったせいか特別賞に。『黒い家』以後のサイコサスペンスとしては非常によくできてます。

乙一『失踪HOLIDAY』(角川スニーカー文庫)
 巻頭にオマケみたいにして入ってるジェントルゴースト物の短編がいい。表題作は、見え見えのオチをひっぱりすぎる弱点はあるものの、自宅内家出のディテールが秀逸でキャラクターもすばらしい。ロッタちゃんが「はじめての家出」からすぐに帰ってきちゃうのが腹立たしかった人にはぴったり。ああいう三畳間で暮らしたいものである。

東直己『悲鳴』(角川春樹事務所)
 個人的な好みとしては前作の『残光』のほうが上。ユニークなホームレスたちの描写では牧野修に一歩譲るし。それでも圧倒的に読ませるところが東直己。

黒武洋『そして粛清の扉を』(新潮社)
 受賞作出版後、毀誉褒貶の嵐。独特の(というか、ふつうに読むとひどくヘタクソに見える)文体にひっかかる人が多いようだが、本になって読み返してみると、いやもうあっという間に読める。ネタがあると思わずに読んでたらネタがあったので、そのぶんオレの中ではポイントが高い。欲望に忠実な、我慢しない小説は基本的に好きだし。だいたいこれはうまく書いたら成立しない話でしょう。

司城史朗『存在の果てしなき幻』(光文社カッパ・ノベルス)
 うわっ、北川歩実みたいな話やんか。と思ってたらたちまちその線は捨てられてべつの話に。『ゲノム・ハザード』が全然ダメだったので眉に唾つけて読んだけど、これは上出来。

北村薫『リセット』(新潮社)
〈時と人〉三部作完結編。全然タイプは違うけど、恩田陸『ライオンハート』と同じ時間ラブロマンス。三冊の中ではいちばん抵抗なく読めた。

本岡類『「不要」の刻印』(光文社カッパ・ノベルス)
 ネタは悪くないのに演出の仕方が地味。真相も、同じパターンの先行例があるので、途中でだいたいの見当がついてしまったり。誠実さがアダになった感じ。


霞流一『スティーム・タイガーの死走』(勁文社ノベルス)
 元ネタは『マルクス二丁拳銃』でしょ、と杉江松恋か誰かに聞いてなるほどと納得。ネタは面白いのにオカズを入れすぎて印象が散漫になってるのが惜しい。列車消失だけで押してもよかった気が。

鯨統一郎『北京原人の日』(講談社)
 つまんないわけじゃないけど、こういう話だともうちょっとしっかり書いてほしい。

×響堂新『混沌の脳』(角川書店)
 ゲラで読んでくれと言われて読んだんですが、SF者としては結末の処理に納得できず。響堂作品はどうもSF読者とは相性が悪いのではないか。エンターテインメント的には面白くつくってあって、これまでの中ではいちばんいいと思う。
 いわゆる理系エンターテインメント(人工知能、ヒトゲノム、ウィルス、ロボットetc.が題材になってるやつ)の大半は、日常生活や技術的な細部をリアルに書いておいて、肝心のところでトンデモな世界に行ってしまうことが多いので、どうしても「なんだこりゃ」感が強くなる。そのへんをうまくクリアしてるのは井上夢人、瀬名秀明、北川歩実ぐらいでは。まあ「なんだこりゃ」と思うのは中途半端に聞きかじりの科学知識がある人間に特有の弊害かもしれないが。

×梁石日『死は炎のごとく』(毎日新聞社)
 朴大統領暗殺ネタ。どこが面白いのかよくわかりません。こういう小説は主人公だけに視点を固定して書くべきじゃないかと思うんだけど。テロリズム小説的なリアリティとノワール的なリアリティが分裂してて、読んでるあいだどうもおさまりが悪い。




【2月9日(金)】

 去年の10月に申し込んであった東京めたりっく通信のDSL回線がようやく開通。工事自体は30分ぐらい。モジュラージャックにDSLモデム(ARESCOMのNetDSL1000)とスプリッタをつなぎ、工事の人がノートPCで接続試験しておしまい。PPPoEじゃないので設定ソフトもなんにもなし。NTTのフレッツDSLと違って、めたりっくがプロバイダも兼ねてるので、とにかくLANカードをケーブルでDSLモデムにつなぎさえすればインターネットに接続完了。コンセントに電気が来てる感じですね、こっちは使い放題だけど。
 オレが申し込んだのはファミリータイプ(モデムにDHCP・NAT機能が内蔵されているのでハブをつければ複数台同時接続できる)の640k回線なんですが、下りで800k以上は出ている模様。この日を信じてアナログ回線のまま暮らしてきた甲斐がありました。ていうか、2年前にはDSLかケーブルモデムになってると信じてたのに、まさかこんなに時間がかかるとはなあ。それもこれもみんなNTTのせいなので(←邪推)フレッツDSLは死んでも契約してやらん。いや、オレの場合すでにASAHI-netのアカウント持って会費払ってるんだから、たぶんいちばん安くDSL常時接続を実現するのはフレッツDSL+ASAHI-net常時接続プランだと思うけど。まあ正直に言えば、今からNTTに申し込んでも工事がいつになるやら信用できんちゅうのが大きいが、しかしDSLに関するNTTのてのひら返しはいくらなんでも恥知らずだろう。
 もっとも、一足はやく去年DSLに変えたトーレン・スミスの話だと、アメリカでも事情は似たようなもんで、電話会社はあの手この手でDSL業者への協力を渋っていたらしい。

 工事のおにいちゃんが帰った頃のそのそ起き出して、去年の秋、京都に行くときに買ったLANカードではやはりうまく接続できないことを確認してから、『ハンニバル』の内覧試写を見に五反田イマジカへ――出かけたつもりが、はっと気がつくと品川を過ぎているではありませんか。泉岳寺で乗り換えるのをすっかり忘れて氷川透『最後から二番目の真実』(講談社ノベルス)に読みふけっていたオレ。あわててひきかえしたがすでに6時。もう間に合わないので潔くあきらめ、新橋のセレクトイン・キムラヤでCoregaのLANカードを購入。無線LANのシステムにも心をひかれるが、無線LANカードと合わせると5万ぐらいかかるからなあ。とりあえず様子見。

 仕事して家に帰ってCoregaのLANカードを入れてドライバをインストールしてみると楽勝で接続に成功。
 http://member.nifty.ne.jp/oso/speedtest/で測定したところ、下り847kbps出てます。NTTに対抗するため、回線を1.6メガまで増強したDSL業者もいるみたいですが、めたりっくは回線速度によって料金体系を別にしてるから、さてどう出るか。
 20倍近く速くなったわけですが、体感速度ではさすがにそこまでは。早速、click-cinemaに行って、田中麗奈の「好き」三部作をストリーミング再生してみたところ、RealPlayerではコマ落ちが発生。これじゃまだビデオオンデマンドは無理ですね。Napsterも入れてみたけど、相手側の回線の問題でやはりダウンロードには時間がかかる。つないだまま寝ちゃえばいいんだけど、やや不安。

日記才人

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