オンライン書店bk1との提携力強化中。1月は当サイト経由で34冊の本が購入され、44,829円の売り上げがあった模様。bk1ポイントは現在1344ポイント。ご協力ありがとうございます。10万ポイントになったら謝恩オフ会開催予定(笑)

●日記猿人改め日記才人に復帰しました。ていうか、ひさしぶりに見に行ったら、4年前の登録情報(サンアントニオに行ってた頃)だったのであわてて更新。ひさしぶりに投票ボタンも復活させてみました。



【1月12日(金)】


   ひきつづき《本の雑誌》の新刊ガイド原稿。

 今回イチ押しは言うまでもなくグレッグ・イーガンの短編集、『祈りの海』。2000年の翻訳SFナンバーワン。邦訳されたSF短編集のクォリティとしては、たぶんジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの『故郷から10000光年』『愛はさだめ、さだめは死』以来じゃないですか。配列もよく考えられてあって、シンプルかつトリッキーなひねりのある話が前のほうに集まってるので、ミステリ系の読者も入りやすい。ただし、「祈りの海」を表題作にしたのはどうか。短篇の出来はともかく、本のタイトルは「百光年ダイアリー」にしたほうが売れたと思うんだけど。だいたい「祈りの海」はすでに後期ティプトリーみたいな感じで、こういう方向に行っちゃうのは危険でしょう。作品としては悪くないにしても、SFとの関わりで言うとこのへんがぎりぎりですね。「ぼくになることを」「キューティ」あたりでしばらく止まってくれたほうが、短篇SF業界(ってなに)のためにはベターな気が。

 二番めに推したのは、扶桑社ミステリー文庫のジャック・ダン&ガードナー・ドゾワ編、『ハッカー/13の事件』。ギブスンの「クローム襲撃」は別格として、80年代の作品は今読むと多少色褪せて見える観が否めないが(というか、そのへんの後追いサイバーパンク短篇は、『ミラーシェイド』で読んだときすでに色褪せていたのだった)、90年代作品は驚くべき高水準。マコーリイ「遺伝子戦争」、イーガン「血を分けた子供」、ジャブロコフ「死ぬ権利」、マーカス「マイクルとの対話」あたりを軸にして、べつの短編集を編んだほうがよかったんじゃないかと思うくらい。祭りのあとはやっぱり人情噺でしょう。いや、若い人がどう読むかは知らないけどさ。




【1月13日(土)】


 早川書房地下のリヴィエールで、『SFが読みたい!2001年版』用の座談会収録。メンバーは菅浩江・瀬名秀明・野尻抱介の博物トリオで、司会が大森。瀬名さんと野尻さんが初対面だったのはけっこう意外。
 緊張してたのか、最初は口数が少なかった野尻さん、倒れそうになったカップを支えようと出した手で水の入ったグラスを思いきりひっくり返していきなりずぶ濡れ。まるで8時台のコメディドラマかTVバラエティのコントみたいなシーンで、一同爆笑。いや、ほんとに大声で爆笑してたのはオレだけだけど。
 うしろで見ていた武田さんが一言、「野尻さん、めちゃめちゃおいしいやんか」

 座談会全体としても、だいたい野尻抱介がおいしいところをさらっていった感じ。いちばん笑ったのは、「SFマガジンの水玉さんの連載がむずかしくてよくわからん」という話で、「036をオサムとか読ませる、あのポエムみたいなのはなんなんですか? ケロロ軍曹にも出てきたけど」
 おたくと一般人ではむずかしさのツボがまったく違うという見本ですね。渡辺麻紀がPuffyを知らなかったときより驚いた。しかし326がなんの人かと聞かれてもよく説明できなかったり。その意味で叶姉妹と似ているかもしれないとちょっと思った。
 詳細は2月中旬発売の『SFが読みたい!2001年版』でどうぞ。

 座談会終了後は京都に帰る菅ちゃんが抜け、残りのメンバーで神田駅近くの中華料理屋へ。武田さんから最近のGAINAX事情を聞く。爆笑のネタ多数。しかしここには書けません。Zero-CONで山賀さんから聞いて、ウソだろうと思っていた企画の数々は次々に具体化しつつある模様。そんなに仕事して大丈夫なのか。まあ今までずっと休んでたからな。




【1月14日(日)】


 殊能将之『黒い仏』(講談社ノベルス)読了。『美濃牛』はこの一冊のための伏線でしかなかった! みたいな。参考文献をうっかり先に見ちゃったので驚きはやや減殺されましたが、ラストはもう爆笑。いやあすばらしい。まるでオレのためにあるようなバカミステリ。まあこのパターンのミスマッチは小林泰三に作例があるわけですが、こっちはちゃんと本筋に持ってきてるからなあ。しかもシリーズ物だ(笑)。シリーズであることを伏線に使用するのは森博嗣の得意技なんだけど、殊能将之はさらにひねくれている感じ。
 あれはどういう話なんですか、元ネタはなんですか、とか編集者に質問されるんだけど、オレも全部はわかりません。ていうか、全部わかるのは殊能将之だけだろう。
 というわけで、読み終わったあと狐につままれてる人は、Mercy Snow 公式サイトへどうぞ。『黒い仏』攻略ページがあります。オレが爆笑したのは安蘭寺縁起。まさかお寺の名前にこんな秘密が隠されていたとはお釈迦さまでも気がつくめえ。でも、くろみさまは気がついてると思う。「妙法蟲聲經義疏」に入ってる、各章冒頭のエピグラフ漢文と原典との対訳も、細かく対照するとめちゃめちゃ笑えます。田中啓文も駄洒落考えてる場合じゃないぞ。いや、無意味な努力という意味では共通してるのか。
 元ネタの一部になっているジェイムズ・ブリッシュのBlack Easterは、こんな感じの話です。魔法とテクノロジーが共存する世界で、白魔術師と黒魔術師が手を組み、究極の悪を召喚する……みたいな。
 で、ブリッシュに献辞が捧げられているのは、続編を書くことが原理的に不可能な結末を書いてしまったあと、続編を書くことはいかにして可能か、というテーマにからむと思うんだけど、なんのことかわからない人は殊能将之の日記を読めば、たしかどこかに書いてあります。まあしかし、麻耶雄嵩だって『夏と冬の奏鳴曲』のあと、あの話をシリーズ化してるんだから、麻耶雄嵩に捧げてもよかった気が。
 と、ネタバレなしで書けるのはこのぐらいでしょうか。事件がしょぼいとか怒ってる人もいるみたいですが、クロフツなんだからしょぼくて当然。この一作で、石堂戯作ものはイシドロ・パロディを完全に凌駕したね。ていうか、イシドロ・パロディって全然笑えないんですけどどうですか。

 ミステリチャンネル ベストブックス用に国産ミステリ未読消化。
戸梶圭太『The Twelve Forces』(角川書店)は◎確定なんですが、それに続くのは、ヒキタクニオ『凶気の桜』(新潮社)五條瑛『夢の中の魚』(集英社)西澤保彦『転・送・密・室』(講談社ノベルス)あたり。
 ヒキタクニオ『凶気の桜』(新潮社)は、帯に『時計じかけのオレンジ』とか書いてあるけど、バイオレンス色やノワール色は薄くて、むしろ後半はさわやか青春小説の印象。『池袋ウェストゲートパーク』系列で売ったほうがよかったんじゃないですか。J文学っぽい前半のほうが浮き気味で、そっちで押し切れば、辻井南青紀『無頭人』(朝日新人文学賞受賞作)とかに近づいたかもしれないが、任侠青春小説にしたほうが面白かったと思う。直木賞をとった金城一紀の『GO』が好きな人にもおすすめしたい。
 五條瑛『夢の中の魚』(集英社)は、鉱物シリーズの脇役の洪敏成が主人公の連作。『ガメラ』シリーズ(じゃないけど)の新作を弟といっしょに見た葉山が電話かけてきて、「きみもこの映画観たほうがいいよ。ネタになるから」とか言う話が爆笑。おたくエスピオナージュっすか。
 大藪春彦賞を受賞した『スリー・アゲーツ』は演歌ノリなんで個人的にはいまいちだったけど、『夢の中の魚』はじつにいい感じ。完成度では『プラチナ・ビーズ』より上かな。キャラ萌えじゃない人もOKでしょう。

 意外に感心したのは野沢尚『深紅』。一家惨殺事件被害者のたったひとり生き残った娘と加害者の娘が十年ぶりに再会。被害者の娘が胸に秘めた邪悪な企みとは……みたいなシニカルなプロットで、そのわりにヒロインの邪悪度が低いよね。とか思いながら読んでたんですが、伏線が一気に生きてくるクライマックスの語りがすばらしい。最初のころの作品のシナリオっぽさとか視点移動の問題とかがすべて解消され、きっちり小説の文章、小説の仕掛けになっている。著者の最高傑作かも。

 『牙をむく都会』逢坂剛(中央公論新社)は、「とにかくいちばん好きなものを二つ入れて、好き放題に語ってみました」という、きわめてほほえましい小説。というか、ほとんど小説にはなってないんですが、それでも楽しく読めるのは著者の人徳か。SF/ホラー映画部門とミュージカル部門のセレクションがどうなったのか非常に興味がありますが、逢坂さんは興味がないらしく全然書いてありません。それにしても観てない映画を推薦するのはどうよ>岡坂。

 筒井康隆『恐怖』(文藝春秋)は、文化人連続殺人サスペンス。パズラー要素もSF要素もホラー要素もありません。筒井康隆にしては珍しく、戯画化が中途半端で、なんというかふつうのミステリーのように読めてしまうのが弱点。
 メフィスト賞の石崎幸二『日曜日の沈黙』(講談社ノベルス)はちょっとだけ笑えるネタ。しかしこれで一冊ひっぱるのはいくらなんでもなあ。
 鳴海章『死者の森』(集英社)は力の入ったサイコサスペンス。地方の新聞記者視点はわりと珍しい。土佐弁の再現性も高い。力作だし楽しめるけど、やっぱりこういう書き方でリアリティを追求するとインパクトには欠ける。
 高嶋哲夫『冥府の虜 プルトーン』(祥伝社)は今回読んだ中のワースト。いまごろこんな小説を出してどうする。ていうかこれほんとに新作なの?




【1月15日(月)】


 岩井志麻子邸で《週刊小説》用のインタビュー。bk1ホラー棚のインタビューで披露されている「備前焼つちのこ」と「団鬼六所蔵のバイブレーター」の実物をはじめて見る。
「いやあ、りっぱなバイブですね。このヌメりがなんとも。やっぱりこのぐらい長いほうがいいのかなあ」
「そうじゃのう」
「で、名前は?」
「名前?」
「猟銃は《春彦》って名前がついてるじゃないですか。やっぱりバイブにもちゃんと名前つけないと」
「そうか。ほんなら《冬樹》でどうじゃ」
「…………」
 春彦はもちろん大藪春彦で、冬樹は当然、池上冬樹。なぜ池上冬樹かというとですね、ミステリマガジンのコラム「隔離戦線」で池上さんが『岡山女』を罵倒。
「ほんまに池上のやつ。わしのことを『本業は色物』とか言うてなあ。ほんとのことを書くやつは許せんのじゃあ。今度会うたら絶対にあの男をシメる!」
 と岩井志麻子は力強く宣言。わたしは「ちょっとちょっと池上さん」とトイレまで呼び出す係りを割り当てられているのでその節はよろしく。しかし池上冬樹に勝ち目はないと思う。

 週刊小説は倫理規定がたいそう厳しいらしく、やばい話はすべてカットなので(なにしろ《小説新潮》掲載作のタイトルさえ書けないのである)、インタビュー原稿をまとめるのは非常にらくちんでした。




【1月16日(火)】


 13:00、東宝本社で黒沢清の新作『回路』試写。
『カリスマ』の姉妹編みたいな映画ですが、こっちは幽霊モノ。ネットスリラーってのをウリにしてるけど、黒沢清はインターネットに関心ゼロみたいですね。CD-ROMから接続ソフトをインストールしたら、パソコンが勝手に起動してネットにつなぐようになっちゃったんですけど……という相談に対するパソコンおたくの答えは、「ハッカーじゃないの?」じゃなくて、「それ、ダイヤルQ2使うエロサイトの接続ソフトじゃないの?」が正解でしょう。
 しかし映画の出来は悪くない。黒沢清は牧野修を映画化したらどうかとちょっと思った。田口ランディの『コンセント』でも可。

 15:30、東映本社に回って『溺れる魚』試写。
 こちらは戸梶圭太原作。『ケイゾク/映画』のときも思ったけど、堤幸彦ってどうしてもテレビになっちゃうのね。テレビで見ると冴えてるギャグも、映画ではちょっと苦しい。ちょっとすべっただけで致命傷になるし。テレビドラマならこれでOKですが、映画館で見ると腹が立つ感じ。いや、モーニング娘。関連のギャグは秀逸なんだけどさ。あと、椎名桔平と窪塚洋介のコンビは最高。Vシネマでシリーズ化がベスト?

 18:00、三番町の焼肉屋、その名も「巨牛荘」で、岩井志麻子直木賞待機宴会。タクト・プランニングのフカザワ社長と同じテーブルだったんですが、いやもう恐るべき毒舌ぶり。食べものをこんなに罵る人をわたしははじめて見ました。さすが豪快。
 なんでも社長になるとキャラがどんどんおやじ化するんだそうで、体の奥から全能感が満ちあふれてくるらしい。おやじ化したので社長を名乗る人もいれば、社長になってからおやじ化する人もいると。しかしやっぱり本人の資質だと思うな。トヨザキ社長とぜひ社長対決をしていただきたい。

 深澤真紀の毒気にあてられてすっかりなんの会だったか忘れかけたころ、岩井志麻子の携帯が鳴る。当選の連絡は本人の携帯、落ちた連絡は担当編集者の携帯――という話は年伝説だったことが証明されました。まあしかし、この焼肉で直木賞受賞したらフカザワ社長が納得しないんだからしょうがない。

 というわけで、以後は飯田橋に場所を移して残念会。これがまたとても残念会とは思えない酒池肉林の男体盛り地獄。女体盛りも食べたことがないのにいきなり男体盛りを食うはめになるとは。人肌にあたたまったトロの脂が微妙に溶けて舌触りが絶妙です。などということは思い出したくもないので、速報で掲示板に載せた写真にリンクを張るだけにとどめたい。大森が記憶から抹殺した出来事についてはそのうち森奈津子が書くでしょう。

 三次会はカーニバル2の最上階。こんなフロアがあるとは知りませんでした。神楽坂を上から見下ろしたのは初めてかも。しかしここでもフカザワ力が炸裂。デス演歌といか津軽じょんがらパンクというか。女性陣はフカザワ社長のまわりに集まり、ひれ伏して拝んでいます。カルトの女王。社長なんか辞めてプロデビューするしか。





【1月17日(水)】


 昨夜の悪夢の傷跡も癒えぬうちにミステリチャンネル「ベストブックス」2月号の収録。これが番組でとりあげた12月新刊のラインナップ。戸梶圭太ファンクラブ会員第一号(自称)のトヨザキ社長、『The twelve forces』をひたすら絶賛。ちなみにbk1で注文できる戸梶圭太の本はこれだけあります。



【1月18日(木)】


 15:30、京橋メディアボックスで『レクイエム・フォー・ドリーム』。柳下毅一郎絶賛ですが、親子そろってドラッグでこわれてく話はわりとどうでもいいのだった。クスリで瞳孔が開く一連のショットは秀逸。でもちょっとくどい感じ。




【1月19日(金)】


『ザ・セル』を見ようと思ったが起きられず、夕方出かけて《恐怖の会》。一次会だけで抜け出し、GAINAX新年会に二次会から参加。あかほりさとる大爆発。というか、あかほりさんはいつもこうらしいが、じっくり観察したのは初めてだったのでめちゃくちゃおかしい。酔っ払った飯野文彦を初めて観察したときの感動に匹敵しますね。
 いちばん凄かったのは、飲んでた席から見えるカップル関連。ふたりそろってテーブルにつっぷして豪快に眠ってるので、それを遠くから眺めつつ、さんざん話のネタにしてたんですが、「だれかあっち行って話聞いてきたら」「どういう関係かねえ」とかゆってる最中にすっくと立ち上がったあかほりさとる、まっすぐカップルの席に歩み寄り、寝ているお姉ちゃんの隣にしゃがみこむと、肩をつかんで揺り起こす。
「うわ」
「ほんまに起こした」
「なんかしゃべってるやん」
「一応、会話は成立してるみたいやなあ」
「なにゆうてるんやろ」
「あ、男のほう立ち上がったで」
「帰るみたいや」
「そりゃ、そばにずっとあかほり先生がおったら、うるそうて寝られませんもん」
「ひどいなあ。せっかく気持ちよさそうに寝てたのに」

 しばらくして席にもどってきたあかほりさとるに、
「いったいなんの話をしてたんですか」と訪ねると、
「いや、寝てると迷惑だから、はやく家に帰りなさいと注意したんです」
 きみはロイヤルホストのフロアマネージャーですか。

 このあと、電車で寝てる人を見ても、喫茶店でうとうとしてる営業マンを見ても、合い言葉はひとつ。「ああ、ここにあかほりさとるがいれば!」

 赤井さん、佐藤てんちょさん、武田さんなどなどは例によっておたくな話題。

●第一回小松左京賞で無冠に終わった北野勇作『かめくん』が徳間デュアル文庫からめでたく発売。前田真宏のイラストが意外と合ってますね。
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