【12月21日(木)〜23日(土)】


 まだまだ年末進行が終わらない。小説すばる、毎日中学生新聞、メンズ・エクストラ、徳間デュアル文庫などなどの原稿を書き続ける。先月末脱稿予定だった翻訳もまだ残ってるしなあ。全然世紀が越せない感じ。とか言ってるといきなり正月早々バンクーバー行きの仕事が。なんか寒そうなんですけど、でも前回ことわってちょっと後悔したからやっぱり行くかなあ。

 新宿・紀伊国屋で、都筑道夫『推理作家の出来るまで』上巻下巻を購入。ミステリマガジンに連載されてた都筑さんの自伝。3900円上下というたいへんな本ですが、それだけの値打ちはあるでしょう。ミステリファンのみならずSFファンも必読。それにしてもどうしてこんなに昔のことをよく覚えてるかなあ。

 紀伊国屋を出て、某patio忘年会に出席。参加者は関口苑生氏、単細胞氏と大森。お二人はフグ料理屋に入ってたそうなんですが、遅れて着いた大森のためにわざわざ店を出てくださって(満席で三人目が入る余地がなかったらしい)申し訳ないかぎり。
 単細胞氏は、かつて《一の日会》にも通っていたという歴戦のSF読者で、関口さんも元SF者。というわけで、なぜかこの日は昔のSF話が中心。キーワードは「美苑ふう」とか。すでに30代SFおたくにはついていけない世界かも(笑)。

 台湾小皿料理屋で食事のあと、ひさしぶりのゴールデン街でひさしぶりの《深夜+1》。10時ごろ解散し、平和に帰宅。




【12月24日(日)】


 クリスマス宴会@柳下毅一郎邸。うちの夫婦と渡辺麻紀と添野夫妻とか。駅前の安売り酒屋に寄ったらドンペリニオン売ってたので奮発する。いや、オレは飲まないんだけど。しかしスーパーのレジ袋にドンペリがぶら下げてると貧乏だか金持ちだかわかりません。




【12月25日(月)〜27日(水)】


 翻訳仕事のラストスパート。世紀はまたぎたくないのだが。

 最後の新潮ミステリ倶楽部賞受賞作、伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』(新潮社)。仙台でコンビニ強盗に失敗し、警察に追われて逃亡した主人公が、江戸時代からずっと鎖国してる島で目を覚ます。そこには未来を予知するカカシ、優午がいた。
 カカシが知性を持つ理屈も一応書いてはあるものの、どっちかというと寓話的設定の本格ミステリ。カカシ殺しの謎がメインで、「閉鎖的な共同体内部で事件が発生し、その事件の解明が、共同体を支配する非日常的な論理の解明と直結する」というタイプ。麻耶雄嵩の『夏と冬の奏鳴曲』『鴉』『木製の王子』、森博嗣の『女王の百年密室』、上遠野浩平『殺竜事件』なんかの系列ですね。優午くんはまさしく「木製の王子」だし。
 読んでる間は設定上の疑問(そんな島の存在がなぜ可能なのか)が噴出し、それに答えが与えられないのでかなりもどかしい。パズラー部分の解決はよくできているものの、この設定ならもっと面白く書けたんじゃないかという気が。しかし、けっこう地味に推移した2000年の国産パズラーでは、『火蛾』と並ぶ注目作。マジックリアリズム・パズラーは狙い目かもしれない。

 なぜかあまり書店の店頭で見かけない戸梶圭太の新作、『The Twelve Forces 海と大地をてなづけた偉大なる俺たちの優雅な暮らしぶりに嫉妬しろ!』(角川書店)は、超弩級の変格SF冒険ギャグ小説。ルーディ・ラッカーが書いた『崑崙遊撃隊』というか『火神を盗め』というか。
 アマゾンの奥地かなんかで、超古代文明が残した謎の巨大物体が発見される。緑色のぶよぶよしたゼリーの山みたいなやつ。見つけたのは奇矯な大金持ちで、これは古代文明の環境浄化装置に違いないと確信し、それを発動させる方法を研究しはじめるわけですね。発動の鍵を握るのはドラッグと音楽。いやもうすばらしくデタラメです。そのために連れてこられた世界的な女性作曲家は真性の女王様で奴隷を二人連れてるし。途中はヘロイン獲得のためにマフィアとドンパチやる話がえんえん続いたり。しかしクライマックスは最高にすばらしい。史上もっともぶっとんだエコロジーSFに決定。
 ちなみに「戸梶圭太」をbk1で検索した結果はこれ。『闇の楽園』『溺れる魚』『ギャングスタードライブ』はこの順でおすすめ。『赤い雨』はすぐ読めるスーパーナチュラル・ホラーですが、ちょっとつらいかな。

 クラークが名前だけ貸したスティーヴン・バクスターの『過ぎ去りし日々の光』(ハヤカワ文庫SF)は、「もし××が発明されたら世界はどう変わるか」タイプの古風なシミュレーションSF。最近だと、ジェイムズ・L・ハルペリン『天才アームストロングのたった一つの嘘』(角川文庫)なんかの系列ですね。前半地味に進んでいくあたりにもうひとつオカズがほしいところ。スローガラス的に、点景となる断章をいくつかはさんでもよかった気がするが、バクスターだとああいうしみじみ系のエピソードは無理か。しかしクライマックスの暴走はバクスター印。わたしはちょっと置いてかれた気分になりましたが、まあ懐かしい雰囲気で、わりといいんじゃないでしょうか。





【12月28日(木)】


 仕事に飽きたので発作的に秋葉原に行って、新しいデジカメを購入。IXYデジタルにするか、SONYのやつにするか迷ったけど、結局、FinePixの40iに決定。MP3プレーヤーになるやつね。カメラからイヤフォンが伸びてる姿は美しい。スマートメディアのIDつき64メガを2枚追加。

 スマートメディアにmp3ファイルをコピーすればカメラで再生できるのかと思ったら、添付の転送ソフトを使わなきゃいけないことが判明。USBでいちいちつなぐのはめんどくさい――というか、添付のケーブルが長すぎる。電池ボックスとスマートメディアの蓋が共用という設計もどうかと思います。MDの出し入れのたびに電池ボックスの蓋あけなきゃいけないMDウォークマンなんてあり得ないでしょ。添付のイアフォンとかリモコンのデザインとかも泣けてくるほどお粗末で、「まあとにかく音楽再生機能をつけてみました」って感じ。メーカーの個性がよく出てると言えば出てるのだが。




【12月29日(金)】


 13時過ぎにタクシー呼んで東京ビッグサイト。冬コミ1日目は主にミステリ方面。河内実加さんに、新刊の『まとめてあびこくん』を頂く。半分は《メフィスト》の再録ですが、描き下ろしが20ページ以上。岩井志麻子さん初登場。ミヤベさんがめちゃくちゃかわいかったり。あと、首藤瓜於氏の似顔絵はめちゃくちゃそっくりです。でも字が違ってますよ>河内さん。
 ざっと回って買ったのは、五條瑛の《鉱物》シリーズ本とか、恩田陸本とか、西澤本とか、ミヤベ本とか。ハリポタ本とバトロワ本もけっこう出てました。なんか朝から必死に回ってガンパレ本をぜんぶ買い集めていた人もいたらしい。ハサミ男本の2冊目はまたしても買えず。

 関係ないけど『黒竜とお茶を』本が出てたのは驚きました。奇特な人が……。夏コミ合わせで出た準備号で、つくった人はハヤカワ文庫FTの原本が絶版になってるのを知らなかったらしく、夏コミ後に刷った再版には、「絶版と知ってショック。本番の同人誌は出ないかも……」みたいなコメントが。気にせずにがんばってつくっていただきたいものである。いい本なんだけどなあ>黒竜。いっそ徳間デュアル文庫とかでどうですか。

 腹が減ったので例によってコルドン・ブルーでカツカレー。水上かなみ、鷹城宏、ジョニー高橋、加藤希とお茶飲んでから、臨海線で帰宅。大江戸線が開通したので、国際会議場→新木場→月島→門前仲町→西葛西と三回乗り換えで帰れるようになったのは便利なのか不便なのか。月島‐門前仲町は歩いたほうが早いかもしれない。

 帰宅後、正月に原稿をまとめなきゃいけないソウヤー・インタビューのために、『フラッシュフォワード』(内田昌之訳/ハヤカワ文庫SF)のゲラを読む(クリックするとbk1で予約できます)。ヒッグス粒子をつくるためにCERNで実験やったら、全人類の意識が2分間だけ、20年未来に飛んでしまいました――という話。未来を見たことで世の中がどう変わるか――って意味では、『過ぎ去りし日々の光』に近い。読後感もわりと近いかな。近未来描写の細かいギャグが笑えるところはソウヤーらしい。プリントオンデマンドが一般化してて、バーンズ&ノーブルのティールームでお茶しながら注文品の印刷が上がるのを待つとか。
 アイデアだけ聞いたときは、ヴォネガットの『タイムクエイク』を連想したんですが、当然のことながら中身は全然違います。しかしどう考えても、あれで未来が変わらないと思うほうがおかしいよなあ。例によってドメスティックなネタあり殺人ネタありで、SFが読みたい読者にはそのへんがちょっと邪魔かも。意外な伏線がうまく効いてる部分が一カ所あるので、そこは評価したい。




【12月30日(土)】


 冬コミ二日目。20世紀最後と言ってもいつも通り。東方面はめちゃめちゃ混んでるみたいだが、西ホールはやや混み程度。
 国樹由香嬢のところに最初に立ち寄り、『こたくんといっしょ』特別編を頂く。

今日の最大の話題作は『失礼文学』なんですが、東ホールに行く気力がなかったので買えませんでした。いろんな人が買ってたやつを借りて読む。セレクションはきわめて妥当。再録アンソロジーとしての完成度は非常に高いと思った。
 買い損ねたのでタニグチリウイチに借りて読んだ慶応大学SF研の『ホライズム』は各社編集者インタビュー特集。SFセミナーの角川春樹発言を受けて、「最近SFはどうなんですか?」と聞いて回る趣旨。春樹事務所(大喜戸)、早川書房(塩澤@SFM)、徳間(大野@デュアル文庫)、創元(小浜)、ソノラマ(石井編集長)の5人。わりと広報的な発言が多いんだけど、行間を読むとなかなか楽しめます。しかし電撃文庫の担当者インタビューも欲しかった気が。

 青木光恵ちゃんとこに挨拶に行って、バニーガール本と西原本を購入。すばらしくセクシーでかっちょいい2001年カレンダーを頂く。これは商業ベースで売っても充分じゃないでしょうか。傑作。
 バニー本のほうも傑作で、そうですか、原点はDAICON IVオープニングアニメっすか。その後、同人誌用の生バニー取材にロイヤルへ突撃するエピソードが爆笑。とくに会員になるあたりの話が。しかしロイヤルがダイエー系列で、バニーガール界の価格破壊だとは知らなかった。じっさいあのお値段はエスカイア・クラブの数分の一なのでは。今は知らんけど。最近、本家のガイナックス方面はすっかりバドガールのようですが、ってことはSF2001のOPアニメはバドガールが主役?

 そのバニー通であるところの赤井孝美氏夫妻も《ナインライブス》で企業ブースに出店してました。なんか、「わたしの描いた絵です。買ってください」みたいな……。あ、コミケ的には正しいのか。
 その横では、AT-Xのキャンペーンかなんかで湖川友謙氏が来てて、壁に貼ったケント紙に筆ペンで、ずらりと並んだお客さんを前に、「ダイターン3描きましょうか? ええと、ダイターンのポイントはですねえ……」とかやってました。凄すぎる。描き終わったやつは販売したのかなあ。

 終了後、ワシントンホテル横のカフェテリアでタニグチリウイチ、さいとうよしこと食事。タクシーで帰ろうと思ったらまだめちゃ混みだったのでふたたび臨海副都心線。有楽町線を月島で降りてもんじゃ焼きを食べ、タクシーで帰宅。

 風邪がまだ治らないので、寝床で恩田陸『ライオンハート』(新潮社)ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』トリビュートのタイムトラベル・ラブロマンス。巻頭の「エアハート嬢の帰還」は完璧に近い導入で、すばらしくハマる。ただし謎解きのエピソードはやや興醒め。もっときっちり書くか、でなきゃもっと婉曲的にほのめかすだけにしたほうがよかったと思う。結末部分はむしろ『果しなき流れの果に』トリビュート? 「男が旅をして女は待ってるだけ」という、男性作家のありがちな時間恋愛物に対する抵抗? 時間SFのツボはきっちり押さえてあるので、SF読者は洩れなく反応できるでしょう。




【12月31日(日)】


 風邪で寝ているあいだにさいとうよしこが徹夜で年賀状を完成。ぱちぱちぱち。
 大晦日の東京は天気が悪いと聞いて、急に2日間だけ高知に帰ることにしたのでたいへんです。
 これから寝るさいとうよしこと入れ違いに出かけて喫茶店で年賀状書きとか日記とか。

 2001年1月1日から3カ月間の期間限定で試験的にスタートする、bk1の「個人サイト連携」に参加しました。このサイトから飛んだ人がbk1で本を買ったら、大森に3パーセント分のbk1ポイントが入る仕組み。ポイントはともかく、ここ経由でオンライン書店に飛んで、じっさいに本を買う人がどのぐらいいるのかはちょっと知りたい。

 しかし、たとえばここ経由で『江戸川乱歩の貼雑年賦(はりまぜねんぷ) 』をだれかが予約すると、うちには9,000ポイント入るんでしょうか。凄いなあ。さあみんなでいますぐ『貼雑年賦』を予約しよう。だいじょうぶ、すぐに古書価が暴騰して、この30万が50万100万になって返ってきます←詐欺。

bk1ですぐ注文できる、ミステリチャンネルの《ベストブックス》のベストテン結果。しかしなぜ《このミス》でも週刊文春でもなく、ミステリチャンネル?


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