【12月1日(金)】


 ぶんか社《メンズ・エクストラ》の映画コラム原稿とか、《アスキー・ネットJ》のオークション・ウォッチ原稿とか。あとはひたすら読書。




【12月2日(土)】


 2時間睡眠でプレMYSCON2@渋谷フォーラム8。着いたときにはすでに全体企画の説明がはじまってました。詳細は、おなじチームだった雪樹さんのレポート参照。ハスキー犬の写真と石化死体(?)の写真があったので、『ウォッチャーズ』+『ラクトバチルス・メデューサ』で「メデューサの狗」に決定。というか、u-ki総統と大森のSF者的解釈がそのまま暴走し、ラストの狛犬に美しくつながってオチました。
 出来としては悪くないなあと思ったんだけど、アイデア的には「バルーン・タウンの殺人」がいちばんぶっ飛んでました。死体を飛ばすトリック(写真に影を描き入れるだけ)は絶品。シンプルで意外性のある解決――新本格のお手本のような傑作である。

 個別企画に移行したところで会場を抜け出し、ブック・ファーストで書評本の購入漏れチェック。喫茶店で一時間仕事して、二次会の宴会に合流。2時間滞在してから馬場に出てユタ。キネ旬ベストテン対策で、高橋・柳下・添野・堺から、見逃している重要作品のチェックを受けたり。




【12月3日(日)】


 さらに仕事。
 SFマガジンの2000年ベストと90年代(1990〜1999年)ベストを投票。2000年ベストは国内が大激戦。結局、各傾向のベスト作を並べるかたちにおちつきました。海外は逆にタマがなくて四苦八苦。『フレームシフト』とか入れられればそう苦労しないんだけど。
 最終的な大森の投票結果はこんな感じ。

【2000年SFマイ・ベスト】

●海外
1 ダン・シモンズ『エンディミオンの覚醒』
2 フィリップ・プルマン『黄金の羅針盤』
3 アンジェラ・カーター『夜ごとのサーカス』
4 中村融編『影が行く』
5 ジャック・ダン,ガードナー・ドゾワ編『幻想の犬たち』

●国内
1 池上永一『レキオス』(文藝春秋)
2 秋山瑞人『猫の地球儀』1・2(電撃文庫)
3 牧野修『忌まわしい匣』
4 菅浩江『永遠の森 博物館惑星』
5 恩田陸『月の裏側』

【90年代SFベスト】

●海外
1『ハイペリオン』二部作 ダン・シモンズ/酒井昭伸訳/早川書房
2『順列都市(上・下)』グレッグ・イーガン/山岸真訳/ハヤカワ文庫SF
3『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーブンスン/日暮雅通訳/アスキー出版局
4『故郷まで10000光年』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/伊藤典夫訳/ハヤカワ文庫SF
5『時間衝突』バリントン・J・ベイリー/大森望訳/創元SF文庫
6『ディファレンス・エンジン(上・下)』W・ギブスン&B・スターリング/黒丸尚訳/角川文庫
7『火星夜想曲』イアン・マクドナルド/古沢嘉通訳/ハヤカワ文庫SF
8『知性化戦争(上・下)』デイヴィッド・ブリン/酒井昭伸訳/ハヤカワ文庫SF
9『スロー・バード』イアン・ワトスン/佐藤高子,他訳/ハヤカワ文庫SF
10『ラッカー奇想博覧会』

●国内
1《十二国記》小野不由美/講談社文庫
2『アド・バード』椎名誠/集英社文庫
3《タルカス伝》中井紀夫/ハヤカワ文庫SF
4『エイダ』山田正紀/ハヤカワ文庫JA
5『光の帝国 常野物語』恩田陸/集英社文庫
6『ライトジーンの遺産』神林長平/朝日ソノラマ文庫NEXT
7『ハイブリッド・チャイルド』大原まり子/ハヤカワ文庫JA
8『バベルの薫り(上・下)』野阿梓/ハヤカワ文庫JA
9『ソリトンの悪魔(上・下)』梅原克文/朝日ソノラマ文庫NEXT
10『クリスタルサイレンス』藤崎慎吾/朝日ソノラマ




【12月4日(月)〜5日(火)】


 《本の雑誌》用の読書。岡本賢一『ワイルド・レイン』(ハルキ文庫)三冊を一気読み。一巻目はトクマノベルス版で読んでるはずなのになにも覚えてない。同じような経緯(オクラになってたシリーズの続巻がハルキ文庫で日の目を見た)の竹本健治『鏡面のクー』と、部品も展開も似てるのがおかしい。タイプは全然違うのに、引き合うものがあるんでしょうか。それにしても一巻目はもっと書き直さなきゃダメでしょう。SFマガジンの三村美衣書評は誉めすぎ。いや、だんだんよくなってはくるから、三巻目は「今年の収穫」に数えてもかまわないんだけど。

 メディアワークス版の《SFバカ本》2冊、『宇宙チャーハン篇』『黄金スパム篇』は、続けて読むとこれはこれでいいような気がしてくる。いっそ、70年代日本SF伝統の巻き込まれ型サラリーマンSFってことでかためてしまえばいいのでは。筒井康隆〜かんべむさし/横田順彌〜岬兄悟ライン。北上次郎が読みたいといってたようなSFが主流。どっちか片方読むなら『宇宙チャーハン篇』でしょう。

 徳間デュアル文庫の新刊、中井紀夫『遺響の門 サイレント・ゲート』は評判もいいので期待してたんだけど、「ティーンズノベルってこういう感じ?」みたいな配慮が裏目に出た感じ。岩本隆雄的な往年のジュブナイル復活路線にもハマりきれず、中途半端な印象。
 東野司『真夏のホーリーナイト』は新シリーズ第一弾――なんだけど、《ミルキーピア》ふたたびですね。

 デニス・ダンヴァーズ『天界を翔ける夢』(川副智子訳/ハヤカワ文庫SF九六〇円)は、ラブストーリー的な部分はそれなりに書けてるものの、ミステリ的なネタに意外性ゼロなのがなんとも。




【12月6日(水)】


 締切をのばしてもらった映画秘宝のベストテンを投票。

●2000年ベストテン

1 マルコヴィッチの穴
2 サウスパーク 無修正映画版
3 チャーリーズ・エンジェル
4 呪怨
5 オーディション
6 バトル・ロワイアル
7 スリーピー・ホロウ
8 ピッチブラック
9 スペースカウボーイ
10 オーガズモ




【12月7日(木)〜8日(金)】


 森奈津子『あんただけ死なない』(ハルキ・ホラー文庫)は、明るい版『××の×』。これって『××の×』の主人公を女性に変えた話だよなと思いながら読んでいくとどんどん『××の×』になってくんだけど感触は全然違います(もちろん《××××》にはなりません)。キャラは抜群に切れてるし、ぐにゃぐにゃした感じも好み。へんな話が好きな人は必読。
 ミステリチャンネル「ベストブックス」用の読書。
 柄刀一『マスグレイヴ館の島』(原書房)はシャーロキアン物。いままでの柄刀作品ではいちばん読みやすいかも。小技が効いててけっこう楽しく読んだけど、メインのネタはいくらなんでもと腹を立てる人がいるかもなあ。このネタを読むのはこの1年で三度目? いやしかし、この小説の場合は某アニメへのオマージュかもしれないが。

樋口明雄『狼は冥らない』(角川春樹事務所)は『ホワイトアウト』系。アクションはよくできてるけど、主人公が追われることになる理由がとってつけたような感じで、前半のリアルで渋い描写とミスマッチ。「ぼくの秘密のフロッピー」が「ぼくの秘密のMO」になってますが、容量が増えればいいってもんじゃないでしょう。
 交渉の切り札になる秘密データ(公開されると相手が困る秘密)は、検索エンジンにひっかからないサイトにこっそり置いておくのが正解でしょう。「オレに危害を加えるとそのURLを2ちゃんねるでばらすぞ」とか言っておけば完璧。信用できる知人にモノを預けるパターンはもはや意味がないと思う。そもそも「秘密のMO」なんか出さなくても成立する話なのに。
 あと、一歩間違うと死んじゃうような極限状況なのに登場人物がやたら饒舌なのも気になる。設定とプロットに対して、台詞が多すぎでしょう。

 大沢在昌『心では重すぎる』(文藝春秋)は、佐久間公シリーズの最新作。テーマは「消えたマンガ家」なので、ほとんど「佐久間探偵のおたく探訪」みたいな話。佐久間公が少年ジャンプ編集部とか西村繁男とかまんだらけ店員とか(もしくはそれに準じるもの。もちろん作中では仮名)を取材してまわるという驚天動地の展開。出てくるベストセラーマンガのモデルは「幽遊白書」? 着メロを聞いてそれがアニメ版の主題歌だと見破る佐久間はアニソンおたくかも。
 こっちもやたら饒舌な小説ですが、マンガ業界の人はだいたいよくしゃべるから、そのへんの感じはリアル。わたしは某元編集長の顔が目に浮かびました。しかし佐久間公が数十ページおきに長い独白で「これまでのお話」を整理するのはつらい。読者のレベルを低いところに合わせすぎなんじゃ。




【12月9日(土)】


 朝11時から有楽町で『十五才 学校IV』。見たくないなあと思って見てなかったんだけど、これだけ評判がいいとしょうがない。結果はまあ予想通り。『バトル・ロワイアル』が相田みつをなら、こっちは326。引きこもりお兄ちゃん(映画おたく系)の部屋はいい感じに仕上がってるんですが、あのポエムは……。一定のリアリティがあることは否定しないけど、あんなもの持って山登りはしないでしょう。絵に描いたようなビルドゥングス・ロマンになってるのもつらい。これだったら『バトル・ロワイアル』をとるな。

 映画のあと、日比谷線で六本木に出て、黎会の忘年会。出席の返事を出すのを忘れてたんで、終わりごろに顔を出し、柴野夫妻にご挨拶。ついでに岡本賢一に『ワイルド・レイン』の文句を言い、アマンドに流れて山岸真と年間ベストテン・90年代ベストテン話。

 ふたたび銀座にとって返し、丸の内東映で『新・仁義なき戦い』。冒頭の葬式場面は鳥肌が立つほどすばらしく、どんな傑作になるかと思ったんだけど、途中から失速。最終的にはベストテンのボーダーラインぎりぎりぐらい。布袋寅泰の音楽もめちゃめちゃいいんですが、出演はともかく、主題歌まで歌うのはやめたほうがよかった。哀川翔は浮いてるし、村上淳はダメすぎる。




【12月10日(日)】


 坂本順治の『顔』を見るため、はるばる千葉へ。といっても、うちからだと西船橋から総武線に乗り継いで、40分ぐらい。栄町東映って小屋でやってるらしいんだけど、千葉ははじめてなので全然地理がわからない。バスの運転手に道を教えてもらってとぼとぼ歩くこと5分。頭上はモノレールが走ってます。さすがチバ・シティ。
 しかし地上のほうは、日曜日のせいかもしれないけど思いきりさびれた感じの歓楽街。ソープの客引きがヒマそうにしてます。角海老宝石の看板がこの手の町のポイント(笑)。
映画館の向かいには、ひなびた喫茶店(コイン占いの機械がテーブルに置いてあったりするタイプ)と韓国スーパーが二軒。すばらしいロケーションですね。
『顔』を見たあと、その喫茶店で平谷美樹インタビューをまとめてメールで送り、別スクリーンでやってる『ekiden 駅伝』を見る。なんというか、基本的には『始祖鳥記』と同じ話。走ることが楽しくてしょうがない男がどんどん走る、その姿にまわりの人たちが影響されて元気を出す、と。駅伝映画としては『ピンチランナー』の百倍いい。

『顔』は報知映画賞の作品賞を受賞、日刊スポーツ映画賞でも『十五才』に次ぐ票を集めたらしい。たしかに悪くはないんだけど、最後に島へ行くのはどうか。自転車はいいけど水泳はダメでしょう。


top | link | board | articles | other days