【11月8日(水)】


 SFマガジン《SFインターセクション》再開第一回の上遠野浩平インタビュー原稿化に着手。

 前回の本格ミステリ作家クラブ準備会について、ひとつ重要なことを書き忘れてました。
パーティのときは全員が名札をつけてたんですが、終わったあと、当然、その名札を回収するわけです。回収用にテーブルの前に箱が置かれてたんだけど、その箱の側面には、SODの文字が。どこかで見たロゴだなあと思ってよくよく観察すると、《ソフト・オン・デマンド》の箱なのだった。だれですか、ソフト・オン・デマンドのビデオを箱買いした人は。ちょっと友だちになりたいかも(笑)。その前日にオレが『全裸無人島サバイバル』(傑作!)を見ていたことは内緒だ。




【11月9日(木)】


 今日は自主的に映画の日。

 まずは本郷三丁目のアスミックで、ジュード・ロウ主演の「クロコダイルの涙」。試写室に行くとぜんぜん客がいない。思いきりヒマそうなアスミックのT氏から下へも置かぬもてなしを受ける。そんなに客が珍しいのか(笑)。映画はイマ風の吸血鬼モノ――かと思ってるとかなり意外な展開。女の子ウケしそうだと思った。悪くないっす。



 つづいて割と評判のいい「ピッチブラック」@東宝本社試写室。夜になったら吸血鬼が襲ってくるのでこわいよね、という話を「夜来たる」と組み合わせてSFにした映画。「イベント・ホライズン」系? わりとよくできてて、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」より面白いかも。SF映画ファンにはおすすめです。

 青井邦夫氏が来てたので最近の映画及び業界ゴシップを交換。



 つづいて銀座一丁目まで歩き、東宝東和でシュワルツェネッガーの「シックス・デイ」。シュワちゃんの映画としては意外とよくできてる――という話を聞いてたんだけどまあその通り。まったく予想していなかったので意表を突かれたネタがひとつ。日本のアニメファンなら爆笑するネタがひとつ。それにしても、あれはクローンとは言わないのではないか。結末はちょっと意外性があり、「トータル・リコール」なんかより、好感度は高い。原作がないから?





【11月10日(金)】


 午前6時起床、ジョナサンで《本の雑誌》新刊SF書評原稿。本が多すぎてぜんぜんスペースが足りない。郵便事故か抜き取り被害が、オースン・スコット・カード『エンダーズ・シャドウ』が届いてないことをすっかり忘れていたのだが、いまから読んでもどのみち入れるスキがない。今回のラインナップは、

○山岸真・中村融編『20世紀SF(1) 1940年代 星ねずみ』(河出文庫九五〇円)
△R・シルヴァーバーグ編『SFの殿堂 遙かなる地平』1・2(ハヤカワ文庫SF)
◎堀晃『地球環』(ハルキ文庫八二〇円)
△竹本健治『鏡面のクー』(ハルキ文庫七〇〇円)
武森斎市『ラクトバチルス・メデューサ』(ハルキ文庫七四〇円)
★石黒達昌『人喰い病』(ハルキ文庫五四〇円)
○山之口洋『0番目の男』(祥伝社文庫三八一円)
○小林泰三『奇憶』(祥伝社文庫三八一円)
△秋山完『ファイアストーム―火の星の花嫁―』(ソノラマ文庫五〇〇円)
◎押井守『獣たちの夜』(角川書店一八〇〇円)
○大石英司『深海の悪魔』上下(中央公論新社C★NOVELS各八五七円)
○田中啓文『異形家の食卓』(集英社一八〇〇円)
△梶尾真治『黄泉がえり』(新潮社一七〇〇円)

 という感じで、これでもずいぶん減らしたんだよなあ。ハルキ文庫11月新刊SFフェア全22点が最大の問題。石黒達昌の書き下ろし『人喰い病』表題作は今年の国内SF短篇ベストワンの有力候補なので必読です。しかし、いくら元の短篇集(『平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,』福武書店)が絶版だといっても、「カミラ蜂との一日」を一人称で書き直した短篇をこれに入れるのはどうか。まあ文庫書き下ろしで「人喰い病」が読めるだけでじゅうぶんお得なんだから文句を言う筋じゃないんだけどさ。巻頭の「雪女」も年刊ベスト級の秀作。ただし、まじめな顔して冗談を飛ばす種類の論文小説なので(当然のことながらディテールはスラデックよりリアル)、楽しむには多少の下地が必要かも。ギャグの資質は小林泰三に似てます。

 ざっとまとめた上遠野インタビューの原稿を送ってから、荷物をまとめて京都へ出発。秋葉原のラオックス《ザ・コンピュータ館》に寄ってLANカード買ったんだけど、2000円台からあるので仰天。こないだまで十倍ぐらいの値段がついてたんじゃ……。

 さいとうよしこと4時過ぎののぞみに乗り、東京駅で三村美衣が合流。塩澤編集長からのリクエストに応えて車内で上遠野インタビューの行数調整とか、本の雑誌別冊《文庫王国》の2000年文庫SFベストテン/文庫ファンタジーベストテンのジャンル間調整とか。三村美衣はファンタジーのタマがないので『光の帝国』が欲しいとか無茶を言う。あれはだれがどう見てもSFでしょう。

 とかやってるうちに新大阪に到着。JRで大阪駅に出て、ハートンホテル西梅田にチェックイン。京都のホテルがぜんぜんとれなかったのであきらめてここにしたんだけど、インターネット予約だとセミダブルで8200円。ほとんどシングルの値段だね。って部屋はシングル同然なんだけどさ。

 荷物を置いて丸ビル地下のたこ焼き屋。お好み焼き屋みたいになってて、自分でたこ焼きを焼いて食うタイプ。思いきり空腹のときに行くのはおすすめしません。いや、うまかったけど、焼けるまでがつらすぎ。

 三村美衣と別れてホテルに戻る。買ったばかりのLANカードの設定に悪戦苦闘。書いてあるとおりにやったはずなのになぜかつながらない。眠いのであきらめて、ミステリチャンネル用の多島斗志之『症例A』を読みつつ寝る。




【11月11日(土)】


 10時起床。梅田まで歩いて阪急で四条河原町。ソウヤー夫妻迎撃昼食会@東華菜館。学生時代、何度も前を通ったことはあるが、中に入るのは初めて。戦前の手動開閉エレベーターを筆頭に、アンティークな内装はガイジン接待向き。土曜日なので鴨川ベリの等間隔カップルも見わたせる。夏場は「床」(鴨川に張り出した桟敷)が出るらしい。しかし赤い髪の人は思いきり似合いません。
 一応、通訳として雇われてたんだけど、通訳してるとメシが食えないので(食えるけど)途中で冬樹蛉にバトンタッチ。しかしこっちのテーブルではさいとうよしこが携帯電話カメラ、冬樹蛉が腕時計カメラで写真を撮り、さらにその携帯でカラオケを鳴らしたりするので、ソウヤー夫妻におかれましては、日本人の国民性について貴重な知見が得られたことと思う。
 ソウヤーは体型としゃべりかたと年齢と毛髪の量とヒゲと国籍がトーレン・スミスと共通なので、まあほとんど同一人物と言っても過言ではない。と、さいとうよしこには見えたらしく、態度がトーレン社長に対するときといっしょになっていた。それにしてもカナダ人は若禿げ体質なのか。歳はオレといっしょなのになあ。詩人のキャロリン夫人はハイクもたしなむらしい。このテーブルの会話でいちばん感心したのは「北アメリカには猿がいない」という話でした。

 食事のあと、四条木屋町の喫茶店で一時間ばかりお茶飲んでから、我孫子さんのクルマで《さわや》。河原町御池の地下駐車場を初めて見ましたが、無駄に広い。こんな広い駐車場があっても路上駐車の習慣は改まらないのだった。

 今回は合宿開始が例年より2時間早い。久々の前合宿なのではやく寝ろという時間割だったらしいが予想通り無駄に終わった模様。しかし事前申込者に部屋割りがあったのは驚愕。関係ないけど、「ソウヤーと《さわや》ぐらい違う」というのを思いつく。しかしあまり違わないかも。SawyerとSawayaだともっと似てます。

 大広間に行ったら、加藤倫太郎実行委員長から、「小浜さんが来てないので来場者紹介をお願いします」ととつぜん振られる。だれが来てるのかよくわからないのでちょっと困る。昔とった杵柄とはいっても、17年振り(推定)だからなあ。
 ちなみに京フェス/SFセミナー合宿における来場者紹介企画は、いまを去る18年前に行われた第一回の京都SFフェスティバルで、参加者全員の自己紹介大会をやったのがたぶん最初。プロ/BNFだけ紹介する方式には個人的に反対だったんだけど、百人越えると全員紹介は物理的に不可能か。

 ベストSFバッテリー賞は小浜徹也/三村美衣が順当に受賞。三村美衣はこの事態を予期してか逃亡中(笑)。しかし京フェス史上もっともファニッシュな企画かも。演出しだいではもうちょっと盛り上げられた気が。

 晩飯は名大組に混じってひさしぶりのビィヤント。10年振りに行くとメニューが増えている。こんなにメニューがあるのはオレのビィヤントじゃない。むかし(20年前)はビーフカレーの辛さが三種類あるだけじゃなかったっけ? 常連になると出してもらえるさらに上の大辛がある――という話を聞いたような記憶があるが、あれはほんとうだったのか。考えてみると、10年前、京大ミステリ研勢が初参加だったとき、我孫子さんといっしょに来たのが最後だったような……。

 さわやに戻り、通訳に呼ばれていたソウヤー企画へ。と思ったら宮城さんが来てくれたのでこれ幸いと途中退散。あとはヤングアダルトの部屋を覗いたり、大広間でうだうだしたり。
 SF系日記更新時刻の細井くんに、「更新時刻を示す文字列が付かないバージョン」をつくってくれと勝手なリクエストをしたらすばやく対応してくれたので感謝。キャッシュをローカルに落として整理してるので、更新ごとに別ファイルになっちゃうとローカル側の管理がめんどくさいという個人的事情から。そういう事情がある人が他にたくさんいるとも思えないんだけど。しかし、さらに贅沢を言うと、「更新時刻を示す文字列が付かないバージョン」のパーソナライズ可能バージョンもつくってもらえるとさらに嬉しかったり。

 夜中過ぎに綾辻名人が登場し、来週に備えて軽く麻雀を――と練習対局(来週は、綾辻さんがホストの《週刊現代》誌上対局に呼ばれているのである)。あと二人はへんなシャツで有名な徳間のO野くんと我孫子さん。O野くんがみごとな接待麻雀を披露。我孫子さんは考えに考えた挙げ句、必ず大森の当たり牌を切ってくれる。こんなところでツキを使ってはもったいないと言いつつ、綾辻名人を抑えてトップ終了。




【11月12日(日)】


 2時間ぐらい寝て8時に起きる。京都教育文化センター一階のティールームで朝食。

 NOVA MONTHLY 時代におなじみだった松井一好氏とひさしぶりに対面。ずいぶんご無沙汰でしたねと言ったら、芝蘭会館は会議室まで車椅子で上がるのが難しいということで遠慮してましたとの答え。そういうことにぜんぜん思いが至らない自分の民度の低さを反省する。そういえば階段でしか上がれなかったような……。次回からは事前にメールをいただければSF研現役の若者に対処させますすみません。

 本会企画に関しては、細井くん作成のリンク集、各種レポートおよびそれに準じる日記参照。
「海外SFレビュアー座談会」は、英語がまったく読めない人を質問者に起用したほうがよかったかも。読めない人の気持ちは読める人にはわからない。一カ国語習得費用が100万円という加藤逸人説はなるほどと思いましたが、しかし社会人の場合は、習得にかかる時間分の逸失利益まで算定しなければならないのでは。

 大森は「SF誌鼎談: SF誌の新世紀」の雇われ司会者を担当。個人的関心としては、むしろハルキ文庫《SF新世紀》vs徳間デュアル文庫を見たかったんだけど。大野くんのキャラはけっこう立ってたと思った。あと注目すべきは塩澤編集長の芸風の変化ですね。どんどん母性本能をくすぐる方向に向かいつつある気が。よほど励まされたいらしいので、SFマガジンの感想とかをどんどん日記に書いてあげると吉。
 まあ昔から、「SFマガジンでなにをいくら書いても、どんな特集を組んでも、反響はまったくない」と言われてきた雑誌なので、それに比べると反響の量はインターネットのおかげで爆発的に増えてる気がしますがどうですか。

 最後のソウヤー企画をしばらく見物してから途中で会場を抜け出し、ハートンホテル京都に荷物を置きに行く。風呂に入って休憩してからタクシーで打ち上げ会場のジュンク堂――じゃなくてジュンク堂地下の《天狗》へ。主に京大SF研現役組と情報交換。第20回の記念すべき大会となる京都SFフェスティバル2001の実行委員長、しおしおこと塩崎万里子嬢の口から、来世紀の京フェスに対する熱い抱負を聞いたりとか。宝ヶ池の国際会議場で1000人集めるのはどうですか。メインゲストはグレッグ・イーガン希望。

 すっかり眠けが醒めたので、SF研の若者たちと向かいのドトールでお茶。SF研の現状を聞くだに、20年前とあんまり変わってない。いや、当時は女性会員なんかほとんどいませんでしたが、いまでは女性会員だけが執筆を担当した『WITCH BOOK』なんてファンジンまで出ちゃうんだもんなあ。第二期京大SF研創立メンバーとしては感無量。

 その勢いで三村美衣とタクシーに乗り、現・京大SF研のボックスと化したT中邸を急襲。事前にArteさんから、「細井さんは便利だけど、酔っ払うと凶悪」と聞いてましたが、いや、ほんとに凶悪だった。京フェス合宿のゴミがT中邸に一時保管されてるんだけど、ゴミ袋見るなり、
「散らかってる!」とひと声叫んで、空き瓶がぎっしり詰まったポリ袋をひっつかみ、押し入れ方向に向かってどんどんぶん投げ始める細井威男。人は見かけによらないものである。蛮行を止められると座敷に座り込んでものすごい勢いでコーヒー豆を挽きはじめ、フィルターがないと怒り出すし。いつのまにか静かになったと思ったら寝てました。

 しかしT中邸は20年前のM前邸とほとんど変わりませんね。その場で撮影した記念写真はこんな感じ
 その後、そこにいた全員で、「人数を決めて、その人数だけが読んでいそうな本を挙げる」ゲーム。「古典は敵だ」を標榜する細井威男の徹底振りに感動する。そうですか、『エンダーのゲーム』も古典ですか。読書会がらみで、SF研的には重大な秘密が次々に暴露される結果だったらしい。「え? おまえなんで読んでないんだよ」の嵐がさわやかでした。いやあ、こういうことやってると思いきり心がなごむなあ。SF研は心のオアシス。いや、オレの時代には女性会員なんかいなかった(居着かなかった)けどさ。




【11月13日(月)】


 10時半ごろさわやかに起床。11時半になっても起きてこないSFバッテリー賞受賞夫婦の部屋に電話してたたき起こし、ホテルに荷物を置いて京都を散策。三村美衣は寝起きが悪かったのか荒れてました。まあ被害に遭うのは夫の人だけだから問題ないけど。

 昼食は、角倉了以の屋敷をがんこ寿司が買いとったという、うれしいんだか悲しいんだかよくわからない懐石料理屋で豆腐料理。SFバッテリー賞受賞記念にメシをおごる。鴨川が見える日本庭園もなかなかいい感じ。ガイジンは鴨が珍しいのか、鴨の写真ばっかり撮ってました。

 食後はぶらぶら歩いて、いのだコーヒーでお茶を飲み、ホテルにもどって荷物をピックアップ。夕方ののぞみで帰京。明日に備えてミステリ・チャンネル用読書。


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