【9月19日(火)】


 徳間デュアル文庫の新刊消化に着手。
 三雲岳斗『海底密室』はほぼ完全にただの本格ミステリ。物理トリック系の国産パズラーとしては、まずまずいい線行ってるんじゃないですか。むしろキャラクター描写のほうが低調で、講談社ノベルスで出すほうがよかった気が。意外なほどヤングアダルトらしさがない。
 アプリカントの一人称ってネタは、もうちょっと伏せたまま(100ページぐらい)引っ張ったほうが面白かったと思う。結局、ほとんど神の視点になってるのも惜しいところ。ヘアピンにCCDカメラ仕込んでるなら、ヒロインの表情は見えないはずでしょう。
 あと、10年ぐらい未来の話としては、アプリカント以外のコンピュータ・テクノロジー描写にもうひとつふたつ工夫がほしい。とはいえ、ミステリ的な部分は解決手段や動機まで含めてけっこうよくできてるので、本格ミステリとしてはこれでOK。手がかりの提示の仕方が露骨すぎてバレバレなのが難点だけど、媒体を考えれば仕方ないか。




【9月20日(水)】


 15:00、吉祥寺デイズで押井守インタビューふたたび。今回は実写の新作、『アヴァロン』のプレスシート用。中心はポーランド話で、主役は戦車とヘリコプター。ミリタリーおたく系の人がインタビュアーだったら、今日も10時間コースだったかも。あとはウィザードリイ、バーチャファイター、ドラクエのゲーム話。押井さんは情報を遮断して孤独にドラクエVIIをプレイしている模様。すでに70時間とか。でもまだビューティフル・ドリーマーなエピソードまでは到達してないらしくて残念。

 17:00に無事インタビューが終了し、速攻で帰宅。家に帰り着いたのは18:07。すでに0-1で負けてました(笑)。頭の15分をどうしのぐかが勝負だったのに。しかし前半0-1の折り返しは、勝たなきゃいけない試合を0-0で折り返すのと同じなので。
 と思ったが、珍しくブラジルの守備がかたい。日本代表も選手の調子がよくない。ブラジルは、このチーム相手に点をとられる気がしないのか、1点とっただけで安心しちゃったみたいだし、漫然とボール蹴り合ってるだけの凡戦でした。目の色が変わってたのは松田だけ。そんなことでスロバキアに申し訳ないと思わないのか。得失点差は関係ないんだから、後半のラスト15分はもっとリスクを冒すべきだったと思う。この試合がルシェンブルゴのクビをつなぐ結果になったんだとしたら、ブラジルの人にも申し訳ないぞ。
 まあしかし結果的には予定通り消化試合だったわけで、中田と森山は休養できたし、次の相手はアメリカだし、日本としてはめでたしめでたし。決定力がない組織サッカー同士の対決なので、じゅうぶん勝機はあるでしょう。
3バックはぼちぼち松田を先発させたほうがいいと思う。ショック療法は効果覿面だったみたいだし。攻撃的に行くなら宮本・森岡・松田?
 イタリアとスペインはどっちが出てきても(たぶんイタリア)準決勝には勝てる気がしないので、希望的予測はナイジェリアに勝って銅メダル。優勝はやっぱりイタリア。ブラジルはロナウジーニョがダメすぎる。アレックスもいまいち。




【9月21日(木)】


 徳間デュアル文庫新刊の日本SF新人賞佳作2本、杉本蓮『KI・DO・U』青木和『イミューン』を読む。
『KI・DO・U』はストレートな女の子向け願望充足ファンタジー。欲望に忠実すぎるヒト型コンピュータの設定はいいんだけど、後半、話をふくらませすぎ。キャラクター小説のまま突っ走ったほうがよかったのでは。
『イミューン』はメインアイデアがちょっと古典的すぎるような。青春小説的な部分はうまいんだけど、この人はむしろ青春ミステリを書いたほうがいいんじゃないでしょうか。キャラクターとプロットが合ってない(物語設定はヤングアダルト系なのに、キャラはミステリ系)。マーケット的には、このタイプの小説はむずかしいと思う。

 ハルキ文庫、「SF新世紀宣言」の新刊、高瀬彼方『カラミティナイト CaramityKnight』はRPG的な設定を逆手にとって、非常にうまく仕上げた小説。反対の方向からアプローチして、結果的に上遠野浩平『ぼくらは虚空に夢を視る』とわりと近い場所にたどりついたような。ウェブサイトがらみのネタは愛・蔵太ファン必読?(笑) いやそれにしても、この智美ってキャラは信じられないほどよく書けてますね。高瀬彼方がどうしてこんな女を書けるのか。高瀬美恵のキャラならまだわかるけど(笑)。

 おなじくハルキ文庫「SF新世紀宣言」の新刊、林譲治『侵略者の平和 第一部 接触』もよくできた設定で面白い。冒頭はちょっと入りにくいけど、ファースト・コンタクトのエンターテインメント的処理方法としては非常にエレガント。デイヴィッド・ブリンとか、ヴァーナー・ヴィンジとかの路線かな。用語の使い方もうまい。本のつくり(タイトルも含めて)が内容にいまいちそぐわないのが惜しまれる。




【9月22日(金)】


 アニメージュの原稿を特急で仕上げてから、江戸川乱歩賞授賞パーティ@帝国ホテル。『脳男』で今回の乱歩賞を受賞した首藤瓜於氏は噂通りの怪人。『ウロボロス』の登場人物だけのことはあるというか。作品にまったく触れない受賞者挨拶は乱歩賞史上前代未聞かも。前回の最終候補に残った作品もめちゃめちゃユニークなので、ぜひはやく単行本化していただきたい。

 柳下毅一郎・貫井徳郎とサッカー話。中村融と河出アンソロジー話。1巻目の原稿は解説もふくめてすべて揃ったらしい。こちらは予定通り11月刊行。第2巻は、同時発売じゃなくて12月刊行に変更。まあ一冊ずつでいいんじゃないでしょうか。

 二次会はレインボーラウンジ。20人以上いたんじゃないでしょうか。ミステリ組は、有栖川夫妻に竹本・井上・綾辻・我孫子・京極・小森etc.、ホラー/SF組は、両田中・倉阪・牧野・図子・森奈津子・夏来健次・南智子etc.という顔ぶれ。
 三次会は有楽町ビッグエコー。キティの部屋にはおよそ似合わない人々が集まり、井上さんちの浸水話など。




【9月23日(土)】


 昼ごろ起きて、しまった野球の予選リーグ韓国戦はもう終わっちゃったかと思ったら9回裏、5−5の同点でサヨナラのチャンス。赤星の本塁憤死で悪い予感が漂い、延長10回表はプロ選手2人のタイムリーエラー2連発で7−5に。まあしかし、プロ野球休んでオールスターチーム組んできた韓国に予選リーグ敗退の引導わたすのも寝覚めが悪いからねえ。もっともキューバと二連戦になるのは避けたいが。

 もう一眠りしてから、サッカー決勝トーナメント一回戦のアメリカ×日本戦。意外性ゼロのスターティング・メンバーで、やっぱりトルシエは冒険しないやつだな。勝ってる状態での交替は完全に裏目。俊輔の左サイドバック的守備は堅実だったのに。かわって左アウトサイドに入った三浦アツのファウルから失点。これですっかり交替に臆病になっちゃったのか、延長に入っても交替なし。アメリカが攻めてきてるときに交替して、攻めてこないときに守るのはタイミングが反対でしょう。アメリカがオルスン替えたときとか、せめてオルブライトひっこめたところで勝負に行くべきだった。
 PKははずすならヒデだと思ってたけど予想通り。アメリカが全員決めたのは予想外。五輪世代は勝負強くなったと思ってたけど、大一番だとやっぱり同じなのだった。

 気をとりなおして、準々決勝残り3試合。イタリアは後半41分にまさかの失点で、あっけなく沈む。
 凄かったのは、ブラジル×カメルーン。1−0でリードのカメルーンがスローインで遅延行為をとられ、2枚めイエローでひとり退場。それでも後半ロスタイム、カメルーンがさらにもうひとり退場になって得たゴール前のFKをロナウジーニョが直接叩き込み、土壇場で同点。15分ハーフの延長と言ったって、カメルーンは9人ですよ。なんとかPK戦に持ち込めたらラッキーだけど、もうダメだよなあ。という空気が濃厚に漂ってるのに決められないブラジル。
 人数が少ないので、とにかくディフェンスは足を引きずるようにしてたらたらラインを上げてるだけなのに、ブラジルはオフサイドとられまくり。たしかにオフサイドの判定はめちゃくちゃだった(アメリカ×日本戦もそうだったから、これがふつうなのか?)。なんでもかんでも旗が上がってたし、延長前半のブラジル幻のゴールはどう見てもオフサイドじゃなかったと思う。
 しかしそれでも、怒濤の攻めがあったのは延長前半の最初だけ。このままPKになってもいいわけですか、ブラジルは? と思ってたら、カウンターから3人で攻めてきたカメルーンを止められず、ファビオ・アウレリオはすっ転び、ここしかないってところにムバミのシュートが決まってゴールデンゴール負け。
 ルシェンブルゴのクビは確定でしょう。アレックス人気も一気に醒めるのでは。だいたいロナウドとかロベカルとかリバウドとかとくらべると、ロナウジーニョやアレックスは顔が貧相すぎ。ワールドクラスのスターにはなれそうもないね。
 チリ×ナイジェリアは4−1でチリが圧勝し(後半はほとんど消化試合)、結局、準々決勝はことごとく予想が外れてしまいました。
 準決勝はスペイン×アメリカ、カメルーン×チリ。現時点での大森予想はスペイン×チリの決勝で、優勝はスペインなんだけど、準々決勝のはずれ具合からすると、アメリカ×カメルーンの決勝でアメリカが優勝するのか? まさかそんな。




【9月24日(日)】


 本を読みつつ女子マラソンの出走を待つ。高橋尚子の最初のスパートにどんぴしゃりのタイミングでCMを入れたディレクターは間抜けすぎ。しかし最大の見せ場はサングラス投げ捨ててスパートしたところでしたね。シモンはめちゃめちゃ悔しそう。ぜったい勝てるつもりだったんだろうなあ。最初の5キロ〜10キロのラップが遅すぎたのは残念。
 しかし寝ないで待った甲斐のあったレースでした。

 荻野目悠樹『双星記 千年に一度の夏』(角川スニーカー文庫)は、ミリタリー系宇宙SFの新シリーズ。タイトルに、ハインライン(ダブル・スター)、ブラッドベリ(七年に一度の夏)、アシモフ(夜来る)と三つも入ってるあたり、「そんなにSFが書きたかったの?」って感じでほほえましいかぎり。
 千年に一度、太陽に大接近する惑星があって、そのたびに気象変動で文明が崩壊しちゃうんだけど、新たな大接近を前に、生き残りをかけて近隣惑星への脱出を計画したところ、それが拒否されたので極秘裏に侵略作戦を立案、いよいよ戦争がはじまる――というのが基本設定。
 侵略側と防衛側、双方の視点を交互に行き来するところや、天才的戦略家が立案する「起死回生の一手」に山場を持ってくるところは、まさしく『銀英伝』路線。もっともキャラが思いきりC調なので、印象はかなり違います。侵略側の視点人物は「でたらめ司令官にふりまわされる情けない真面目男」、防衛側の主役は「ハンサムなことだけが取り柄のダメお父さん」……という具合に、キャラは『銀英伝』とかぶらない配置。いかにも伏線くさい部分の処理(ペンキ屋とか〈石〉とか)があんまりうまくいってないけど、とりあえず続きを読みたい気にさせるシリーズではある。
 しかし、このシリーズをデュアル文庫の『野望円舞曲』と同時にスタートさせるのはどうか。

 こないだ書いた久美沙織さんの『MOTHER』ですが、新潮文庫版は品切だよな、と思ってたら、9月1日にオープンした電子文庫パブリで購入できることが判明。9月の「新刊」(笑)らしい。T-Time2.2対応で、600円。登録したついでに早速買ってみましたが、なかなかいい感じ。あといっしょに買ったのは、星新一『生命のふしぎ』。紙では持ってない科学啓蒙エッセイなのでかなりお得。元々は、1959年に、〈少国民の科学〉っていうシリーズの第8巻として出た本ですね。挿画と図版が入ってないのは残念だけど、古本市場ではかなりの高値を呼ぶはずの本が350円で読めるんだから贅沢は言えない。
「書店では入手困難な作品の中から、名作・話題作を選りすぐってお届けする『新潮オンラインブックス』」というシリーズで、だれが選んでるのか知らないがセレクションがめちゃめちゃ渋い。福永武彦『加田伶太郎全集』は、まあ最近の探偵小説ブームからすると予想されるストライクゾーンだけど、源氏鶏太『天上大風』とか、武田泰淳『快楽』とか、島尾敏雄『魚雷艇学生』とか、あっと驚くタイトルが入ってます。新潮文庫の絶版100冊CD-ROMのセレクションもかなり壮絶だったから、そのラインなのか? しかしいまどき、中山義秀の『碑・テニヤンの末日』なんていったい誰が買うんでしょう。凄すぎる。新潮オンラインブックスおそるべし。新潮オンデマンドブックスに行けば、オンデマンド印刷バージョンも買える模様。高いけど。

 パブリは角川書店、講談社、光文社、集英社、新潮社、中央公論新社、徳間書店、文藝春秋の8社が協同で開設した電子本販売サイト。各社それぞれ独自に電子化を進めていた関係で、店は一カ所でも商品の形式はさまざま。光文社と徳間書店はテキスト形式、角川書店・講談社・集英社・新潮社はドットブック形式(ボイジャーが開発したブラウザ、T-Time2.2を使用)、中央公論新社はpdf形式、文春はcxt形式(独自ブラウザのBBB1.0読書ビューアーを使用)。

 とりあえず『MOTHER』と『生命のふしぎ』買ったら、新潮社ネットワーク室のM氏から速攻でメールが(笑)。地道に営業努力している模様。



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