【9月6日(水)】


 夕方、徳間書店に寄って、《SF Japan》とか《アニメージュ》とかの編集部をぶらぶら。SFJ次号の台割を見て、「若木未生『オーラバスター・インテグラル』」の文字に仰天。ハイスクール・オーラバスターの主人公が大学生になって……というスピンオフ・シリーズらしい。しかもイラストは末弥純。ハイスクール・オーラバスターのイラストがいきなり高河ゆんになったときも驚いたけど、す、末弥純ですか。担当編集者のおそるべき剛腕である。
 徳間デュアル文庫は売れ行き好調の模様。今月は鶴田謙二カバーの『エマノン』と日本SF新人賞佳作二本と、大本海図カバーの三雲岳斗『海底密室』。やっぱビジュアル的にこのぐらい仕掛けなきゃダメでしょう。
 ハルキ文庫も、今月の《SF新世紀宣言》フェアから、カバーまわりを伸童舎にまるごと外注して(推定)、ヤングアダルトっぽいつくりにシフトしてますが、まだもう一歩あざとさに欠ける気が。

 田中啓文がとなりの喫茶店でSFJ/デュアル文庫のO野氏とお茶飲んでるところに合流し、例によってくだらない話をだらだら。

 18:00、徳間ホールで庵野秀明監督「式日」の試写。庵野さんが郷里の宇部で撮ってた実写物。東京で煮詰まったアニメ映画監督(岩井俊二)が宇部でぶらぶらしてると、廃業したデパート(?)に住む謎めいた女の子(藤谷文子)に出会うという私小説的な設定。岩井俊二の芝居があまりにも庵野秀明なので笑ってしまう。しかし相手役が藤谷文子なのはどうか――と思ったけど(G3を見た人はだれでも思うでしょう)、これがめちゃめちゃハマってます。後半は完璧に実写版エヴァンゲリオン。夏エヴァのラストをやりなおしてみました、みたいな。パイプ椅子まで出してくるのはギャグなのか余裕なのか天然なのか。
 基本的にはアスカの話で、シンジの問題はなにひとつ解決しないが(アスカの問題に関しては、現実レベルではまあそういうものなのかもしれない)、その逃げ方まで含めて庵野秀明的なのが周到というかなんというか。
 ちょっと恥ずかしくて見てられないシーン(岩井俊二の演技じゃなくてセリフとか、松尾スズキが担当するモノローグ系のナレーションとか)も多々あるし、くりかえしが若干くどいところもあるけど、絵的に面白いので退屈はしない。さすがに地元だけあってロケハンは完璧ですね。あと、特撮映画的な方法論(?)による美術。藤谷文子が住んでるビルのインテリアはすばらしい。原型は「ディーバ」?
「白い恐怖」の幻想シーンとか、岡本喜八「殺人狂時代」の特殊効果みたいな心象風景描写が、いまの映画としてはすごく新鮮。
 最初のうちは、主演が岩井俊二だし、なんか「PiCNiC」みたいだなあと思ってたんですが、最後はむしろ青山真治だったり。ただし、エヴァにも庵野秀明にも全然興味がない人が見ておもしろいかどうかはよくわからない。藤谷文子のメイクと衣裳は必見。

 終了後、マガジンマガジンの佐川さんと蕎麦を食べ、『独立少年合唱団』『独立少年合唱団』がいかにすばらしいかを力説される。仙頭武則プロデュースのJ Movie Wars 第五弾。「美しく青きドナウ」の「がんばっていきまっしょい」版? よくわからないがネタ的にはかなりストライクかも。JUNE系の人はチェックでしょう。

 本の雑誌の締切が来てしまったのに、ドラクエのおかげで全然本が読めてない。ハルキ・ホラー文庫全冊読破はすでにあきらめの境地。
 ハルキ文庫のSFフェア新刊は、とりあえず妹尾ゆふ子『ナーガ 蛇神の巫』だけ読む。『水霊』『カムナビ』『ナーガ』で、世紀末三大蛇神SF。あ、坂東眞砂子『蛇鏡』ってのもあったっけ。どうしてみんなそんなに蛇が好きですか。
 しかし『ナーガ』はキャラがいまどき高校生なので、おやじ系伝奇物とは全然印象が違います。しかも受験生だし。携帯メール関連の記述(ショート・メールは一般名詞じゃありません)はちょっと怪しいけど、使い方はマル。あとカットバック式の語りは非常にうまくいってて、冒頭のサプライズは完璧。使い古された伝奇ネタも書き方しだいで再生するという見本ですね。その意味では、森岡浩之『月と炎の戦記』にちょっと近い。

 それにしても、こういうのといっしょに岩本隆雄『鵺姫真話』(ソノラマ文庫)とか読むと、キャラ設定の古さに茫然としますね。まああれはあれで、そういう線の話だからいいんだけどさ。




【9月7日(木)〜9日(土)】


 原稿、読書、ドラクエ。
 雨宮町子『たたり』は、たしかに日本版『シャイニング』なんだけど、主人公はSF作家。しかも小説がどんどん観念的かつ難解になって読者が離れてるらしい(笑)。前半はわりといいんだけど、後半がちょっと。こういう小説で視点人物を増やすのは両刃の剣でしょう。
 中村融編訳『影が行く』(創元SF文庫)もやっと読了。表題作は昔読んだときとずいぶん印象が違って驚く。こんなに明晰な話だったっけ? クラーク・アシュトン・スミス以外は、古い小説でもあまり古さを感じさせない。やっぱり新訳の効用ですか。ベストワンはやっぱりベスターの「ごきげん目盛り」かな。名作の誉れ高いオールディス「唾の木」もついに本邦初訳。ラファティの「絶倫世界」と合わせて読みたい(笑)。




【9月10日(日)】


 ドラクエをはさみつつ、本の雑誌、スターログ、毎日中学生新聞の原稿。
 聖風の谷にいるヘルクラウダーがまたやたらに強い。中ボスがレベル確認の役割を果たすのがFFとの大きな違いかも。しかし一回ぜんめつすると、ヘルクラウダーがいる場所まで戻るのがたいへんなのだ。メンバー交替のあとなのであんまり育てる気がしないしなあ。あの人のかわりにあの人っていうのは、ドラクエ思想的に許せない気が。こういうふうに気軽にとりかえが効いてしまうんじゃ、FFとかわらんではないか。堀井雄二の女性観にはさすがにつきあいきれなくなりつつあるのかも。

 深夜、WEB本の雑誌がオープン。
 大森は読書相談室の読書相談員を担当してます。相談は投稿フォームになってるけど、相談員からの回答があると、自動的に表の「回答一覧」にまわる仕組み。相談員用にはパスワードロックがかかった(表からは見えない)専用掲示板があって、質問は一時的にそちらに掲示され、相談員が随時アクセスして適当に回答すると、質問者に回答がメールされると同時に、質問・回答がワンセットで「回答一覧」に移行するらしい。ニセ相談員出現防止策? ただの掲示板みたいなものを想像してたのでちょっとびっくり。

 サイトオープン記念の椎名誠・目黒考二対談「こんなSFを読んできた」は、Zero-CONでやった企画「SFは楽しい!」の部分的再録。SFおたく的に笑えるディテールが落ちてたり、タイトルが補足されてなかったりしますが(郵便局員の話はクライブ・バーカー『不滅の愛』、かんべむさしのは「道程」)、この再録に関してはオレはノータッチなので。

 WEB本の雑誌でいちばん感心した企画は、今月の新刊採点。「今月の課題図書」10冊を新刊採点員7人に送りつけ、クロスレビューさせるという趣向。A〜Eの五段階評価+書評。『骨の袋』に敢然とEつけてる人もいて、なかなか面白い。タテ(採点員別)からでもヨコ(作品別)からでも評価とコメントをチェックできて、クロスレビューとしての仕上がりもいい。
 というか、SFの新刊でクロスレビューやろうかなあとぼんやり思ってたのが先を越されてしまった感じ。SFオンラインかbk1でどうですか。




【9月11日(月)】


 ヘルクラウダーがどうしても倒せないのでまたしてもレベル上げ。バトルマスターを育て、ヒットポイント重視のパーティ編成に変更して、ようやく聖風の谷を抜ける。中ボス戦だけで30分以上かかった気がする。

《本の雑誌》が終わったので、国産ミステリに着手。小森健太朗『駒場の七つの迷宮』(カッパノベルス)は、家庭の事情で宗教サークルやってる東大生が主人公。抜群の勧誘成功率を誇り、宗教団体をはしごして新入生をスカウトしている「勧誘の女王」の話が抜群に面白い。しかしあのラストはいくらなんでも……。法月綸太郎の推薦文である程度は覚悟してましたが、うーん。
 ところで、法月さんが言及しているあのトリックなんですが、あの時代ではたして成立するんでしょうか。作品内世界としてはフェアだけど。

 福井晴敏『川の深さは』(講談社)は、『Twelve Y.O.』の前年の乱歩賞最終候補作。面白く読めるんだけど、後半は劇画調。地の文の説教がかなりうるさい。主人公のおっさんをもっととんでもないやつにしてコメディっぽくまとめたほうが、ラストはうまく流れたんじゃないかなあ。途中から急にリアリティがなくなるのがどうも。ハリウッド映画か国産劇場アニメの原作としてはOK。キャラも立ってるし。小説としては地の文で説明しすぎ。あと、スパコンがネットワークのサーバになってて、そのマシンで怪しいフロッピーを解析するというのは……。まあ、もっととんでもないことがどんどん起きるんで、そういうことを気にしてもしょうがないが、作品内リアリティのレベルについてやや計算違いがあると思います。荒唐無稽なクライマックスを納得させる書き方になってないのが惜しい。まあしかし、三作目で『亡国のイージス』書いたんだから立派。



【おしらせ】

 茅原さんの全面的な協力を得て、一年ぶりに超軽量万能linksを更新しました。リンク切れのメンテナンスはすでにすませてたんですが、新着リンクを大幅に追加してます。現在約500リンク。メインのリンクページとか、ジャンル別のコメント入りリンクページは(リンク切れメンテ以外の)更新が滞っています。新着に関してはそのうち整理する予定。


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