【8月20日(日)】


 《青春と読書》の原稿。恩田陸『光の帝国』と山田正紀『超・博物誌』が集英社文庫に入るので、その二冊を紹介しつつ、極端に短い日本SFの歴史を語るという仕事。枚数は5枚。媒体が媒体だしなあとエッセイ風に書きはじめたらあっというまに10枚(笑)。無駄口を削ったら、またしても異様に情報量の多い内容になってしまったがオレにこんな注文を出すほうが悪いと結論する。

 "The World Well Lost"の手直しは遅々として進まない。こんな状況ではドラクエなんかやってちゃダメだよなあと思いつつ、予約してないのもなんだか不安になってきて、今から予約できる店を探してネットを放浪。おとといまでなら予約できたんだけどねえ、ちょっと遅かったねえ。とか言われてるような。最終的にメッセサンオーで予約。ちゃんと発売日に届くのか。




【8月21日(月)】


 終日スタージョンと格闘。



【8月22日(火)】


 17:30に西葛西を出て、西船橋で総武線に乗り換え、幕張本郷からタクシーで千葉マリンスタジアム。今日は千葉ロッテ・マリーンズ対ダイエー・ホークスの天下分け目の首位決戦――ではなく、宇多田ヒカルのコンサートなのである。
 ヒッキー聴きにいってるヒマはないんですが、堺三保から回ってきたチケットで行くはずだったさいとうよしこが水野純子嬢とのカラオケを優先したので(笑)、代打の代打。せっかく宇多田ヒカルなのにとなりが堺三保ですか。ていうか、堺はほかに誘う相手がいないのか。

 西葛西からなら千葉マリンも近いと思ってたけど、やっぱり一時間近くかかるのだった。開演時間ぴったりに到着。めちゃくちゃ暑い。

 ところで前から思ってたけど、宇多田ヒカルって松本明子に似てませんか。松本明子にちょっと中山美穂が入った感じ。ナマで見るとよくわかります。というのはウソで、肉眼だと、どっちの手にマイク持ってるかはかろうじてわかるというサイズ。会場で売ってた一万円の双眼鏡(8倍〜25倍)を買って、なんとかようやくコンサートに来た気分。
 野外のわりに音はまあまあ。いちばん笑ったのは、「Take on Me」のイントロが流れたときかな。そ、そうくるか。
 懐メロコーナーは、尾崎豊「I Love You」と山口百恵「プレイバック PartII」。「I LLove You」は、曲名が告げられたときはちょっとかんべんしてほしいと思ったけど、ヒッキーの声で聴くとなかなか。たぶんわりとテンポが上げてあって、そうかこうやって歌えばいいんだな(歌えません)。「プレイバック」のほうは、そのままカバーして次のアルバムに入れてもいいくらい違和感がない。ぴったり。むしろ「年ごろ」とか「十七歳」とか歌ってほしいんだけど無理か。
 終演後は、千葉マリンスタジアム恒例の花火。ふだんより多めに上がってます。まあ、プロ野球じゃぜったいこんなに客入らないもんなあ。とくに今年は。

 満員のバスで幕張本郷にもどり、帰って仕事。スタージョンの修正がやっと終わり、メール送稿。河出アンソロジー一巻と二巻の原稿で、これがいちばん最後だったらしい。ビリを争っていた中村融はきのう原稿をわたしたんだそうで、まさか中村融に速度で負けるとはなあ。




【8月23日(水)】


 14:15、徳間ホールで「BLOOD The Last Vampire」の試写。アイジー・プラスの北久保弘之監督作品。バフィー・ザ・バンパイア・スレイヤー日本へ行く。みたいな話ですが、やっぱりこれは日本刀ひっさげたセーラー服少女の勝ち。めちゃめちゃかっこいい。最大の欠点は46分しかないことですが、一時間枠でワンクール11本というのはどうか。『TRICK』のあと番組とか。海外TV局にも売って、あとはDVD出せばなんとか予算が組めませんか。サラ・ミシェル・ゲラーにはぜったい勝てると思うけどなあ。

 終わったあと、添野知生&小林治のSFオンライン組と、徳間書店のとなりの喫茶店でお茶。W辺T子嬢@アニメージュ編集部を呼び出して、最近のアニメ話。

 東銀座に移動して、柳下毅一郎およびソフトマジックのK川氏と、海のものとも山のものともつかない企画の打ち合わせ。そりゃもうこうするしかないでしょうとか言った通りに実現すれば大騒ぎだが、まあ無理だよねえ。

 内緒の映画の試写(試写室には四人だけ)を見て西葛西に戻り、嵐のように原稿を書く。遅れに遅れているbk1のコラム原稿をすばやくでっちあげるべく、野尻抱介氏に電話インタビュー。




【8月24日(木)】


 ほぼ日刊イトイ新聞で、「MOTHER3」開発中止が発表になった。長い長い座談会は、おなじ話が何度も何度も堂々巡りしているんだけど、6年かけたプロジェクトの中止を説明するにはやっぱりこれだけの堂々巡りが必要なのかもしれない。

 ぼくにとって「MOTHER」シリーズは、たぶんドラクエの次ぐらいに愛着があるゲームだと思う。
 最初の「MOTHER」の製作が進んでいたころ、ぼくは新潮文庫で糸井さんの担当編集者だった。糸井さんが新潮文庫の広告のコピーライターをやってた時期で、SFフェアなんかのコピーも糸井さんが書いていた。たしか「想像力と数百円」がキャッチフレーズだった時代。
『家族解散』の文庫化の打ち合わせとかで何度か糸井重里事務所に出入りしていたとき、糸井さんから、今度APEって会社をつくって任天堂から現代物のRPGを出すんだけど、そのノベライズを新潮文庫から出せないか――という話があった。1989年のはじめぐらいだと思う。糸井さん自身は小説を書いている余裕がないが、百枚程度のシナリオがすでにある。これをわたすので、あとはおまかせで、だれかしっかりした小説が書ける人にノベライズしてほしい。内容に関しては口を出さないし、自由にやってもらってもかまわない――というような話だった。
 高屋敷英夫の『小説ドラゴンクエスト1』が出るのがこの年の4月で、まだ国産ゲームのノベライズが珍しかった時代。もちろん新潮社ではゲームの本なんか一冊も出てなかった。どうせやるならありきたりのノベライズにはしたくない。書いてもらうとしたら、ゲーム好きで、筆がはやく、実力が安定していて、面白い小説を書ける人。ファミコンは男の子のものというイメージが強いけれど、『MOTHER』に関してはちょっとテイストが違ってるみたいだし、むしろ女性作家のほうが面白いんじゃないか。
 ということで依頼したのが久美沙織さん。HDDを発掘したら、そのとき書いた企画書が出てきたので、参考のために(ってなんの?)html化してみました。編集会議に出す以前に当然口頭で根回しはすんでるので、そんなに気合いは入ってませんね。
 企画が通って執筆をはじめてもらったときは、まだゲームができてなくて、糸井さんからもらったシナリオと、糸井さんとの打ち合わせが頼り。ゴールデンウィーク直前に完成したソフトのROMを焼いてもらって家に飛んで帰り、仕事だからしょうがないよねといいつつひたすらプレイしつづけたのはついこのあいだみたいですか、そうかもう11年も前ですか。

 これがきっかけで久美さんはエニックスで『小説ドラゴン・クエスト 精霊ルビス伝説』を書き(これは傑作。いまはエニックス文庫で読めるはず)、ドラクエ本体のノベライズにも進出することになったわけですね。

 ちなみに、うちの同居人のさいとうよしこは、この直後、『ドラクエIV』公式ガイドブックのライティング仕事を受注。もちろん速攻でコントローラを奪いとり、発売3週間前にクリアしてました。我が家ではこれがいちばん部数の大きな仕事――だったんだけど、その記録はたぶん、『着メロガイドブック』(双葉社)に破られたはず。

 話がそれた。さらにHDDを検索していて発見したのだが、「FF2」が出たのがこの年の3月だったんですね。この時期に書いていた日記――じゃなくて、《小説奇想天外》に連載していた書評コラム「海外SF問題相談室」だったりするところが、いまにして思えばわれながら恐ろしい。いまもいっしょか――の一節を引用すれば、

ところで、月間七百枚翻訳し、七十枚原稿を書き、十二本映画を見、十七冊本を読み、ファンジンを編集し、なおかつソフトボール大会に出場するという地獄の三月をくぐり抜けた大森だが、四月一日になって、これで安心とファイナル・ファンタジーUの封印を解いてしまったのがまちがいだった。FFUのように果てしなくくらい、自虐的なゲームだとつい時間の感覚がなくなってしまうのである(もっともFFUをはじめた久美沙織氏、ミンウと別れた直後にリセットボタンを押し、一週間かけて名残りを惜しんでからついにふたたびミンウと別れ、そのつぎ仲間になったヨゼフが大岩の下敷きになって死んだ瞬間、泣きながらファミコンの電源を落として、以来一度も手をふれていないというから、それにくらべればどうってことはない)。おかげで四月の翻訳生産量は十分の一以下に激減、しかもFF2を解き終わらぬうちに、糸井重里先生作の「MOTHER」のサンプルROMが某ルートから舞いこみ、それを狙いすましたように水鏡子先生、細美遥子先生をはじめとする関西勢がSFセミナーにあわせて大挙上京、わが家を根城に定めたものだからたまらない。せっかく山田順子先生からお送りいただいた本も、風間賢二先生からことづかった本も読めなかった。ごめんなさい。だいたい麻雀もしないでMOTHERにかかりきりになっていた(のは水鏡子先生とうちの後輩だが)のに、最後でひっかかって五〇時間もかかっちゃったんだよなあ。

 ということになる。若気の至りとはいえ、この生活は気が狂ってますね。とてもサラリーマンのやることとは思えない。会社行きながら月刊のコピー誌つくって、なおかつ原稿仕事はいまより多かった気が。ま、インターネットがなかった分、昔のほうが生産性は高かったよね。って違う。

「MOTHER」と言えばいちばん印象が強いのはマジカント国。あと最後の「うたう」コマンドですね。あれに気づかなくて一時間ぐらい戦ってたような。「とびきりのフライパン」も好きだったな。最上級に「とびきり」を持ってくるセンスがMOTHERだと思う。
「MOTHER2」はやっぱり「どせいさん」でしょう。
 ってなんの話だかよくわかんなくなってきたが、「MOTHER3」開発中止はそれなりにショッキングだったらしい。

 某筋から借りた、「押井守、光瀬龍を語る」の録音テープを聴く。前半の、光瀬さんとの思い出話が抜群にいい。高校闘争の是非をめぐって対立した話とか、みかんの話とか。ヒマがあったら自分で原稿に起こしたいぐらいだなあ。SFマガジンの光瀬龍追悼特集に入ってれば完璧だった内容ですが、あとはハルキ文庫の解説に使うとか。
 相手役の池田憲章さんはちょっとしゃべりすぎ。押井さんの話を一応受けてるんだけど、独自回路を経由したアウトプットは全然べつの話になってたり。というか、この企画は押井さんひとりでよかった気がしました。

 さいとうよしこが考えたタイムトラベルSFの設定。いま生きてる人間のうち、たとえば40歳の人間だけ全員が(一万人でも百万人でもいいけど)意識だけ過去に遡り、12歳の自分にもどる。頭の中はおやじだけど肉体は12歳――という人たちが、1972年の世界に大量発生するわけですね。《銀河博物誌》のタイムトラベル版みたいな感じ。ヴォネガットの『タイムクエイク』だと自由意志がないけど、この場合は好き勝手に行動できるものとする。さてそうなったら、学校はどうなるか。頭の中が40歳の子供たちはいったいなにをはじめるのか。
 意識のタイムトラベルはだいたい個人の問題を描くための方便として使われてるので、それが大量発生するという設定はわりと面白い気が。逆パターン(未来へ飛ぶ)だと、『ビッグ』のトム・ハンクスが大量発生するような絵が浮かんできて、あまり読みたくないかも。




【8月25日(金)】


 ちょっと時間が空いたので、ひさしぶりにメディア・セミナーに出かける。今日の会場はお茶の水の中央大学駿河台記念館、講師は香山リカさんで、お題は「『テレビゲームの影響』について考える」。『テレビゲームと癒し』以来のテーマなんですが、最近の事件や精神科方面の話題も交えつつの2時間。会議室は50人ぐらいの客でぎっしり。ゲーム業界方面のお客さんもいた模様。
「押井守、光瀬龍を語る」では、押井さんが、「現実と向き合うのがつらい子供に逃避をの手段を与えるのは重要な使命。かつてはその役目をSF小説が果たしていたが、いまはゲームやアニメかもしれない。少なくとも僕はつねにそれを考えながらアニメをつくっている」
 という趣旨のことを言ってたんですが、インタラクティヴィティの高いTVゲームはその意味で重要かも。自分が社会にとって無用の存在かも、と思っている人にとって、ファンタジーRPGの「よくぞいらっしゃいました。あなたをお待ちしていたのです」的な世界観は救済になる――という香山さんの話はなるほどと納得。ウルティマ・オンラインみたいなマルチプレーヤーネットワークがいまいち爆発しないのは、その種の「オレが主人公」的万能感を与えてくれないせい? ワンノブゼムの役割演技をしたい人はウェブ掲示板とかに行くからか。
 妄想を扱う電波系小説に関しては、『偏執の芳香』/『共生虫』/『コンセント』的な方向の体系化が妙に流行しているわけですが、けっきょくケミカル・バランスの問題なんだから、別世界をクスリでつくりだせば……ってそれは『MOUSE』/『ヴァート』ラインか。

 講演終了後、そのへんの和食屋で香山さんと食事してから西葛西にもどり、ひたすら仕事。問題は明日ドラクエが出ちゃうことだよなあ。香山さんは「わたしももう40歳だし。ぜんぜん大人になった気がしないのに」とか嘆いてましたが、オレはまだ今年いっぱい30代なので問題なし。だいたいドラクエは年寄りのゲームだ。

 Virtual Avenueはサーバの入れ替え作業とかで休止中。メールでは、 The newly designed site will launch on Thursday, August 24. During a two-day transition period beginning on Wednesday, August 23, you may experience a short period of server downtime and you will not be able to change your password or account options during this time. However, with the exception of a 2 hour period on Wednesday, you will have FTP access, and all of your site features, including CGI, will continue to function normally.  ってことだったんですが、掲示板はまだ落ちたまま。移転しなきゃだめかなあ。 リトル東京も9月に移転予定なんですが、urlは変わらない模様。

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