【8月14日(月)】


 河出アンソロジーの2本め、ディックのFather-thingの手直し。前にハヤカワ文庫SF版のベスト・オブ・PKDで訳したときは、既訳に敬意を表して、「父さんに似たもの」という訳題を採用したんですが、改題を検討中。リストをつくる人には迷惑?
 10年前の訳文を見ると、文字遣いがいまとかなり違う。このころはいちばん漢字を減らしていた時期で、最近の大森はエンターテインメント翻訳で主流の文字遣いよりやや漢字が多くなってます。




【8月15日(火)】


 13:00、京王プラザホテルで、筒井康隆×京極夏彦対談(9月発売の徳間書店《SF Japan》2号用)。司会というか、立ち会い役に呼ばれてたんですが、定刻ぴったりに到着してみると(ほんとはもっとはやく着く予定だったんだけど時間を読み違えた)、すでに対談がはじまり、テープが回っている(笑)
 主役ふたりは30分以上前から(徳間の編集者陣よりもはやく)到着していたらしい。オレひとりだけ大遅刻したみたいなこの状況はなに(涙)。筒井さんは原稿もはやいけど待ち合わせにもはやいのだった。
 対談のほうは終始なごやかなムードで進み、編集担当のO野氏が要所要所に質問をはさんでくれるので、予想通りたいして仕事はない。まあ「遅刻」したんじゃ司会もできませんが。筒井さんは帰り際に、「大森が遅刻したところもちゃんと原稿に起こすように」とかおっしゃってたそうですが、大森が着いた時間が定刻なんですってば(涙)。
 対談の模様は9月発売の《SF Japan》2号にほぼまるまる再録される予定なのでそちらを参照。

 対談終了後、近くのドトールで仕事。河出アンソロジーの3本めはスタージョンのWorld Well Lost。これが最大の難関。基本は星新一の「親善大使」とか、シェクリーのAAA物の一篇でもおかしくないような古典的アイデア・ストーリーなんだけど、それがどうしてこうなりますか。その意味ではまさしくスタージョン以外だれにも書けない小説。
 宮田昇の『翻訳家風雲録』(本の雑誌社)にも登場した高橋豊の既訳がSFマガジンにあるんですが(1976年6月号)、高校時代に読んだときはさっぱりぴんとこなかった。高橋豊もぜんぜんぴんと来ないまま訳してたんだと思う(部分的にかなり豪傑訳ですが)。スタージョンの短編集、E PLURIBUS UNICORN に入ってる作品なのに、これ一本だけ、異色作家短編集の『一角獣・多角獣』には収録されていないので、たぶん小笠原豊樹にもぴんとこなかったんじゃないか。
 タイトルの元ネタは、たぶんドライデンの『すべては恋のために』(All For Love; or The World Well Lost, 1677)。これは「アントニーとクレオパトラ」のリメイクで、話の中身もちょっとだけ関係あるようなないような。国会図書館のWeb-OPACで検索すると、『恋ぞすべて 世界を失いて悔いなし』(竹之内明子訳/日本教育研究センター)って翻訳があることが判明。しかしこれが定訳とは思えないなあ。「世界を失いて悔いなし」は訳しすぎでしょう。とりあえずProject Gutenberg で検索して全文をダウンロード。これは万が一、引用が混じっていたとき対策。たぶんほとんど意味はなくてただの精神安定剤ですね。
 しかしこの人物設定はむしろ『二十日鼠と人間』に近い気が。と思って新潮文庫版を買いにいったら、なんとびっくり、今は大浦暁生訳に変わってて、タイトルも『ハツカネズミと人間』なんですねえ。激しく調子が狂いました(読み返したら結局あんまり関係なさそうだった)。
 あとはオマール・ハイヤーム(まだ調べてないけどどうせ『ルバイヤート』だろう)の翻訳とか、サミュエル・ファーガスンの翻訳とかもチェックしなきゃいけなくてたいへん。タイトルだけですが「邪龍ウロボロス」も登場します(高橋豊訳では、「ウーロボラス虫」となってて笑えます。まるで寄生虫みたい)。
 これでインターネットがなかったらどうなることか。ネットのありがたみが真に身にしみるのはやっぱりこういうときかな。

 6時、神保町の蕎麦屋で、倉阪・C嬢組に合流。倉阪さんに大森望賞を渡そうと思ってすっかり忘れていたことである。なんの集まりかというと、「輝け! 神保町ムード歌謡祭」。おいしい蕎麦をいただいてから神保町パセラに赴き、ムード歌謡縛り。
「恍惚のブルース」「夜の銀狐」「京都の夜」「鶯谷ミュージックホール」……と倉阪鬼一郎節が爆発。オレはムード歌謡レパートリーが少ないので、「南国土佐をあとにして」(←高知では基本の歌)とかご当地物でお茶を濁したり。
 そうこうするうちに岩井志麻子女王様が登場。開口一番、
「大森さん、《噂の真相》のホームページ見てますか」
「いや、しばらく見てませんけど」
「あそこに『今月使わなかった最新一行情報』っていうコーナーがあるでしょう」
「はいはい。また載ったんですか」
「そうなんじゃ。それも言うに事欠いて、『作家の岩井志麻子が「世界中の男と寝たけれど一番いいのは韓国」と吹聴説』じゃと。そりゃあたしは、××の男とも、××の男とも、×××の男とも××たけど、×と×とはやっとらん。世界中の男いうのはいくらなんでもひどいと思いませんか」
「…………」

 ところで、その後ウラをとるために上記サイトに赴いたところ、いろいろ興味深い情報を発見。『ジュブナイル小説の高瀬美絵の弱い者イジメ体質を告発する怪文書流出』とか、いきなり名前をまちがえられているのが悲しいけどこれは別人ですか?
『関口苑生出版記念パーティで花村萬月が「関口は私と同じホモ趣味」発言』については、オレもその場にいたはずなのに全然知らなくて情けない。ホモ趣味だから女主人公の小説が嫌いなのか? 本誌に載る一行情報の信頼性が5パーセントぐらいだとすると、こっちは3パーセントぐらい? 2ちゃんねるオヤジ版みたいな。

 そんなこんなでムード歌謡の夜は更けてゆくのだが、大森は修羅場中なので、女王様と入れ替わりでとっと帰宅。仕事、仕事、仕事。




【8月16日(水)】


 18:00、竹橋でミステリチャンネル「ベスト・ブックス」の収録。日本編のメインは西澤保彦『依存』。読んだのは二カ月も前なのでもうすっかり細かいところを忘れているのだった。なんか海外編のほうが盛り上がってる気がするなあ。本を読むことに精力を使い果たしてしゃべるほうまで気が回ってない感じ。なにをしゃべるか多少は考えておくようにしてゆきたい。
 収録後、下の飲み屋で食事しつつ雑談。香山二三郎改造計画とか。香山さんは生まれてこのかた一度も美容院に行ったことがないのでものすごく美容院の敷居が高いらしい。「ひとりで行くのはやだ」とかずっとゴネてましたが、だれと行くんだ美容院。関口苑生? それはむしろサウナとか。……というふうにして、ひとはみな《噂の真相》に毒されてゆくんですね。
 バカ話をしてるうちにだんだんノドが痛くなってきて、やばいなと思いつつ帰宅。仕事をとっと切り上げて、日本代表×UAE代表の試合をビデオで見る。NHK-BSのほうを録画したのは正解だったらしい。三浦淳宏は右でも行けるじゃん。と思ったのにそんなに怪我がひどいとは。しかもあんな試合で。小野くんは焦らずにゆっくりやったらどうですか。




【8月17日(木)】


 起きたら覿面にノドのリンパ節が炎症。またしても水も飲めない症状。さすがにもう3回目か4回目なので、安静にしてても治らないことは学習している。とっとと病院に行き、「一日様子を見ましょうか」という医者に泣きついて抗生物質入りの点滴3時間。なんとか多少ましになったところで必死に中華がゆをかきこみ、クスリを貪り食って寝る。今日書く予定の原稿2本はさようなら。それにしても座談シリーズ終了後でほんとによかった。これが対談日とか収録日だったら目も当てられないところ。そういえば前回ノドをはらしたときは、アニメージュの京極×林原対談の当日だったんだよなあ。




【8月18日(金)】


 寝たり起きたりをくりかえしつつ、じょじょに快方に向かいつつある感じ。やはり速攻で点滴したのが効いたのか。2日のロスですめば、週末に持ち込んでこっちの勝ち。いや、ぜんぜん買ってなくてたいへんですが、うーん、いまごろSF大会疲れが出たんだろうか。まあ病気のときは寝てるしか。
 家にいるので話題の「Trick」をやっと見ました。阿部寛、日本一雪印牛乳の似合う男かも。しかしあれを捨てネタに使って、来週ちゃんと解決するのか? 仲間由紀恵とはむかしエヴァのパーティでツーショット写真撮ってもらったことがあるので自慢。ノドが腫れて声も出ないので小さな幸せだ。




【8月19日(土)】


 だいたい復帰。さっそく仕事再開。《アスキー・ネットJ》でなぜか「海外オークション・ウォッチング」みたいな連載をやることになったので(全然そんなはずじゃなかったのになあ、へんだなあ)、ebayとかYahoo! Auctionsとかをひたすらまわる。寝てるあいだに考えていた嫌味なネタはぜんぶ削除。リテイクで喧嘩する気力もないしなあ。

 馬場に出て三村美衣にちょっと取材。夏休みでいつもの店が閉まってたおかげで最後は鳥良。やっとまともに飯が食えるようになった反動でがんがん食う。林哲矢の雑記を見て、夫婦が4組もいたことに気づく。SF結婚じゃない柳下毅一郎がいちばんえらいのか。しかし思いきりが悪いぞ。男ならどんと行け柳下毅一郎。ってなにが。
 雑記といえば、
「大森望の新刊めったくたガイドの見出し、「不動の四番バッターが放つ直球ど真ん中SFに覚悟!」ってのはどう理解すればいいんだろう。」問題ですが、これは編集部のM村嬢がつけたタイトルで、わたしもゲラで見たはずなのに全然気づいてませんでした。
 不動の四番バッターが直球ど真ん中のホームランボールを打ちそこねてどん詰まりの外野フライ――という趣旨の評価なので、たしかに見出しにはしにくい(笑)。ベアは四番だけどエースじゃないよな。張本タイプ?
 教訓:野球の話も通じる人はそれなりに限られています。

 ところでその林哲矢にライバル登場。日本で二番めのラファティ・ファンサイト、『とりあえず、ラファティ』。このタイトルはなかなか新鮮な驚きがありますね。時間がないのでまだ翻訳はちゃんと読んでませんが、BASEFONT SIZE="5"っていうのはどうですか。未訳短編の内容紹介をこれだけ貯めたのは立派。リストについては、リストのつくりかたと含むべき情報について、やっぱり新鮮な驚きを味わってしまいましたが、すでに古沢さんとはコミュニケーションがとれない領域かも。まともな感想は後日。


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