【7月1日(土)】


 夕方からユタ。週刊ポストの『ホワイトアウト』映画評の原稿を送り、今日は人が少ないのでとっとと帰ろうと思ってたら、終わり頃にS澤編集長とか、どやどや人が増える。今月13日からなぜか韓国へ行くことになってしまったので添野とその相談とか。

 さらに駅前で森太郎とかちはら嬢とかと遭遇。とある商談が成立してめでたしめてたし。ルノワールでさらにうち合わせのつづき。

 ルノワールを出てぶらぶら歩いてるとすさまじい絶叫が深夜の高田馬場に轟く。詳細は備忘の果実参照。林哲矢をびっくりさせる陰謀を企んでいたところ、反対に思いきり驚かされてしまったらしい。あんなにびっくりしてる人をひさしぶりにみたなあ。
 その驚きの勢いで、ちはら・森・藤元の三人が林哲矢の住む西葛西に雪崩れ込み、駅前のボックスでカラオケ4時間。そのあとうちの仕事場に流れて朝まで。わたしは5時過ぎに帰って寝たからあとはよく知らない。




【7月2日(日)】


 小松左京賞二次の箱を開ける。長いやつはみんな読んでるので楽勝かも。4000枚、2000枚、2800枚と読んでしまえばもうこわいものはない。

 グレッグ・ベア『斜線都市』を死ぬ思いで読了。ベアはもともと視点の統一があんまりできない作家なのだが、この訳文(とくにテロリストがたくさん出てくるところ)はそもそも統一を放棄しているようにしか見えない。
 視点人物が主語のときは「は」を使い、その他の人物には「が」を使うのが(ごくおおざっぱに言うと)ふつうのやりかただと思うけど、だれもかれも「が」。
「Aがああした。Bがこうした。Cがどうした。」という調子なのである。しかし原文を見ないでそんなこと言ってると古沢さんに怒られるからなあ。

 ウィリアム・ギブスン『フューチャーマチック』はただのSFになってしまいました。決着をつけようとするとSFになるのはギブスンの手癖ですか。しかしガン・スミス・キャッツの時計にこんなところで出会うとは。




【7月3日(月)】


『山尾悠子作品集成』刊行記念パーティ@東京ステーションホテル。

「ここにいる中で山尾さんと同期なのは、堀晃と僕ぐらいで――」という話からはじまる山田正紀氏のスピーチが傑作。
「当時のSF作家クラブは、上のほうはおっさんばっかりだし、ぼくら下のほうのはまだみんな若くて、せっかく山尾さんのような方が入ってきたくださったのに、じゅうぶんなお相手もできず、気がついてみればこんなことに……」
 要するに、みんな甲斐性がなかったので山尾悠子を口説き落とせず、山尾さんは一般人のご主人と結婚して家庭に入ってしまい、結果的に山尾悠子不在の二十年を招いてしまったことは慙愧の念に耐えない――というような意味(←推測)らしい。
 なんかあれですね、20年ぶりの同窓会で、「高校時代のきみはクラスのマドンナで、みんなきみのことが好きだったのに、当時はみんな内気だったからだれも声をかけられなかったんだよ」みたいな。『別冊新評SF新鋭7人特集号』仲間からの告白。
 とても山田さんとは思えない軽妙洒脱なトークで(と御本人に言ったら、失礼だと怒られた。誉めてるのになぜ)、場内はウケまくりでした。

 初対面も同然の小松左京氏を直撃して、『虚無回廊』のつづきの話を聞く。そこに堀さんが混じって最近の宇宙論情勢の話とか。しかし8年のブランクを埋めるのはけっこうたいへんな気がするなあ。
 そこに倉阪さんが思い詰めた顔でやってきて、「ぼくは小松さんと誕生日がおなじです。たいへん光栄です!」と宣言して去っていった。あれはなに。

 二次会は新宿三丁目のバー。満員なのでカウンターにすわると、すぐとなりにいた楚々たる妙齢の美女が、なんとまあ、あの、まりの・るうにい様であることが判明。しかしそれを知った大森の第一声が、
「〈遊〉のまりの・るうにいTシャツ持ってます! 2種類買いました。フレンチスリーブのやつと、彗星のやつ!」
 だったりして、ただの迷惑なおたくである。失礼いたしました。しかしさらに驚いたことに、るうにいさんは大森伝言板と黒木掲示板を読んでいるそうなのだった。うわあ。それはもうとんだ失礼を。こんなことと知っていれば、『月街星物園』を持ってきてサインしてもらったのに。
 そういえば、幻想文学の山尾悠子インタビューで、ひさしぶりに「まりの・るうにい」という名前を見て、そうだTシャツがあったはずだと思い出し、山尾さんのパーティにはそれを着ていくしか――と思ったんだけど、さすがに20年前に買ったシャツなのでとっさには出てこなかったんです。思えばそのTシャツはTOKON VIIIに着ていったら、猫十字社さまに、「あ、〈遊〉のTシャツでしょ、それ。いいなあ」と誉めてもらった由緒正しい逸品なのである。
 ところでまりの・るうにい様から、書名探求の依頼が。
「子供が公園で遊んでると火星人がやってきて連れ去ってしまう」みたいな内容の短編で、「90年代に読んだスリップストリーム系の作品だと思う」とのことですが、だれか知りませんか。




【7月4日(火)】


 雷の豪雨で断続的に西葛西メトロセンターが停電するなか、所用で外出。
 西葛西の駅で、MAG TIMEでバイト中のフットボーラー、Kくんと遭遇。ジェフ市原のサテライトをやめて、今月中旬から2カ月、コリンチャンスのジュニオール(サテライト)チームに合流し、合宿所で練習するらしい。ビッグになって帰ってきてJ1に上がり、末は日本代表に選ばれていただきたい。

 飯田橋で総武線に乗り換えると、豪雨のため徐行運転中。40分遅れでようやく新宿にたどりつき、ミステリチャンネルの打ち合わせに合流。この雨だから、みんな1時間は遅れるよね、と思ったのに、西のほうはたいして降ってなかったらしい。あのすさまじい雨は江戸川区だけなのか?

 ミステリチャンネルの書評番組、ベストブックスは、香山二三郎・豊崎由美・茶木則雄の三氏がレギュラー出演者だったんですが、なぜか茶木さんが卒業することになり、大森(国内編担当)と吉野仁氏(海外編担当)が来月放送分からかわって加わることに。というわけで今回はその顔合わせと今月収録分の打ち合わせ。まあ年末スペシャルで二回やってるし、こないだ代打出演したので要領はわかってて、親睦会みたいなもんですね。

 二次会は例によってLuLu。さあ終電で帰ろうと思ったら、「まだこれからじゃないですか」とトヨザキ社長に強力に引き留められ、WALKのK嬢ともども《東方見聞録》に拉致される。そこから先はトヨザキ社長の独壇場。おなじ話が螺旋状に巡回してくりかえされる。
 主な話題は要約すると三つ。

1 ものまねしゴゴをものまねしないで倒すのはたいへんだ。
2 「池袋ウェストゲート・パーク」のTV版は原作より百倍面白いのでぜったい見ろ。
3 世界文学にはバースもピンチョンもいるのに、どうしてこのせまい日本のせまいミステリの業界で、みんなくだらない喧嘩をするのか。わたしは情けない。

 要約するとふつうだが、1の実体はたとえばこんな感じである。

 FFのVIIとVIIIはつまんなかったけど今度のFFは買おうと思ってるんですよ。ゲーム雑誌見たらなんだか昔のFFにもどってるでしょ。わたし、FFのIVとVがとにかく好きだなあ。Vなんか、終わったときは全キャラ全アビリティがフルだったもん。聞いてくださいよ。FFのV、わたし、ものまねしゴゴをものまねしないで倒したんですよ。あれ、ものまねしないで倒そうと思うとものすごく強い。わたしはたぶん世界でいちばんものまねしゴゴと闘った女ですね。何度やっても倒せなくて、70時間ぐらいかけてレベルあげて。そしたら最後、ものまねしゴゴが、「マ、マイッタ…」って言うんですよ。ものまねしゴゴの「マ、マイッタ…」を聞いた人は、たぶん日本でも100人いないでしょう。そしたらもうそのあとはねえ。シンリュウ? オメガ? けっ。あんなのもうザコ。最後のボスなんか一瞬でやっつけちゃって、あれ? これで終わり? で、ゲーム終わったあと友だちと話してて、「いやあ最後あっけなかったけど、ものまねしゴゴはめちゃくちゃ強かったねえ。さすがFF」とか言ったら、向こうはぽかんとして、「なに言ってるんですかトヨザキさん。ものまねしゴゴはものまねするんですよ」「は?」「相手の出す魔法をその通りものまねしてれば」「へ?」

 こんなにくわしく覚えているのは同じ話が5回ずつくりかえされたからにほかならない。『桃太郎伝説』に出てくる話の長い仙人の話をAボタン連打でどんどん送りながらいいかげんに聞いてるとうっかり最初までもどり、また最初から長い話がはじまるというギャグがあったのを心の中で思い出していたのは内緒だ。

「世界文学にはバースもピンチョンもいるのに……」というフレーズはけっこう使えるかもしれない。なぜバースとピンチョン。すいません『レターズ』まだ買ってません。




【7月5日(水)】


 まる一日かけて、オンライン書店、bk1に連載するコラムの第一回を書く。《本の雑誌》の原稿の10倍ぐらい時間がかかった気がするなあ。
 森山和道編集長が命名したタイトルは、「SFハイパーリンク」。
(ちなみにこのコラムは、bk1トップページから、文芸・小説のジャンルトップに飛び、ずうっと下のほうにある「SF」から「SFのトップ」に飛び、さらにずっと下のほうにスクロールしたところにあります。ダイレクトリンクはこれらしい)




【7月6日(木)】


 午後2時起床。3時半からワーナーで「さくや 妖怪伝」の試写。原口監督も来てて、「どうも居ごこちが悪くて……」と不安そうな表情でしたが、夏休みファミリー映画としては全然オッケーでしょ。「妖怪百物語」というよりは「妖怪大戦争」、あるいは「河童の三平 妖怪大作戦」+「仮面の忍者赤影」劇場版RPG風味みたいな話だし、八王子を過ぎてからはなかなか快調。
 なにより安藤希の立ち回りとキメポーズがちゃんとサマになっているのがすばらしい。河童の三平……じゃなくて河童の太郎役の山内秀一もかわいいし、嶋田久作と逆木圭一郎の脇役コンビは上々の出来。怨霊武者のシーンとクライマックスの特撮は見事。
 ロングバージョンの予告編を見た段階で、「こ、これはちょっと……」的なパートに関しては覚悟ができてたので(最初のほうの化猫とか、鬼太郎系妖怪総登場の「レジェンド」なシーンとか、電気ビリビリ鼻から煙シーンとか)、なるほどこういうふうに本編におさまるのかという感想ですみました。しかし黒田勇樹はなあ。

 終了後、添野知生とお茶飲んで帰宅。e-NOVELSの田中哲弥特集用原稿のため、再読に着手。




【7月7日(金)】


 台風なのでつい『ファイナルファンタジーIX』を始めてみたり。PS2でやってたら、画面切り替えでブラックアウトしたまま止まるようになり、氷の洞窟あたりからアンプレイアブルな状況に突入。一時間ぐらい放っておくといつのまにか次の画面に進んでるとか。
 しかたないので青ステに移して再開。なんか、昔のFFを3Dにしてみました。話はあたりまえですがどうですか。みたいな? CGIは前作より後退しているのではないか。新鮮味ゼロ。どこかでやったようなRPG集大成?

『さらば愛しき大久保町』を読み返していたら、似たような話なのでごっちゃになったり。FFの新作より田中哲弥の旧作のほうが面白いというのは問題ではないか。いや、おもにオレの頭の問題だけど。




【7月8日(土)】


 『本の雑誌』の原稿を仕上げ、FFをたらたら進めつつ、新人賞原稿読みと田中哲弥再読をつづけ、『猿はあけぼの』第一部も読む。『猿』制作日誌を勝手につくったりしているので全然原稿は進まない。なんかJリーグも見ちゃうしなあ。




【7月9日(日)】


 『イティハーサ』5巻の解説原稿。10枚ぐらい書いてから、3ページしかないことに気づき必死に削る。

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