【6月24日(土)】


 西葛西《大将》が13周年記念で3割引セール中なので、夕方から焼肉宴会。ご近所の白石朗一家・堺三保・林哲矢と、柳下毅一郎、小浜徹也・三村美衣夫妻が焼肉屋の二階に参集。カルビ・ロース・タン塩・レバー・ハラミ・ナンコツ・オッパイその他大勢を貪り食う。
 ロイヤルホストでお茶してからカラオケ2時間のあと、柳下・三村・大森で帰宅、EURO2000の準々決勝2試合を観戦。
 ポルトガル×トルコと、イタリア×ルーマニア。ポルトガルとイタリアが順当勝ち。ポルトガル×オランダの決勝が見たいんだけど、どうせイタリア×フランスになるんだろうなあ。

 国産ミステリおよびミステリ系の新刊をまとめて消化しているのだが、感想を書いているヒマがない。というか、日記を書いている場所には本がないので細部を思い出せなかったり。この10日ぐらいで読んだのは……

松尾由美『おせっかい』、西澤保彦『依存』(以上、幻冬舎)
北森鴻『パンドラ’S ボックス』、彩胡ジュン『白銀荘の殺人鬼』、松尾詩朗『彼は残業だったので』(以上、カッパノベルズ)
氷川透『密室は眠れないパズル』(原書房)
近藤史恵『茨姫はたたかう』(祥伝社文庫)
有栖川有栖『幽霊刑事』、東野圭吾『嘘をもうひとつだけ』、山口雅也『続・垂里冴子のお見合いと推理』(以上、講談社)
花村萬月『風転』、柴田よしき『桜さがし』、恩田陸『ネバーランド』(以上、集英社)、東野圭吾『予知夢』、服部まゆみ『シメール』、若竹七海『依頼人は死んだ』、明野照葉『輪廻』(以上、文藝春秋)

 ぐらいでしょうか。氷川透『密室は眠れないパズル』は鮎川賞最終候補のやつ。舞台の出版社が東京創元社だと思って読むと笑えます。その意味では講談社ノベルスのやつより楽しめた。松尾由美『おせっかい』はスーパーナチュラルの要素あり。小説の中に入っちゃう話なんだけど、処理の仕方が思いきり変。『幽霊刑事』もスーパーナチュラルですが、登場人物がだれも幽霊の実在性を確かめる簡単なテストを思いついてくれないのでちょっといらつく。いやまあ、そういう話じゃないんだけど、相手に見えないようにしてメモを書かせて、それを幽霊がうしろから覗いたりとかすればいいだけなのでは。
 西澤保彦『依存』は匠くんシリーズ(ちがうって)の最新作。著者最長らしいが、酩酊推理(ちがうって)連作みたいな趣向なので飽きさせない。「いやな女」を書かせては当代一という西澤保彦の手腕が炸裂、ついに「最強の敵」が出現する。出たな、妖怪。みたいな。しかし性的虐待ネタをナマのまま使うのはどうか。これでは『永遠の仔』コースでは。あと、参考文献からの引用箇所を本文と区別せず、出典を明示しないで使うと著作権法違反になるので注意。あとがきに「引用」という言葉は使わないほうがよかった。
 あと、これだけの長編を読んできたあとにああいうあとがきがついてると「カックン」感が著しく強い気がするんですが。とくに、シリーズの今後の展開については書かないほうがいいと思う。
 彩胡ジュンの作者当ては、本命はガチガチの鉄板(たぶん)なんだけど、相手が悩ましい。3点買いなら馬連的中まちがいなしと勝手に思ってますが、1点に絞るのはなあ。
『彼は残業だったので』は、ネタがそのまんま過ぎ。カバー裏を読んでだれでも考えるとおりの結論っていうのはちょっと。明野照葉『輪廻』は松本清張賞受賞の土俗ホラー。あと味の悪さは買えるものの、「いやな薄味」程度か。




【6月25日(日)】


 6時に起きて、WOWOWでマイク・タイソンの欧州シリーズ第二戦。一瞬で終わってしまったので、女子バレーボール五輪最終予選でクロアチアが勝ったのを確認してから選挙に出かけ、投票と食事をすませる。8時まで投票できるのはありがたい。
「寝ててくれればと言われたって、いくらなんでも8時までは寝てないでしょう」とだれかがTVで言ってたけど、まったくその通り――みたいな投票行動である(笑)。
 9時過ぎに帰宅、あとは夜中まで選挙番組をザッピング。投票率が低すぎたのは、民主党の政権奪取にまったくリアリティがなかったからですか。小選挙区は野党の選挙協力がないかぎりどうしようもない。中選挙区時代、高知全県区では社会党と共産党の議席がずっと維持されていたのに、いまや3区とも自民党独占だもんな。
 しかし東京16区で島村宜伸が落選したのはちょっとびっくり。江戸川区は投票率低かったのに。
 青森2区では、元新潮社の三村伸吾氏が当選。新潮社ではオレより4年か5年先輩で、会社を辞めて郷里に帰り、地元の町長をやっていたところまでは知ってたんですが、国会議員になるとは。新聞記者上がりの代議士は珍しくないけど、文芸出版社の編集者出身はあんまり例がないのでは。
 今回は全体に開票の遅れが目立ち、テレ朝は出口調査の結果をもとに議席数予想を自信満々で出してたけど、かなり大きくはずれてました。出口調査とじっさいの結果がこんなに激しく違ったのははじめてかも。




【6月26日(月)】


 0:50からEURO2000準々決勝第三試合、オランダ×ユーゴスラビア。ユーゴは弱すぎ。オランダもこういう相手だといくらでも点とるねえ。




【6月27日(火)】


 新橋の第一ホテル東京で日本推理作家協会賞贈呈式
 はやめに着いたら京極さんがティールームでヒマそうにしてたので、そのへんにいた山田正紀氏を誘っていっしょにお茶を飲む。京極さんとはロフトプラスワン以来かも。蟄居して原稿を書いてるのに全然進まないらしい。なんかヘアスタイルが一新されてました。ハジか小野伸二かという涼しげな丸坊主に仰天。というのはウソです。山田さんの某社のミステリは2000枚の大作になるらしい。単発長編としては山田正紀史上最長か。あとはSF新人賞と小松左京賞の話とか。

 受付で記帳してるといきなり桐野夏生さんに声をかけられる。
「日記読んだわよ。『予想された襲撃もなく』って、あれ、まさかわたしのことじゃないでしょうね(笑)」
 一瞬なんのことかと思いましたが、関口苑生パーティの件でした。あいかわらず単刀直入・豪放磊落な人である。きっぷがいい姉御肌なのに、知らない人からは誤解されがち(らしい)のはなぜ。まあ関口苑生氏にしても、気が弱いのに偏屈だからわりと誤解されやすいタイプなんだけど。
 小説すばる誌上では、(関口苑生『江戸川乱歩賞と日本のミステリー』中の桐野批判に対する)桐野さんの全面反論がはじまったので、オープンにがんがん論争すればいいんじゃないでしょうか。「○○が××しているらしい」という噂だけが一人歩きしてる状況だと日記にも書きにくいし。
 このへんのことは、佐々木譲氏がウェブの近況で書いてます。パーティ会場の前の廊下で、関係者がえんえん立ち話してるので、いったいなんだろうと思ったんだけど、なるほどそういうことだったんですか(疑問が解けてちょっとうれしい)。
 噂レベルだと、たとえ事実無根だったとしても、いちいち否定してまわるわけにもいかなくて始末が悪い。ウェブ日記上ででも、その噂がいったん文章化されれば、「それは違います」ときっぱり否定できるんだから、それはそれで効用があると言うべきか。だからといってわたしは火中の栗を拾いたくありませんが。
 ついでに書いておくと、桐野夏生×関口苑生バトル(?)にからむ噂では、「《噂の真相》の桐野バッシング記事には関口苑生が情報提供をしている(あるいは、裏で糸を引いている)」みたいな話もあるんだけど、これまた事実無根でしょう。どうも関口さんは、(茶木さんと並んで)この種の「風評被害」に遭いやすいらしい。だから、桐野さんと同様、公の場所でがんがん書けばいいのに。とりあえずパソコン買うとか(笑)。

 さて、本題の推理作家協会賞。受賞挨拶では、天童荒太氏が、『永遠の仔』読者から寄せられた三通のお便りを朗読。「おおげさに言えば、この三通の手紙をいただいただけでも『永遠の仔』を書いた甲斐がありました」とか。ぜんぶで4000通の手紙が来て、そのうち2000通ぐらいは、紹介した3通と同じような内容だったらしい。「生きる勇気を与えてくれました」みたいな。
 長編部門同時受賞は『亡国のイージス』。福井晴敏氏はそれに対抗して、「日本一短い軍事おたくちゃんからの手紙」を朗読――というような事実はなく、爽快なまでに簡潔な挨拶で終了。

 パーティには、なぜかコナミの小島秀夫副社長が来ててびっくり。なぜか『ダーク・シティ』の話をされたりとか。しかし小島さんなら、そりゃもうぜったい宮部さんに紹介しなきゃだめでしょう。けっきょく終了間近になってやっと巡り会い、いきなり濃いゲーム話で盛り上がってました。それにしてもなぜ。
 若桜木虔氏ともついに名刺交換。いや、税金問題について意見交換しただけですが。

 終了後は、U山部長率いる講談社文三トリオ+竹本健治の組に混じり、新橋の維新號で食事。文三の新人、N川氏の歓迎会――というわけでもないが、ミステリ業界の基礎知識をレクチャーする会だったり。さらにパスポートに流れて1時まで。U山さん絶好調。





【6月28日(水)】


 映画美学校試写室で、中田秀夫監督・中谷美紀主演の『カオス』。予告編はいかにもホラー映画っぽいつくりなんだけど、原作は歌野晶午『さらわれたい女』(角川ノベルズ→講談社文庫)。美貌の人妻から狂言誘拐を依頼された便利屋が殺人事件に巻き込まれて――という、トリッキーな味わいのコンゲーム風ミステリで、それがどうしてホラーになるのか。と思ったら、映画は全然ホラーじゃありませんでした。
 便利屋の黒田(萩原聖人)が真相をつかむまでの過程がかなり省略されてるものの(原作ではそのへんが面白かった記憶があるが、なにせ8年も前に読んだ本なので細部はよく覚えてない)、ミステリ映画として端正なつくり。ただし、ヒッチコック風のサスペンスに傾斜する部分と、ミステリな部分とのあいだに若干の齟齬があり、後半はやや分裂した印象。どんでん返しのミステリ映画としてまとめたほうがよかったのではないか。中谷美紀ファンは必見。音楽は川井憲次。

 EURO2000準決勝第一戦、ポルトガル×フランス。ヌーノ・ゴメスの1点めは最高でした。一瞬、水を打ったように静まり返るスタジアム。美しい。トラップとかパスとかの技術はまだまだだと思うけど、動物的本能にはすぐれてますね。惜しかったなあ、ポルトガル。けっきょく最後は、ペナルティエリアのハンドでPK負け。ザビエルもさすがにあれはよけられない。故意かどうかは微妙だけど、まあ手に当たっちゃったんだからしょうがないね。




【6月29日(木)】


 2時半、東銀座・東劇ビル地下の喫茶店で、読売広告社の人と打ち合わせ。コナミの某ゲーム関連の相談事。最近妙にコナミと縁があるな。いや、仕事の関係は全然ないんですが。
 3時半から、おなじビル3階の松竹試写室で、トレイ・パーカー監督・脚本・主演の『オーガズモ』を見る。二年前のファンタスティック映画祭で上映されたまま、ずっとオクラになってた怪作ですが、『サウスパーク』人気のおかげで(?)ようやく公開が決まったらしい。
 布教活動のためソルトレークシティからハリウッドにやってきた、末日聖徒イエス・キリスト教会の敬虔な信者が、ポルノ映画のスーパーヒーロー役にスカウトされて――というおたく系コメディ。劇場版『サウスパーク』のカナダネタと同様、ユタ州ネタが炸裂する。冒頭のモルモン教ギャグがめちゃくちゃおかしいんだけど(「演技の経験は?」「BYUの演劇部にいました」とか)、オースン・スコット・カードの本とかでモルモン教の基礎知識を学んでないとちんぷんかんぷんかも。ソルトレークは、第二代会長のブリガム・ヤングが信徒たちを率いて入植した、モルモン教徒安息の地。BYUはブリガム・ヤング大学の略称。ソルトレークシティ冬季五輪協賛映画?
 もっとも、ブルース・リー/ジャッキー・チェン系のネタや、ポルノ業界ネタも満載されてるので、そっちのほうでじゅうぶん笑える。ただし、おなじネタをもっとかっこよく処理した『ブギー・ナイツ』が先に公開されちゃってるからなあ。間延びしたアクションとか、安っぽい演出まで、原典のC級ポルノ/カンフー映画を再現しなくても。
 日本人的には、香月あんなとEVEが出てるのがポイント。浅見まおと夏樹みゆは脱ぎなし(ロリ顔が災いしたらしい(笑))。

 終了後、近くのルノワールで柳下毅一郎とサッカー話。
 6時から、また松竹試写室にもどって、スパイク・ジョーンズ監督『マルコヴィッチの穴』。ジョン・マルコヴィッチになれる「穴」(portal)の話。いやもうこれはすばらしい傑作です。今年のベストワン候補。SFファン必見。『イレイザー・ヘッド』系の不条理コメディかと思いきや、ちゃんとロジックがある。なにも知らずに見にいくのが正解。シナリオのチャーリー・カウフマンは天才かもしれない。
「7と1/2階」ってネタが最高に笑える。あえて「8と1/2階」にしない、微妙にはずしたセンスが象徴的。予想を裏切りつづける展開と絶妙のギャグ。マルコヴィッチの潜在意識ネタが、ちょっとベタな方向に流れてるのが惜しいけど、コーエン兄弟とかのセンスが好きな人も必見でしょう。キャメロン・ディアス映画としてもこれがベスト。それにしてもなぜニュージャージー・ターンパイクなのか。もう一回見なきゃな。

 映画のあと、宣伝担当のアスミックT内氏と情報交換。BWP2話とかいろいろ。西葛西にもどり、ロイヤルホストでちょっと仕事してから帰宅。山形浩生出演のNHK教育「ETV」緊急討論をビデオ録画で眺めつつ、準決勝の開始を待つ。トーク時に眉ピアスをはずしてたのはNHKの放送コードですか?
 パネリスト同士の討論というわけじゃなく、司会者と各パネリストとの一問一答形式なので、山形節はそれほど炸裂しない。もっとも「文字弁慶」と自称するくらいなので、生トークでは文章並みの過激さは期待できないのかも。もっとも、NHK視聴者的には、「こ、こいつ何物?」的なインパクトを強烈に与えたかもしれない。

 EURO2000準決勝第二戦、イタリア×オランダは、予想通りのスコアレスな展開。ただでさえ守備的なイタリアが、ザンブロッタの退場でますますガチガチに。カンナバロはすばらしすぎる。試合中のPKを二度も失敗してはオランダに勝ち目はないね。それにしてもあそこまでPKをはずしつづけるとは。けっきょく決勝はイタリア×フランス。1−0でイタリア優勝の悪い予感が現実味を帯びてきたり。実力的にはフランスだろうけど、しかし。




【6月30日(金)】


 幻想文学58号を拝受。特集は《女性ファンタジスト2000》。
 5本並んだインタビュー(山尾悠子のEメールインタビューを含む)も面白いけど、石堂藍の26ページにおよぶ作家ガイド(けっこう辛口)が労作。ただし、「団塊の世代よりも若い作家という年齢的な制限をつけ、ジュヴナイル文庫にしか発表の媒体を持たない作家を割愛することにした」ってのはいかにも苦しい。むしろこういう制約をつけたほうが、「この作家が入らないのはどうしたわけか」という疑問の声が大きくなるのでは。ひかわ玲子や五代ゆうが入ってて、茅田砂胡が入ってないのは、大陸ノベルズ(だっけ?)やCノベルス★ファンタジアが「ジュヴナイル文庫」扱いだから? 高瀬美恵とか、四六判の著作がある作家もいますが、「ハードカバーでファンタジーを出していない作家は割愛」ってこと? などなど。

 しかし今号でいちばん驚いたのは渡電の映画評。原作を読まずに『ブギーポップは笑わない』映画版を観て、パンフレットに載ってる上遠野浩平の文章だけを頼りに、「作者がそう言うからには、原作は通常の時間の流れに沿って展開していくに違いない。するとこの気の抜けない構成の仕方は、映画のオリジナルということになる」と結論する。
 さらに、「この構成なくして物語を時間通りに綴っていくのだったら、単なる駄作に終わってしまっただろう」という(柳下毅一郎とはまったく正反対の)感想が述べられるのだが、たいていの大書店で平積みになってる原作をぱらぱらめくってみるだけでもわかることを確認しない大胆さには感嘆するしかない。
 ちなみに柳下毅一郎によれば、「脚色が最低で、ただ原作をダイジェストしただけである。普通の脚本家なら、この原作を渡されたら話をバラして時系列にそって再構成するはずである(なんなら箱書きしてみせてやってもいいぞ)。ところがいったい誰の意志なんだか、原作そのまんまのオムニバスにしたもんだから、構成の弱さがそのまま出てしまってダレまくり。」とのこと。大森のは、「視点人物の知らないところでいつまにか話が終わっちゃうところに新鮮なサプライズがあるんだってば」と前に書いたように、「原作通りの構成を採用したから映画としてユニークなものになった」という見解。それにしても、こんなところで地雷を踏まなくてもねえ。

 コナミの小島さんから、『メタルギア・ソリッド』シリーズの新作とGB版が届く。ありがとうございました。ゲーム監督からゲームソフトいただくはほとんどはじめてかも。
 ガイナックス武田さんからは『フリクリ』の2巻めを拝受。

 小説すばると月刊アスキーと毎日中学生新聞の原稿を書き、未消化のSF新刊を読みはじめる。嗚呼、2000年も半分終わってしまったではないか。


top | link | board | articles | other days