【6月6日(火)】


 トーレン社長のお供で14:00双葉社。ロビーで待ってると、「大森さん」と声をかけられる。レッカ社のU社長とK氏でした。ガイジンといっしょに双葉社でなにやってるんだろうと不審がられたに違いない(笑)。帰り際には小説推理編集部のH野嬢とも遭遇。

 16:00、新宿プリンスで、スタジオぬえの竹川氏と商談。アメリカ版ダーティ・ペア関連。アダム・ウォーレンのDPコミックはいまもダークホースからときどき新作が出てます。アメリカではあいかわらず根強い人気。

 プロテウス仕事のあと、テアトル新宿で『人狼 Jin-Roh』。去年、試写を見損ねたら、その後1年間も見る機会がなかったんでした。テアトル新宿は最終回なのにほぼ満席。しかもほぼ全員、クレジットが終わるまでだれも席を立たない。さすがですね。
 映画はまるで「地下水道」+「灰とダイヤモンド」のようでした。だから「アヴァロン」はポーランドロケなのか?
 後半の展開が予想以上にエンターテインメントだったけど、表現形式と中身に齟齬は残る。阿川七生は走りっぱなしなので、仙台エリはずっとはあはああえぎっぱなし。「あえぎ声」ではありませんよと注意されましたが、息が切れてはあはあ言うのは「あえぎ声」なのでは。

 ハルキ・ノベルスの新刊、話題の『エンデュミオン エンデュミオン』を読む。主にどこで話題かというと、堀晃『マッドサイエンティストの手帳』154。作者との邂逅エピソードはじつに「いい話」なんですが(堀さんの得意技かも。前にオースン・スコット・カードにアポなしで会いにいった話を思い出したり)、小説のほうはかなり留保をつけないと「いい話」にはならない。ブロックバスター小説的な多視点の構成を採用したのが最大の失敗で、メインの人物を二人ぐらいに絞ったほうがよかったのでは。悪いときのグレッグ・ベア(『天空の劫火』みたいなやつ)と同じ問題を抱えている。月と地球での同時多発的な怪事件は、むしろニュースクリップみたいなかたちで点景的に処理したほうがよかったと思う。ラブストーリーを軸にして読者をひっぱった『クリスタルサイレンス』とは対照的。思いきり好意的に読めば堀さんの絶賛も納得できなくはないが、「凄い筆力である」には同意しがたい。
 もっとも、短所はもっぱら小説技術の問題なので、たくさん書けば改善されるでしょう。

 週刊文春の書評用に、中島らもの自伝的青春小説『バンド・オブ・ザ・ナイト』を読む。おお、これは『暗闇のスキャナー』ではないか。ディックのあとがきをそのまま持ってきてもほとんど違和感がないくらいですね。もっともこちらのほうがはるかに自伝的。一部固有名詞が改変されている以外は、ほとんど中島らもの経歴そのまま。エッセイとかでおなじみの話もがんがん出てくる。初代PISSの話とか。舞台の1980年はオレも京都にいた時期なので、いろいろと懐かしい。

 なおもつづくSFセミナー関連議論。最近目からウロコが落ちたのは、みのうらさんのこれの、「ファン活動もしてないし」ってところ。
 そうか、SF大会で企画スタッフをつとめる行為は、もはや「ファン活動」に該当しなくなっているのか。いや、そう考えるといろんなことが腑に落ちますね。大会活動? イベント活動? 会場がたまたま日本SF大会なだけですか?
 当然気づいていてしかるべきなのに、盲点ともいうべき考えかただったので新鮮な感動を味わいました。
「SF大会はもはやSFファンの集まりではない」ってことは、10年ぐらい前から自分で言ってたのに。灯台もと暗し。




【6月7日(水)】


 今日もプロテウス仕事で辰巳出版→コア・マガジン。白夜書房新社屋一階の「マンガの森」を見学。国樹由香嬢の新刊(エヴリデイおさかなちゃん)が入口前の平台に山積み。おたく受けなのか?
 売り場面積は広くないんだけど、部分的に趣味が爆発したコーナーがあって侮れない。

 シェーキーズでピザ食って帰宅。

 ディリア・マーシャル・ターナー『半熟マルカ魔剣修行!』(井辻朱美訳/七二〇円)を読む。わははは、カバー/タイトルと小説の中身の落差もここまで大きいといっそ爽快。そもそもFT文庫よりSF文庫で出す本なのでは。語り手の正体が最大の謎っていう意味では、『マン・プラス』系列? 違うか。一人称の叙述についてすごく自覚的なつくりで、手法としては面白い。ミステリと違ってSFではunreliable narratorがわりと珍しいし。叙述トリックに持ってく方向もあったでしょうが、現状でもじゅうぶん驚ける。ひねくれたSFファン向け。しかしこのカバーでは、そういう人は手にとらないんじゃ……。

 書くのを忘れていた気がするフィリップ・プルマン『神秘の短剣』(大久保寛訳/新潮社二一〇〇円)はどんどんSF化が進行して楽しい。ファンタジーの国とSFの国とホラーの国を行き来する話ですね。多世界解釈。SFの国には一部ミステリの国も重なってます。それぞれ方言が違うので、すりあわせがたいへん。ダスト=暗黒物質とか。よろいをつけたクマが出てこないのはちょっと悲しいが、第三部はめちゃめちゃ面白いらしいのではやく読みたい。ていうか、ここで第二部が終わるのはあまりにも殺生。ヘビの生殺しに耐えられない人は、来年早々(伝聞に基づく推定)の第三巻刊行を待ったほうがいいかも。
 あ、一巻目(『黄金の羅針盤』)はわりと独立性が高いので、先に読んでもだいじょうぶでしょう。




【6月8日(木)】



 13:30、赤坂TBSのスタジオで、「デジタル怪傑頭巾 デジ虫」の収録。ディレクターのM島さんと軽く打ち合わせしてから、進藤晶子アナのとなりに着席。
 オレ的には進藤さんの話を聞きたいのに、質問されるばかりでつまらない(笑)。ま、進藤アナに肩書きと名前をアナウンスしてもらえただけでも本望ですが。
 飛び道具として持っていった、NTTドコモがモニターテスト中の音楽配信サービス携帯端末(SDメモリカード内蔵)とプレーヤーは好評。しかし携帯に興味を示したのはF岡編集長だけで、進藤アナは「こんなにちっちゃいんですか! すごいですね」とか、プレーヤーのほうに感心している。腕時計MP3プレーヤーとかのほうがウケたのか?
 というわけでこの写真が最近の主な自慢。ほんとはツーショット希望だったのに気が弱いオレ(笑)。
 いまどきスター・ウォーズTシャツを着てるのは、当然、『スター・ウォーズ/ローグ・プラネット』宣伝のためです。SFよく知らない人にも通じやすいネタだし。

 しゃべってたのは30分ぐらいだけど(使うのは15分ぐらい?)慣れてないのでぐったり疲れる。3方から飛んでくる質問に答えなきゃいけないせいか。やっぱりインタビューされるよりするほうが得意だな。
 実物の進藤アナは、ラジオのせいか、「ニュース23」とか「ニュースの森」で見るより明るくて若い感じでした。F岡さんは5年ぶりぐらいですが全然変わってませんね。あ、多少落ち着いたかも。放送は前回既報通り、10日土曜日深夜27:00〜。もしかしてユーロ2000開幕戦の時間帯? どうせ白馬だから観られないけど。イングランド×ポルトガルかな。

 収録終了後は、インターネット・アスキー後継誌の連載打ち合わせを一時間ほど。




【6月9日(金)】


 週刊文春と《本の雑誌》の原稿をかたづけたあと、西葛西・大将でスタジオ・プロテウス焼肉宴会。メンバーは、トーレン・スミス、デイナ・ルイス、息子のクリストファー・ルイス、大森、さいとう、堺三保。
 最近はクリスくんまでプロテウスの翻訳仕事を請け負ってるそうで、厳しい社長から「今日中に原稿が上がらなければ次の仕事はないものと思え」とか最後通牒をつきつけられていた和英翻訳をなんとか終わらせて合流した模様。デイナ母の心配ぶりがほほえましいわけですが、そうか、クリスはStudio Proteus: the Next Generationなんだね。

 話題はだいたい日米おたく話。映画、アメコミ、マンガ、アニメとか。comic翻訳者が四人もいるからしょうがない(ちなみに大森は数に入ってません。マンガ翻訳は、大学一年のときフランス語の自由課題レポートで、高野文子のマンガを仏訳したことが一回あるだけ。「犬が来ました」ではじまるやつ。「早道節用守」だっけか)。

 マンガ翻訳者といえば、プロテウスでも仕事をしているフレドリック・ショット氏は『ニッポンマンガ論』(マール社)手塚治虫賞受賞。授賞式に行こうと思ってたのにすっかり忘れてましたが、おめでとうございました。

 トーレン社長のおたく論。「おたくには二種類いる。useless otaku と useful otaku だ」
 ほんとはこのあとにつづくuseless otaku の実例と罵倒が面白いのだが、わたしにはとても書けません。


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