【6月1日(木)】


 月刊アスキー/アニメージュ/小説すばる/毎日中学生新聞の原稿を仕上げてメール。ぼちぼち次の長編翻訳にかからなきゃいけないんだけど、気力が出ない。

 永井良和『探偵の社会史1 尾行者たちの街角』(世織書房2500円)を拝受。明治41年の通称・出歯亀事件から説き起こして、覗き・ストーキングの源流をたどり、科学捜査が確立する過程を検証し、国事探偵や特高の情報収集活動から、現代の探偵事務所まで、「探偵的方法」の変遷を考察するという社会学の本。
「出歯亀事件は冤罪だった」説の検証とか、明治・大正期の犯罪捜査の実態とか、けっこう面白くてどんどん読んでしまう。このへんの時代を背景にしたミステリを書く人は必読かも。
 たとえば大正11年(1922年)に出た『実際の探偵』って本(著者は警視庁の警視で、警察講習所や刑事講習会で講師をつとめた人)がくわしく紹介されてるんですが、当時の刑事ファッションについて言及した件を孫引きすると、
「鳥打帽子でも冠り、縞の着物に同じ羽織を着て、草履か駒下駄でも穿いて、懐中に何か物でも入れて居ると、一般公衆は誰でも刑事巡査なりと看破した傾向があつた」とか。
「古くから探偵官吏の服装は日本服に限るやうな風」があったんだそうです。刑事の野暮な服装は明治以来の伝統らしい。
 なんでこんな本がうちに送られてきたかというと、著者の永井良和氏(関西大学社会学部教授)とは、大学時代の同級生。『社交ダンスと日本人』(晶文社)とか、ダンス史の研究と平行して探偵関係の調査をやってたのは『現代風俗』とかで知ってましたが、その成果がこうやってまとまったわけですね。
 もう十何年ご無沙汰ですが、本の著者紹介で永井良和ウェブサイトを発見。なんか今はロンドンにいるらしい。

 書くのを忘れてましたが、ジェフ・ゲルブ/マイクル・ギャレット編のエロチック・ホラー・アンソロジー第二弾『喘ぐ血』(祥伝社文庫700円)が出てます。むかしミステリマガジンで訳した短篇を一本、ちょちょっと直して返送しただけなのに、本が出てみると「訳/大森望 田中一江 他」になっててびっくり。
 いや、リチャード・レイモンの「浴槽」は、7年ぶりに読み返してみたら(自分で訳してもすっかり忘れている)めちゃめちゃ面白かったので、代表著者にレイモンの名前が立つのは当然かもしれないし、それ一本で代表訳者に名前が出るのは、お得と言えばお得なんですが。
 しかしこのアンソロジーって、前巻の『震える血』には、むかしオレが雑誌に訳したことのある短篇が二本(レイ・ガートンとロバート・マキャモン)入ってて、そっちは夏木健次・尾之上浩司両氏による新訳に変更されてるんだよな。どうせ旧訳使うなら前巻から使ってくれれば不労所得が三倍増だったのに(笑)。それともレイモン訳者としては認められたと喜ぶべきなのか。よくわからない。
 という話はともかく、『喘ぐ血』巻頭の「浴槽」は爆笑の傑作なのでぜひご一読を。




【6月2日(金)】


 講談社ノベルスの新刊が届く。今回「推薦文」を担当した『ウェディング・ドレス』(メフィスト賞受賞作)の黒田研二氏は、ミステリ系書評サイトの老舗、くろけんのミステリ博物館でおなじみの人。昔、創元の『本格ミステリベスト10』に書いた本格ミステリ系ホームページ探訪でも紹介してたサイトなんですが、まぬけなことにサイト名をすっかり忘れてて、「くろけん=黒田研二」に気づいたのは本が出たあとだったり。
 好き嫌いは激しく分かれそうな小説ですが、内容についてはこちらを参照。今回もあまり推薦文にはなってません。
 関係ないけどこれを書いてるとき気になったのは、「人間として最低の体脂肪率は何パーセントなのか?」ってこと。サッカー選手は10パーセントぐらい必要みたいですが、瞬発力のみが要求される競技(ハンマー投げとか)ではもっと少ないらしい。3パーセントぐらい? 体脂肪率コンテストとか、ギネスブック記録とかないんでしょうか。って自分で調べろよ。

 同時に出た講談社ノベルスの新刊、上遠野浩平『殺竜事件』を読む。設定があまりにもパターン通りのRPGファンタジーなのでがっかり。不可能状況で竜が殺されるという発端から、証人尋問のために探偵たちが世界を旅してまわる。このアイデアは悪くないのに、読んでてちっともおもしろくない。上遠野浩平らしさもあんまり感じない。徹頭徹尾パズラーのコードで押し通して、類型的ファンタジー世界とのミスマッチの面白さを狙ったほうがよかった気がするんだけど。
 パズラー的には、世界を支配するルールがいまいち明解ではないため(西澤保彦なら、この世界でなにが「アリ」でなにが「ナシ」なのかをくどいほど説明するところ)、解決にカタルシスが乏しい。なんでもありならどう解決しても驚かないわけで、現実世界のテクノロジーの産物がオーパーツとして存在するみたいなネタは(ミステリとして書くのであれば)入れないほうがよかったのでは。異世界ファンタジーのネタとしては面白いんだけど、言葉遣いなどを見るかぎり、本気でオリジナルの異世界ファンタジーをつくろうとしているとは思えないし。次作『紫骸城事件』に期待したい。




【6月3日(土)】


 起きたら夕方。『人狼』初日を見にいこうかと思ってたけどあきらめてユタ。

 帰宅後、幻冬舎のS氏からゲラで送ってもらった森博嗣『女王の百年密室』と、古川日出男『アビシニアン』を読む。
 前者は、『そして二人だけになった』以来の単発長編で、近未来の閉鎖環境(一種のドーム都市)を舞台にした密室物。探偵役にアンドロイドの相棒がいるのは『鋼鉄都市』『裸の太陽』へのオマージュでしょうか。関係ないか。本格ミステリ的な収束より、SF的な思考実験(実験室SF?)のほうが前面に出ている気もする。
 後者は前二作(『13』『沈黙』)のマキシマリズムから一転して、ミニマリズム的な設定(登場人物は事実上三人)。ボーイ・ミーツ・ガール(ガール・ミーツ・ガールもあるけど)の平凡なプロットを採用した分、逆に筆力がきわだって見える。
 どちらも6月26日発売予定。今月の幻冬舎は、ほかに西澤保彦『依存』(匠千暁シリーズ)、松尾由美『おせっかい』、それに覆面新人作家(だれが書いたのか教えてくれないのでオレも知らない)による業界ミステリ『フェイク!』もあって、もうたいへんなのである。




【6月4日(日)】


 フィリップ・プルマン『神秘の短剣』(大久保寛訳/早川書房2100円)読了。〈ライラの冒険〉シリーズの第二弾。前巻からさらにSF成分が濃くなっている。ホラーの国とファンタジーの国とSFの国を渡り歩くみたいな話で、それぞれ言語が違うので、おなじ現象がべつの単語で説明されたり。SF的には、ダーク・マター/多世界解釈ネタ。ファンタジー世界に疑似科学的説明をつけたっていう見方もあるでしょうが、ここまで来ればオレ的には完全にSF。ただし現実世界の科学者の扱いにあまりリアリティがない。
 それにしても、二巻目のこの結末はあまりにも殺生。三巻目の邦訳刊行は来年早々らしい。ところで、訳者あとがきを入れないのはともかく、せめて一ページ程度、「前巻のあらすじ」をつけたほうがいいと思うんですがどうですか>K村@新潮社さま。

 深夜2:00からCXでハッサン2世杯一回戦のフランス×日本戦。フランス代表はほぼフルメンバー。日本は森島・西澤のセレッソ・コンビが大活躍。1点めのゴールに思わず叫んだら、近所迷惑だから窓を閉めるようにと冷静な同居人に注意される。おとなしく窓を閉めたおかげでもう一回絶叫の機会があったんですが、結局2-2のままPK負け。
 フジの中継が録画だと知らず、PKの前にうっかりネットにつなぎ、うちの掲示板で結果を知ってがっくりしたまぬけな人もいたらしい。ふつうハーフタイムで気づくだろう。
 しかし2ちゃんねるの実況中継スレッドでは、「くそー、スカパーの生中継では負けちゃったから、今度はフジのほうで応援しよう」とか、不屈の闘志をみなぎらせているサポーターもいましたね。
 ああしかし、あそこまで行きながら(残り20分まで2-1リード)一回戦負けは押しすぎる。ハッサン2世杯に優勝してW杯優勝のもくろみが……(笑)。




【6月5日(月)】


 小松左京賞一次の評価をまとめて、締め切りより10日もはやく返送。長いのをたくさん残しちゃったので、コピーに時間がかかることに配慮して――というより、いつまでも段ボールの山があると生活空間が圧迫されるからなんですが。

 S木氏@ソニー・マガジンズより架電。
 グレッグ・ベア『ダーウィンの使者』がいつのまにか(ほんのちょっとだけ)増刷されていたらしい。あんまり書店で見ないんですが、地道に売れてたんでしょうか。
 それはありがたいんですが、訳者献本がいまごろ到着したというお礼メールにのけぞる。発売から二カ月後に献本が届いても……。やるなあ、ソニー・マガジンズ。どうも届いてないところが多いみたいなので確認メールを出したのが一カ月前だぜ(笑)。
 というわけで、「来ないから買っちゃったのにいまごろ送ってきやがって」と思ってる人には申し訳ありませんでした。

 井上夢人・我孫子武丸両氏も出演した、TBSラジオの深夜番組、「デジ虫」(土曜深夜3:00AM〜4:00AM)から出演依頼があって、木曜日に収録することに。週刊アスキー提供の番組で、F岡編集長がキャスター――と理解してたんですが、番組サイトを見に行って、進藤晶子アナの番組だということをはじめて知る。ポイント急上昇(笑)。そういう肝心なことをどうして教えてくれないかなあ。デジカメ持っていくしか(一昨年の横溝正史賞の司会が進藤アナだったんだけど、その日はカメラ持っていってなくて撮影できなかったのである)。
 ちなみにオンエアは6月10日(土)の深夜3:00〜4:00。ネット局は、HBC,ABS,TBC,RFC,BSN,RSK,RKB毎日,OBS,MRT,RBCだそうです。しかしその日はロリコン(ローカル・リフレッシュ・コンベンション)に呼ばれてて、白馬にいる予定なのだった。

 オープン・ネット・コンテンツ作成がさらに盛り上がり中。たかはし@謎宮会のONC版ミステリ系更新されてますリンク(http://www.open-news.com/~maki/up/h.txt)とか、冬樹蛉のページOCN版(http://web.kyoto-inet.or.jp/people/ray_fyk/h/index.txt)とか。大森もSF系日記を中心にしたリンク集を追加で作成。http://www.ltokyo.com/ohmori/sfd.txtです。
 その後さらに、細井威男@京大SF研による、ONC版SF系日記更新時刻(http://www.fan.gr.jp/~hosoi/hina/sfh.txt)も登場。
 一応、これらのサイトにはhttp://www.ltokyo.com/ohmori/hh.txtから飛べるようにしておく予定。しかしPHSの電話料金がかさむばかりじゃないかという気も(笑)。DDIの思う壺?
 H"ユーザーの人は、端末の「Pメール」→「PメールDX」→「情報サービス」から、題名・本文なしで、「to:」以下に、http://www.ltokyo.com/ohmori/hh.txtと入力するとリンク画面に接続、そこから番号を選ぶと、リンク先に飛べます。ふつうのウェブページに接続すると、勝手にデータをダウンロードして自動的に接続が切れますが、ONCページを表示しているあいだはつなぎっぱなしになるので注意。



 こないだのカラオケで仙台エリ嬢が撮影したデジカメ写真を入手したので、一部をこちらに転載。たれさかいと、眼鏡っ娘。大森が撮影したわけじゃないのでフレーム内に大森が混入してますが、まあ適当に処理してください>とくに野尻さん。たれさかいに写ってるヒゲの人は日下三蔵です。


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