【4月12日(水)】


《Yahoo! インターネット・ガイド》の取材@ミストラル。お題はウェブ掲示板について(笑)。初心者向けの掲示板入門特集にうちの伝言板を紹介するのはまちがってる気がしなくもないが、まあべつに敷居は高くないよね。しかしどっちかというと、最初にポストする掲示板は、管理人のひとが24時間以内に適切な歓迎コメントをつけてくれるところのほうがいいんじゃないでしょうか。




【4月13日〜14日(木)】


 ひたすら翻訳仕事。いまなにをやってるかというと、ふたたびソニー・マガジンズでふたたびグレッグ・ベアなのである。タイトルはRogue Planet。そう、フリッツ・ライバーの名作、『放浪惑星』のリメイク――じゃなくて、なんとスター・ウォーズのスピンオフ・ノベル。Episode1とEpsode2の中間にあたる話で、アナキンくんは12歳。

 アナキン・スカイウォーカーがコルサントのジェダイ聖堂にやってきてから三年が過ぎた。亡きクァイ‐ガン・ジンから後事を託されたオビ‐ワン・ケノービをマスターに、アナキンは十二歳になった今も、パダワンとして日々ジェダイの訓練をつづけている。
 壊れたドロイドを拾ってきては修理するのがアナキン少年の唯一娯楽。だが、単調な訓練の毎日に飽き飽きしたアナキンは、新しい楽しみを発見した。コルサントのゴミ捨て場で、レースウィングと呼ばれる飛行具を使ったレースが開催されているのだ。
 引退した前チャンピオンからウィングを譲り受けたアナキンは勇躍レースに参加する。タトゥイーンで鍛えた腕が物を言い、たちまちトップクラスのレースの出場資格を獲得したアナキン。だが、そのアナキンに、恐るべき暗殺者の魔手が迫っていた。ブラッド・カーヴァーと呼ばれる異星人種族の一員がアナキンに襲いかかる……。

 っていうのが導入部ね。評議会に呼び出されて、アナキンくんがメイス・ウィンドゥからさんざん叱られるシーンとか、けっこう笑えます。その後、アナキンはオビ=ワンともども、ゾナマ・セコトと呼ばれる謎の惑星に赴き、銀河でいちばん速いという伝説のスターシップを購入する任務を与えられるんですが、悪役として暗躍するのが若き日のターキンと、その旧友の宇宙船製造業者。ナブー事件のあと、通商連合の兵力は共和国に統合されることになり、その移管作業が進んでるんだけど、ターキンはどさくさにまぎれて通商連合の艦船とドロイドを調達、旧友を司令官に据えて、ゾナマ・セコト制圧へと派遣する。

 後半はいかにもベアらしいタッチで、ゾナマの謎めいた生態系が描かれるんで、スター・ウォーズ世界とはあんまり関係ありません。まあ、かつてはスター・トレックを書いたりしてるし、最近は新ファウンデーションにも参加してるので、他人の土俵で相撲をとるのはベアのお得意なのかも。
 3月末までにひとつとか言われて引き受けたものの、途中、お葬式だのディックの翻訳だのが飛び込んだおかげでスケジュールが激しく遅れ、4月20日になりますと申告したものの、とても間に合わない感じ。ベアはノベライズでもみっちり書くので、翻訳に時間がかかってしかたないのだった。

ダーウィンの使者  ベアと言えば、『ダーウィンの使者』もようやく発売されました。
 四六判ハードカバー上下巻で、本体価格各1600円。
 ISBN4-7897-1537-X(上)ISBN4-7897-1538-8(下)。
 装丁は鈴木成一デザイン室です。

 プロットはこんな感じ。
 時は西暦二〇〇〇年代の初め。考古学者のミッチ・レイフェルスンは、アルプスの山奥で、ネアンデルタール人のものと思われる男女のミイラ化した遺体を発見する。女性のネアンデルタール人は、どうやら何者かに殺害されたらしい。遺体のかたわらには、産み落とされたばかりの赤ん坊のミイラ。だがその赤ん坊は、ネアンデルタール人ではなく、われわれと同じ現生人類――ホモ・サピエンスの一員だと判明する。
 同じころ、仕事でグルジア共和国を訪れていた分子生物学者のケイ・ラングは、国連からの依頼で専門外の法医学調査に駆り出される。大量殺人を隠蔽したとおぼしき集団墓地が発見されたのだ。発掘された遺体の多くは、赤ん坊を身ごもった母親たちだった。だれが、なんのために大勢の妊婦たちを殺害したのか?
 流産を引き起こす伝染病の噂を追ってグルジアを訪れていたCDC(疾病対策予防センター)のウイルス・ハンター、クリストファー・ディケンは、急遽本国に呼びもどされる。アメリカ国内で、流産胎児から未知のウイルスが発見された。どうやらこのウイルスが流産を引き起こしているらしい。胎児を殺すこの奇病に、CDCはヘロデ流感という通称を与える。だがそれは、ほんの始まりでしかなかった……。
 くわしくは、『ダーウィンの使者』訳者あとがきを参照してください(ちなみに、SFオンラインに掲載された尾之上俊彦氏による書評はここ
 見本が一巻本だったんであんまり実感がないんですが、大森望初の上下本の訳書です。高いけどひとつよろしく――と、たまには宣伝しておこう。




【4月15日(土)】


 ひさしぶりにユタに顔を出す。トマス・ハリス『ハンニバル』(新潮文庫)が話題。みんな読んでるハンニバル。高見浩訳とは知りませんでした。しかしちょっと見せてもらうと、菊池光訳の再現性が以上に高い訳文。冒頭の会話とか。生身の人間がしゃべっている言葉のように翻訳してはいけないというのが菊池訳の鉄則なので、苦労がしのばれる。あと、「あんな」「こんな」もNGで、かならず(会話でも)「あのような」「このような」としなければならないのである。

「なぜ、私にそのような話をしたのですか? なぜ、たんにそのように尋ねるために私を送り込まなかったのですか?」とか、
「あなたができる限り速やかに我々に協力しなかったら、私はあなたに対して次のような手を講じる」とか、
誰かが大サイズ店でそばに来て、あなたたちにくっついて回ったことがある、あるいは、誰かに目を付けられてる、とフレドリカが感じたことは?」とか。

 まだ買ってないので『ハンニバル』の翻訳がこのルール厳密に守っているかどうかは不明。
 三村美衣は、「クローフォド」が「クロフォード」になってるのが不満らしい。いきなりクローフォドはないよな、たしかに。あいだをとっても「クローフォード」でしょう。まあそれをいうなら、そもそも署名からして「ハンニバル」ではなく「ハニバル」が妥当ですが。だいたい「ハンニバル」では「カニバル」と合わないじゃないか。




【4月16日(日)】


 遅ればせながら、スティーヴン・キングの中編、Riding the Bulletをダウンロード。3月15日の公開初日に40万部――とか言ってるけど、有料購入者は何人いたんでしょうか。たしか初日が無料で、しばらく有料期間があって、いままた無料になってるのだった。
 全然知らなかったんですが、これってAcrobat Readerじゃなくて、Glassbook Readersを使うんですね。しょうがないのでGlassbookのほうも落とす。ただのpdf閲覧ソフトかと思ったら、購入手続きやウェブ・ブラウジングもこれ一本でできる仕組み。閲覧性能もAcrobatよりずっと優秀で、自動的にしおりがはさまれるし、一度でも読んだ電子本はライブラリに追加される。英語ソフトだけど、フォント埋め込み式のデータなら、日本語のpdfファイルも問題なく読めます。e-NOVELSのソフトを試しに読んでみたけど、これは快適。Acrobatと違ってページ送りもスムースだし、いずれ標準のpdfブラウザになるんじゃないでしょうか。




【4月17日(月)〜19日(水)】


 一日20ページのペースでひたすらSW/RPの翻訳作業。

 プラス、講談社文庫の清涼院流水『コズミック 水』の解説。最初はまじめにコズミック論を書きかけてたんだけど、あんまり面白くならないので10枚書いて放棄。『ジョーカー 涼』のほうは大塚英志氏の解説で、こちらは大々的に流水論を展開してるみたいなので、オレのほうはパス。

 ちなみに、文庫の末尾についてる「水」とか「涼」とかがどういうことかというと、
 無難な読み方でも、無難な範囲内のでの読後感は得られるでしょう。でも、あなたがもし、退屈な日常生活に嫌けがさして、生涯で未体験の刺激をお求めなら、大アタリか大ハズレか気にせず、のるかそるか、迷わず第三の読み方を選択されますようオススメします。
 この本――『コズミック 流』から始め、漢字が「流」→「清」→「涼」→「水」と並ぶ順番が、あくまで理想です。『コズミック』(流と水)の中に『ジョーカー』(清と涼)をサンドイッチするこの読み方によって、あなたが「流水の中の清涼――清涼IN流水」の神髄を堪能してくださいますよう切望しています。
 だそうです。やるなあ、流水。

 ちなみに、書きかけて放棄したもうひとつの解説の冒頭は、「推薦文」の解説からはじまる(笑)。この調子で書いてると30枚ぐらいになってしまうことに気づいて放棄したんですが、せっかく書いたので一部を再録する。
 さて、通常、文庫本の解説は、本の内容を賞賛することが暗黙裡に求められている。どうしても誉められない内容だった場合は、著者との交友とか、書誌学的な情報とか、あたりさわりのないことを書いてお茶を濁すわけだが、本書に限って、そうした手法は通用しない。
 そもそも、この解説を書くという栄誉がわたしに与えられたのは、たまたま「講談社ノベルス版『コズミック』初版の帯に文章を寄せていたから」にほかならない。通常、「推薦文」と呼ばれるこの文章は、おそらく解説以上に強く、「本の内容を賞賛すること」が求められているのだが、わたしはすでにこの段階から暗黙の規範を大幅に逸脱している。大森が書いた帯裏の文章は以下の通り。

  ついに奈落の王が召喚された。
 「おまえはもう死んでいる」
  新本格最凶のカードがミステリの幸福な時代に幕を引く。

 伝え聞くところによると、できあがった本を受けとって帯裏の文章を見た著者は、「これって誉めてないよね」と言ったそうだが(真偽不明)、まったくその通り。どう見ても誉めてはいない(ちなみに、作家の竹本健治氏も、大森と同時に「推薦文」を寄せている。いわく、「ミステリという伝言ゲームの果てに咲いた異形の妖化」)。
「新本格最凶のカード」とは、講談社ノベルス版『姑獲鳥の夏』(京極夏彦)に竹本健治氏が寄せた推薦文、「近年勃興したミステリ・ルネッサンスは、ここに到って、ついに最強のカードを引きあてた」を下敷きにしている。
「奈落の王」は、当時大森がハマっていたトレーディング・カード・ゲーム、Magic: The Gatheringに登場するカード、Lord of the Pitの日本語名で、味方のザコキャラを餌に与えないと暴れ出すという凶悪なクリーチャーなのだが、いかなる偶然か、『コズミック』の直後に刊行された京極夏彦『絡新婦の理』には、「古の作法通りに召喚すれば、奈落の王はいつでも力を貸してくれる」というセリフがあり、評論家の鷹城宏は、この「偶然」に言及しつつ、
人を操るということの愉悦と愚劣さとが、異常なほどに先鋭化・肥大化した作品であるという一点において、『コズミック』と『絡新婦の理』は酷く似通っている」と指摘する(『DANCE UPON NOTHING ―虚空の舞踏―』所収、「コズミックの空白へ」)。
 また、(竹本健治『ウロボロスの基礎論』の主要登場人物としても知られる評論家)田中幸一は、『別冊シャレード 清涼院流水特集』(甲影会)に掲載の「二枚のカード」なる文章で、「最強のカード」=京極夏彦と「最凶のカード」=清涼院流水を比較対照し、どちらも「新本格ブーム」から生まれたものである以上、片方を不当に無視するのはまちがいだと主張する。
 一方、清涼院流水はどうか。(中略)彼は昨今のミステリファンと同様、まず「新本格ありき」の人なのではないか。その結果、彼の作品は三次生産物的「誇張=肥大」という特徴が現れ、その「新しさ」はもはや「奇形」の域に達している。まさにそれは「濃すぎた血の悲劇」なのである。

 わたし自身は、『コズミック』の帯に文章を書いた時点で、京極夏彦と清涼院流水を比較する視点などまったく持っていなかったのだが、『コズミック』以後もこうして「伝言ゲーム」はつづいているらしい。
 などなど。



【4月20日(木)】


 午前4時起床。SW/RPつづき。自分で設定した締切は今日だったのに。まだあと100ページあるじゃん。やれやれ。

 朝刊をなにげなく開いたら、若竹市議ネタがいきなり第三社会面で記事になってて爆笑。
『「レイプする」女性市議をネット脅迫』って、それはニュアンス的に違うんじゃないの。元凶は2ちゃんねるの「都知事、府知事」板にあるスレッドなんですが、削除板からの流れで、たまたま最初のほうから読んでたんですね。そりゃまあこの集中砲火はちょっとかわいそうだけど、ネット的には自業自得でしょう。
 しかし、この速度には驚くしかない。大元のスレッドが立ったのが17日、削除要請が19日、朝日の記事になったのが20日の朝刊。東芝サポート問題を活字メディアが報じるまでに一カ月ぐらいかかったことを考えると、電光石火の早業である。
 というわけで、さっそくアスキーのコラムのネタにさせていただく。ありがたいことである。

 2ちゃんねると言えば、このところ、ミステリー板の「MYSCONいかがでした?」スレッドが話題騒然なんですが、よくもまあ参加してない連中ばっかりでこんなに話がつづくなあとか思いつつ読んでたら、「大森望推薦本はなぜつまらないか」というスレッドが登場(笑)。
 帯の文章って、ふつう「推薦文」と言われてますが、大森の基本的なスタンスとしては、いわゆる「推薦文」じゃなくて、キャッチコピーに近い。元編集者で、昔さんざん文庫の帯を書いてたせいか、どうしてもコピーになっちゃうんですね。「ウソはつかない」というのがポリシーで(「嘘ついてなければ無実なのか!?」という問題はともかく)、『コズミック』の帯みたいに、単語は基本的に切り張り。『忌まわしい匣』と『ブラッド』の戸川純シリーズとか。
 あと「○○氏大絶賛」とか「○○氏推薦!」とかって部分は基本的に編集部の裁量なので。だいたい帯の場合はゲラを見せないの慣例になっているらしく、写植が上がってきても、親しい編集者以外からは、「こうなりました」って見せてもらうことがない。できあがった本の帯を見て仰天することもしばしばです(『クリスタル・サイレンス』とか)。
 当然のことながら、「推薦」する本は自分で選ぶわけじゃなくて、「これこれこういう本を出すんですが、読んでみてください。可能ならなにかひと言……」みたいな電話がかかってくるわけで、引き受けるほうとしては、「文庫の解説の短いやつ」ぐらいの感覚だったり。

 ちなみに、過去、大森が、「初版刊行時に、帯・カバー裏に文章を寄せた本」という基準でつくった「推薦本リスト」は以下の通りです。

 清涼院流水『コズミック』, 米田淳一『プリンセス・プラスティック』, 乾くるみ『Jの神話』『匣の中』, 西澤保彦『人格転移の殺人』, 高里椎奈『銀の檻を溶かして』(以上、講談社ノベルス), 篠田秀幸『悪霊館の殺人』(ハルキノベルス), 北野安騎夫『グランド・ゼロ』(トクマノベルス), 藤田雅矢『蚤のサーカス』(新潮社), 宮部みゆき『クロスファイア』(カッパノベルス), 牧野修『忌まわしい匣』, 倉阪鬼一郎『ブラッド』(以上、集英社), 月森聖巳『願い事』(Aノベルス)





【4月21日(金)】


 午前6時起床。月刊アスキーのコラム原稿と、小説すばるの書評(今回は村上龍『共生虫』)を書き、SWRPを20ページ進めてから、新宿3丁目で《恐怖の会》。
 今回の会場はセゾンプラザのイタ飯系居酒屋でしたが、値段のわりに料理は優秀。まわりが若干うるさいのが難点だけど、まあプレMYSCONのときよりははるかに静か。

 幹事はMYSCONスレッドで話題沸騰のフク氏。
 もう一個の話題は愛・蔵太氏でしょう。あいさつでいきなり、「2ちゃんねるの大森スレッドを立てたのはわたしです」と宣言。なるほど、
ミステリ者の心をまったくくすぐらないクズ本の帯で無駄に絶叫する
役に立たない評論家に鉄槌を。
 と書いたのは愛・蔵太だったのか。言われてみると、「あー、弁護する人がいてもいいです」ってつけ加えるあたりがこの人らしいことである。
 岩井志麻子さまもあいかわらずたいへんな勢いで飛ばしてますが、いいのかそんなことで。ぼっけえ兄弟(きょうでえ)とか。ああおそろしい。こういうひとが山本周五郎賞の候補になるとは世も末である。周五郎にチクってやる。

 二次会のカラオケでは「倉阪鬼一郎、炸裂」事件があったらしいが、SW地獄中の大森は先に帰ったので知りません。ていうか、さいとうよしこから微に入り細にわたって報告を受けただけですが、詳細は一般的掲示板2参照。


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