【2月1日(火)】


 駸々堂書店倒産のニュースに驚く。京宝店の店舗はどうなるんだ。ふつうにやってれば倒産なんかしないと思うけどなあ。

 午後4時、本の雑誌編集部@笹塚で、《最強のろくでなし》座談会。最終的に大森が今回エントリしたのは、『火星人ゴーホーム』の火星人、《JDC》シリーズの探偵全員、『セックス・スフィア』のアルウィン・ビター、『ソラリスの陽のもとに』の惑星ソラリス。予想通り、女にだらしない系のろくでなしが多数を占め、厳しい戦い。しかし途中から意外な伏兵が飛びだし、意外な結果になりましたが、詳細は3月発売の《本の雑誌》をどうぞ。

 終了後は例によって池林房。

 ミステリマガジン3月号の座談会〈隔離解放戦線〉中の「N氏事件」について、二階堂黎人氏からクレームがあったという話を茶木則雄が披露する。そりゃ当然あるでしょ、というのが大森の反応。
 あの座談会読んだとき、なんで今頃ミステリマガジンでこんな話をしなきゃいけないのか全然理解できなかったもんな。そもそも週刊文春ベストテン問題が公の場で言及されたのはぼくの知るかぎりじゃ日本推理作家協会の協会報だけだし、一般読者には関係がない話。百歩譲ってジャーナリスティックなトピックとして扱うにしても、(海外ミステリファンが読者の中心を占める)ミステリマガジンは舞台として不向きだと思う。(だいたいこの日記でさえ一切言及しなかったぐらいだから、最初から業界外には無関係な話だとオレは思っていたわけである)
 いや、あの事件のせいで年末年始のフェアがなくなったんだから、読者にも無縁ではないっていうのが茶木さんの反論だけど、確定前の集計結果が外部に漏れたのと、発売日まで集計結果を外に出さないことにしたのとは別問題でしょう。
 あと、「中間集計を二階堂さんが勝手に最終結果だと思いこんで騒いだ」みたいな言い方になってるのも問題。「文春のベストの結果が出ました」ってリストがファックスされてくれば、だれだってそれで決まりだと思うでしょ。
 文春でもこのミスでも、投票締切後しばらくすると、どこからともなく集計結果が回ってくることはよくありますが、そういうのはふつう、確定結果として扱われる。一回それが外に出ちゃったあとで、締切後に到着した票を加えて再集計し、なおかつ順位が変わるっていうのはまずいでしょ。
 これで確定かどうかに関して、社内で認識が一致してないなんてことはよくある話で、だれかが先走って情報を流しちゃったんだろうけど、少なくとも、集計結果が外に出たことについては全面的に文春サイドに非がある。だから週刊文春側が、ご迷惑をかけてすみません、以後情報管理を徹底させますと詫びを入れて終わった話だというのがぼくの理解。
 その範囲では、二階堂さんがクレームをつけるのは正当だし、あのベストテンが「日本推理作家協会会員全員へのアンケート」というかたちをとっている以上、推協を通じて抗議するのも理解できる。
 週刊文春側がそれに過剰反応して(?)、発売日まで集計結果を秘密にすることを選択したとしても、べつに二階堂さんに非はないでしょ。

 ただし、これはあくまでも「不幸な事故」だったというのが大森の見解。意図的な投票操作によってベストテン結果が変わったという不正投票疑惑に関しては、百パーセント否定的な立場。茶木さんがその犯人と名指しされたというのが事実だとすれば、怒るのも無理はない。茶木さんに限ってそんなことをするはずはないとかそういうことじゃなくて、べつに直接の利害関係があるわけでもない書評家が、わざわざそんなマメなことするわけないよ、という生活感情にもとづく判断です。
 ベストテン結果をそういうやりかたで操作する可能性がゼロだというわけじゃない。編集部レベルでなら、ありえない話じゃないでしょう。自分が担当した本をどうしても売りたい編集者があちこち頼んで回ることもあるかもしれない。しかし投票依頼に失敗して、そういう依頼があったことを口外されるリスクを考えると、よほどの場合に限られるのでは。

 しかし、茶木さんによれば、「茶木則雄が裏で暗躍した結果、『司法戦争』がベストテン入りし、『人狼城』が落ちた」という噂はけっこう広まってるんだそうで(ちなみに大森自身は聞いたことがありませんでした)、それがあの座談会の遠因になってるらしい。そんなこと言ったって読者には関係ないレベルの話だよなあと思うわけだが、この件に関しては一歩も引かない様子。
 二階堂さんと直接対決するなら、掲示板をいくらでも貸しますよと言っておく。北上次郎は、「そういう議論はオープンなところでやったほうがいい。活字媒体でやれ」という立場。ウェブがオープンな場所じゃないという考えはいまどき認識不足じゃないかと思うんですがどうですか。(以下、2月3日の項に関連記事あり



 飲み屋でこんな業界話をしてる事実を報告すると、またしても書評家闇カルテル説(笑)に信憑性をつけくわえそうだが、小説をめぐる議論もやけに熱っぽい。ていうか、いまどきのSF研やミステリ研の若者は小説についてこんな熱く議論しないと思いますね。
 今夜の主な話題は『白夜行』vs『永遠の仔』
「正直言って、ぼくは『永遠の仔』で三回泣きました。でも、そのあとで『白夜行』を読むと、やっぱり小説としての出来は『白夜行』のほうが上だと思うんですよ」
 と言う北上次郎に、小説としての欠点を認めたうえで、感動で上回る『永遠の仔』の勝ちを主張する茶木則雄。小説を読んで感動しない大森はともかく(笑)、仲間だと思っていた北上次郎に裏切られたのがショックだった模様。
 『永遠の仔』評価をおおざっぱに整理すると、
茶木「感動した。小説にいちばん大事なのは感動だ」
北上「たしかに感動はしたが、小説は感動だけではない」
大森「感動もしないし、感動なんかどうもでいいじゃん」
 ってとこでしょうか。もっともオレだってべつに『永遠の仔』は嫌いじゃないし、いい小説だと思います。ちょっとくどいのと(そういうタイプの小説じゃないのに)造りが透けて見えすぎるのが気になるだけ。
 まあしかし、茶木さんと並ぶと、北上さんの小説評価はまだしも(オレにとって)穏当に見えるのだった。
 というわけで茶木則雄とは対立以前に議論にもならないわけですが、「泣ける小説」愛好者がSF読者の中にもたくさんいる(ていうかむしろ多数派である)ことは、オールタイムベストその他の結果から明らかなんですね。したがって、茶木則雄タイプの書評家がSF業界にいないことのほうがむしろ問題かもしれない。『キリンヤガ』の感動を熱く語り、イーガンなんか心に響かないからダメだと切って捨てるような人ね。

 茶木さんはさらに深くパソコンにハマり中。vectorでフリーウェアをかたっぱしから落としてきてインストール、便利になったと喜んでいる模様。こないだ会ったときはまだ右クリックを知らなかったのに、今は、「とにかく右クリックが楽しくてさあ」という状態とか(笑)。
 茶木×北上のパソコン談議は横で聞いてるとめちゃくちゃ笑えるので、茶木さんがこれ以上学習しないうちにどこかのパソコン誌で対談させるといいかも。茶木さんは《ぱそ》を愛読してるとかで、「原稿書かしてくれないかなあ」と言ってたことも申し添えておきます。
 それにしても、小説の話をしてるとき、やたらにPC関係のよくわからないアナロジーを持ち出すのはどうか。
「だからそんなこと言っても、しょせんシェアが10パーセントしかないマックみたいなもんだよ」とか。まああの調子でフリーウェアをインストールしまくってると、そのうち重大な不具合が発生する可能性は高いので、パソコンもいいことばかりじゃないと思い知るでしょうが。

 眠いので飯食ったらとっとと帰ろうと思ったのに、人数が足りないからと無理やり雀荘に拉致される。北上・茶木・菊池仁と囲んでるうちはまだよかったが、菊池仁氏が終電で逃亡、かわりに太田トクヤ氏が入ってからドツボの展開。こんな麻雀はただの博奕でしょう、みたいな。だいたいオレは、赤もチップもワレメもカン裏もトビもウマもない東南まわしの競技麻雀的なルールで育ってるので、こういう麻雀にはなかなか慣れない。16,000とか24,000の上がりが当たり前だもんなあ。
 と嘆きつつも終盤になって多少挽回。21,000ガバス程度のマイナスに抑えて本日の収支決算としては赤字が出なかったのはさいわいである。結局、太田トクヤ氏のひとり勝ち。まあ池林房チェーンにはお世話になってますから。

 午前5時終了、タクシーで帰ろうかと思ったが負けたので始発帰宅。さびしい誕生日である。




【2月2日(水)】


 午後5時、新宿武蔵野館地下のカラオケボックスでLove&PlayStationの収録。今回のゲストは岩井志麻子さん。例によって絶好調でした。うーん、どこまで掲載していいものか。

 インタビュー後、ロッテリアでしばらく仕事。誕生日の夕食がハンバーガーとわ。いつぞやのS澤編集長みたいだな(笑)。
 眠くてしょうがないので仕事を切り上げ、『リング0』を見る。後半の展開に仰天。あれでは全然『リング』につながらないぞ。どうしてみんなそろってトラックに乗りますか? いや、たしかに「理屈のない恐怖」だけど。わからん。謎すぎるーーー。

 明日の正午までと言われてるメンズ・ウォーカーの原稿が全然進まない。ベストテンをいいかげんに選びすぎたのが敗因か。しかも「インタビューされてる風」の原稿にすることになったので調子が出ない。あきらめて仮眠。




【2月3日(木)】


 午前5時に目が覚めたので原稿を再開。仕事場で資料を調達し、ウェブ上でデータを集める。とくに海外ホラー方面が苦しいなり。苦しいなりになんとかでっちあげ、家に帰ってブラッシュアップして12時過ぎに送稿。

 ひさしぶりにNIFTY-Serveを巡回し(というか、オートで回ってるPatioや会議室のログに目を通して)、二階堂黎人氏が《隔離解放戦線》に反論するウェブサイトを立ち上げたことを知る。二階堂黎人の黒犬黒猫館で、「座談会 隔離解放戦線」の嘘を暴く! 「ミステリマガジン」2000年3月号についてと題する文章が掲載されます。

「文春アンケート問題」の経緯については、大森が聞いている話とほぼ一致するから、細かいことは知りませんが、とくに一方的な要約じゃないと思う。
 また、座談会中の、事実関係の誤認(あるいは読者に誤解を与える表現)に関する反論についてはほぼ同感。ていうか、茶木さんに大森が口頭で指摘した問題点とほぼ同じですね。
 ただし「前書き」はいただけない。前から気に食わないやつだったけど――みたいなことを前書きに書くのはかえって本論の信憑性にマイナスの影響を与えるんじゃないでしょうか。
 あと、「編集部判断でアンケートの締切をのばすこと」については、どこの編集部のベストテンでも日常的に行われていることで、アンケート投票者に事前の断わりなどないのがふつう。たとえば大森の場合、週刊文春を含めて、年間に約15本の年間ベストアンケートに回答していますが、公式の締め切り日に間に合って投票したのは2回だけ。オフィシャルな締切後2週間ぐらいたって「なんとか今週中ぐらいにひとつ」みたいな催促があって、あわてて投票するなんてことも日常的。
 とはいえ、週刊文春のベストは影響力が大きく、回答資格が特殊で(編集部が勝手に選んだ回答者ではなく、推理作家協会会員には全員回答資格がある)、編集部から投票の催促がない(少なくとも大森は「まだ投票が来てないですが」と言われたことはない)ことを考えれば、「締め切り日は厳格に適用せよ」という主張が出てくることは理解できる。
 もっとも、締め切り日が厳格に適用されれば不正投票疑惑がなくなるかと言えば、それはまたべつの問題では。ファックス投票を受け付けている以上、締切時刻一時間前出た中間集計をもとに未投票者に投票を促すことは可能なわけで、問題は、「中間集計が外部に漏れること」だけに集約されると思う。二階堂さんのこだわってる締め切り日問題は本質じゃないでしょう。

「ハードボイルド閥や新本格閥」についての反論も、あまり説得力があるとは思えない。つまり「ハードボイルドも読む新本格ファン」は、「新本格も読むハードボイルドファン」とどう区別されるのかってことですね。「××閥」的な物言いを否定するなら、「そもそも××ファンという見方自体がおかしい」ってところに持っていかないと。
 まあそれ以前に、座談会中の関連発言は、そういうこと(特定ジャンルの小説だけを読む人の存在)を前提にしてるわけではないと思うんだけど。

 ちなみに二階堂さんの、
 はっきり言うが、(もちろん、中には一つのジャンルしか読まない読者もいるだろうが)新本格(あるいは、本格ミステリー・ファン)の多くは、様々なジャンルのミステリーを読んでいる。
 という主張は、e-NOVELSの連載エッセイ、「e-NOVELSへの道」第3回で我孫子武丸が書いている、
 余談だが、印象として、ハードボイルド・冒険小説のファン、評論家を名乗る人々が本格ミステリをあまり読まないのに対し、本格ミステリファン・評論家は広義のミステリ全体をカバーする傾向にあるようだ。身も蓋もない言い方をあえてするなら、本格ミステリファンにはおたくが多く、勉強家で頭も良い、ということになろうか。
 という説とパラレルな関係にある。広義のミステリ全体をカバーしてるなら、それは「ミステリ評論家」だったり「ミステリファン」だったりするのでは。「探偵小説研究会のメンバーは」とか、「創元推理評論賞出身者は」とかいうならまだわかるけど。たとえばぼくの感覚では、千街晶之は「本格ミステリ評論家」じゃなくて「ミステリ評論家」だし。

「銀座あたりでただ酒」問題については、文化的背景の違いとしか言いようがない。「銀座で」接待を受けることがある種のステータスと見なされる文化圏は確実にあるので、「オレは銀座で接待されたことなんかない。だれのことだよ」と関口さんが反応するのは理解できますね。しかし返事がないという文句をわざわざミステリマガジンの座談会の註に書くか?

「7、3氏にお願いしたいこと」は、明らかに二階堂さんの書きすぎ。「私のことはほっといてくれ」なら理解できますが、「私たち」とか「本格ミステリー」とかに言及するなっていうのはちょっとどうかと思います。座談会への反論をまともに受けとってもらうことに関してはマイナスでしょう。

 なお、この問題に関しては、2月7日現在、「新・大森なんでも伝言板」で継続中。大森の『「二階堂黎人の黒犬黒猫館」開設』以降をご覧ください。




 午後7時、早川書房7階の会議室で、SFマガジン増刊号用の年間回顧座談会。この増刊号は、『このミス』のSF版。SFM年間ベストの投票結果を中心に、1999年に出たSFを総括する内容。タイトルは『SFが読みたい2000』となり、これから毎年出していく予定らしい。やっぱり頭に『この』をつけてほしかったと思うのだが。
 ちなみに企画段階の仮題は「このSFが(あのミステリーより)すごい」とかそういうのだった(笑)
 座談会出席者は、国内編が鏡明、香山二三郎、三村美衣、海外編が鏡明、牧眞司、山岸真で、両方とも大森が司会。鏡さんに出てもらえればそれで満足って感じだったんで、個人的には面白かった。しかし盛り上がるネタは結局イーガンとカムナビだったり。
『キリンヤガ』『スタープレックス』支持派が全然いなかったのがなんとも。

 4時間しゃべったあと、神田駅そばの中華料理屋でラーメン。終電のなくなった三村美衣を連れて帰宅。「風まかせ月影蘭」とか「スーパーミルクチャン」とか見ながらだらだら。


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