【1月26日(水)〜27日(木)】


 角川エンターテインメントの新刊、尾崎諒馬『死者の微笑』を読む。『思案せり我が暗号』につづく第二長編。前作同様メタフィクション仕立てで、折原一っぽいところも少々。
 メイントリックの「死者からの手紙」は、露骨な手がかりが提示されるため、すぐにネタの見当がついてしまう。現実/虚構のネタもバレバレで、「読者への挑戦」には模範回答が提出できるのだが、それでも後半の展開は面白く読める。問題は中盤が退屈なことかな。『ブラインドタッチ』がはやく読みたい。

 ハヤカワ文庫SFの新刊、ヴォンダ・マッキンタイア『太陽の王 月の妖獣』は、ネビュラ賞受賞の改変歴史SFっていうより、宮廷ヤングアダルト。上巻の会話のテンポはそれこそ〈デルフィニア戦記〉を彷彿とさせるぐらいで、マッキンタイアってこんなに会話がうまかったっけ? プロットの骨格は非常にシンプルかつ陳腐なんだけど、肉付けでカバーしてます。うーん、その意味では『ドゥームズデイ・ブック』に近いのか?
 フェミニズム小説的にもくるみかたがうまいと思った。お兄さんとの関係の変化とか。ただしヒロインがスーパーウーマンすぎるのが難点。天才が体制の抑圧と戦う話だと思えばこんなもんか。それにしてもこの本の翻訳は苦労がしのばれることである。




【1月28日(金)】


 東映試写室で「うずまき」「富江replay」。元スターログ編集部で、ギャガ→アミューズと移籍したS藤くんとひさしぶりにばったり。いまは東芝でDVDの宣伝プロデューサーをしてるらしい。PS2発売でDVD業界がどうなるか。DVDレンタルはきちんとシステム化したほうがいいと思うんだけど。
「うずまき」は、(ビジュアル的に)時かけホラー版。大林映画のマット合成がCGIで現代に甦る? 主演の初音映莉子は悪くない。監督はHigchinsky(樋口暁博)、特殊造型は「妖怪侍」――じゃなくて「さくや 妖怪伝」の原口智生。評価が分かれそうですが、オレはけっこう好き。ヒロインの親友役で三輪明日美も出てるし。しかしプレスに全然名前が出てないのはどういうこと? そりゃ佐伯日菜子の怪演(最近こんな役ばっかでかわいそう)のほうが目立つにしても、セリフも出番も三輪明日美のほうが多いだろう。
「富江replay」は、宝生舞が富江役。メイクと撮りかたは悪くないが、「富江」の菅野美穂にくらべるとセリフがダメ。主演の山口紗弥加は可もなく不可もなくでしょうか。一応映画にはなってるというレベル。

 神田にまわり、小鍛冶で仕事。アスキーのコラムを送ってから、早川書房。S澤SFM編集長が『クリスタルサイレンス』の藤崎慎吾氏にインタビューするというので、横から見学。いちばん驚いたのは、「すいません、『火星転移』は読んだんですけど、『レッド・マーズ』は読んでないんです」発言。冒頭のシーンも『2001年』のことは全然頭になかったとかで、けっこう意外。《宇宙塵》の例会には何回か出てるけど、それ以外のファングループの集まりもコンベンションもまったく出たことがないそうです。  SF者とのファーストコンタクトは、大学時代。学食だか教室だかで、《宇宙塵》広げて読んでたら、 「もしかして同人のかたですか?」と声をかけてきた男子学生が一名。それが山岸真だったという(笑)。読んでるのがペーパーバックだったら《ぱらんてぃあ》に誘われてたに違いない(あ、それで思い出したけど、森太郎はカタカナで《パランティア》と書くのだけはやめるように。気持ち悪いから)
 写真も撮影したので、SFマガジンよりはやく著者近影を載せておこう。
 インタビュー終了後、近所の台湾小皿料理屋に流れて三人で食事。

 都営新宿線で新宿三丁目に出てロフトプラスワン。木原浩勝氏がホストで、鶴田法男氏と高橋洋氏との鼎談トークを見物。アスミックのO川プロデューサーが来てたので、最近の邦画ホラーの興行とか新作とかの話を聞く。
「さくや 妖怪伝」はこないだ製作発表があったそうで、タイム・ワーナー資本ならそれなりに予算もあるだろうし、完成が楽しみ。たしか伊藤和典氏の脚本はずいぶん前からできてたはずで、五年越しぐらいの企画だと思った。そういえば京極さんが題字を書く話はどうなったんだろうな。主演は安藤希、2月にクランクインらしい。

 客席にいた岩井志麻子女史を捕まえて、LOVE&PlayStationのたこあしトーク出演交渉。快諾をいただき、来週水曜日ってことで仮フィックス。をを、おれの誕生日ではないか(笑)。
 誕生日と言えば、倉阪鬼一郎氏は今日が誕生日。いよいよ40歳ですか。大森はまだはるか先です。ええ、先ですとも。

 起きたのが午前4時で強烈に眠くなり終電帰宅――と思ったら、西武新宿線が動かない。前の準急が高田馬場で、遅れている山手線の時間待ちをしているらしい。こんなとこで止まってると東西線の西船橋行き終電に間に合わなくなるのでは。
 と思ってたら、東西線で西船橋をめざす人々が運転士に直談判。東西線に連絡して、終電を馬場で待たせておくようにしますから、ってことで話が決着。馬場に着くと同時に、「西船橋方面の電車にお乗りのかたはお急ぎください」のアナウンス。
 十人ぐらいが階段を駆け下りて東西線を目指す。が、ホームに電車はない。怒り心頭に発した中年サラリーマンがホームにいた助役に「どうしてくれるんだ」とかけあいはじめる。
「待ってるって約束だっただろ」
「いや、待たせてたんですよ」
「電車いないじゃないか」
「2分待ったんです。でもそれ以上待つと、今度はこちらの電車が飯田橋や日本橋でほかの電車に接続できなくなりますんで」
「それはそっちの事情だろう。おれたちは終電が馬場で待ってるって言うから、こっちに来たんだぞ。タクシー代だれが出すんだよ」
 と押し問答。まわりのOLも、「そうよ、わたしなんか、どうせ間に合わないんなら新宿から総武線に乗ったほうがタクシー代安かったのに」
 と加勢する。
「そうよそうよ。いっつもそうなんだから。ほんと、不親切よねえ」
「いいかげんにしてほしいわ」
 と、いまどきのOLもこういうときだけは女言葉になるのだった。
 どう考えても、悪いのは安請け合いした西武線の運転士の対応で、東西線高田馬場駅助役に罪はないのだが、ここに居合わせたのが不運。
 だが、捨てる神あれば拾う神あり。談判の輪には加わらず、うしろのほうで聞いていたいた若いアベックの女のほうが、連れに向かって、
「おじさん、かわいそう!」と一言。「かわいそうだよ、なんにも悪くないのに。ねえ、かわいそうだよねえ」
「はあ?」
「だっておじさん悪くないよ」
「だったらおまえ、そう言って戦ってこいよ」
「えー、やだあ。こわいもん」
 結局、戦力にはならなかったが、きみにはちゃんと味方もいるぞ、助役くん。
 って、よく考えたらまるで掲示板の吊し上げ論争とROMの人みたいだと思いました(笑) 教訓:ROMの声援は役に立たない。

 というわけで電車には乗り遅れたけど、かわりにでっかいものを得((C)スチャダラANI)て、東陽町からタクシー帰宅。




【1月29日(土)】


 午前2時から爆睡の予定が、目にゴミが入ったらしくて明け方目が覚める。風呂に入って目薬を差し、寝床で本を読みつつまた寝て、次に起きたら夕方。なんだ、もう陽が落ちてるのかと思ってまた寝て、結局20時間ぐらい寝てしまったので土曜日はナシ。




【1月30日(日)】


 夜中から朝まで仕事。

 昼前に帰宅して井上夢人『オルファクトグラム』。『カニスの血を嗣ぐ』と同様、嗅覚探偵小説(連載開始は『オルファクトグラム』のほうが早い)だけど、犬より鋭くなった嗅覚が視覚イメージとして伝わるところが井上さんらしい。つまり、匂いは言語化しにくいというか、論理的な文章になじまないわけで、視覚化することではじめて体系化できる。
 そのへんの手続きは非常にSF的。理屈の上での飛躍は小さいんだけど、実行レベルではグレッグ・イーガンに近いかもしれない。
 犬のように這いつくばることで嗅跡を追えるんだけど、それじゃ体裁が悪いし体が疲れる、じゃあ道具を使ってなんとかできないか、とかさ。
『カニス』が幻想的嗅覚小説だとしたら、『オルファクトグラム』は科学的嗅覚小説。オレ的には巻き込まれ型日本SFの系譜に属する。
 結末も、この種の小説のラストにいつも感じる不満を解消してくれるもので、満足しました。




【1月31日(月)】


 夜中に起きて、午前1時からスペインリーグ。あそこでパス出すのが城だよな。しかしそういう性格でこの先だいじょうぶなのか。首位チーム相手に3点差をつける大勝とあってホームのサポーターの声援も暖かかったし、結果的にアシストになったからいいようなものの、このままでは得点なしでスタメン落ちしそうな気が。スペイン行ってまで守備的フォワードやらなくても。BSの中継は実況が城の話しかしない。中田デビューのころのWOWOWのペルージャ戦中継はもうちょっと冷静だったと思うけど。
 それにしても城くんは異常に愛されてますね。スペイン人は日本人が好き?

 ロイヤルホストでちょっと仕事してもどってきて、今度はCXでセリエA。ローマ×インテルの前半だけ中継。バッジオ最高。ビエリはあんまり好きじゃないんだけど、バッジオとビエリのツートップは破壊力抜群。そこにシードルフがからむんだから、後半戦のインテルは台風の眼になるかも。ボランチでスタメン出場の中田くんはまあまあの働き。でも守備にはやや不安が。もっと当たりにいかなきゃ。

 メンズ・ウォーカーの花田紀凱編集長から架電。ホラー特集用にベストテンを選んでくれと言われてて(ほんとは近所の人と対談のはずだったんだけど、近所の人が忙しくて逃げてしまったらしい(笑))、とりあえず国内作家でかためたベストを送ったら、海外のベストも選べと言われて四苦八苦。写真撮影のついでに選んだ本を持ってきてほしいと要請され、仕事場で本を発掘するのにさらに四苦八苦。ホラー関係は本を整理していないので出てこない。『ウィスパーズ』とかどうして見つからないかな。

 とりあえず見つかった本だけ袋に詰めて全日空ホテル。今日は角川のアニメコミック事業部新年会なんですが、社長用・来賓用にキープされていた控え室を借りて写真撮影。花田編集長らしいというかなんというか。
 撮影終了後、メンズウォーカーのN田さん、花田さんとティーラウンジで打ち合わせと雑談。花田氏は意外とたくさん小説を読んでて驚きました。クーンツが好きで、最近は新堂冬樹がちょっとだけマイブーム……とか。さては北上次郎‐茶木則雄系かと思うと「アン・タイラーがすごく好きなんですよ。雑誌で特集やりたいと思ってるんだけど」とか言ってて侮れない。クーンツの趣味は正統派。『永遠の仔』『白夜行』あたりもきっちり抑えてます。
 週刊文春時代の超訳批判特集の話になり、コラムのネタにさせていただいたお礼を言う(笑)。今日が初対面だったんですが、カリスマ編集者な感じはなくて、本の話をしてるかぎりは読書家のおじさん。しかし編集長みずからこんな企画の打ち合わせ現場にお出ましになってていいのか。
 ……と思ったら、「ベストテン出して簡単にコメントを」みたいな話が、じつは4ページの企画だと判明。しかも木曜の昼までに原稿を、とか。剛腕編集長でなければできない仕事である(笑)。
 もらった見本誌の表紙がイラストだったんで、「写真はやめたんですか?」とたずねると、
「いやあ、写真でやりたかったんですよ。でも離婚特集なんでね、だれに頼んでも断られちゃって。ほんとは大隅賢也とかで行きたかったんですけどねえ。わっはっは」とか。

 6時半からアニメコミック事業部新年会。今日はまたいちだんと長い社長挨拶につづいて、竹宮惠子、天野喜孝両氏のスピーチ。天野さんをパーティで見るのは珍しいと思ったら、そういうことですか。珍しいついでに、あらきりつこ女史にツーショット写真を撮ってもらいました。
 スピーチの最後は、全日空ホテルの料理長による本日の料理紹介。子豚の丸焼きが目玉らしい。シェフが挨拶するパーティは初めてだけど、いい趣向だと思いました。
 富野監督、サンライズ社長以下、∀ガンダム組多数。富野さんのところに挨拶に行って、∀に対する愛を告白する(笑)。しかし「そうですか。いや、ぼくのところにはそういう声が全然聞こえてこないんだよね。それであなたはどこが面白いの?」と突っ込まれて緊張する。でもマニューピチ編に対する文句はちゃんと言いました(笑)。

 ふだんと違う業界の人が多いので(大森が認識できる)珍しい顔もちらほら。抽選会の司会は川澄綾子嬢だし。藤原カムイさん、弟の勤務先の上司の人(笑)ともひさしぶり。佐川さんはなんかすっきり痩せてたような。ダイエットに成功したのか。
 梅チャーハンの人はロフトプラスワンの武勇伝を披露して(周囲に披露されて)ウケまくり。

 バンダイビジュアルの渡辺さんとも、シド・ミードのとき以来。渡辺さんがウォーショウスキー兄弟と向こうで会ったときの話になり、
「あいつら、『マトリックス』を日本でアニメ化してくれませんかね、って言うんだよ。そりゃ『攻殻機動隊』だよ、って(笑)」とか。

 ウォーショウスキー兄弟と言えば、今度創刊される雑誌で兄弟と某氏の座談会企画があり、その司会にLAに行ってくれないかと打診されてるんだけど、来月はスキーの予定も入ってるしなあ。フレッド・ショットに通訳を頼めばそれで済んじゃう話でしょうと言ったんですが、どうなることやら。

 あとは高千穂さんとまたしてもSFアニメ談議。最近こればっかりだな(笑)。高千穂さんはあいかわらず毎週30本TVアニメを見てるらしい。でも「スーパーミルクちゃん」は一回で見るのをやめたそうで、そりゃないでしょ。あんなに面白いのに。まあ一回見ればおなかいっぱいになる気もするけど。
『∀ガンダム』はかなり評価してて、いま最高は『おじゃ魔女ドレミ』、『メダロット』はその次ぐらいだそうです。

 ガイナックスのてんちょさんこと佐藤裕紀プロデューサーとは主に『今僕』の是非について。わたしは12話がベストなんで、13話は戦略的後退かな、と。まあ時間帯を考えればしょうがないが、それを言うならそもそもあの時間帯に流しちゃいかんアニメでしょう。
「そら、なんぼなんでも、あれはちょっとねえ。どうせWOWOWでやるんやったら有料の時間帯にすればよかったと思いますけど」
「うっかり子供の頃にあれ見たら、トラウマになるよね。でも考えたら、あの時間帯にああいうアニメが流せるようになったのもエヴァ効果でしょう」
「結局そこか。みんなうちが悪いんかい」
 などなど。新作OVA『フリクラ』の話もいろいろ聞きましたが、それはまた現物を見てから。
 ガイナックスと言えば、武田さんから送ってもらった「エヴァと愉快な仲間たち 脱衣補完計画」とまるごとThinkPadにインストールしてあって、原稿に疲れるとつい脱がしてしまうので1月は仕事のスピードが著しく落ちているのだった。ここに記してお礼を申し上げます。どうせならドラクエで仕事を遅らせたかったよ。

 さすがに眠けが爆発してきたので一次会で退散。帰って爆睡。


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