【1月21日(金)】


 中田雅喜さん@永遠のSAMURAI月形龍之介ホームページから頂いた『月形龍之介』(ワイズ出版3800円)に読みふける。60ページ近くもある巻頭のモノクログラビア「月形龍之介劇場」が圧巻。若い頃の龍之介は全然知らないんだけど、いやあめちゃくちゃかっこいいっす。
 インタビューも読みはじめると止まらない面白さ。龍之介に限らず、黄金時代の邦画に興味がある人はマストバイでしょう。

 15:30、東銀座のヘラルド試写室で、ティム・バートンの新作「スリーピー・ホロウ」。原作は言わずと知れたワシントン・アーヴィングの「スリーピー・ホロウの伝説」。わたしは中学校のとき、クリーム色のカバーの新潮文庫版『スケッチブック』で読みました。リップ・ヴァン・ウィンクルのほうはよく覚えてるけど(浦島太郎がアメリカにもいたことを知って驚いたらしい)、イカボド・クレーンの記憶はおぼろだ。
 そのイカボドくんを演じるのはジョニー・デップ。なんと映画では、科学捜査を信奉するバリバリの捜査官(ニューヨーク市警所属)。なんでも科学の力で解決すると言い張るなら、おまえちょっと、田舎の首なし騎士事件でも解決してこいと言われて地方出張に派遣されるのがはじまり。
 犯人も被害者も首がない!? ってわけで、なんと映画版は、「首なし騎士による連続首切り殺人」の謎に名探偵が挑む本格ミステリなんですね。柄刀一『バベルの僧院』かと思いました。画面はホラー、話はミステリなので、「犬神家の一族」とか「本陣殺人事件」とか、そんな感じ。不可能犯罪なのにトリックがないけどさ。

 9時、御茶ノ水パセラで我孫子武丸・田中啓文迎撃カラオケ。ゲストのほか、喜国・国樹夫妻、チェシャ猫さん、河内さん、集英社のC塚・K島・K田の女性編集者トリオが集合。
 河内さんからは、冬コミ用につくったわるものグッズ2点を拝受。携帯電話用のポーチと、ファスナーつきのメッシュのポーチ。携帯とPHSが両方いっぺんに入って便利です――って、問題は冬コミでだれが買っていったのか、だな。おそろしいことである。

 カラオケでは、踊るK島嬢の爆発ぶりがあいかわらず。ちょうど彼女が歌ってるとこに顔を出したコバルト編集部の人は思いきり引いてました(推定)。
 しかし絶品だったのは田中啓文の「赤鬼と青鬼のタンゴ」。もともとは「みんなのうた」で尾藤イサオが歌ってた曲ですが、田中バージョンはいやもう筆舌に尽くしがたい。この世の物とは思えないおかしさ。いままで田中啓文と言えば「イヨマンテ」だったわけですが、はるかに超えてますね。あとは田中哲弥とふたりで踊りながら歌うのはどうか。赤田中と青田中のタンゴ。
 田中啓文は「ヨーデル食べ放題」もよかったけど、我孫子武丸からは「もうちょっとヨーデルっぽく歌ってほしいなあ」とリクエストが(笑)

 田中啓文は「暴いておくれよ、ドルバッキー」がいたく気に入ったらしく、「じゃあこれはどうよ」とみんなでどんどん筋肉少女帯の曲を入れる。しかし眼鏡にかなったのはドルバッキーだけだったらしい。

 その田中啓文の日記を読んでて思い出したが、「賢者の贈り物」話にはつづきがあったんですね。
 切った髪の毛はまた生えてくるので、一年ぐらいすれば、旦那の送った櫛はまた使えるようになる、と。しかしなんか由緒のある金時計はもう買い戻せない。だから不公平なのだが、物語全体のもたらす感動からすれば些細な欠点であり、問題とするにはあたらないというのが我孫子武丸の見解。そうですか。

 3時ごろお開きとなりタクシー帰宅。仕事しろよ。




【1月22日(土)】


 2時間睡眠で泣きながら1時に起き、銀座の雀荘へ。今日は日本推理作家協会主催の新年麻雀大会なのである。大森は今回初参加。マジック・ザ:ギャザリングのトーナメント以来の公式戦参加……っていうか、雰囲気はまさにそういう感じ。推協のイベントなので知り合いはもっと多いですが。
 ルールは半荘4回のトータルポイント制。3回戦までは1時間の時間制限付きで、卓はあらかじめランダムに決められている。4回戦だけポイント順というシステム。

 1回戦ではいきなり佐野洋氏と同卓で緊張する(笑)。あと二人は結城信孝氏と浅利桂一郎氏。どうも競技麻雀だと思うと打ち方が過度に硬くなるというか、暴牌できなくなってダメですね。テンパイ即リー全ツッパリにはなかなか行けず、ここ一番ってとこでもつい打ち回したり。けっきょく浅利さんがトップを独走、大森は原点(30,000)を割りつつも2位を死守。

 2回戦は、その佐野洋氏の奥様と同卓。しかも、あとふたりは、なんと綾辻名人&大沢在昌ボス(笑)。参加48人中、半数以上が編集者のはずなのに、どうしてこんな卓が続くかなあ。大沢さんと囲むのは初めてですが、最近は年に2、3回しかやってないそうでラッキーかも(笑)。綾辻名人にはこないだ京フェスで勝ってるし、これならなんとか……と思ったが世の中そう甘くはない。南3局までトップを走りながら、最終ラウンド(大森がラス親)で名人に満貫をツモられて逆転を許す。勝負所に弱いオレ。+15000ながらまたしても2位に終わり、上位進出のためには3回戦で大勝ちが不可欠。

 ってことで突入した3戦めは、小学館文藝ポストのM本氏、文春のS幡氏、それに人数合わせで参加した雀荘専務の若奥さん。Y田夫人がみごとな接待麻雀で、テンパイすると必ず振り込んでくれるため、安手でがんがん上がりつづけ、+43700のトップ。
 3回戦終了までの成績では、なんと角川S戸氏がダントツ首位を独走。2位に茶木則雄氏、3位に阿刀田高氏、4位に藤原伊織氏とつづき、この4人がトップ卓。大森は藤原さんに900ポイント差の5位で2番卓。

 2番卓のメンツは、さっきやったばっかりのM本氏、S幡氏に、講談社T川氏とまたしても編集者組に囲まれる。しかし、茶木、S戸を逆転するためにはここでぶっちぎりの首位をとるしか。
 ……とがんばったものの、おたがいに牽制しあって大きな手が出ず、渋い展開。せこい手をこまめに上がり、なんとかトップをキープしていたものの、またしてもラス親。上がりやめがない以上、親の不利は否めない。しかも、中盤で上家と下家からふたりリーチがかかり、大森大ピンチ。持ち点の差はわずかなのでどちらが上がってもトップはとれない。万事休す……と思われたが、なぜかふたりとも上がり牌を引かない。このまま流局になれば、ラス親も流れて、大森トップのまま終了。しめしめ、天はまだオレを見放してないね。と思った瞬間、上家が下家のM本氏に振り込んであっけなくおしまい。山はあと2牌だったのに。くー。まあ、結果論から言うと、ここでトップとってても、どのみち総合首位には届かなかったわけですが、トップ目のラス親で二回も逆転されたのは悔しいなり。

 結局、総合優勝は、213,000ポイントの茶木則雄。前回につづいての連続優勝を飾る。2位は2卓で最後にトップをさらったM本氏が入り、1卓で集中攻撃を浴びて最下位に沈んだS戸氏が3位。大森は2,700ポイント差の4位でした(1卓で2位に入った藤原さんは僅差で5位。日下三蔵は12位でした)。
 4位でもらった賞品がチェキってとこがまたなんとも。さっそく箱を開けて写真撮ろうと思ったら、フィルムがついてない(笑)。しょうがないのでデジカメで撮影したのが、優勝トロフィーを抱く茶木則雄と、25位に沈んで合わせる顔がない綾辻行人名人。しかし名人の受難はまだ終わらない。

 8時に大会が終了したあと、茶木則雄推協名人と綾辻名人、角川M浦嬢の3人と銀座のべつの雀荘(大会会場の店の支店)に流れ、割れ目、トビあり、赤あり、チップあり、ゾロ目ドラ2枚の東風戦という角川ルールでオープン戦に突入する。
 途中、絶不調に陥り、一時は5、6万ガバスのマイナスまで落ち込んだものの(なにしろチップがマイナス26枚のバツが7つまで落ちたのである)、最終4ラウンドで首尾よく挽回。トータルでは1000ガバスのマイナスだけという、これならやらないほうがましじゃないのという結果で終了。一方、大森のマイナスをかわってそっくり引き受けたのが綾辻名人。こんなに負けたのは近来記憶にないというぐらいの不調だったそうで、まあ地位と名誉の代償ってやつですね。こういうどうでもところではちゃんと負けておかないと。
 しかし、終わってみれば結局またしても茶木則雄のひとり勝ち。しかし茶木さんは、闘牌中ごほご咳しながら煙草を吸うのだけはやめたほうがいいと思う。空気がそこだけ思いきりすさんでるもん(笑)。

 あ、茶木さんと言えば、日記の内容に訂正要望がありました。タニグチリウチのことはべつに怒ってないそうです。あと、雀荘に忘れたコートをウォークの人にとってくるように命じた事実はなく、「場所を忘れたのでどの店だったかを尋ねただけ」だそうです。
 いや、どっちも知ってたけど、文句があると伝言板に書きに来てくれるかと思ってさ。

 オープン戦は午前3時過ぎにお開きになり、茶木さんとタクシー帰宅。いや、疲れたなしかし。

 写真を整理したついでに、ロフトプラスワン12幻想前夜祭のスナップを2枚。津原泰水、京極夏彦、綾辻行人、竹本健治 on stageと、菊地秀行氏に迫る飯野文彦。酔っぱらい高瀬美恵の写真をお見せできないのが返す返すも残念です。やっぱり嫁入り前だし。




【1月23日(日)】


 こんこんと眠り続けて夕方起きてぼんやりテレビを見る。「こち亀」「ちびまる子ちゃん」「サザエさん」、それに「ビューティフル・ライフ」とか(笑)。
 合間に寝床でだらだら本を読み、リーガ・エスパニョーラの中継がはじまるのを待つ。イタリア杯もセリエAも見られず、いまやNHK BSのスペインリーグしかないのだった。まあ昨日の中田くんはさんざんだったらしいので、見なくてよかったかも。やっぱボランチやらせなきゃだめでしょう。
 今日の城くんはミスが目立ったけど(なんかトラップが下手になってないか?)、とりあえずシュート一本打ったのでよしとしよう。




【1月24日(月)】


 仕事をする気力がないので家で読書。山田正紀『SAKURA 六方面喪失課』、小池真理子『ノスタルジア』、清水義範『二重螺旋のミレニアム』、田中純『フェルメールの闇』と続けて読む。
『ノスタルジア』は、ふつうの恋愛小説かと見せてじつは……という話。ネタは途中で割れるように書いてあるとはいえ、やっぱりまだ割っちゃダメかな。ヒロインの行動に多少不自然なところはありますが、この趣向のラブストーリーとしては上々の出来。

『SAKURA』はモジュラー型警察小説。『ショムニ』+『踊る大走査線』……ていうかネタ的にはむしろ『逮捕しちゃうぞ The MOIVE』ですね。雑破業が書く予定の(笑)おたく刑事ネタが使われちゃってますが、山田さんなのでかなり弱まっている。いや、あのぐらい薄いおたくでも警察組織ではつまはじきに遭うってのはありそうかも。
「七人の刑事」物としてはじつによくできてるんだけど、落ちこぼれ吹き溜まりのわりにはみんな優秀すぎる気が。各編のネタはマル。全体を統括する大ネタのほうは疑問。ていうか、SAKURAがなにをしたいのか理解できません。

 タイトルに爆笑した『二重螺旋のミレニアム』は、人類絶滅シミュレーションSF。いまどきのSFネタをひとつずつ検討していく方式で、サラリーマンに読ませるSFとしてはもっともな戦略かも。ただしディテールはちょっと甘い。

『フェルメールの闇』は、冒頭いきなり「直截」に「ちょくさい」とルビが振ってあったり意外が以外と誤植されてたりして脱力したけど、まあ一応読めるレベル。でも贋作ネタでこの程度だとちょっとつらいでしょう。

 書くのを忘れてましたが、講談社ノベルス1月の新刊の未読三冊も読んだ。高田崇史『QED ベイカー街の問題』は、蘊蓄とミステリの結びつきって意味では今までで一番噛み合ってる。まあホームズだし。オレが比較的苦手なのは、やっぱり小説的な色気の問題かな。

 歌野晶午『安達ヶ原の鬼密室』は、冒頭に爆笑。やるなあ。トリックはすぐわかる――というか、ネタを隠す努力を全然してなくて、そのネタがどこでどう使われるかを鑑賞するという趣向。サンドイッチ構成になってて、異種配合パズルなんだけど、取り合わせの妙がなんとも。寄木細工的な複雑さではなく、シンプルな美しさがポイント。
 ところでメインのネタは、同時期に出た某作品ともろにかぶってます。5年に1度くらいしかないネタだと思うが、ぶつかるときはぶつかるもんですね。いや、考えてみれば、どっちかが数カ月先とか1年先とかに出ちゃうと、片方は当分出せなくなる(出しにくくなる)わけだから、ぶつかるときは同時になっちゃうのは当然なのか。

 霧舎巧『カレイドスコープ島』は、前作より楽しめた。ただしいくらなんでも現代でこの設定は無理すぎるでしょう。違和感を抱きつつ読み進むことになるので、怒濤の解決に入るまではかなりつらい。謎の提示の仕方に問題がありすぎる感じ。
 孤島とか嵐の山荘とか館とか、お約束の設定にリアリティはもとめないが、家系とか村社会とか、現実と接する部分にまで拡張されてくると、ちょっと待てと言いたくなる。
 それがサルの村だったりイヌの集落だったりすればいいんだけどさ。パラレル英国でも、幻想世界でも、古代エジプトでもいい。
 閉鎖環境をつくったうえで、その世界内でのリアリティを構築するのは本格ミステリの王道ですが、『カレイドスコープ島』は閉鎖方法が中途半端なので気になってしょうがない。解決場面はよく考えてあって面白いんだけどさ。

 森博嗣『月は幽咽のデバイス』はエレガントなパーティミステリ。ミステリ的にはミニマルにまとまってる感じだけど、このシリーズの雰囲気にはよく合ってるような。紅子さんがどういう麻雀を打つのかは見てみたい。

 森さんからは、日記一年分をまとめた『すべてがEになる』も拝受。横組みですか。画面上では横組みで読んでるんだから、本では縦組みでもいいような気もするが。
 日記自体はだいたい読んでるので、とりあえず自分が出てくるところをチェックして(笑)、あとは註釈を見ながら本文を拾い読み。可読性ではやはりこっちが上ですが、画面で読んでるときとはかなり印象が変わる。雑誌連載が単行本にまとまったとき以上の落差。オンラインのものは固定的ではないという先入観があるせい? 多くの場合、じっさいには固定的(遡って修整することはめったにない)なんだけど。

 同時期に山口雅也氏から著者謹呈で頂いた『ミステリーDISCを聴こう』は連載で読んだきり、本のほうはまだ手がついてなくてすみません。




【1月25日(火)】


 全豪オープンの杉山の試合を見て寝ようと思って起きてたけど、カプリアティがあそこまで元気になってるとはねえ。1ゲームもとれないんじゃないかと思いました。1セット目第1ゲームのブレークに失敗したのがすべてだったかも。サーブも悪かったけど、相手セカンドサーブのリターンをあんなにミスしてちゃ勝てない。ちょっと気負いすぎ。

 お昼に寝て夜中に起きる。ロイヤルホスト→MAG TIME→ジョナサンとまわって仕事。おお、いつのまにかずいぶん原稿がたまっているではないか。なんでこんな仕事引き受けてるかなあ。

 某所に金子のぶお氏が書いてたのでそういえばと思い出し、週刊朝日で年末から新連載が始まった篠田節子『百年の恋』をまとめて読む。

 主人公の岸田真一くん(某私立大学SF研出身)は、
 海外のSFの翻訳を本業としてはいるのだが、何しろ需要が少ない上に、業界では多くの定評ある大御所が幅をきかしており、仕事はほとんどない。ただ同然で下訳をさせてもらうことはあるが、それだけでは食べてはいけず、(中略)三十になった今でも、男一人で細々と生活している。
 青山智樹が執筆協力しているだけあって(?)、SFおたく描写はリアル。ていうか、山岸真描写ですか。
 真一の所属していたSF系の同人誌では、料理や菓子を作るのを趣味としている女の子たちがけっこう多かった。化粧気はなく、着るものも質素で飾り気はないが、意外に家庭的で、会が終わった後などは手早く灰皿を片付け、湯呑みを洗ってから二次会の会場に行く。そんな仲間うちの女に対してだけは、真一は恐怖心を抱かずにすみ、数年前、下膨れの顔に分厚いレンズの眼鏡をかけ、小太りの体をピンクのトレーナーに包んだ、彼らの仲間とはごく標準的なタイプの女に思いを寄せたことがある。(後略)
 ああ、もう情景が目に浮かぶようだ(笑)。しかし一般読者はいったいどこで一次会をやってるのか疑問を抱くんじゃないでしょうか。答えは区民会館の会議室とか、そういうところです。
 でもこうやってあらためて書き写してみると、一部リアリティを欠くところもありますね。だいたい山岸系SFおたくの場合、女性が「化粧気はなく、着るものも質素」なんてことにはふつう気がつきません(思いきり派手な服を着てると気づくかもしれない)。あと、あそこの例会では煙草を吸う人はいないので(たぶん)灰皿は片付けないでしょう。でも青山智樹体験も混じってるみたいなのでべつの例会かもね。
 最初の二回分が載ってる号をうっかり資源ゴミに出しちゃったので、読んだのは3、4、5回ですが、いやもう怒濤の展開。
 問題は、クラークの「前哨」を英語で読んでて、なおかつ岸田くんに惚れる、東大卒で長身の信託銀行につとめるキャリアウーマンなんているわけないよ――ってことじゃなくてですね、この先、岸田真一くんがどんなひどい目に遭おうとも、「あんないい女とセックスして結婚してまわりに自慢したんだから、あとはなにが起きてもかわいそうだとは思えない」ってこと。うーん、小説の読み方としてはなんか間違ってる気がする(笑)
 とりあえず山岸ファンは必読


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