これから期待される自己免疫疾患の治療法part1     part2 / part3
〜強直性脊椎炎及び血清反応陰性脊椎炎への応用〜


RA(慢性関節リウマチ)やAS(強直性脊椎炎)、IBD(クローン病、潰瘍性大腸炎)は、いずれも自己免疫疾患の中に含まれます。
もちろん、これらはそれぞれ異なった病気ではありますが、治療方法を考えて行く上で、自己免疫疾患、そして炎症性疾患として共通点や相違点を併せて考えて行くことにより抗炎症療法のこれからの展望が見えてくるのではないでしょうか。
これまでは、AS(強直性脊椎炎)を含む血清反応陰性脊椎関節炎の治療方法というと、RAのように抗リウマチ剤があまり効かないと言うこともあり、消炎鎮痛剤(ボルタレン、インテバンなど)、そして、運動療法というのが定番でしたが、ここに来ていくつか期待できる治療方法が登場していますのでご紹介します。


1. COX2阻害剤:副作用が少ない消炎鎮痛剤(セレブレックス、バイオックスなど)
2. 抗炎症薬としての免疫抑制剤の使用(アザチオプリン、メソトレキセート)
3. 抗サイトカイン療法(インフリキシマブ、エタネルセプト,MRA)


>>副作用が少ない新しい消炎鎮痛剤 @
COX(シクロオキシゲナーゼ)は炎症などの引き起こすプロスタグランジンの合成酵素の1つです。従来の非ステロイド抗炎症剤(ボルタレン、インテバンなど)は、COX1と2の両方を阻害していました。COX1の阻害は、消化管潰瘍や血小板凝集阻害作用などの副作用の原因となるので、COX2のみを阻害(シクロオキシゲナーゼ2のみを邪魔)すれば、胃や腎の血流を下げることなく消炎鎮痛効果が期待できるのではないか。
その一つであるセレブレックスは、1999年アメリカでベストセラーになり注目されました。COX2阻害剤は「上部消化管潰瘍の発生頻度が有意に低下していた」という報告があります。
日本でも、COX2の選択制が比較的高い消炎鎮痛剤は、以前よりエトドラク(ハイペン、オステラックなど)として発売されていますが、2001年にはモービックという本格的なCOX2阻害剤が発売されました。
しかし、COX1とCOX2を両方ブロックしないと消炎鎮痛効果が十分で得られない(急性疼痛おいて)、また、これまでの消炎鎮痛剤と比べた場合、使用量を増量しないと鎮痛効果が得られにくいとかの報告もあります。
このように、一概にCOX2阻害剤が優れている薬剤とは言えませんが、リウマチ膠原病疾患においては、非ステロイド抗炎症剤を長期にわたって服用するケースがり、COX2阻害剤が「上部消化管潰瘍の発生頻度が有意に低下していた」という報告は、リウマチ性疾患の患者への大きな福音となり、加えて消炎鎮痛剤の選択肢が増えたことは大きな進歩だと言えると思います。
これから日本でも、セレブレックス、バイオックスなどさらに本格的なCOX2阻害剤の発売が期待されています。

http://www.asahi-net.or.jp/~kp4t-nkjm/drug3.htm(当ホームページ参考ページ)
P.S.
2007年、6月、日本でもようやく本格的なCOX2阻害剤が、セレコキシブ(商品名:セルコックス)が発売され期待されています。


>>抗炎症薬としての免疫抑制剤の使用 A
現在、慢性関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患の治療にはアザチオプリンやサイクロスポリン、メソトレキセート(RAにおいて)などの免疫抑制剤が使われて効果を得ています。強直性脊椎炎(AS)などの血清反応陰性脊椎関節炎ににおいても、抗炎症薬としての効果は期待できるのではないかと考えられます。
免疫抑制剤の使用は我が国においては、医師の中には免疫低下や、また長期使用において、例え低容量であっても悪性腫瘍を危惧する声はいまだに根強くあります。しかし、免疫抑制剤を自己免疫疾患の抗炎症療法として使用する場合と、免疫抑制剤を本来の目的で使用する場合(免疫を抑制する)とでは、作用機序を分けて考える必要があると思います。薬は用量によってまったく別の働きをする場合があるからです。
例えばアスピリンは消炎鎮痛剤として有名な薬ですが、これを低容量で使用すれば抗血栓薬としての働きをします。しかしある程度の量を超えると抗血栓作用の働きはなくなってしまいます。このようにアスピリンは使用量によって、消炎鎮痛剤、抗血栓薬として異なった治療薬となるのです。同じ薬でも、量が違えば作用も異なってくるというわけです。
ですから、免疫抑制剤においても用量の問題を抜きにして、ただ「副作用が強い薬」というイメージで、やみくもに否定するという方向は間違っていると言わざるを得ません。
1999年夏にリウマトレックスという抗リウマチ薬が発売されました。実はこのリウマトレックスの正体は抗ガン剤として有名な?メソトレキセートです。確かにこの薬は抗ガン剤としては、強い副作用をもった薬であること事実です。
しかし、このメソトレキセートを「抗ガン剤として使用する場合」と「抗リウマチ薬として使用する場合」とでは用量が全く違います。用量が違っても元は同じ薬ではないかという声もあるかとおもいますが、上記のアスピリンの一例のように必ずしもそうとはいえません。このようにメソトレキセートは抗リウマチ薬として低容量でうまく使えばそれほど副作用は多くはありません(軽度の肝機能障害と、口内炎など)。もちろん時には間質性(かんしつせい) 肺炎などの重篤な副作用が出る場合などありますので、その辺は十分な注意が必要とおもいますが、既にメソトレキセートは低容量では大変有効な「抗リウマチ剤」として扱われています。
このようにメソトレキセートは「リウマトレックス」として抗リウマチ薬として新しく生まれかわりました。また、ごく最近、炎症性腸疾患の治療薬としてアザチオプリン(商品名:イムラン)も健康保険認可を受けました。確かに遅ればせながらという側面はいがめませんが、このことによってようやくこれら薬が免疫抑制剤というカテゴリーから離れて、抗炎症のための薬として認知されたことになります。
このほかに、サイクロスポリンなどもありますし、免疫抑制剤を低容量で使用して、リウマチ性疾患、そして、炎症性腸疾患、乾癬、強直性脊椎炎などの自己免疫疾患全般にわたり炎症を抑える効果をあげています。
さらに新しい免疫抑制剤(レフルノマイド)などを用いた治療方法が我が国でも進行中です。抗炎症療法として、免疫抑制剤は自己免疫疾患全般にわたって、大きな治療効果が期待できる薬のひとつであると考えます。



>>抗サイトカイン療法 B
リウマチ性疾患や炎症性腸疾患において炎症が起こるメカニズムは、それを起こすサイトカインという物質があり、指令を出すサイトカインとその指令を受けるサイトカイン・レセプター(受容体)というものとが鍵と鍵穴のようになっています。
炎症を起こすサイトカインには、IL-1、IL-6、TNF-αなどがあり、そして、炎症を抑えるサイトカインが勝つと炎症は自然に治まりますが、炎症を起こすサイトカインが強いといつまでも炎症が続き慢性炎症となってしまいます。
そこで、炎症を起こすサイトカインが働かないようにしてやれば、炎症を抑えるサイトカインが優勢になり炎症が治まるのです。これを坑サイトカイン療法と呼んでいます。
現在話題になっている、抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、商品名レミケード)は、すでに欧米をはじめ世界30数カ国で優れた臨床成績を上げており、2002年4月、日本でもようやくクローン病において健康保険適応が認可され注目されています。
また、今後このようなサイトカイン療法は、クローン病以外の自己免疫疾患(潰瘍性大腸炎、慢性関節リウマチ、強直性脊椎炎、ベーチェット病など)においても抗炎症療法の治療薬として期待されています。
レミケードの保険適応基準は、「次のいずれかの状態を示すクローン病の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)/中等度から重度の活動期にある患者、外瘻を有する患者」とあります。
このように、抗サイトカイン療法は高額な薬剤ですし、副作用の面でもから考えても安易(現段階では)に試用できる薬ではありませんが、自己免疫疾患全般においての新しい選択肢としては大いに期待できる治療法ではないでしょうか。



>>自己免疫疾患の治療のこれからの展望
自己免疫疾患のリウマチ性疾患、炎症性腸疾患の治療において、我が国では従来ステロイドを中心の治療が行われてきましたが、ここにきて免疫抑制剤が有効な方法として注目されています。しかしながら、臨床の現場では炎症性腸疾患の治療では未だに栄養療法が主流で免疫抑制剤(アザチオプリン)の普及は今ひとつと言うところですし、また、リウマチ性疾患においても、ようやく免疫抑制剤(メソトレキセート)が普及をし始めたというところです。
もちろん、強直性脊椎炎においても、症例がすくないですがメソトレキセート(リウマトレックス)の有効例も報告されています。これからの自己免疫疾患は、あまり病名の壁をつくらずに広い見地にたって、柔軟な抗炎症治療をしていく必要があるのではないでしょうか。
その中で、例えばリウマチ性疾患の治療する上で、特にメソトレキセートなどの免疫抑制剤が無効例には、次のチョイスとして抗サイトカイン療法が期待されています。また、これらの薬を早期から使用することで、リウマチの進行がかなり止められるとの報告もあります。このようにレミケードを初めとした抗サイトカイン療法が、できるだけ早い段階でクローン病以外の疾患にも保険適用が認められる必要があると考えます。
一方でレミケードでは、人のTNFーαに対する抗体をマウスに作らせるため、このタンパク質が人にとって異物になり、人のリンパ球が抗体を作ってしまったり、アナフィラキシーショックなどを起こすことがあるので、この点で安全性の問題が指摘されています。
このような側面からも、イフリマキシマブとは違ったタイプの抗TNF-α抗体、エタネルセプト(商品名エンブレル)、更に日本独自(大阪大学)に開発された抗インターロイキン6(IL−6)レセプター抗体 [MRA]は、アナフィラキシーショックを起こしにくいという側面もいわれており、副作用から見ても大きな期待が寄られています。

抗サイトカイン療法もいろいろな種類の療法がでてきていますので、自己免疫疾患の種類や症状にあわせてセレクトできる日もそう遠くないのかもしれません。
いずれにしても、免疫抑制剤や抗サイトカイン療法は今後自己免疫疾患の治療においては大いに期待される療法であるとおもいます。

以上、ご紹介した治療方法は、現在、慢性関節リウマチや炎症性腸疾患に適応されつつある療法ではありますが、ASをはじめとした血清反応陰性関節炎の治療等にも十分応用できると考えます。このように血清反応陰性脊椎関節炎を自己免疫疾患としてのカテゴリー入れて考えていくことにより、より適切な、より効果的な治療方法が見つかっていくのではないでしょうか。


2002/5/31



*アナフィラキシーショック
抗原に感作されている状態において、再度抗原が投与された場合に起こる即時型アレルギー反応をアナフィラキシーといい、これが全身性に起こってショックとなった場合を指す。
症状は数分であらわれ、口渇、口唇のしびれ感、心悸亢進、尿意、便意などで始まり、さらに皮膚症状として全身の発赤、そう痒感、眼瞼・口唇の腫脹があらわれる。気道閉塞症状としては喉頭異物感・閉塞感から呼吸困難へと至り、致命的となることがある

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