「強直性脊椎炎に合併するぶどう膜炎について」    

ぶどう膜炎は、眼のなかのぶどう膜というところに起こる炎症です。ぶどう膜は前のほうから虹彩、毛様体および脈絡膜という組織に分けられ、網膜の外側かつ白目(強膜)のすぐ内側に位置し、血流の豊富な組織です。ぶどう膜炎は炎症の部位によって、さらに細かく虹彩炎とか虹彩毛様体炎などとも呼ばれます。ぶどう膜炎は、全身のいろいろな病気に合併して起きることが多いのですが、強直性脊椎炎(AS)に合併するぶどう膜炎もそのひとつです。ASでの合併頻度は約50 %で、ぶどう膜炎の発症はASの発症に遅れること数年という結果が出ています。

症状:ぶどう膜炎にもいろいろな型がありますが、ASに合併するものは急性前部ぶどう膜炎と呼ばれるものです。その特徴の第1は自覚症状に関わることです。ぶどう膜炎が起きた時には、通常、まぶしさ、痛み、飛蚊症、視力低下などを自覚しますが、急性前部ぶどう膜炎では、特に痛みを強く感じます。痛みは眼の痛みのみならず、頭のほうに放散して頭痛として感じることもあります。他覚症状としてはベーチェット病という病気でおこるぶどう膜炎と鑑別の難しいことがありますが、ベーチェット病では一般に痛みはないか、あっても軽く、この痛みを感じるというのは前部急性ぶどう膜炎でかなり特徴的なものと考えてよいと思います。視力障害の程度は炎症の程度と相関し、全く障害を自覚しない方から、かなりの不便さを訴える方までいます。もっとも、これらの症状は適切な治療でよくなりますのであまり心配はいりません。
第2の特徴は炎症部位が眼の前のほうに限局していることです。見た目には白目の血管が拡張していて充血という状態がみられます。眼球のなかでは、角膜すぐ後ろにある透明液(前房水という)の蛋白濃度が上昇し、その中に炎症細胞の漂っているのがみられます。炎症が強い時には前房蓄膿とよばれる白血球成分の沈殿がみられ、また繊維素のみられることもあります。しかしながら、炎症は眼の後ろの部分には及んでいないことが普通で、網膜(写真のフィルムの役割を持つ大事な部分)がダメージを受けることはありません(例外もありますが、あっても軽度です)。このことは視力の予後を考える時、非常に良いことで、ベーチェット病と違い、視力がもとに戻らないということは少ないと言えます。この虹彩炎の合併症としては、虹彩と水晶体との間に癒着(虹彩後癒着)を形成して、緑内障を起こすことがあるので注意が必要です。また、強い炎症が長く続くと白内障を起こしてくることがあります。炎症はほとんど片眼のみに起こりますが、長い経過をみるともう片方の目にも発症することがあります。このような発作を繰り返して起こす患者も多く、発作の間隔は数ヶ月から数年におよぶこと もあります。


治療:ステロイドの点眼により炎症を抑えます。通常は1日4回ほどの点眼を行いますが、炎症の強い場合は1または2時間おきの頻回点眼や、ステロイドを白目に注射することもあり、さらにはステロイドの内服(6錠程度から飲んで、しだいに減量していく)を必要とすることもあります。また、非常に虹彩後癒着を作りやすいので、散瞳剤としてアトロピン(1%)の1日1回またはミドリンPやネオシネジンの1日1〜2回の点眼をします。治療により、炎症も弱まり、視力低下や眼痛も収まってきます。適切な治療を行えば、視力の予後は良好で、ぶどう膜炎をひきおこす前の状態に戻ります。散瞳剤のひとつであるアトロピンは作用時間が長く、患者さんが眩しさなどの不快感を訴えることがありますので、炎症の強い時期のみに用い、その後は作用時間の短いミドリンPを使用するのがよいと思います。最後にステロイドの副作用について述べておきます。ステロイドは様々な副作用がありますが、眼局所にも以下の副作用が起こります。ステロイドの全身または局所投与で、眼圧の上昇してくる方がいます。眼圧上昇が長期間続くと、視神経が痛んで視野障害を来たしますが、これをステロイド緑内 障といいます。眼圧上昇は起こる人と起こらない人がいますが、それは使用前にはわからないので、ステロイド使用に際しては最初の数ヶ月は2〜3週間に一度の眼圧測定をする必要があります。通常、薬を中止すれば、眼圧はもとに戻ります。また、点眼剤ではベーターメタゾンよりフルオロメソロンの方が、治療効果は劣りますが、眼圧上昇が起こりにくいので、重症度により薬を使い分けるのも一法です。ステロイド白内障もステロイドの全身または眼局所投与により生じますが、常用しなければ、あまり心配はいりません。その他、ステロイドはその免疫抑制作用のため感染症を誘発することがあるので、抗菌薬と併用するのがよいと思います。


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