Talk

YES

1994年 イギリス

1. CALLING
2. I AM WAITING
3. REAL LOVE
4. STATE OF PLAY
5. WALLS
6. WHERE WILL YOU BE
7. ENDLESS DREAM
a) silent spring(instrumental)
b) Talk
c) endless dream
-------------------
日本盤ボーナストラック
8. CALLING(Special Version)


 イエス全盛期のギタリスト、スティーヴ・ハウに「イエスの作品ではない」等と言われ、また、これまた全盛期のファンにもある人物の色が濃過ぎて不人気であるこの「TALK」。そんなに悪いか?と僕は思うのでここにレビュウ。

 そのある人物、バンド再結成時の中心人物であるトレヴァー・ラビンの色が濃いというよりも才能がほとばしってると言った方が適切であろう。そのほとばしる個人の才能が表立ってしまい、さらには旧来からのファンには付きすぎていた「いつまでたっても新参者」イメージが良くなかったのであろう事はどちらかと言えばプログレファンは保守的な傾向を持っているので容易に推察出来る。

 しかしその才能がこれだけの作品を作ってしまったという事は動かしようも無い事実なのである。この「TALK」制作の前段階においてトレヴァーが考えた事は(彼が思うに)イエスの良くも悪くも推進役である天然(自分の良い方に考えて)ポジティブ男、ヴォーカルのジョン・アンダーソンをいかにして気持ち良く仕事をさせるかであったようだ。
 天然のジョンにしても「自分が翔べる、翔ぶ事が出来る音楽がイエス」だと考えている節も見受けられる。事実、楽しめなくなるとバンドを辞めちゃったりもしている。それでも途中で辞めないで最後まで付き合うのは偉いが。
 そのトレヴァーの考えというか気配りが功を奏し翔んでくれたおかげで、本家・分家断絶状態〜8人組イエス等、迷走を続けていた時期のイエスからは予想もつかない力強い楽曲と「YES」という言葉通りのポジティブなメッセージ性に溢れた作品となった。

 所謂旧来のイエス・サウンドの特徴である(これもまた魅力の1つなので否定はしません)「過剰な程の各楽器の主張」「曲内のとっちらかりを強引に持っていく展開」が抑制された事で曲がとてもストレートでポップだ。(楽器バトルが抑制され、ほとんどのメロディ楽器がギターに集中された結果、個人的にはギターを中心に据えたと言う意味でのギターバンドとしてのイエスはこの作品で頂点に達したと思います)
 
 そしてこのアルバムではメッセージが(イエスにしては)ダイレクトに唱われている。
 愛、夢、希望等の自分の待ち続けているものが「CALLING」(呼ぶ、呼び起こ)され、啓示された事象と話す「TALK」することで自分を翔ばし、成長していこうという感じのメッセージがアルバム内で多重的に語られ、歌われていき、最終曲である組曲、「ENDLESS DREAM」での大団円を迎えるというイエスらしいテーマと構成が楽曲と前述のサウンドの作用でいつにも増して充実し、リスナーの心に響いてくる。

 このように考えていくと近来のイエスの中では稀に見る傑作であると感じるのであるが、売り上げ的にはレーベルのプロモートの少なさからそれほど(普通のバンドよりはよっぽど売れてると思いますけれど)でもなく、スティーヴ・ハウの発言やプロデュースも兼任したトレヴァーのアルバムに対する意気込みから来る制作上のやり過ぎと完璧主義ぶりでメンバーと色々あった事も発覚。彼個人所有のスタジオでの最新のハードディスク・レコーディングにより、リズムの調整や音色の置き換え等の様々なことが簡単に出来る様になった結果による独裁体制が理由とも言われています。あえて悪い言い方をすれば前述した「抑制」が整合性ばかりが強く、各個人の力量(そして主張)を結集したという感じには聴こえなくなってしまったという部分がそれに当ります。その中ではいつもよりトニー・ケイの弾くハモンドB-3が目立ちます。
 さらにアルバムを発表したツアー後にジョンとの確執からトレヴァーとキーボードのトニー・ケイが脱退したこと等もあってちょっと不当な評価になっているのは残念。
 でもおかしいなぁ?もっと「イエスモダン化政策」の実行者トレヴァーの事評価してあげましょうよ。彼がいなかったら今日のイエスは無いというのに。

●些細な事(笑)
 5曲目の「WALLS」では元スーパートランプのロジャー・ホジソンが共作者として名を連ねていますがこれがジョン・アンダーソンのお気に召さな無かったらしい。
 けど、自分だってイエスの2nd「時間と言葉」でイエス以前のバンドメンバーだったデビッド・フォスター連れて来てんじゃん!この時は初代ギタリストのピーター・バンクスが「誰だあいつは!」とご立腹。さすが天然(自分の良い方に考えては)ポジティブ男らしい逸話である。