CLEAR AIR TURBULENCE
(鋼鉄のロック魂)

IAN GILLAN BAND

1977年 イギリス

1. CLEAR AIR TURBULENCE 邦題「銀色の嵐」
2. FIVE MOONS
3. MONEY LENDER
4. OVER THE HILL
5. GOODHAND LIZA
6. ANGEL MANCHENIO

 

 「鋼鉄のロック魂」なんてタイトルでディープ・パープルのボーカルを張ったイアン・ギラン・バンドときたら誰もがハードロック魂全開解放アルバムと思うでしょう。ジャケットだって爆撃機の様なモノが飛んでますしねぇ。

 もうここまで書けばお解りでしょう、違うんですね全く。多分何の予備知識もなしに買ったら「騙された!」と消費者センターに駆け込むぐらいかな。
 僕にしても予備知識ったってフュージョン風のアレンジとかキーボード中心のサウンドって位しかなく、勘違いっぽいの(それはそれで好きなのですが)かなぁ?と思いつつ聴いてみると…。

「騙された!それもイイ具合に!!」

 冒頭の緩やかなシンセ音からプログレの様なブレイクが入って1曲目が始まります。何だけどちょっとラテンっていうか妙にファンキー具合なブラスが出て来て彼の特徴あるボーカル、熱唱・シャウトが別物に聴こえてきます。パープルファンはこの時点でちょっとおかしいぞと思ったのでしょう、でも僕はその頃凄いにこやかな顔をして聴いていました。右チャンネルに入るパタパタしたバスドラが妙な味を出しています。
 そして2曲目、シンセの夢見心地さとAORというか何とも言いがたい雰囲気がゲイリー・ライトの「夢織人」のようなバラードです。もうここまで来るとハードロックシンガーとしてのアルバムと言うより、バンドとしてのアルバム、パープルよりもリズム隊の腰回りが軽く、リード楽器隊も多様性が目立ち、新感覚のロックを目指した野心的な作品に聴こえて来ました。
 ハードロックっぽさやラテン風味と突如に曲想が一変する強引ながらもスムーズな様に展開するアレンジが、全編に流れるフュージョンっぽさと共に曲の躍動感を異常に増幅。ヨーロッパ系のロックの中にラテンっぽさが良い感じで同居している成功例として、パトリック・モラーツの「i」と共に評価出来ます。
 その他の曲もそれぞれに良い意味で前述の強引さが目立って良い曲なのですが、再終曲だけは妙にまとまっていてちょっと面白く無いかな(そんな聴き方していいのか?)

 しかしこの路線、この1作だけでその後はハードロック路線に(僕に言わせれば)逆戻り。イアン・ギラン本人が無理と悟ったのか開き直ったのかは定かではありません。
 僕個人としてはあまり彼のボーカルは好きではなかったのですが、この作品は大好きです。自分の可能性を試し、やってみようという姿勢とそれに合わせられる彼の力量ですか、それが感じ取れました。
 パープルファンよりもこの時代近辺の一通りでないロックファンやプログレ者は聴いてみても損は無い作品です。