ラヴ・ビーチ
LOVE BEACH

EMERSON,LAKE&PALMER

1978年 イギリス

1.欲しいのは君だけ
ALL I WANT IS YOU
2. ラヴ・ビーチ
LOVE BEACH
3. 恋の味
TASTE OF MY LOVE
4. ギャンブラー
THE GAMBLER
5. おまえのために
FOR YOU
6. キャナリオ
CANARIO
7.将校と紳士の回顧録
 MEMORIES OF AN OFFICER AND GENTLEMAN
a)プロローグ/紳士の教え
PROLOGUE/THE EDUCATION OF A GENTLEMAN
b)愛を感じた時
LOVE AT FIRST SIGHT
c)最前線からの手紙
LETTERS FROM THE FRONT
d)栄光の歩兵中隊
HONORABLE COMPANY (A MARCH)

 

 
南国は人間を解放する、疲れた人間の生命力を覚醒させる。

 「LOVE BEACH」、今までE.L.P.が通ってきた道からは考えられないタイトルと内容を持ったこの作品からはそんな事を感じずにいられません。

 発表当時、プログレ幻想を持つファンからは「単なる駄作」「必然性無し」「無価値」等々、散々な烙印を押され、日陰者扱いされてしまいました。(今でもされてますが)
 それまでのE.L.P.は必要以上に下世話で派手、かつリリカルだったりもするサウンドと歌詞が魅力のトリオなのですが、このアルバムでは極度にポップ化。歌詞では「ラブ・ビーチで君とメイク・ラヴ」(LOVE BEACH)等そっちの方が下世話な愛の歌がアナログA面に盛り沢山。その時点で一般的に言う「プログレ」のラインからは程遠くなっています。それに加え、派手さが売り物だったサウンドがポップ化した事によって非常に地味な印象を受けてしまった事がその理由でしょう。(でも組曲や往年の残り香の残るインストを聴く限り、僕にはそんなに悪い印象はありません)

 バハマでの録音、この事がこの作品に大きな影響を与えたのだと思います。レコード会社からの「ポップ化」へのプレッシャーや創作意欲の減衰の中、新天地へで行った(逃げた←推測)のは19世紀当時、時代的な行き詰まりの中で南方楽園幻想を求めたヨーロッパ諸国の様です。植民地主義なる負のモノも生み出しましたが、文化的にはとてつもない影響をもたらしたエキゾシズム、欧州の人間が感じる南国の幻想です。
 前述の「人間を解放し、疲れた人間の生命力を覚醒させる」。彼らにしてみたら「気分を変えよう」位の事だったのかも知れませんが、実際問題こんなにも楽曲が変わったのはバハマという土地柄なのだと思います。
 「向いてない」と自分達で思いながらも製作するにはイギリス本国ではダメだったのでしょう。今さらポップ?の様な照れもあったのかも知れませんし、何しろ時代も彼らには逆風、ヨーロッパ諸国の様に外に出ていくしかなかったなかったのでしょう、自分達の新しい面を発見していくためには。
 これは想像ですが、きっと本作でも参加している作詞家のピート・シンフィールドも一緒にバハマに行ってそんな空気にやられちゃったのではないでしょうか、でなければ「我が墓碑名は混乱と刻まれるだろう」なんて歌詞書いていたのが「ラブ・ビーチで君とメイク・ラヴ」なんて書かない(書けない)でしょう。

 今の耳で聴き返すと、当時の彼らの限界を如実に示しちゃって入る反面、そのポップ化の仕方はプログレバンドの生き残り方法としては割と正しかった事が解ります。その後大成功するエイジアに見られるプログレのかっこいいエッセンスを導入したサウンドや「EMERSON,LAKE&POWELL」や「3」で聴こえるダイナミックなサウンドとポップさの融合具合はここで実験されているのです。当時からすると極端な変化なのでリスナーは戸惑ってしまったのでしょう。縮小再生産な部分や思いっきり踏ん切りがついてない所も中途半端な印象を与えてしまったのかも知れません。
 ジャケットを見て下さい、彼らの笑顔を。僕らもこの笑顔を思いながらこのアルバムを聴いて行きましょう。そうすればこのアルバムが非常に人間臭く、気持ち良く聴こえてきます。彼らがその後の時代を生き残っていくための解放された笑顔と思えば何てことはないのです。