塾再建

 

 池田諭は1970年に脳血栓で倒れ、1973年に「人間変革の思想」を書いた頃も病床にあった。その病躯をおして1974年には、3年後を目標に塾を再建すると表明し、各方面に呼びかけた。以下の資料はわずかではあるが、その当時のものである。「教育環境をつくりかえる会」も発足させたが、活動を開始するまでにはいたらなかった。池田諭の構想した塾は、私塾の範疇を越えるほどに社会性を持ったものであった。学校教育の限界が問題になって数十年がすぎるが、問題は深刻化するばかりである。塾構想は再生できるだろうか。読者一人一人の実践的独学が問われ続けている。

 

 塾の教育理念

一、従来の、富国強兵を目標とする各国の政策にはストップをかけ、道義、平和、調和の社会をつくるようにつとめる人間を養う。
一、学問の基本は独学にあるということを体認し、独り学び、考え、創造する人間を養う。
一、感性を重んじ、理論と実践の統一をはかるとともに、理論を現実のなかできたえる人間を養う。
一、美的教育を全教育の根幹におき、美意識に反するいっさいの行動を断固拒否する人間を養う。
一、全て人間にはそれぞれの価値と能力があることを体認し、全力で己の価値と能力をたかめていく人間を養う。

 (下書き原稿より)

一、従来の各国の富強政策に終止符をうって、道義、教育、平和、調和の社会を実現しようとつとめる人間を養う。
一、学問の姿勢は独学にあることを体認し、独り学び、考え、創造するとともに、生涯学びつづけようとする人間を養う。
一、感性を悟性同様重んじ、理論と実践の統一をはかるとともに、常に現実の中で理論をたかめようとする人間を養う。
一、美的教育を全教育の中心におき、美意識に反する一切の行動は己の全存在で抵抗する人間を養う。
一、あらゆる人間にそれぞれの価値と能力のあることを知って、己の価値と能力を限りなく育てようとする人間を養う。
一、人生論智は各科学の総合統一したもので、学問の出発点であり、終点であることを確認した人間を養う。
一、人間は本来自由と平等であり、己がその調和的人間であることを知って、それを実現しようとする人間を養う。
一、人間たる者常に先人をのりこえようと勤め、先人を美化し、絶対化し、そこにとどまろうとしない人間を志す者を養う。
一、自己革命に生涯とりくむ人間。社会革命と自己革命を平行させる人間。

 

 私信〜 

「塾は社会のもの、だから皆の手で運営したいし、経営したい。」
「『教育環境をつくりかえる会』は今の社会全体で教育を考えていくようにしたいし、教育を本人だけのもの、国家のものだけにしたくない。…塾もその会で経営したい…。」
「塾は全国に十位つくるつもり…」

「お願い
 私の最新作「人間変革の思想」にも書いているように、私は今、松下村塾の道統をうけついだ藤園塾をもう一度建設してみたいという野心にもえています。具体的に塾を建設するということは将来のこととして、私達は当面教育社会をつくるという誇りと自信に生きたいと思います。そのためには、私達にできることをなしたいと思います。たまたま私の知っている人で最近ヨーロッパ、アメリカに見直されているインドの医学を究明せんとし、目下、その費用を独力でたくわえるべく、毎夜二時、三時までアルバイトしている人がいます。可能な限り、その人の力になりたいものです。
 一口千円以上、何口でもよろしいのです。私の所迄送って下さい。将来、経済的援助をしたいと思うような人もぜひすいせんしてください。よろしくお願いします。
     塾建設発起人  池田諭   」
(これは、当時、池田諭がその友人知人に送った文章で、I氏の資料に残されていた。)
「二年後には正式に「教育環境をつくりかえる会」を発足させます。……大体三十人位の呼びかけ人にしたい。俗に有名人はいれないつもりです。それこそ実質的にゆきたい。……」(I氏への手紙より)
「『教育環境をつくりかえる会』のこと、共同通信にのせてくれるとのこと、先日先生にいただいた本代、資金にまわしました。先日も大学生が二十冊うってくれましたし、高校生五人が協力をいってくれました。まだお金はわずかですが、次第に発展しましょう。一万人の会員をつくってみたいと思っています。私の生命あるかぎり。……」(昭和49年6月6日消印のI氏への葉書)

 

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