初めて出会った帰化植物の話し

高橋 美智子


1993年夏、室蘭の海岸砂浜でおかしな実を付ける草を2本見つけた。
おかしなというのは、花はアブラナ科のようではあるが、枝を四方に広げた大きめの株、丈40〜50cmの幾本も出ている枝に、蕾らしきもの、結実したものがあるのに、花びらのそろった花がない。花びらは一枚とか二枚、それも何かいじけた、昔冬に見かけた菜の花の咲きそこないのような、色は白地にピンクまたは紫といえる線が入ったもので、思いつくものはやはりアブラナ科なのである。 実といえば、何とも面白い形をしているのだが、型も大きさもリンゴの開花直前の蕾を思い浮かべていただくと、即ち下部に球状のものがあり、それに接してイスラム教の協会の屋根のような尖り帽子がくっついているというような型のもので、2個連結形の果実なのだが、種子が入っているのは、幾つか割ってみた限りでは上部の尖り帽子の中だけで、大きさは、長さ4mm,巾2mm、色は明るい褐色のものが一個だけ入っている。 花はアブラナ科としても、果実の姿・形が、なんともアブラナ科とは考えにくいのです。でもアブラナ科にも「ミヤガラシ」というこれに似た実を付けるものがあるにはあるけれど、ミヤガラシは花弁の色が黄色なのです。 そして葉がベンケイソウの仲間のように肉厚で、ベンケイソウの葉を一寸いびつにしたものや、ゆるい波形にしたような型を思い浮かべていただくとよいのです。一枝取って室蘭の野草好きの知人に見せたが、初めてとのこと。札幌に持ち帰ってと思い押し葉にしたが、乾くほどに黄変し、葉は全部茎から取れ、ベンケイソウを押し葉にした時と同じようにばらばらになってしまった。翌 94年静狩の海岸、ハマナスが咲いていたように思うのだが確かではない。砂浜の最前線で10cmほどに伸び、葉を4〜5枚付けたアカザの苗のようなものが点々と見られた。「あ、あれだ」とは思ったが依然何かは知らなかった。花期を待って、最初にこの草を見た室蘭の海岸へ行ってみた。以前見たのとそう遠くはない位置に、若い果実を付けた株を二株見つけ、標本を作り心当たりを尋ねたが、「うーん、何だろうね」。一向にはっきりした返事は帰ってこない。私も積極的に調べもせず、世の中には未だ皆んなの知らない植物もたまにはあるんだ位に思っていた。 翌95年ある観察会で、この会の Kさんが「鵡川の河口にいっぱいあったけど、これなあに」といって持ってきた。これは相当密生していたらしく、丈だけ20cm程に伸びて例の実を10個程度付けたものだった。この時の標本は主宰の Mさんが持ち帰ったので、そのうち返事が聞かれるかもという期待があったのだが。 96年、何故か又室蘭に住むことになり、前回気になりながら行けなかった静狩湿原へ何回か足を運ぶことが出来た。ここはホロムイソウに代表される「ホロムイ」と付く植物が何種かあり、数ある池塘にはジュンサイ等も見られ、その他コタヌキモ、トキソウ、ウメバチソウ、カキラン、ムラサキミミカキグサと一夏私を引きつけて止まなかった所であるが、この折り7月の終わりに静狩の海岸へ寄ったことがあった。 そこで見たのは例の植物がオカヒジキと一緒に「えー、これなーあに」と言う程に群生していたのです。前年株があったであろう所には、20〜30本、いやそれ以上の群がりとなったもの等凄い繁殖ぶりなのです。2年前は探すと「ここにもあった」と言ったくらいの、僅かなものだったはずなのにだ。この時も完全な花は見あたらず、胆振植物友の会の 0さんも「分からない、初めて」と言うばかりだった。 後日この会の0さんと室蘭を歩く機会があり、初めてこの植物に出会った海岸、私としては2年ぶりの浜辺で何本も集まって大株を作り、群生しているのを確認した。 程なく、0さんが「あれ、これじゃない」と言って見せてくれた雑誌「サライ」の、帰化植物の話の中に写真付きで載っていた。『オニハマダイコン』幸い出典もあり、浅井康宏「緑の侵入者たち」早速書店に注文し、待ちきれずに図書館で借りてきた。 それによると、1981年新潟の海岸で、内川定七という人に発見されたものであるが、この本の出版は1993年で、本文中に「日本への帰化が確認されて10年あまり経過し、南は上越市、直江津、村上市の海岸までほぼ全域にわたって分布しており、さらに山形県の酒田でも見つかっている。(中略)現状では予備帰化植物の段階にあると考えられるが(中略)わが国でも侵入後の分布の推移を、ぜひ年代を追って記録しておきたいものである(後略)というものであった。北海道からも95年に鵡川で 高橋誼さんが見つけ報告しているということを、Iさんから聞き、更に「植物研究雑誌」に載った浅井氏の報告のコーピーを送ってくれた。 と言う訳で、やっと正体が明らかになった。私にとって一本の草の長い長い話なのだが、命名者の浅井氏によると、北米原産の新帰化植物、我が国に既知のハマダイコンよりも壮大なことに因み「オニハマダイコン」なる名前を与えることにしたとあった。ところでこのオニハマダイコン浅井氏によると予備帰化植物とあったが、浜辺で見た限りでは繁殖力はきわめて強いようで、写真のよく成長したと思われる株では一株に実が560個も付いていた。最初の発見地が新潟、日本海側なのでもしやと思い石狩湾の石狩浜と新川付近を歩いてみたが、昨秋は見いだせなかった。 もう一つ、我らおばさん連のとっておきの話がある。それは94年のこと、やはりこの会の Yさんと石狩川の河川敷で見つけた小型のガマなのだが、二人は「新種発見」と喜んでいたら、親愛なる仲間から「病気じゃないの」と一蹴されたものの、その内にという希望は持ていた。購読されている方も沢山おられると思いますが、昨年、朝日新聞社の「植物の世界」NO,116に紹介されたのです。「モウコガマ」おそらく本邦初確認と思われるものだったのです。我々の合い言葉は「歩くと何かあるよね」ではあるが最近は植物の世界もコスモポリタンで正体の分からないものが多くなってきているようです。

1997.1.20.

ボタニカ13号

北海道植物友の会