村野 紀雄
1.自然環境保全サポートシステム
北海道環境科学研究センターに自然環境部が設置されて、4年半たちました。現在、自然環境保全科、植物環境科、野生動物科の三つの科があり、総勢10人のスタッフで、野生生物を中心に自然環境情報の収集、解析を行っています。
設立早々、まだ、部室がととなわないところに、原先生が、自宅からひょこひょこ歩いて来て下さり、北海道の植物のデータベースづくりについて助言してくださったことがあります。
そのころまだ体制が整わなくてご助言を直ぐには生かすことができませんでしたが、現在、自然環境保全サポートシステムづくりの中で、データベースづくりを行っています。それは、環境庁の多様性調査や道庁自然保護課のRDB調査を取り込みながら、北大や各地の博物館などの所蔵標本を明らかにすることから始まっています。原先生のデータはもちろんのこと、伊藤先生や日野間先生による30万点以上のデータを二次メッシュに表出する作業をたくぎん総研の協力で進めているところです。このデータベースは、単に行政、研究機関の中だけではなく、誰にでも利用できるような形に整備したいと考えています。
自然環境の保全をサポートする情報システムづくりは、ひと、情報、機器、を多角的に関連づけながら「北海道の自然環境の現状や変化を的確に捉えて、それを自然環境の保全に関する行政等へ具体的に反映しうるシステム」を目標にして進めております。このためにまづ次の作業にとりかかっています。
(1)人工衛星等を利用した効率的な環境モニタリング手法を確立させる。
(2)人工衛星データ、各種環境情報、社会経済情報等の情報をとりまとめた自然環境情報インベントリー(目録)を作成する。
(3)人工衛星画像、航空写真、地図情報及び各種環境情報を用いた環境の現況や変化に関する解析手法の開発を行う。
(4)総合的な自然環境評価手法を開発する。
(5)解析結果を自然環境保全施策へ連携する手法の開発を行う。
さて、これまで、多くの自治体で環境保全施策に活用するための環境情報システムが構築されてきましたが、それらはコンピューターを意識するあまり、データをコンピューターの性能にあわせて加工、蓄積、解析するという点に力が注がれ、本来の「いかに情報を活用して環境保全施策の立案・推進を支援するか」という最も基本的な考え方が欠落していたと考えられます。そこで、このシステムは次のような項目を基本線に沿って整理統合しようとしています。
(1)北海道の自然環境に関連する幅広い情報(データ及び知識情報)の体系的な整備、現状の把握[モニタリング]。
(2)北海道の自然生態系全体の機能の解析(現象解明・因果関係解析)や人為的影響の評価並びに解析結果等の知識情報化[情報処理]
(3)知識情報等の関連組織間での共有化を通じた環境保全施策の検討[施策支援]
(4)関連組織間における人と情報(データ及び知識情報)の連携[ネットワーク]
つまりこのシステムは、大規模なデータベースシステムを目的としたものではなく、様々なデータ・知識情報の組み合わせや連携による、新たな、高度な知識情報の創出を目指すものであります。
衛星画像、GIS(地理情報システム)、インターネット等の最新の技術を取り込み、かつ、ソフト面を重視したこのシステムは、様々な環境に関する調査や研究を強力にサポートするはずですし、環境保全の施策を検討する際の強力な武器になるものと思われます。環境教育や地域づくりなどにも相当有効に機能するはずです。システム作りに踏み出したばかりですが、どうぞ植物友の会の皆さんも貴重な植物情報でシステムに参加してください。 特にこれからすべての生き物について生育生息の場所や時期について明記されたデータがほしいです。
2.野幌の植物
野幌の植物について1917年から1992年までの75年間での文献や、原先生を含む最近の私達の観察記録から、自然植生として733種をリストアップしました。もう少し時間をかけて検討すれば、この数は多少増減することになります。
記録の推移は次の通りです。
年度 | 文献名 | 記載種類数 | 新記録 | 累算 | 帰化植物種数 | 帰化植物率 | 帰化種新記録 | 帰化種累算 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1917 | 野幌国有林野生植物調査(工藤祐舜) | 380 | 380 | 12 | 3.2% | 12 | 12 | |
1928 | 野幌国有林野生植物調査報告書(北海道林業試験場) | 424 | 53 | 433 | 16 | 3.8% | 4 | 26 |
1934 | 野幌国有林植物調査書(舘脇操・松江賢修) | 542 | >131 | 564 | 30 | 5.5% | 14 | 30 |
1973 | 北海道石狩国野幌森林の植物学的研究(舘脇操・五十嵐恒夫) | 567 | 39 | 603 | 34 | 6.0% | 4 | 34 |
1992 | 札幌の植物(原松次)及び村野観察記録 | 564 | 129 | 733 | 59 | 10.5% | 34 | 68 |
注:帰化植物率=帰化植物種数÷記載種類数×100
1917年の資料では、380種が記録され、それ以降、75年間で記録された種の累計は、当初のおよそ倍の733種類ということになります。調査年度毎の確認種類数を見ると、だいたい500前後となり、同一人による調査では多少の機関の差はあっても500前後の把握が限界という風にも読みとれます。
帰化植物は1971年資料で12種だったのが、1992年までの累計では68種となっています。年度毎それぞれの確認種に占める帰化植物の割合は最初の3.2%から年々割合を増し、1992年では10.5%となっています。(以前ボタニカに出した数字と多少違っています。)
注目したいいくつかの種類のうちセリバオウレンは1985年に瑞穂池近くの針広混交林に群生しているのを見つけ、1年後に原先生にも確認していただいたものです。原先生はその後、手稲山麓の混交林でも群生しているのを見つけられ、そこが薬草園跡地であったことから、野幌のも昔薬草業者がタネでも撒いて歩いたものだろうと連絡をくださいました。確かに野幌の群生地の近くには草むした古い道路跡地があります。そのほかにも原先生をはじめとする植物友の会の皆さんにはリストアップにたくさんのお世話をいただきました。これからも野幌のことはもちろんのこと、各地での植物観察記録の情報をお寄せいただきたいと思います。情報はデータベースとして入力し、データをお寄せ下さった方には必ず還元するようにしたいと考えております。
3.原先生
原先生とは14年ほど前、先生が図鑑づくりを進められていた頃からのおつきあいで、11年ほど前に室蘭から札幌に移られた時、すぐ、当時自然保護課にいた私の所に訪ねて下さいました。翌年、さっそく道の第一回目のボランテアレンジャー育成研修会に講師としてご参加いただいて、主に、植物の雄と雌の形態の違いについてお話ししていただいたことがあります。フィールドでの観察を中心とした味のあるお話が印象的でした。あれからもう10年、北海道の植物をとりまく状況も大変変化した感じです。当時からの植物友の会の会員もみんな均等に年をとって、組織にもひだがたくさんはいった感じです。なんだかとてもさびしいですけれども、初心に帰って、昔に帰れなくとも、原先生のように実証的で誠実な植物探求をしていきたいものです。