第20回講演会(平成6年12月3日)講演要旨


環境消費税

佐々木 清一

 今年の夏は昨年の夏が異常な大凶作であった印象が強かったせいか、大変暑い夏で、気象記録を次々と塗り替え、札幌の最高気温は8月7日に36.2℃を記録するに至った。又連続して降雨がない地方も全国には多く九州や四国などでは1日19時間の断水もおこなわれた。従って農作物にもこの熱暑と寡雨の影響が多分に現れ、悲喜こもごもというところで、豊作に湧くのは潅漑水の十分にあった地域の稲作農家だけであろう。
 この暑さの原因はチベットに雪が多く降った為で、そのためチベットの気圧が高くなりがたく、その異常のためこれに伴う太平洋高気圧がいすわったと言うことらしい。しかしこの夏の暑さはインドでは45度を超え何百人も亡くなったりヨーロッパやアメリカも大変暑かったというから全世界的な暑さであったということになろう。こうなると温室効果ガスの濃度増加による影響としか思えなくなる。現在言われている大気の炭酸ガス濃度は0.03%であるが若しこれが0.06%即ち二倍になれば地球をとりまく大気の温度は約5℃上昇するといわれている。温室効果ガスとはCO2 SOX NOXなどの異原子分子とされるから、これらのガスを多量に排出する人間活動の化石燃料の消費に帰せられることになろう。
 これらの温室ガス中最も多いのはCO2であることは疑いないところで、燃料の消費とは炭酸ガスをつくることと悟れば、温室効果ガス発生しない燃料代替品の早急の発明発見が望まれるところである。
 最近の我が国に於ける自動車の普及は極めて著しいものがある。そして乗用車はそれを持つと乗車の欲望にかられ、近所へタバコを買いにゆくのにも乗って行くよりも歩くほうが早いのにわざわざ乗って行くことになるらしい。これは乗る人の健康にとっても良いことではない。
 近年の我が国の自動車メーカーの技術が向上して1Lのガソリンで15Km以上も走れるとのことであるが、市街地では信号待ちで止まってばかりいるから5〜6Kmも走れるかどうか分からない。そして信号で止まっていてもエンヂンはかけっぱなしだから随分無駄なガソリンを使っていると思われる。ガソリンは燃焼により水と炭酸ガスに変化することでエンヂンを回転させているから、エンヂンはガソリンの炭酸ガスへの転換機である。勿論大量に石油、石炭を消費する工場や冬期間の家庭の石油暖房にも同じことが言える。
 しかし自動車の増加は目に余るものがあるし停車したばかりの車のそばを通るだけでもその暑さが感ぜられる所から考えると夏の都会の暑さのかなりの部分を占めるであろうから単にアスファルト道路の照りかえしのみではないと考え、炭酸ガス排出の原因として自動車を考えたい。
 今、日本では平均1台の車が1年に何Km走るのか伺い知ることはできないが、少なく見積って1000Kmとしよう(1000Kmでは1日3Km足らずだから、そんなに少ないことはないと思うが、車庫に入れっぱなしという人もあろうから一応1000Kmとする。もし2000Kmならば選られた数値を倍にすればよいことになる)。そして1Lのガソリンで10Km走ることが出来るものとする。又多くのドライバーの好みはハイオクガソリンのようであるからガソリンはオクタンC8H18で有るとしよう。オクタンの比重は0.7とすると1Lのガソリンは700gとなる。即ち1000Km走るには100Lのガソリンが必要だから70Kgのオクタンに相当することになる。これをオクタンの分子量114で割ると593.22モルとなるから約600モルのオクタンが必要ということになる。オクタンは8分子のCを持つから600×8=4800モルのCO2を生成することになる。
 このCO2を無害にするには陸上では緑色植物による炭酸同化作用による炭水化物合成か海中では海水に溶け込んだ炭酸からCaCO3として珊瑚になってもらうか石灰藻或は貝殻になってもらうしかない。ここでは陸上処理のことのみ考える。
 炭酸同化作用は植物が根から吸収した水が葉緑体において明反応によりHとOHに解離しそのHと葉の気孔から吸ったCO2から暗反応により炭水化物即ちブドウ糖のような簡単なものから澱粉やセルローズのような複雑なものまでの一連の化合物を作り上げることである。今、稲の米の生産について考えるとその澱粉は麦芽糖12分子から成るといわれて居り、麦芽糖はブドウ糖2分子から成っているので2×12(C5H12O6)=C144H288O144=澱粉ということになる。
 最近の北海道では平均水田10a当り500Kgの玄米が生産される。この500Kgの玄米生産のためには稲の茎葉根等約500Kgが必要であるが、これらは主にセルローズから成ると考えられる。しかしセルローズの組成がはっきりしないのでこれも澱粉から成るとすると10a当り1tの澱粉生産となる。
 所で4800モルのCO2は33.33モルの澱粉となる。即ち約144Kgの澱粉に変わる。0.144ha即ち約1.5畝の水田が生産する炭水化物に転換されることになる。しかし水田では手間が大変であるからやはり植林ということ、それも常緑樹林ということになろう。私には針葉樹の葉緑素は温度によりどの程度その活性に差が有るのか分からぬが年中同じと仮定する(年輪の出来ることを考えれば低温での活性はひどく落ちるであろうが)。
 えぞ松林やとど松林は20〜30年生のものは毎年約4t/haの材の成長が見込まれている。又大政正隆氏のデータではとど松林では1u当り106*18g/年の落葉があると述べて居られるので少なく見積って100gとすると1t/haとなるから材落葉合わせて5t/haとなる。落枝および根の成長量のデータは見つからないのでこれは除外するがかなりの量であろう。そうすると年間5t/haのセルローズ生産となるがセルローズの分子量が不明なので澱粉として計算すると1t/0.2ha即ち1tの林産物が2反から生産されることになる。一般には1haにはとど松苗木3000本が植栽されるから、33。33モルの澱粉即ち144Kgの澱粉に直すと2.88畝即ち約3畝ということになる。ha当り3000本の植栽だから3畝では90本となる。苗木1本50〜60円だから植栽費込みで100円/本とすると9000円となる。これは100LのガソリンからのCO2を固定するためであるから90円/Lとなる。しかしその森林は10年間同じ固定量であるとしているから9円/L≒10円/Lとなる。即ち1Lで10Km走るのであるから1Km走ったら1円の税金ということで、ガソリン1L当り10円の税金を加算してもらう。かつて石油ショックの時には1L150円位もしたが今では120円位であるから130円であってもCO2を排出しながら走るといううしろめたさは解消されてドライバーも気持ちを楽にして走ることが出来るであろう。
 この1L10円の税は造林補助として用いられ、対象は国、都道府県、市町村、団体個人を問わず造林申請に基づいて補助をすれば良いと思う。これにより我が国の林地の荒廃が避けられるならばこれに越したことはない。必要な所に公平に補助が行えれば良い。育成された森林の伐期がくればこの木材は売却されその代金は我が国の環境改善基金として用いることができ、さらに海外の環境改善補助に支出されることを望みたい。
 多くの工場や火力発電所の石油消費や冬期の寒冷地の家庭暖房用灯油でも同じことがいえる。灯油重油はガソリンよりも分子量が大きいのでずっと多くのCO2を生ずるはずであるが、これらの代替物が得られ難いのでガソリン並みの税として1L10円としてはどうであろうかとも考える。しかし灯油は今1L40円位であるからそれが50円になったのでは民生にかなりの影響がでようし、重油は火力発電所や大工場で主に使用される上に灯油より安価なので物価への跳ね返りが大きかろう。従って、これらには消費税を幾分上げるに止めたい。とど松林は20年未満のものでもその間の同化作用を考え消費税の強化で良いのではなかろうか。

ボタニカ11号

北海道植物友の会