第19回講演会(平成6年4月9日)講演要旨


南日本の島嶼の風景

國兼 治徳

(1)

1.はじめに

 一体南日本と云うのはどの地域を指すのか。北海道から見れば、本州以南はすべて南に位置する島である。しかし、我々の脳裏に浮かぶ南日本と云うと個人差はあるだろうが九州や沖縄を思い浮かべるだろう。その見きわめは別にして、南西諸島(約100)と小笠原諸島(248)のうち、訪れた数少ない島を対象に、気のつくまま概観的に紹介する。

2.地理的区分

3.主な島の大きさと位置

島名面積(q2)北緯東経
父島23.9527*05*142*12*
屋久島50.2630*19*130*30*
奄美大島709.0328*23*129*30*
沖縄島1185.426*30*127*30*
宮古島158.3324*48*125*17*
石垣島220.924*20*124*09*
西表島284.424*17*124*53*

4.小笠原諸島

 小笠原諸島は房総半島の南約1,000qの太平洋上に点在する小島群であり、小笠原諸島(聟島列島、父島列島、母島列島)と硫黄列島、沖ノ島、西之島、南鳥島を含む。島の数は下記のとおりである。

聟島列島(聟島、嫁島、聟島他)82
父島列島(父島、兄島、弟島他)78
母島列島(母島、姉島、妹島他)58
硫黄列島(硫黄島、北硫黄島他)25
その他(西之島、南鳥島、沖ノ島他)
248

 小笠原は北緯27*44*〜26*32*の広がりをもち、沖縄と同じく亜熱帯に属する。

  年平均気温(℃)年降水量(mm)  
父 島22.91,255(1969〜1988年の平均)
那 覇22.42,128(1951〜1980年の平均)
東 京15.31,460(1951〜1980年の平均)
札 幌8.01,158(1951〜1980年の平均)

 小笠原の名称は信州の小笠原貞頼が1953年この島を発見したという伝承によるらしく、史実として確認されていないが、幕末には幕府も「小笠原島」を用いたといわれている。又、英語名Bonin Islandは無人島ブニンジマと呼んでいたのがなまったと考えられている。

○固有種
 小笠原は沖縄のような大陸島と異なり、隔離された状態にあるため固有の生物が多い。又、生態的地位がガラ空きの状態にあるため、この島に辿りついた植物は適応放散しやすい状態にある。安井氏によると、ムラサキシキブ属が、オオバシマムラサキ(小笠原全域)、シマムラサキ(父島)、ウラジロコムラサキ(父島・兄島)の3種に分化し、いずれも固有種であると報じている。
 太平洋の固有植物の割合は、次の通りである。

セントヘレナ島85%
ハワイ諸島82%
ニュージーランド島72%
マダガスカル島66%
小笠原諸島46%
カナリー島45%

 太平洋では他の地域との遺伝子の交換がなく、又、競合相手の侵入もないので固有の形質が保存され固有種が多い。

小笠原の植物
  自生種固有種
シダ類7412(17%)
草本12633(26%)
木本11279(71%)
312124(40%)

○代表的な植物
タコノキ(タコノキ科)固有種
タクヅル(タコノキ科)固有種父島・母島
マルハチ(ヘゴ科)固有種父島・母島
メヘゴ(ヘゴ科)固有種父島のみ
オガサワラリュウビンタイ(リュウビンタイ科)固有種母島
ワダンノキ(キク科)固有種母島
シロテツ(ミカン科)固有種父島
オオバシロテツ(ミカン科)固有種
オオハマギキョウ(キキョウ科)固有種父島・母島列島
ムニンノボタン(ノボタン科)固有種父島
ムニンヒメツバキ(ツバキ科)固有種父・母・兄・弟
オガサワラビロウ(ヤシ科)固有種
ハハジマノボタン(ノボタン科)固有種母島
オガサワラグワ(クワ科)固有種父島・母島

5.沖縄の植物

 九州南端から台湾までの約1300kmの海上に弧状に配列した島々を琉球列島といい、そのうちほぼ北緯27*以南が沖縄県に属する。本県は約60の島島、沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島からなる。
 地質上は、古生代後半の堆積岩が褶曲隆起し、さらに造礁性サンゴの生育できる環境となり諸島が形成されたもようである。
 琉球列島は区系上東南アジア区系に属するが、植物相をみると日華区系と東南アジア区系の干渉地帯である、というのが学者の一致した見解である。すなわちシイ林などの高木層がある一方で東南アジア要素のマングローブ林が河口域に成立している。
 沖縄県のシダ植物以上の高等植物は、168科1526種あり、そのうち、カヤツリグサ科116種、イネ科104種、ラン科95種、マメ科68種の順に多いと記録されている。しかも、亜種、変種、帰化植物まで加えると1760種にもなる。又、シダ植物の種数は日本全土が630種に対し、琉球は236種と日本の野生植物シダ(平凡社)に出ている。

○マングローブ
 熱帯および亜熱帯の汽水性の含塩泥湿地に生育する常緑樹の一群で、分類学的にはあまり類縁のない種類が寄せ集まった特異な植生である。
 マングローブmangroveの語源はポルトガル語mangueマンゲ(マングローブ)と英語のgrove(下ばえのない小さな森)の合成語だという。紅樹林は中国語で、ヒルギの材質が赤いところに由来する。

マングローブを構成している種(日本)
ヒルギ科オヒルギ属オヒルギ
    メヒルギ属メヒルギ
    オオバヒルギ属ヤエヤマヒルギ
シクンシ科ヒルギモドキ属ヒルギモドキ
ハマザクロ科ハマザクロ属マヤプシキ
クマツヅラ科ヒルギダマシ属ヒルギダマシ

 すなわち、4科6属6種であるが、日本以外にはホウガンヒルギ属(センダン科)、アエギケラス属(ヤブコウジ科)など数種がこれに属するが、形や性質に似ているという。

 マングローブは海水又は汽水域に生育するが、淡水でも育てることができるから厳密の意味での塩生植物ではない。ただ、一般に高い浸透圧を示す。

 又、呼吸根を持つのが特徴のひとつである。

マングローブの分布

    与那国島西表島石垣島宮古島沖縄本島南大東島久米島徳之島奄美大島屋久島種ヶ島九州喜入
オヒルギ      
メヒルギ      
ヤエヤマヒルギ        
マヤプシキ             
ヒルギダマシ          
ヒルギモドキ        

 マングローブの種子は胎生種子といい、母木についている時から発根・発芽した状態にある。ただし、すべての構成種が胎生種子ではない。ヒルギダマシの種子はソラマメに似ており、半胎生種子とも云われている。

 メヒルギの胎生種子の長さ      約40cm
 オヒルギの胎生種子の長さ      約15〜25cm
 ヤエヤマヒルギの胎生種子の長さ   約20〜40cm
○主な植物

アダン(タコノキ科)  
サキシマスオウノキ(アオギリ科) 西表島
ヤエヤマヤシ(ヤシ科)固有種石垣島、西表島
アコウ(クワ科)  
ガジュマル(クワ科)  
ハブカズラ(サトイモ科) 沖縄、八重山
リュウキュウバショウ(バショウ科) 沖縄、石垣、与那国
モンパノキ(ムラサキ科) トカラ以南
ヤエヤマノボタン(ノボタン科)固有種石垣、西表
シマオオタニワタリ(チャセンシダ科) 屋久島、種ヶ島以南
ホソバリュウビンタイ(リュウビンタイ科) 奄美以南、小笠原
ヒカゲヘゴ(ヘゴ科) 奄美、沖縄

6.屋久島

 屋久島は、昭和41年(1966年)に縄文杉が発見されてから、急に脚光を浴び雨の島から縄文杉の島として徐々に有名になった。
 屋久島は、九州南端の佐多岬から南へ約70kmはなれた面積500km2の丸い島である。地質図によると、島の大部分は花崗岩からなり、又、1000mを越す山が30もある。なかでも、宮の浦岳(1035m)は、九州地方の最高峰であり、又、九州一番の久住山(1787m)より高い山が7座あると云う。

○屋久島の植物
 屋久島は年平均気温が19℃〜21℃の範囲にあり、暖かさの指数でも173.5〜191.5とぎりぎりの線で亜熱帯に属する。勿論、垂直分布では海岸に熱帯性の植物が生育し、山頂付近には夏緑樹林が存在するが、大部分は照葉樹林とスギ樹林でおおわれていると云う。
 又、屋久島と奄美大島との間に渡瀬線があり、動物相のみならず植物においてもその違いを示している。

  総種類数自生種固有種北限種南限種
屋久島138912814021149
奄美大島112910161812014
徳之島84675910
沖永良部74765920
種子島103194528
「鹿児島県の各島嶼における植物の分布状況」より抜粋(田川)

○屋久杉

○世界遺産に

7.島嶼の復帰

 太平洋戦争後における行政の変遷は、下記のとおりである。

1946年(昭21)1.28北緯30*線以南は、アメリカ軍政下に統治。
  吐喝喇列島以南
1952年(昭27)4.28北緯29*以北にある10島村の下7島(吐喝喇列島)が日本に復帰
1953年(昭28)12.25奄美大島が日本に復帰
1968年(昭43)6.26小笠原諸島が日本に復帰
1972年(昭47)5.15沖縄は日本に復帰

8.南州の遠島

西郷隆盛(1827.12.7〜1877.9.24)

1858年(安政5)2月将軍継嗣問題で奔走(32才)
 7月藩主斎彬公死す
 10月僧月照と帰国
 11月薩摩大崎ヶ鼻にて月照と入水、西郷のみ助かる
 12月奄美大島へ流謫の命をうける
1859年(安政6)1月奄美大島竜郷村に到着(33才)
1861年(文久元)1月長子菊次郎が生まれる(35才)
 12月召還の命を受ける
1862年(文久2)2月帰藩(36才)
 3月久光公の上京先発として下関に到る。命に背いて無断上京
 6月徳之島に流罪
 8月沖永良部島和泊村に移される
1864年(元治元)2月赦免により帰藩(38才)

9.おわりに

 ひと通り書いてしまってから、あまりにも大きなタイトルを掲げたことに後悔している。南の島のごく一部をわずか数日まわっただけで発表するのはおこがましいと思う。ただ、亜熱帯地域をさまよい歩き、私の目線でとらえた島嶼の一部とご了解いただきたい。

参考資料
 原色日本植物図鑑(上):北村・村田・堀共著 保育社 昭33
 第41回日本統計年鑑:総理府統計局編 日本統計協会 毎日新聞社 平3
 日本の植物区系:前川文夫 玉川大学出版部 昭52
 小笠原の自然:小笠原自然環境研究会 古今書院 平4
 遺伝Vol.47 No.1-2:裳華房 平5
 小笠原植物図譜:豊田武司編 アボック社 昭56
 沖縄の生物:沖縄生物研究会編 新星図書 昭51
 琉球列島維管束植物集覧:島袋敬一 ひるぎ社
 世界大百科事典3・21:下中邦彦編 平凡社 昭39・42
 緑の冒険:向後元彦 岩波新書 昭63
 屋久島の自然:日下田紀三 八重岳書房 平5
 屋久島野生植物目録:濱田英昭 平4
 世界の自然遺産屋久島:田川日出夫 NHKブックス 平6
 朝日新聞:平5.12.9(夕)
 西郷隆盛と沖永良部島:先間政明 八重岳書房 平4
 日本植生誌・沖縄・小笠原:宮脇昭編 至文堂 平元
 日本地誌21:

ボタニカ11号

北海道植物友の会