カタクリの北海道における分布(予報)

五十嵐 博

1.はじめに

 カタクリ(ユリ科.カタクリ属.Erythronium japonicum Decne.)は日本国内では1属1種で世界中では24種類が欧州や北米等に分布する。国内で見られるのはピンク色、まれに白花、ごくまれに緑花が報告されている。北米では黄花が有名である。
 筆者はスミレ属の調査で各地を歩く傍ら、北海道内における春植物の分布、特にカタクリの分布に興味を持っていた。今回整理を思いたったのは春植物の分布資料が植生調査時期の影響から皆無に近いことである。過去4年間の自己観察記録と各種文献・資料、知人からの聞き取り情報からカタクリの道内における分布と生育環境について考察を行った。今回までに確認した地域は狭く、内容も深めていないため読者諸兄のご意見、観察記録等の各種情報をお願いする。

2.北海道におけるカタクリの分布

 現在までの筆者が確認したものを黒丸、各種文献・資料、聞き取り情報によるものを白丸で記載した北海道内のカタクリ分布を右図に示す。  基本的に2.5万分の1地形図で分割した972か所を1点として26か所を自己確認した。その他各種文献・資料から69か所が記録され、合計95点が分布地点合計である。  原松次編著「札幌の植物」によれば、札幌周辺では朝日岳、小樽市、硬石山、定山渓、定山渓天狗山、滝野公園、砥石山、西岡公園、春香山、百松沢、真駒内公園、藻岩山、夕日岳、余市岳の14か所の分布が報告されている。  「旭川の動・植物」では神居古潭、嵐山、江丹別、東鷹栖、旭山の5か所が報告されており、旭川の突哨山のカタクリは面積的にも広く有名である。  胆振では岡本「室蘭地方植物誌」で測量山、鍋島山、鷲別岳、オロフレ山、樽前山の5か所が報告されている。  これ以外に地域としてまとめられた文献は余り入手できておらず、梅沢他・夏山ガイドのシリーズでは、静内町・ピセナイ山、浦臼町・隅根尻山、幌加内町・三頭山等での紹介があり、原松次「北海道植物図鑑・3冊」では室蘭市、厚沢部町が、梅沢俊撮影の各種図鑑類では定山渓、藻岩山南斜面、新冠町等が記載されている。  たくぎん総合研究所・高等植物目録・単子葉植物では、カタクリの分布を渡島、桧山、胆振、日高、後志、石狩、空知、留萌、上川、十勝の10支庁とし、宗谷、網走、釧路、根室の4支庁には分布しないと評価してある。  宮脇昭「日本植生誌・北海道」によれば定山渓ー2、暑寒別川、当別町、月形町、浜頓別町、浦河町、幌加内町、神恵内村、小樽市忍路等10か所が組成表から確認された。  北海道大学農学部標本庫でのカタクリの標本は32枚あり、本州産、産地不明、重複(1枚に2〜3か所)を整理したところ、定山渓小樽内川ー2、古平町、札幌市円山、天塩演習林熊の沢、真駒内、豊平、天塩国焼尻、札幌、石切山、磯谷島古丹、謄振国モロラン(室蘭?)、高嶋郡祝津、余市川支流中ノ沢、余市、函館、奥尻島青苗川、日高庶野、様似、山鼻藻岩山東側、藻岩山、札幌、太平山、桧山土橋等の24か所の分布が判明した。
 また、樺太栄浜ー菅原繁蔵氏の標本も確認でき、樺太植物誌(1975)と照合もできた。  筆者の自己確認場所は和寒町、旭川市、比布町、浜益村、厚田村、札幌市、小樽市、赤井川村、仁木町、共和町、余市町、倶知安町、蘭越町、黒松内町、乙部町、伊達市、室蘭市、穂別町、厚真町、新冠町等20市町村26地点である。自己確認・文献等の他に多くの方々から分布情報を頂いた。情報を頂いた皆さんは独自の場所で春を満喫しているようである。
3.カタクリの生育環境

 カタクリの生育環境としては、基本的に落葉広葉樹林に多く見られる。斜面タイプは一概に言えないが観察記録ではN(北)が多く感じられた。  文献資料で組成表が確認できたのは前記した宮脇・日本植生誌しか見あたらず、10か所の群落名はツルシキミーミズナラ群集ー6か所、アサダーミズナラ群集ー1か所、渓谷・渓畔林ー1か所、タニウツギーヤマハンノキ林ー1か所、高茎広葉草本植物群落ー1か所の内訳である。現在までに集めた組成表によれば、生育環境の標高は5m内外(浜益の海岸)〜690m(定山渓)であり、斜面タイプは、宮脇では10か所の内、Nー2、NEー2、SWー2、他はS、W、SE、なし、がそれぞれ1か所であった。

4.まとめと考察

・カタクリは道南、道央、道北には多く分布するが道東には一部しか分布していない。釧路や根室地方の情報は見つかっていない。道南にはもっと分布すると思われるが資料が少なかった。今後の調査や情報収集により、きめの細かい分布が判明すると思われる。
現在までに確認できた市町村は下記の64市町村である。今回の整理により、たくぎん総合研究所・北海道高等植物目録・単子葉植物に未記載の宗谷支庁、網走支庁を確認できたで今春できるかぎり現地確認に訪れたい。(アンダーラインは自己確認を示す。)
宗谷支庁・・浜頓別町
留萌支庁・・幌延町、羽幌町、増毛町
上川支庁・・美深町、名寄市、風連町、士別市、幌加内町、和寒町、旭川市、鷹栖町、比布町、愛別町、上川町、東川町
網走支庁・・端野町、美幌町
石狩支庁・・浜益村、厚田村、札幌市、当別町
空知支庁・・深川市、滝川市、砂川市、浦臼町、月形町
後志支庁・・赤井川村、小樽市、余市町、共和町、仁木町、蘭越町、黒松内町、京極町、倶知安町、ニセコ町、島牧村、神恵内村、岩内町
胆振支庁・・室蘭市、伊達市、登別市、苫小牧市、穂別町、厚真町
渡島支庁・・函館市、知内町、福島町、八雲町
桧山支庁・・厚沢部町、乙部町、奥尻町、熊石町
日高支庁・・新冠町、静内町、浦河町、様似町、えりも町
十勝支庁・・帯広市、浦幌町、中札内村、広尾町

・多雪地域との連動を思わせる分布形態である。現在までの道内北限は浜頓別町(樺太にもある)、東限は美幌町(北大標本庫にクナシリ島らしい標本があったが不明)であるが、今後の調査・情報次第で変更する可能性が高い。

 今回の調査結果には文献、図書等の公表されている以外は詳細な場所は明記しなかった。昨年春、胆振地方のスミレ調査の際、国道で山にしたカタクリが販売されていた。山菜図鑑にも掲載されているが、悲しい風景である。地域による北限、南限、東限等がこのような心ない乱獲で失いたくないものである。以上の理由により今回の分布図には詳細な位置は記入していない。

5.御礼

 今回の分布資料を作成するにあたり、北海道植物友の会等の多くの人々から分布に関する情報を頂いた。カタクリの次はアズマイチゲ、キクザキイチゲ、キバナノアマナ、エゾエンゴサク等多くのスプリング・エフェメラル(春の妖精)が残されている。可能な限り調査の予定であるが、会員の方々の奮闘を期待する。

ボタニカ11号

北海道植物友の会