黄金山に遊ぶ

牛沢 信人

 

 いわゆる戦後、教育大学が移って、昔の札沼線が学園都市線というようなしょう洒な名前で呼ばれるようになって樺戸地方は見事に変貌した。とくに数年前に“道民の森”が開かれたり「新十津川物語」が話題になるなど、この近辺とこの地域の山々は、にわかに我々の身近なものになった。樺戸の山々とは、北方に向う広島通りの延長線上にむらがる標高1,000m前後の山々である。平均距離は凡そ50km前後の山々である。さらに樺戸を北方へぬけたところに、すぐ接して増毛、暑寒別の山々がある。黄金山は、この山群の南縁にある。浜益のすぐ手前である。黄金山(739m)は奇抜な形をしている。上の方の、まな板を立てたその先端のような突出した形が昔から人目をひいてきた。
 ごく最近世に出た「山渓」の“日本の1,000名山”には浜益方面からみた秀逸な富士型(但し形だけ)の冬の姿をのせている。ただそこに、山があるだけでは恐らく登る機会は無かったと思う。
 ただただ植生のことにひかれ、あわせて久しぶりに、むかし登った南暑寒や浜益御殿など、暑寒の山々を展望しようと思い立って9月初めの晴天の日をえらんででかけた。あらためて、この黄金山を前にしてその山容をみて想う。それは本質的にいえば定山渓の手前の八劒山(498m)と実に似通っている。ともに火山性の山であるが、いわゆる火山ではない。数100万年、数10万年以来の侵蝕に耐えぬいた、大火山作用後の、いわば残骸なのである。両者の山容を比較するとむしろ八劒山の方が、低いのにかかわらず量感がありはるかに立派にみえる。しかし黄金山は八劒山とは別のすぐれた個性をもっている。感動を覚えたのは、海抜700mをすぎた付近から這松帯に入ることである。即ち黄金山では、この地理的位置、そしてこの高度から上で高山植物帯を形成しているのである。安山岩の中を縦横に走る節理の間につました土壌に、高山植物が根をおろしている。まるで海抜700mから上では、四方が垂直に近くきりたった、天をますようで、しかも巧まざるロック・ガーデンが忽然と目の前にあらわれる。樹木では、まず何よりも高地の指標であるハイマツ、それに矮性のミズナラ、ダケカンバ、ミヤマハンノキ、ミネカエデ、ミヤマホツツジ、タカネナナカマドなど、そしてサクラもある。ミネザクラか。草本ではチャボカラマツ、アサギリソウ、ミヤマアズマギク、シラネニンジン、コケモモ等である。1年近く前からの計画であった。登り終えて満足感が胸一杯にひろがる。できればもっと早く花の豊富な時期に訪れたかった。
 クルマで往復10時間を要する。その大凡半分は山での行動時間、他の半分は運転に要した時間であった。

 

ボタニカ9号

北海道植物友の会