オオヨシキリ

 水辺の夏鳥の代表選手、オオヨシキリに初めて会ったのは琵琶湖畔の葦原で、それは梅雨入りを控えた6月初めの頃のことだった。勢いよく伸び始めた青い葦の葉にとまって大きな口を開き、忙しそうに「ギョギョシ、ギョギョシ」とさえずる姿は勇ましくもあり、すこし滑稽でもあった。真昼の太陽に少し熱を帯びた湖の風と、あちこちから聞こえてくるオオヨシキリの鳴き声に頭がボーッとしてくるようなそんな午後のことだった。

 明くる年の3月半ば、沖縄本島北端の辺戸岬で思いがけずオオヨシキリの姿をみつけた。冷たい雨の降る中、ブッシュの中で羽を休めていた彼の後姿は夏の面影もなく、見るからに疲れている様であって少し気の毒な感じさえした。寒い冬を南方で過ごした体長20センチメートルに満たないその鳥は、おそらく来たるべき恋の季節に備えて島伝いに本土を目指し、飛び続けてきたのだろう。そして辺戸岬で天候と体力の回復をじっと待っていたのだと思う。

 オオヨシキリとはそれ以降毎年初夏の水辺で出会うことになる。道端に車を止めて助手席に三脚とカメラをセットし、彼がお気に入りの葦にとまるのを待つのも年中行事の一つになった。勇ましくも滑稽な姿をファインダーにとらえるたびに、ああ今年も遥か海を越えてやってきてご苦労さんご苦労さんと、あの3月のそぼ降る雨の沖縄のオオヨシキリのことが思い出されるのであった。
                                 (紀の国 1993.6)
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