新しい命(フクロウ)

 3月下旬のまだ冷たい夜の森でフクロウの夫婦は子育てを始めた。母親は狭い木の洞の中で卵をじっと抱き続け、父親は来る日も来る日も母親に餌を運んだ。 

 4月中旬、2羽の子供達が誕生した。巣穴からかすかに「チ−チ−」という声が聞こえてきた。

 4月下旬、子供達は日に日に大きくなっていった。父親が餌をくわえて戻ってきて、「ホーホーゴロスケホッホッ」と誇らしげに鳴くと、子供達は「ピチュー、ピチュー」と元気に餌をねだり、母親はうれしそうに「ブギー」と一声鳴き返した。

 5月上旬、巣穴は子供達だけになった。気温も上がり、もう親に抱かれなくても寒くない。元気一杯の子供達は、巣の外で何か音がしただけで「ピジュー、ピジュー」と声をはりあげた。そんな巣穴の様子を母親は近くの木の上からじっと見守り続けていた。

 そして巣立ち。子供達は夜のうちに巣を離れた。兄弟は初めて全身に森の空気を浴びた。翌朝、まぶしい朝日に目を細めてウトウトしているフクロウの子供をみつけた。森は新緑にあふれ、小さな命をやさしく包みこんでいるのだった。

                                 (紀の国 1993.4)
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