本を買って読めればいいけど、時間がなかったり、読むタイミングを逸してしまったり、という難関を克服した完読本の感想をつらつらと書き込んでおります。
　この中で「これはこれは」な本になるものが出てくればいいのですが。

• 『邪眼鳥』　筒井康隆著　新潮文庫　つ−４−３８　３６２円＋税
  
  　映像になって浮かんでくる。登場人物が場面と時間を飛び越えていく瞬間。
  　句点のない文章。ただ、独白の部分には、息遣いを表すための句点が存在する。
  　物語については、スパイラルする時空で、僕には不得意な分野。結局、筋を追うだけで疲れてしまった感あり。しかも、追い切れていない（笑）。
  
  　今年の最後に、難物を読んでしまったなぁ。
  19991231

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• 『新人賞の獲り方おしえます』　久美沙織著　徳間文庫　く−９−２　５５２円＋税
  
  　「本の学校『作文術』」というコミュニティ・カレッジの内容を纏めたものだそうだ。
  　小説家になるためにはどのような書き方をすればよいか、と言える。
  　だから、僕のように、そういう目的のない人が読んでも面白くないかというと、そんなことは全然ない。いやぁ、ためになりますよ。
  　『そこに鉄塔がある』『街中の劇物』をご覧になった方は気が付かれたかもしれないけど、けっこう本文には苦労しているんです。毎回毎回同じような内容だと読んでくれませんもん（笑）。
  　小説家を志していない人にも、WebPageで文章を公開する人にも、一度目を通してみては如何？
  　きっと、マンネリを打破するヒントがたくさん見つかりますよ。
  　ただ、それを生かすことができるかは、その人次第だけど（＞自分（汗））
  
  19991230

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• 『全証言　東芝クレーマー事件』　前屋毅著　小学館文庫　ま−２−３　４６７円＋税
  
  　かの事件を双方の証言を基にして、その顛末を明らかにした本である。
  　僕はそのＨＰを見たことはないのだが、見ていても見ていなくても事実は見えてこない。それにもまして、この本を読んだところで事実ははっきりしない。
  　ただ言えることは、双方とも説明がうまくなかった、ということ。
  　どういう問題があって、どういう原因で、どのような対処をして、それをどのように説明するのか？　それは顧客側、企業側双方が納得できる形でなければならない。納得とはベクトルを合わせることである。
  　結局、最後まで合うことはなかった。
  　暴言についてはもちろん論外であるが、そこに行き着く過程はお互いに適切であったか？
  
  　「謝罪させた男」「企業側」全証言、と書かれているが、証言だけでは明らかにならないことばかりである。自分の都合の悪いところは隠すということが大なり小なり行われていても不思議ではない。
  　本来の目的から外れて、ＨＰのインパクトのみが拡大されてしまった感。
  
  19991215

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• 『ジャズ小説』　筒井康隆著　文春文庫　つ−１−９　４６７円＋税
  
  　やっぱり面白いなぁ。
  　ＳＦあり、サスペンスあり、どたばたあり。
  　実は単行本で出たときに、既にどこかの本に収められているもののうち、ジャズに関する小説を集めたのだろうと思って（だって、ジャズ大名という小説がありますもん）、中身を確認しなかったのです。で、今回の文庫も買わずに済ませるところだったのです。
  　なかでも『ラウンド・ミッドナイト』。昔の『走る取的』を思い出した。まぁ、『走る取的』と違って不条理モノではなかったけど、現実にありそうな話なので、かえってドキドキ。
  　それとは別に、山下洋輔氏の解説が圧巻である。
  19991209

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• 『漂流物』　車谷長吉著　新潮文庫　く−１９−２　４００円＋税
  
  　こういう本は苦手だ。
  　現実とも夢ともつかない（とはいえ虚構であることには違いないが）物語。自分で自分を切り刻むが如く並べられる言葉。
  　やだな、やだなと思いつつ、読み切ってしまうのも、やな感じ。
  　著者自身に向けられた言葉は、巡り巡って読者にも。
  　『漂流物』のような生活。根無し。十円玉の裏表で決まってしまう生き方。たしかにそれは漂流物のような生活ではある。例えば、今の僕は十円玉を投げて裏表にゆだねている訳ではない。併し、心の中で日に何十回も何百回も見えないコインを投げているのと変わらないのだ。
  　漂流していない人間がどこにいる？
  
  19991209

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• 『それは言わない約束でしょ？』　わかぎえふ著　集英社文庫　わ−８−３　４３８円＋税
  
  　帯には「ガマンするより、言っちゃったほうがいい。」と書かれているが、それは間違いである。読めば分かる。
  　確かに、この本を読むと、日頃の鬱憤やイライラがスキッとする。
  　そりゃそうだよな、とか、そんな奴がいるのか、などと至極当然の感情を日常生活の中でふくらませていることが多いことか。
  　だからといって、この本を読んで、読んだイメージだけで「言っちゃったほうがいい」と勘違いしてはいけないのだ。
  
  　だって、「わかぎえふは日常ではそんなことは言っていない」のだから。
  
  　そんなことしてたら、友人知人、近所のおじさんおばさんをすべて敵に回してしまうかもしれないもんね。まぁ、ネタとして本にしてしまうという裏技のごときことをしてしまうのであるが、普通の人には一寸無理な話。（それでも、最近はWebPageで公開しようと思えば出来るけど、大ヒットページにでもならなければ、自己満足の世界だからなぁ）
  
  19991204

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• 『霍去病　上・下』　塚本��史著　河出文庫　つ４−１・２　各７５０円＋税
  
  　副題として『麒麟龍彗星譚』。
  　漢帝国の時代といえば、秦の始皇帝が中国を統一した後、項羽と劉邦の戦いが終わり、実質的な中央集権国家の時代と言えよう。しかし、漢帝国の外側には匈奴という強国があった。
  　霍去病は、まさしく彗星の如く現れ、匈奴を蹴散らし、風のように去っていった将軍である。常人をはるかに越える矢をつがえ、しかも正確に的を射抜く。軍事的能力に特化した人間。
  　逆に言えば、軍事的能力以外には何もない。皇帝から見れば、いろいろな職種に秀でた能力を持つ人材が集結すればそれでよいのである。実際、匈奴を駆逐したあとの霍去病はその活躍の場を失う。しかも２４歳で世を去る。
  　帝国を維持する時間に比べれば、あまりにも短い時間である。短くても記録に、記憶に残る人間。その人間の周りで動く人々。なぜ彼は早世したのか。
  　霍去病本人以外の動きが実は面白い。なぜならば、彼ほどには能力特化していないからである。我々に近く、理解できる行動。やはり僕は凡人だな。
  
  実は、本当に怖いのは英雄を取り巻く女たちだったりする。
  19991128

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• 『覆面作家の夢の家』　北村薫著　角川文庫　き−２４−３　４５７円＋税
  
  　いつまでも聴いていたい音楽があるように、いつまでも続いて欲しい物語というものも、また、ある。とくに、このシリーズは僕にとってはそんな本のひとつである。
  　なぜか外弁慶なお嬢様推理作家とその担当。やりとりが楽しいし、どろどろとしたところのないストーリー。しかし、推理はしっかり。（だけど、前にＮＨＫでドラマ化されたときに見てしまったので、一部は既知のことであった。失敗したなぁ）
  　読んだ人には分かるネタ「欲しい札は、ただ一枚・・・」。なにか引っ掛けてあるんだろうと思って、それらしい本を見てみたんですが、こちらは該当するものがありませんでした。上一列(?)だけでなく、どこかの一列がそう並んでいるのがあるのかもしれません。
  　ハッピーエンドとなるこの本で、シリーズ３冊完結ということになるんでしょう。残念ですが、それはそれでうまいしめ方。分量も適当。ということで、誰にでもオススメできる推理小説です。
  19991103

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• 『アルジャーノンに花束を』　ダニエル・キイス著　ダニエル・キイス文庫　１　７６０円＋税
  
  　主人公であるチャーリー。僕はこの物語を通して、彼の吸収し、放出していくさまを「手のひらに砂をのせていく」様なものと感じた。
  　乾いた砂は、いくら手のひらに積んでいってもある程度を越えるとこぼれていってしまう。たくさんの砂を積むためには、手のひらを大きくするしかない。ところが、チャーリーに施された科学的手法によって、その砂は水分を含むようになる。水が接着剤の効果を示し、砂の彫刻を作るように、手のひらの上に大きな知識のそれを作っていく。
  　しかし、大量の水は接着剤から、破壊するためのものに変わる。積み上げた砂はどんどん手のひらから流れ出していき、ビニールシートを被せられていた砂山だけが残った。
  　ちょっと、何と言っていいか分からない。こぼれ落ちていく様子。積み上げる前と後、そのどちらが彼にとって幸せであるかは、僕には分からない。
  　親に好かれたい。他人に好かれたい。誰にでもある欲求である。それが知能とは別次元の話であるのか？
  　誰しも、他人よりも優位な立場にあるとき、傲慢ではないか？
  　人はどんなときも人間としてあるのではないか？
  　単純なことではあるけど、彼が体験するものは悲しい現実でしかない。
  　僕はそのことを知っていたはずなのだが。と、思うこと自体が傲慢なのかもしれない。
  19991030

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• 『野鼠戦線』　景山民夫著　徳間文庫　か−２４−５　４７６円＋税
  
  　戦記物（というのだろうか）分野は、一部の実録（あるいは回想録）を除いてほとんど読んだことがない。しかし、この本を読んでみると、それまでの印象から１８０度どころか５４０度もの転回したものを感じる。
  　もちろん、架空の物語である。
  　左文字少尉の率いる総勢５人の小隊。補給もなく、イタダキ戦法によって敵にダメージを与える。臨機応変。柔軟。技術。戦略。はたして、それはどんなものか？
  　先の戦争がどうであったにせよ、こういう思考の人たちが軍の上層部にたくさんいたならば、きっと多少の状況変化はあったであろう。（架空の話ではあるが）
  　物語の導入部、引きつけて、持ち上げて、落とす。まるで落語のような戦記である。
  　この人がもはや物語を書くことが出来ないとは、まったくもって残念である。
  19991018

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• 『スキップ』　北村薫著　新潮文庫　き−１７−１　７４３円＋税
  
  　いきなり余談であるが、広瀬正の本の中で、終戦後にタイムスリップ（もどき）を体験したというエピソードが載っていた。こんな内容である。
  

  　進駐軍の男に殴られ、気を失った。
  　気がつくと、街にはネオンが輝いている。
  　「どうして灯火管制をしていないのだ？」
  
  　戦時中の「私」が未来を見た瞬間である。
  　つまり、「私」はその時「未来」にいたのである。
  　（記憶を基に書いていますので、一寸違うかも）
  

  　ということで、読み始めてすぐにこれを思い出した。
  　１７歳からいきなり４２歳へスキップしてしまった主人公。あんまりな設定である。あんまりな物語である。
  　１日１日の積み重ねが、その人の人生をつくっていく筈なのに、すっぽりと抜け落ちたときのその先にある生き方。そこからはすべてが前向きにしか進まない。でも、前向きに進むって、どういうことなのだろう。過去の空白を埋めることはできない。２５年分の若さと２５年老いている肉体。
  　取り戻すべき自分を失い、新たなる自分を作り上げていく。「今」の積み重ねで。
  　なんでもない毎日が、実はなんでもなくない毎日であったことに驚き、無為に過ごしている自分と比較してしまうのだ。
  
  19991011

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• 『皆勤賞』　林真理子著　文春文庫　は−３−１９　４７６円＋税
  
  　初めて読むエッセイです。
  　この人、いろいろなことをやっているなぁ。というのが最初の印象。なにしろ、僕はほとんどこの人のことを知らない。（前に『女文士』を読んだだけ）
  　と、そこまでは良かった。あることに気が付いてから、何となく読むのが苦痛になってきた。
  　それは。
  　名前をカタカナで書いている（部分がある）こと。
  　たぶん、そのことで匿名性とか抽象化するとか、まぁ、そういう類のことを狙っているのかもしれないが、実は大変失礼なことだと思う。（その人が納得しているかどうかは別として、僕はダメなのだ）　なぜ漢字ではないのか。漢字で書けないならば、名前を出さないというのも手ではないか？
  　なんだか、つまらないことに過剰反応を示しているようであるが。
  　「こいつだけは許せない」「老けの行末」「イジメと自殺」などなど、なるほどと思うエッセイも沢山あったけど、そんなわけで、全体的には負け越した感じである。
  19991008

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• 『真夜中の喝采　きんぴか(3)』　浅田次郎著　光文社文庫　あ−２９−３　５３３円＋税
  
  　そういう手できたか。
  　物語を終結させるために、三人三様の山場を見せる。一番かわいそうに感じたのは、ピスケンだな。まぁ、読んでもらえれば分かるので、内容については書かないが、一番割を食ったのが彼。裏を返せば、そう感じさせるだけのキャラクターだということ。
  　次は軍曹、そしてヒデさん、となるんだろうな。
  　問題は、元締めである向井の権さんである。結局彼の目的はなんであったのか？達成されたのか？　ラストシーンでは、一応決着したような雰囲気ではあったが、霧の中である。
  　そして、その後の彼らはどうなったのであろう。気になってしようがない。
  19990923

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• 『血まみれのマリア　きんぴか(2)』　浅田次郎著　光文社文庫　あ−２９−２　５３３円＋税
  
  　登場人物が増えてくる、といっても基本的には短編集なのでいっぺんに登場するわけではないのですが、この本の場合はちょっと微妙な感じがします。
  　もともと、ある種のバカの三人組の復讐譚（風）だったのですけど、いつまでもそういう物語では続けられないという事情もあるのでしょう。ホンの片隅に登場した人々に次々とスポットが当てられていきます。
  　ただ、そういう物語の組み立て方になると、どうしても必然性というかのめり込み度というかが薄まっていくのも、また真実です。
  　三人組＋元締めのキャラクターの強さで、どこまで引っ張っていけるのかな。
  （でも、面白いんだよ〜〜）
  19990918

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• 『三人の悪党　きんぴか(1)』　浅田次郎著　光文社文庫　あ−２９−１　５３３円＋税
  
  　この本は、以前、飛天文庫になっていたのを読みました。
  　今回、光文社文庫から残りのエピソードも含めて文庫化（３巻）されることになったので、あらためて読み直しました。（定価が安くなっているぞ）
  　感想としては、前回とさほど変わらなく、スカッとする気分を味わえます。なのに、実は細かい部分の記述がしっかりしている（ようにみえる）ので、スカスカな内容ではありません。
  　１＋３の非常に個性的な人々の立ち回り。残り２巻の活躍も楽しみです。
  19990915

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• 『ななつのこ』　加納朋子著　創元推理文庫　か−３−１　５２０円＋税
  
  　書名自体はどこかで見た記憶があり、最初の数ページを立ち読みして買うことにしました。
  　印象としては、北村薫の『円紫さんと私』シリーズに近い。（実際は勿論違う）
  　『ななつのこ』という７編が収められた短編集の内容と、主人公の駒子が体験する事件が対となり、それを手紙に書いて本の作者が折り返し謎解きをする。
  　微妙に重なり合う短編集と事件。物語の中に登場する少年「はやて」と探偵役となる「あやめさん」。事件に遭遇する駒子と作者。これらの対比をもうひとつの視点で読んでいく僕。楽しいです。
  　そして第七話。それまでの総括であり、これが謎解きの謎解きとなる。驚いた。そういう手で来ましたか、っていう感じ。
  　ミステリと言えるのかどうか。僕としてはどうでもいいことだけど、ミステリ好きの人でも、そうでない人でもすすめられる本です。
  19990911

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• 『名前がいっぱい』　清水義範著　新潮文庫　し−３３−８　４３８円＋税
  
  　小説では名無しの探偵などがおりますが、僕らにはちゃんと名前があるのです。その名前がどういう風に付けられたのか。名前とはなんなのか。どれほど重要なモノなのか。あるいは、どれほどいい加減なモノなのか。
  　そんなことは抜きにしても、この本を読んでいたら、かんべむさしを思い出した。（あれ？前にも書いたっけ？）
  　１０の短編が収められていて、そのどれもが名前にまつわる話である。人それぞれ、どれかの話には身につまされるところもあるだろう。たとえば、子供の命名、たくさんの名前を持つ人、戒名、そして名前のない存在。
  　名前があることで実在する、ということにあらためて気が付く。それがあだ名であっても。人ごみですれ違う人にだって名前はあるのに認識されないのは、自分にとってその人たちは名前のない存在だから。そんなことを考えました。
  19990910

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• 『明治東京畸人傳』　森まゆみ著　新潮文庫　も−２１−１　５１４円＋税
  
  　東京といっても、谷中・根津・千駄木あたり。
  　ＪＲの駅でいえば鶯谷から田端くらいの割と狭い範囲にいた人々。（もちろん、当時はＪＲなんて無い）
  　例えば、僕が名前を知っている人物では、サトウハチロー、幸田露伴、北原白秋、川端康成。その人々の話も面白いが、この他の人々の話はもっと面白い。
  　さらに面白いのは、ここで語られるその土地の表情である。坂であったり、建物であったり、時とともに変化していく街の姿なのである。それ以外でも、薬であったり、残された作品であったり。
  　現代に生きている自分からしてみれば、古く、不便で、その時代に行きたくないというのが正直なところ。ただし、何故だか懐かしく感じ、その人に会い、話し、あるいは近所の人と雑談をするような気分に陥ってしまう。
  　裏を返せば、そういう人物や街が減ってきているということなのね。
  19990903

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• 『身辺怪記』　坂東眞砂子著　角川文庫　は−１７−３　４９５円＋税
  
  　この本を読んでいると、その根底にあるものが「懐かしい日本」なんではないかと思う。
  　歴然とした尺度で測れない出来事。何者かは分からないが、畏れを抱いてしまうこと。そういうことが、いまからそう遠くない昔には沢山あったし、しかも生活にとけ込んでいたということであろう。
  　また、人間の思い上がり、についてもきびしい言葉を突き付ける。曰く「自分の物でもないのに、私物化したがる」。全くその通りである。その逆の現象として、自分の物以外には関心を寄せない、ということがあるのだろう。だから、そこかしこにゴミは放るし、図書館の本には書き込みはする、破る、ということになるのだ。
  　これだ、と思ったのは、「死」に対するイメージを読んだとき。「肉体の消滅はしかたないが、意識の消滅が恐ろしい」。そうだ。そうだったのだ。僕が死ぬことをおそれる原因はこれだったのだ。
  19990825

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• 『逢う』　中島らも著　講談社文庫　な−４１−８　４６７円＋税
  
  　対談集である。
  　８人の、各分野（といっても作家が多いが）の有名な方々と。
  　まずは、一人目、野坂昭如氏との対談を読んで、ぶっ飛んでみて欲しい。中島らも本人もだが、野坂昭如のかみ合っているんだかいないんだか、分かっているのかいないんか、会話が成立している方が不思議になってくる。超越した会話。
  　それに比べれば、残りの７人分は全く普通に感じてしまう。それだけインパクトがあります。
  　松尾貴史氏との対談は、中島らも本人の不思議な行動が明らかになり、笑ってしまう。こんなことしていて、ちゃんと生活しているのだから（今は）、すごいものだ。
  19990821

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• 『魔天楼』　田中芳樹著　講談社文庫　た−５６−９　５２４円＋税
  
  　副題として「薬師寺涼子の怪奇事件簿」。
  
  　読み始めていきなり事件発生。あれよあれよという間に次の事件。状況は全く分からない。
  　主人公は警察庁キャリアの薬師寺涼子とその部下泉田準一郎。この二人がどういう性格でどういう行動をするかは、この本で確認してもらうとして（手抜きじゃ）。物語の間でポツポツと挟まれる時事ネタが臨場感というか、雰囲気を盛り上げるのに手を貸している。もっとも、そのネタ自体は噴飯モノなのであるが。
  　なにしろ、テンポが速く、場面の転換回数も多いので、あっという間に読み終わりました。僕としては、事件の解決方法（あるいは原因といってもいいが）に関して少々難ありといったところ。
  　それを差し引いても、主人公のいろいろな人物との会話の面白さは大収穫と言えるでしょう。
  
  　あとがきを読んだら「ストレス解消のために書いた」と。納得(笑)
  19990816

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• 『姑獲鳥の夏』　京極夏彦著　講談社文庫　き−３９−１　８００円＋税
  
  　良くも悪くも、雰囲気にのまれてしまったなぁ、というのが読み終わって最初に浮かんだ感想。
  　実は、この推理小説のポイントとなる点については、割と早い時期に気がついたのだが（もちろん誰にでも分かるところ）、実際にそれが事件と絡めて明らかになるまでが長い長い(笑)。それ以前に「記憶と意識」について念入りに語られるのも、最期のページまでたどり着けば必要なものであったなぁ、と思う。
  　さて、京極堂。こいつは結局何者なのだ？
  　文士の関口、探偵の榎木津、京極堂の妹中禅寺敦子。
  　読者である僕は関口なのである。京極堂の言辞や榎木津の行動などに翻弄され、自分がなんなのか、確固たる立場を失っている。しかもそこには「記憶と意識」「日常と非日常」が交錯し、混乱の中で事件が進んでいく。
  　憑物なのか、そうではないのか。事件なのか、呪いの結果なのか。
  　う〜む。僕にとっては今まで読んだことのない種類の小説であった。
  19990815

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• 『ライカ同盟』　赤瀬川原平著　ちくま文庫　あ−１０−１４　６００円＋税
  
  　幸いなことに、いや、残念なことにか、僕は中古カメラウィルスには、まだ感染していない。日頃カメラを持って街中をうろうろしているから、ウィルスを受け入れやすい体質かもしれないのだけどなぁ。
  　「人間には栄養が必要だけど、それ以上に嬉しさが必要である。」
  　うん。そうだね。そうだそうだ。
  　僕は今のところ、中古カメラでなくても嬉しさを味わうことが出来る。しかし、いつ嬉しさが単なる栄養に変化してしまうか分からない。その時が来たら、この本に出てくるような「１ミリほどの小さな光」に射抜かれてしまう気分を自分のものにしてしまうのだろう。
  　ちゃんとした感染者に成長(笑)する姿は、うらやましくもあり、怖いところでもある。
  19990809

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• 『保科肥後守お袖帖』　中村彰彦著　角川文庫　な−２６−７　６００円＋税
  
  　徳川幕府の実質副将軍であった保科肥後守正之。
  　読んでいて気持ちがいい、ということありますよ。
  　適切な状況判断、そして対処。黙すところは黙し、語るときが来たら語る。しかも、自分のことは抑え、主君に忠義を尽くす。
  　こういう物語を読んで、いいなぁと思ってしまうのは、現実がこれと反対の状況だからなのかもしれない。政治の構成が違うと言ってしまえばそれまでだが、それにしたってＴＶや新聞で見る状況は腐りきっているとしか思えん。
  　すこしは、こういう本を読んでもう一度振り返ってもらいたいもんである。
  19990731

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• 『カープ島サカナ作戦』　椎名誠著　文春文庫　し−９−１３　４４８円＋税
  
  　お馴染み新宿赤マントシリーズの何冊目か（わからん）。
  　相変わらずあちこち飛び回っている人である。その間、昼寝はする、ビールは飲む、本は読む、泳ぐ、食う、書く、もろもろもろもろ。一体何人の椎名誠が同時に生きているのだろうか(笑)。
  　こう自分には出来ないことをやられると、それだけで痛快というか、すっきりするもんね。
  　中にこう書かれていた。
  　「知ることによる心のぜいたく」
  　これだ、これだよね。本は勿論、ＴＶからだってなんだって、知らないことを知るヨロコビったら、ゼイタク以外の何ものでもないのだ。
  　それから、全くその通り！と思うことも数多く書かれていた。うむむ、なんてこった。このままでは日本はダメになってしまう。そう思うぞ。
  　大収穫は、沢野ひとし氏は、高圧線に詳しいということ。ホントか？
  19990728

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• 『日本のゴーギャン田中一村伝』　南日本新聞社編　小学館文庫　み−６−１　５３３円＋税
  
  　奇しくも『神を描いた男・田中一村』とほぼ時を同じくして文庫化されたもの。そちらは田中一村が奄美に住み着いてからをメインにしていましたが、この本はその生から死までを書き込んでいます。
  　伝記として書かれており、その点では『神を〜』と違って多くのエピソードや書簡が豊富にあり、その時々の田中一村の考え方が変化していく姿を感じることが出来ます。
  　あまり、感想らしい感想を書けません。
  　感想がないわけではなく、感想を書くこと自体が田中一村の目指したものに反するような気がしてならないから。自分に忠実に、自分を律し、研鑽し、集中し、そして結果を出す。それだけのこと。たったそれだけのことの出来ない人間ばかり。
  　自分の理想を求めることと、他人から評価されること。どちらを選ぶのが正しいのか。おそらく、真ん中から後者寄りを選んでしまうのだ。安易な方法で。
  　読み終わった後、あらためて表紙や口絵図版を観てみると、泣けてくる。
  
  （もとは『アダンの画帖』という書名で発行されていたとのこと。なぜ「日本のゴーギャン」なんて修飾をつけるのか理解の苦しむ。失礼だと思う）
  19990723

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• 『神を描いた男・田中一村』　小林照幸著　中公文庫　こ−３６−１　７２４円＋税
  
  　パソ通でお世話になっている方から「田中一村」のことを教えてもらったんですが、そのときはどんな画家でどんな絵を描いているのか全然知りませんでした。本屋で画集を探したものの見つからず。その後、そのままになっていました。
  　平台に積まれていたこの本を発見したとき、内容も確認せずに買ってしまいました。
  　そして、この男「田中一村」の晩年、しかし最も充実していた時期のことが書かれているこの本を読み終えたとき、芸術のなんと汚れたことか、という思いでいっぱいになりました。
  　奄美の美しさを愚直なまでに描き、逝った、ということの前には。
  　しかし、絵を描き、売る、名をあげる、という生き方だって間違っているわけではないと思うし、感動を呼び起こす方法はいくらだってあるのだから。
  　そこまでして描く奄美の美しさについては、残念ながら分からない。分からないが、田中一村の物語を通して垣間見ることはできる、気がする。
  19990719

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• 『六の宮の姫君』　北村薫著　創元推理文庫　き−３−４　４８０円＋税
  
  　実は、この本を読むに当たって、芥川龍之介全集（ちくま文庫版）に入っている「六の宮の姫君」を読んでみたのですが・・・。ようわからん(笑)。
  　主人公の『私』が芥川龍之介を題材に卒論を書くために遭遇する「なぞ」。「六の宮の姫君」が書かれる経緯をめぐるうちに、次々と広がっていく「なぞ」の周辺。
  　今までの３冊（「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「秋の花」）と傾向が違うため、多少面食らうところもあります。評価の分かれるところになるのでは？という気もします。
  　無事に乗り切れた人。その人にとっては、探す・つなげる、という面白さを存分に味わえたと思います。惜しくもつながらなかった枝にとっても、他の方面からの探索に対しては広がる枝の一本かもしれない。そんな気にさせられる。
  　円紫さんの登場場面が少ない(笑)。が、登場した際には、ちゃんとポイントを提供しています。『私』の言葉にもありますが「お釈迦様の手の上の孫悟空」。
  　中程で明らかになる言葉「英雄」。この言葉と「六の宮の姫君」の生まれた経緯も、あとから気付けば、そうだったのか、と納得してしまうところです。（ネタバレになってしまうのでこれ以上書けませんが）
  　静かな文章から、これ程の興奮を得られるとは。
  19990714

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• 『連合赤軍「あさま山荘」事件』　佐々淳行著　文春文庫　さ−２２−５　５１４円＋税
  
  　ＴＶでその場面を見ていた記憶はあるが実際にどういう事件だったのかは、この本を読むまでハッキリとしていなかった。当時、僕は小学生だった。
  　この事件の現場指揮に当たった本人による実録である。
  　事件そのものについて、事件に対する警察の内部状況、そして刻々と悪化する状況を克服していく、あるいは、いこうとする行動。そのすべてが、今の平和な日本からは思いもよらないことに感じる。
  　『実戦「危機管理」』という語句が表紙カバーに書き加えられている。まさに、著者が言いたいことはこの一言、ということになろう。
  　その場面に最も適した行動をとらないことが得意な日本人に対して、いかに説得し、いかにまとめ、いかに実際の行動へともっていくか。つまらないメンツと建前。最前線と中央。警察とマスコミ。心理と戦略。生還と死。
  　この本が、つまらないわけがない。
  　この事件に登場する人物の錚々たることにも。
  　誰が読んでも、きっと、現在の状況に不安を覚えるのだと思う。この事件によって鍛え上げられた危機管理思想が生かされていないのではないか？　これだけの事件、所詮一人二人の力では解決できないことは、この本を読まなくても分かることなのだけれど。はたして、今同じような事件が起きたら、もっと考えられないような事件が起きたとしたら？
  19990708

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• 『奥さまはマジ』　火浦功著　角川スニーカー文庫　５８−５　５４０円＋税
  
  　なんじゃこりゃ〜〜。
  　すっからかんのあっけらかん、とでも申しましょうか。なんとも馬鹿馬鹿しいストーリーです。そんなわけねぇじゃん、と思ってはいけないのですね。そのストーリーの中に身をゆだねて、ぐるぐると一緒になってしまわなければ。
  　久しぶりに（というかほとんど記憶にないほど）、ハイになれる本でした。
  　鬱屈した生活をしている人にはオススメです。そう。今の僕みたいに(笑)。
  　あっ、そうか。だからこの本をくれたんですねＥさん。感謝感謝！
  19990708

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• 『空からぎろちん』　中島らも著　双葉文庫　な−１２−１１　５３３円＋税
  
  　読めばズブズブなのだそうだ。
  　確かにそうであった(笑)
  　お気楽なエッセイと感じてしまえばそれまでなのだが、僕にとっては「おっ、そうだったんか」と思ってしまう箇所がたくさんありました。
  　例えばＰ１６２、「呉服店越後屋三井八郎右衛門」を略して「三越」。
  　例えばＰ２０８、「失敗が成立するためには、目標や計画が前提になければなりません」。
  　これって常識？　あぁ、知らんかった。為になるわぁ(笑)。
  　悔しいので反撃。
  　例えばＰ１００、「今どきどこに真空管のテレビがあるんだ」・・・ブラウン管は真空管なのです（これは制御回路に真空管を使っているという意味でしょう。余計な突っ込みですね）
  　例えばＰ２５３、「僕がタキタくんの家に避（ママ）びにいくことにした」・・・「避」じゃなくて「遊」でしょうね、やっぱり。
  
  　実は真っ当なエッセイであったりする。なめてかかってはいけません。
  　タイトルからして「空」と「ぎろちん」である。「まねの話」にも出てくるが、インパクトのある組み合わせである。（詳しくはよんでね）
  19990703

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• 『保科肥後守お耳帖』　中村彰彦著　角川文庫　な−２６−４　５４０円＋税
  
  　ホントのことをいうと、江戸時代のモノって苦手なんですよ。（Ｅさん(笑)）
  　読み始めると、やはり分からない単語が沢山出てくる。一々調べるのも面倒なので、そのまま、だぁ〜っと読み進めていったら、あら不思議。知らなくても気にならなくなってしまいました。
  　名君といわれた会津藩初代藩主保科正之がメインの短編集かと思いきや、そうではありません（半分くらい）。５編の短編は、藩主とは面識もない家臣が主人公であったりして、どこで保科正之本人が登場するのだ、と思ってしまうくらい。
  　でも、（直接、間接に）登場すると「さすが」と感じてしまいます。
  　人柄とか、考え方が真っ当ととでも言えばいいのでしょうか。
  　続編が出るのであれば、是非とも読んでみたいと思うのです。
  19990701

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