とよティーの喫茶室
 

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■「法」とは何か?

「法」は、社会規範のひとつ

 社会に秩序を与えるルールを「社会規範」と言います。例えば「道徳」も社会規範の一つですし、いろいろな掟(おきて)によって信者の行動に一定の規律をもたらす「宗教」も社会規範の一つです。

 「法」は、他の社会規範と異なって、政府が権力を使って国民に法を守らせ、守らない国民に対して刑罰などの制裁を課することができるという点で、他の社会規範とは大きく異なっています。

 

■「法」は、野球のルールのようなもの 、社会の設計図のようなもの、コンピュータのプログラムのようなもの?

 「社会」の中で「法」という存在が果たしている役割をわかりやすく説明するために、よく「野球」とその「ルール」に例えることがあります。野球が野球として成り立ちうるのは野球のルールがあるからですね。グランドのサイズ、チームの人数、1試合がふつう9イニングであることなどから始まって、ゲーム中に起きるさまざまのアクションに対応するルールがたくさんあってはじめて、野球をゲームとして楽しむことができるわけです。その点では「法」は野球のルールとよく似ています。

 「法」は、「社会」という建造物を設計 ・施工する作業にも似ています。「家」を建てるためには設計図をつくり、また設計図通りに家を建てるために細かい施工手順が必要なように、「社会」を社会たらしめるための設計図 や施工手順が「法」だ、というふうに例えることもできるかと思います。

 あるいは、社会をパソコンと比較してみると、「法」はパソコンの内部にある さまざまのプログラムに相当するという見方もできます。

 しかし、そのいずれも「法」とまったく同じものではありません。「法」は、それらと多くの共通点をもちながらも、人間そのものの生命・自由・財産にかかわる重要な存在です。

「法」の目的は、人の幸福を守ること

 「法」には目的があります。何ためのルールなのか、その目的が重要です。思い切って一言で表現すれば、現代社会においては、法の目的は人間の幸福を守るということだ、といえるのではないでしょうか。人間の幸福を守り増進させるために必要なこと(=社会の秩序を維持して正義を実現するために、促進されるべきことや排除されるべきことなど)について定めるのが、法の究極の目的なのです。

 ということは、言い換えれば、人間の幸福を守ることにならない「法」は、たとえ外見が「法」であっても真の法ではない、ということにもなります。(別項「人の支配/法の支配/法治主義」を見て下さい)。現代社会においては、「憲法に反する法は、法として無効である」とされています。

「法」にはいろいろな種類がある

 ひとくちに「法」といっても、いろいろな種類があります。

 

(1)大きくは「自然法と実定法」に分けられ、実定法はさらに「成文法と不文法」あるいは「国内法と国際法」に分けられます。

自然法

 普遍的な法。歴史上いつでもどこでも誰にでも当てはまり変化することがないような、人間の本性(理性や良識)に根ざしたルール。

  ※すべての人間には尊厳があるとする「人権」の理念は、自然法の思想から生まれた。

実定法

 歴史上の特定の社会(例えば「現代日本社会」というような)の中で、人為的に作られ実際に効力をもつ法。

 

法が適用される範囲や対象に着目した分類

国内法(国内社会に関する法)

国際法(国際社会に関する法) ※

法の形式に着目した分類

成文法(文書の形で制定された法)

(詳しくは下表)

条約 ※

不文法(文書の形で制定されたものではない法)

(詳しくは下表)

国際慣習法

※「国際法」の分類については、「平時国際法」と「戦時国際法」という分類の仕方もありますが、現在では戦争そのものを違法行為とする認識が広がりつつあり、それに伴ってこの分類は重要でなくなっています。

※個々の「条約」の名称には、「条約・憲章・協定・議定書・・・」などさまざまな名称がありますが、効力は同じです。

 

(2)現代日本の国内法について、もう少し詳しく見てみましょう。

成文法

 

 ◇法の序列に着目した分類 (この分類はとても大切です)

↑ 上位

 

 

↓ 下位

憲法

国内の最高法。主権者(国民)が制定する法。

法律

国会が制定する法。 

条例

地方自治体の議会(都道府県議会や市町村議会)が制定する法。

命令

内閣または国務大臣が制定する法。内閣が制定した命令を「政令」、国務大臣が制定した命令を「省令」とい う。

規則

地方自治体の長(都道府県知事や市町村長)が制定する法。

○ふつう、上位にある法は基本的・一般的なことを規定し、下位にある法は具体的で詳細なことを規定しています。

下位にある法は、上位にある法が規定した内容に違反する内容を規定することはできません。例えば、「憲法」と「法律」を比べた場合、憲法の方が上位にありますから、憲法が定める規定に反する内容を法律が定めることはできないのです。日本国憲法(第98条) は、「この憲法は国の最高法規であって、その規定に反する法律・命令・・・は無効である」という趣旨の宣言をしています。

○憲法と、5つの重要な法律を合わせて「六法」といいます。

憲法

国の基本的な事項を定める

商法

商業の基本的な事項について定める

民法

市民生活の基本的な事項を定める

民事訴訟法

民事裁判の進め方について定める

刑法

犯罪と刑罰について基本的な事項を定める

刑事訴訟法

刑事裁判の進め方について定める

 

 ◇法の内容に着目した分類(1)

公法

主として政府組織に関係のある内容を定めた法

憲法、刑法、刑事訴訟法、民事訴訟法 など

私法

主として一般市民に関係のある内容を定めた法

民法、商法 など

社会法

私法の領域に関する事柄について、政府が調整する法

労働基準法、生活保護法、独占禁止法 など

 

■不倫は犯罪か?

 現在の日本の法律では、「不倫」は刑法(公法)が定める犯罪ではありません。従って不倫をしても逮捕され刑罰を受けるということはありません。しかし民法(私法)では不倫は「不法行為」になりますので、不倫相手の配偶者から訴えられて(民事裁判となり)損害賠償を請求される場合があります。

 

 ◇法の内容に着目した分類(2)

実体法

権利・義務の具体的な内容を定めた法

憲法、民法、刑法、商法 など

手続法

実体法が定める権利・義務を実現する手続を定めた法

民事訴訟法、刑事訴訟法 など

(例)刑法(実体法)は、たとえば「人を殺した者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処する」と定めています。この規定を実現するため、刑事訴訟法(手続法)は、殺人事件の捜査、容疑者の逮捕や取調べ、刑事裁判の進め方、刑罰の執行方法などに関する手続を定めています。

 

 ◇法の内容に着目した分類(3)

一般法

基本的なルールを定めた法。

憲法、民法、刑法 など

特別法

限られた範囲で一般法とは異なるルールを定めるために制定された法。

商法(民法の特別法) など

注意:一般法と特別法の違いは相対的なものです。

      (例)「民法」と「商法」は、一般法(民法)と特別法(商法)の関係にありますが、

         「商法」と「手形法」は、一般法(商法)と特別法(手形法)の関係にあります。

         つまり「商法」は、比較する相手との違いで、特別法になったり一般法になったりするわけです。

 

 ◇法の内容に着目した分類(4)

強行規定

当事者の意思に関係なく守らなければならない規定

民法90条(公序良俗違反の法律行為を禁じる規定) など

任意規定

当事者に別の意思がある場合にはそちらを優先してよい規定

民法900条(遺産の相続割合を定めた規定) など

注意:強行規定か任意規定かの区別は、その規定の目的や趣旨によって個別に判断されています。一般的に、私法には任意規定が目立ちます。

 

 ◇法の内容に着目した分類(5)

新法

あたらしい法

(例)日本国憲法(新法)と、大日本帝国憲法(旧法)

旧法

古い法

 

不文法

 

判例法

過去に行われた多数の裁判判決の蓄積から形成されたルール。

 (例)譲渡担保権

慣習法

習慣的に行われている行動にルールの性格を認めたもの。従わないと激しい非難を受ける程度に強固な習慣。

 (例)「お葬式には黒や紺といった地味な色の服装で参列すべき」(→赤い服装で参列すれば激しく非難される)。

条理

既存の法に不備があるときに、それを補って判断するための最後の基準となる法。

 (例)民法が定める「信義則」や「権利濫用の禁止」の規定が条理の存在を認めているとされる。実際の裁判では、「重大事件の加害者が時効によって責任を免れるのは不当だ」ということが条理として主張されたことがある。

 

 

 

(3)上記の他に、実際の社会生活の中で私たちの行動を規律する行為として重要な、「法律行為」について説明しておきます。

法律行為

 

 一般市民の間(つまり私法が適用される領域)では、「私的自治の原則」が認められていて、一般市民は次に掲げる3種類の行為(法律行為)を通して、当事者を規律する権利や義務を(原則として自由に)取り決めることができます。   

契約

対立する当事者の意思を合致させる行為。

 (例)「売りたい」人と「買いたい」人の意思をうまく一致させることで、商品の「売買契約」が結ばれる。

 (例)「貸したい」人と「借りたい」人の意思が一致して、「住宅賃貸借契約」が結ばれる。

 

 ※民法は、市民生活上の典型的な契約として、13種類の契約を定めています。簡単に紹介しましょう。

贈与 特定の物品や金銭を無料で譲り渡す契約 雇用 他人を指揮下におき、仕事をさせる契約(例:店員として仕事をさせる)
売買 特定の物品を売買する契約 請負 他人を指揮下におかずに、特定の仕事を完成させるよう依頼する契約(例:床屋に行って理髪を頼む)
交換 特定の物品を交換する契約 委任 他人を指揮下におかずに、特定の仕事の遂行を依頼する契約(例:弁護士に契約の代理人を頼む)
消費貸借 同価値のもので返す条件で、他人の財産を消費する契約(例:金を借りる、砂糖を借りる) 寄託 特定の物品を預けて保管してもらう契約
使用貸借 他人の財産を無料で使用する契約(例:消しゴムを借りる) 組合 数人が金を出し合って特定の事業をなす契約(例:友人たちが集まって忘年会を開く)
賃貸借 他人の財産を有料で使用する契約(例:住宅や車を借りる) 終身定期金 預かった金銭で、特定の者が死ぬまで一定金額を支払う契約(例:私的年金がありうる)
和解 お互いに譲歩して対立関係を解消する契約

この他にも、一般社会にはさまざまの契約があります。(例)商法が定める「運送契約」や「保険契約」がある。また最近では「出演契約」や、果ては「結婚契約」などに至るまで、新しい契約類型が次々と生まれている。

 

 ■「契約」と「約束」はどう違うか?

 「契約」は法律行為なので、契約を破ったら(契約義務に反したら)、法的な責任を問われます(損害賠償など)。これに対して「約束」は事実行為なので、約束を破っても、(道徳的に非難されることはあっても)法的な責任は問われません(例:指切りゲンマン針千本飲ます)。

 しかし、たとえ「軽い口約束」のつもりでも「契約」となることがあります。例えば「贈与契約」は口約束でも成立しますので注意が必要です(民法549 条)。但し、契約書を作らない贈与契約はあとで撤回することができますから(民法550条)、大切な約束は簡単なものでも良いので契約書を交わすのがよいでしょう。

 

合同行為

同じ意思をもつ数人の人々が集まり、共通の権利や義務を定める行為。

 (例)同じ意思をもつ人々が集まって会社を設立する。

単独行為

自分の一方的な意思表示だけで、特定の権利や義務を発生させられる行為

 (例)遺産相続に関する遺言。