title 車線変更のコツ-スピードの考え方

 
 車線変更時のタイミングが分かったら、次はどんなスピードで横に入っていけばいいのか考えてみよう。勿論場合に応じて臨機応変に対応しなくちゃならないのは当たり前なんだけど、それでも基本的な理解の仕方ってのがちゃんとある。しかし意外と誤解している人や分かっていない人が多いもんだから、合流地点で渋滞が発生してしまう。道路のつくりに問題がある場合も多いけど、そんなこと言う前にとりあえずドライバーとしてクルマの動きをきちんと把握しておこう。
 
 車線変更時のスピードと言っても、そんなにたくさんの選択肢があるわけじゃない。自分ひとりで走っているなら好きなスピードを選べばいいだけの話だから、他のクルマの流れに比べてどうかってことになる。そして考えるべき流れってのは、たいがい自分の車線と移ろうとする車線だけで、どちらかといえば移ろうとする車線がメインだ。そこで大雑把な分け方をしてみると…

イ 隣車線の流れより遅い
ロ 隣車線と同じスピード
ハ 隣車線の流れより速い

 
の3種類しかない。クルマはスピードを出せば出すほど危ないと洗脳されてきているビギナーは、どうもおっかなびっくり車線変更する傾向があって、中にはブレーキを踏みながらやるもんだと思い込んでいる人もいる。レーンチェンジしたあとが詰まっているとかならばブレーキが必要な事態もありうるが、急ブレーキになって相手を驚かせるようだったら、そもそも入り方が間違っているのだろう。難しい話は後に回すとして、とりあえずはじめにスピードの基本から考えていってみよう。
 
 Aのアニメはそれぞれ50km/h・55km/h・60km/hで走っているクルマが、1秒後、3秒後にどういった位置関係になるかを示したもの。距離に応じて動かしただけの簡単な図だけど、たったこれだけのものにも大事な原理がたくさん隠されている。
 
 まず、ほんの数秒のことだけれど、その一瞬の間にクルマはかなりの距離進む。このアニメは縮尺を厳密にしているから、数秒の間にクルマの長さの何倍もの距離を走ってしまうことがよく分かるだろう。時速だと一瞬にどれくらい進むものか分かりづらいけど、秒速で考えてみると
 
50km/h=50000m/3600sec=およそ13.9m/sec
55km/h=55000m/3600sec=およそ15.3m/sec
60km/h=60000m/3600sec=およそ16.7m/sec
 
と、たった1秒で十数メートルも走ってしまうのだ。ちなみに高速道路を100km/hで走っているときは、1秒間に27.8m進んでいることになる。クルマの中にいるとあまり感じないけれど、ゆっくりと思われるペースで走っているときでも、とりあえず自分が突風のような勢いで進んでいることだけは認識しておいた方がいいだろう。
 
 次に、1秒後、3秒後のいずれとも、3台の車が(角度は違うものの)一直線上に並んでいることに注目。一定時間後に進んでいる距離は、その速度にきちんと比例するから、5km/hごとに区切って等間隔に並べたこのアニメが直線状になるのは当たり前。ということはつまり、50km/hと55km/hの速度差であっても、55km/hと60km/hの速度差だろうと、時速の差が同じ(ここでは5km/h)であれば、一定時間後における二台の走行距離の差は等しいということだ。数字で表すならば
 
スピードが5km/h違うとき……1秒ごとに1.4mの差ができる
同じく10km/h違うとき……1秒間に2.8mの差となる
 
これは先ほども書いた通り、20km/hと25km/hだろうと、100km/hと105km/hの場合でも、1秒後に二台の間にできる差は1.4mでかわりがない。つまり隣のクルマとの位置関係を決めるのは、絶対的なスピードではなく、隣のクルマとの速度差なのだ。クルマ自体の全長や道の長さは変化するはずがないのだから、相手のスピードを考えて自分のクルマをスピードコントロールすれば、自ずとうまい位置関係を保てるってことだ。
 
 実際のレーンチェンジのときに、どれくらいの時間をかけて隣の車線に移るのかは分からない。確認の時間を考えなければ、せいぜい5秒もかければ長い方で、2〜3秒くらいでさっと入ってしまうことが多いのではなかろうか?ここで確かめてみてほしいのが、3秒後のクルマの位置関係。5km/hの違いならば3秒後に4.2m、つまりクルマ1台分ようやく前に出たようなかたち。10km/hなら8.4mだ。この位置関係は、抜かれる側の注意している範囲にはとうてい含まれないことが、なんとなくお分かりいただけるだろう。つまり隣の車線を速いスピードで走ってきたからといって、並んだ瞬間にたかだか10km/h程度の速度差しかなければ、即座のレーンチェンジは相手の急ブレーキを招くことになるのだ。相手の前に入る場合には、ゼッタイに車線変更の前に一呼吸置いて安全確認しなくてはならず、後ろに入ろうとするほうがどんなに容易かということがご理解いただけるだろうか。
 
 さてここまでが前置きとして、もう少しコマゴマとした話を進めてみる。
 
 まずレーンチェンジは斜めに進むことになるので、実際には真っ直ぐ進むほど距離を稼げないことになる(直線道路の場合)。B図を見ていただければ分かるとおり、直線距離では同じ距離走っていても、一歩遅れをとるのはやむを得ないところ。下手にスピードを落としてレーンチェンジしようものなら、後ろのクルマとの距離が詰まってしまうこともありうるので、予定よりも長い距離を走らなくてはならないということを念頭におき、スピードダウンには気をつけるようにしよう

 ただし、この話はそんなに厳密なことではない。なぜかというと、Bの図は差を強調するために、クルマがあまり進まない時点(9m程度)でレーンチェンジさせているから。Aの図のように50km/hで3秒くらいかけて横へ移るのであれば、9mどころか41.7mも走ってしまっている。前方に41.7m進む間に、斜めに進んだ方はどれくらいの地点にいるかというと、横方向に4m移動するとして
 
√(41.7^2-4^2)=√(1738.89-16)=√1722.89=41.5
 
と、予定の地点(41.7m)よりも20cmばかり後ろになるだけ。40m以上走って20cm下がるのは、とりたてて問題となるほどのことではない。これはCの図を見れば分かってもらえるだろう。要するに長い距離を用いて車線変更するときには、道路横幅の4mなんて物の数ではないということだ。
 
話を元に戻してBのような短距離レーンチェンジを考えてみると、9mを斜めに進むことによって
 
√(9^2-4^2)=√(81-16)=√65=8.06
 
と、すなわち1m程度遅れることとなる。逆にもとの位置に追いつくくらいにスピードを上げるとすれば、
 
√(9^2+4^2)=√(81+16)=√97=9.85
 
と、もとの9m走るのにと比べれば、1割程度速いスピードを出さなければならない。目標地点よりも1mも下がったら、後ろを走るクルマにとっては重圧となるだろうが、実際には非常に起こりにくいシチュエーションだ。逆に言うと、実際に起きてしまったら本当に危険。なぜならばこのような近距離の車線変更をするときには、スピードがあまり高くないから。仮に9mを3秒で走るとすれば、
 
9m/3sec=0.009km/(3/3600)h=10.8km/h
 
と、ほとんど徐行状態。このスピードならほとんど危険はないだろう。今度はハイスピードで同様に近距離レーンチェンジすることを考えると、例えば50km/hで9mを走るとすれば、
 
9m/(50km/h)=9m/(50000m/3600sec)=0.648sec
 
つまりコンマ65秒かそこらで横の車線に移ることになる。これは危ない!しかも前述のように、本人が考えているよりも1mも手前に入るもんだから、後ろのクルマにしてみれば危険極まりない。安全に行いたければ後ろとの車間が開いていることが必要だけど、車2台分くらいの車間を取れればオンの字の都会では望めない。しかも元の位置をキープしたければ、50km/hの10%増し、すなわち55km/hまで瞬間的に上げなくてはならないのだ。自分では横にサッと入っているつもりでも、後ろのクルマに恐怖感を与えるのはよろしくない。
 
 ここまで書けばお分かりいただけるだろうか?要するに、横へ向かってビュッとレーンチェンジするようなマネはよしたほうがいいということ。危険なだけでなく、余計な距離を走る分だけ燃費も悪化する。とにかく後ろのことも気遣って、ゆっくり車線変更するのがbetterだ。
 
 さてこのようなことをいろいろ踏まえた上で、実際にどのような車線変更をするか考えよう。タイミングのはかり方は前回の気持ちよく入れてもらうにはで書いたとおり、基本は隣のクルマの後ろに入ろうとすること。だから横に並んだクルマの後ろに入るシチュエーションを見ていこう。ただし今回のアニメは速度との縮尺が正しくないので、雰囲気だけ掴んでほしい。
 
 (a)では後ろの赤いクルマは車間を10mほどとって走っている。この赤いクルマに、「シルバーのクルマの後ろに入りますよ」という意思表示をするべく、ウィンカーを早めに出す。このとき前方の距離に余裕があるようなら、(b)のようにしばらくシルバーのクルマと同じスピードで並走し、隣に不快感を与えないように徐々に中央へ寄せていくと、赤いクルマが前を譲ってくれるかどうかが確認しやすい。ただしできるだけ速やかにレーンチェンジするのが好ましいので、ダラダラ並び続けるのはよくない。あくまでも後ろの意向を確かめる程度に留めておこう。
 
 そして隣車線に入っていく(c)のときは、シルバーの速度マイナス5km/hか10km/hかそんなところで横へと向かう。微妙な加減が必要なので、これはブレーキではなくアクセル操作で調節すべきだ。こうすれば始めの方で書いたとおり、5km/h遅ければ3秒ほどで、10km/hならば1秒半ほどで、完全にシルバーの後ろにいくはず。このときに注意しなくてはならないのが、赤いクルマが自分と同じくらいのスピードダウンをするかどうか。もしまるっきりしないのならば、はじめの車間距離10mのうち4mほどを自分のクルマが占拠し、前後の車間は3mずつになってしまう。だから赤いクルマは必然的にスピードダウンするけれど、自分と同程度落とすかは分からない。このとき赤いクルマに近づきすぎて、ブレーキを踏ませてしまうようでは、少々スピードを落としすぎなのだ。斜めに進んでいることも多少は考慮に入れ、スピードが落ちすぎには注意しよう。
 
 完全にシルバーの後ろに入った後(d)では、前のシルバーとの車間が詰まってしまうことが多い。前のクルマの後ろに入ることによって、後ろのクルマに悪い印象を与えないための方法だから、これはある程度仕方のないこと。シルバーとレッドの車間にもよるが、それでもできるだけ車間を空けて入るように努力はすべきだ。これは特にスピードが上がってきたときに重要となる。
 
 完全に隣車線の住人となったら(e)、今度はシルバーとの車間を空けながら、徐々にスピードを上げていく。つまりシルバーマイナス5km/hだったものを、だんだんとマイナス4km/h、マイナス3km/h…としていき、車間を開きながら追走態勢を整える。そして十分に車間が開いたと思われたとき(f)に、シルバーと同じスピードになっているように調節するといい。
 
 こうしてみてきたように、くれぐれも基本となるのは隣車線の流れるスピード。もしこれが大幅に違うようであれば、とにかく同じスピードになるように、加速もしくは減速して調節するしかない。(b)でしばらく並走するのには、相手と歩調を合わせるという大きな意味が隠されているのだ。
 
 今回は数字が出てきたりして、いろいろややこしかったかもしれないが、キモはこんな感じだ。
 
・隣へ移動する動作は、焦らずに十分な距離を走りながらすること
・スピードの下がりすぎに注意すること
・基準となるのは、入ろうとする車線の流れるスピードだということ

 
このあたりを抑えておけば、きっとスムーズにレーンチェンジできるはず。ただしまだ注意すべきことがあるので、実際に隣へ・・・へ続きます。
 
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