わがままトーク「ホストファミリー考」
「エトス」1988年5月号(太平洋教育文化交流協会関西本部発行)より転載



ご意見、ご要望は、 こちらに。



 日本から欧米への留学生がかなり多いというのに、欧米から日本への留学生が非常に少 ないのは、日本に興味がないから、というわけではないと思う。たぶん、日本側の受け入 れ体制が悪いからだろう。
 日本で留学生を受け入れる家庭といえば、相当に裕福な家庭か、かつて留学生を送り出 したところが多い。たいていの家出は、「うちには外国語の話せる者がいないから」だと か、「自分の子供たちだけでも持て余しているから」などと言い訳する。もちろん、日本 の社会制度や慣習などを考えれば、尻ごみしても変ではないかもしれない。だが、こうい う消極的な態度が、日本をますます「非国際的」な国家にしていることを忘れてはならな いだろう。
 例えば、米国からの留学生が一〇名、来日したとしよう。この一〇名すべてが大型デパ ートの重役とか、大商社の取締役といった方のお宅に滞在すると、いったいどうなるだろ う。おそらく彼ら一〇人は、滞日中に日本人のぜいたく な生活を感じとり、帰 国後に「報告」するだろう。いくらマスコミが「ウサギ小屋」と悪口を叩いても、一〇人 もの「東方見聞録」の方が強いに違いない。
 おカネ持ちのみなさま方も、たしかに日本人であろう。しかし、それがいい、悪いにか かわらず、一面的な見かたしか紹介されないのであれば、誤解や偏見を持たれることに通 じるだろう。だから、ウサギ小屋も、満員電車も、白飯にみそ汁も、受験戦争も、みんな 見せてやるのが親切だ。結果的には、他国からの留学生が日本に偏見や敵対心を持っても かまわない。受け取りかたは、人によって全然違うものなのだから。
 このような主張は、さまざまな機会に、いろいろな方がしておられるから、頭では理解 している人も、けっこういるかもしれない。だが、「分かっているつもり」でいるだけで はなくて、やはり態度が必要だと思う。
 五月か。私のホスト=ファーザーが、勤めていたボーリング用品店を半年前に解雇され て、失業保険だけで家族と異邦人を養ってくれていたことが、初めて分かったのは、ちょ うど五年前のことである。
山口 一朗


「アメリカ・ミシガン州への高校留学で思ったこと」の目次へ

電脳いっちゃんタイムズのホームへ