イワナって何だ 源流イワナ料理講座 TOP

最終更新:2003年6月16日
イワナの外観・各部の名称と役割
口・・・口が大きく鋭い歯は、獲物を捕獲する最大の武器。
目・・・目は魚眼で視覚が広く、角度を自由に変えられる。
尾ビレ・・・天然イワナの尾ビレは大きく扇形。推進力は大きく、激流を横切ったり、動く獲物を素早く襲うことができるのも、この尾ビレの力強さがあるからである。

胸・腹・尻ビレ・・・中層に定位するときは、胸ビレ、腹ビレ、尻ビレを大きく広げ、魚体を安定させる。胸ビレは、左右に旋回したり、方向転換するときのカジとりの役目をしている。
背ビレ・・・水切りの役目をする。
脂(あぶら)ビレ・・・サケ科の仲間に共通した特色。
ヒレの枚数は、全部で8枚。

鰓(えら)・・・鰓ブタの内側に鰓がある。鰓はアンモニアの排出と常に新鮮な水を送るポンプの役目をしている。
腹部の着色・・・黄色、橙色、柿色と様々な彩りが見られるが、これは、狭い源流部に陸封された居着きイワナの大きな特徴だ。腹部が白いイワナは、ダム湖からの遡上や海から遡上したアメマス、水量の多い本流に見られる。
側線、無着色斑点・着色斑点
側線・・・体の中央部に、頭部から尾ビレにかけて点線のような線を側線という。これは振動や水温、水質、増水などの異常気象を感じ取る重要な役目を果たしている。例え下流から接近したとしても、川の中を不用意に歩くと、この側線で危険な音を察知し素早く逃げる。イワナを侮ってはいけない。

斑点・・・イワナの全身に散りばれられた円形の点を斑点と呼ぶ。白い斑点を無着色斑点、黄色や橙色の斑点を着色斑点と呼ぶ。全て無着色斑点のイワナをアメマス系イワナあるいはエゾイワナと呼び、着色斑点を持つニッコウイワナやヤマトイワナ、ゴギなどと区別して呼んでいる。各水系ごとにイワナの斑点の変異は特に著しく、釣り人はもちろん、淡水魚の専門家たちをも悩ませ続けている。

パーマーク・・・イワナの幼魚期に現れる薄青い楕円状のマークをパーマークと呼んでいるが、大きくなるにつれて不鮮明になる。成魚になっても鮮やかなパーマークが残る淡水魚は、ヤマメ、アマゴ、オショロコマである。
パーマーク
 ヤマメは、イワナと違ってパーマークが鮮明で、この魚のトレードマークでもある。ヤマメやアマゴ釣り師は、この美しいパーマークに魅せられ、一方イワナ釣り師は、水系ごとに異なる着色斑点に魅了されると言っても過言ではないだろう。
渓流魚の計り方
 一般に釣り人は全長、研究者は体長で測定する場合が多い。なぜ研究者は全長ではなく体長で測定するのだろうか。体長は、口から下尾軸骨までの長さ。尾ビレが欠けたり、鱗がはがれたりしても正確に計れるので体長は「標準体長」と呼ばれている。しかし、釣り人は1センチでも長くしたい願望があるから、釣り上げた渓魚のサイズは、目一杯の寸法・全長を標準としている。逆に魚類学者から、体長のサイズを示されても、どれだけの大きさか瞬時に想定するのは難しい。
イワナの定位とテリトリー
 イワナのテリトリーは雪解けの頃に決まると言われる。エサの多く集まる場所をどう確保するかだが、もちろん大型のイワナほどいいポジションにテリトリーを構える。いつもそのテリトリー内に定位し、上流から流れてくるエサを待っている。それなら劣勢なイワナはエサにありつけそうにないが・・・実はちゃんと中・下層を流れるエサを食べている。どんな大物でも流れるエサを全て独占できるわけではなく、エサが流れる層によって「食い分け」をしている。

 一方、大雨で増水、エサが大量に流れてくるような場合は、テリトリーが一気に崩れ、いわゆるパニック状態に陥る。こうした時は、「大物から順に釣れる」というセオリーは通用せず、入れ食いに近い状態になるが、サイズはランダムに釣れてくる。釣り人なら、こうした経験は、数多くあると思う。
秋、大イワナの遡上
 上の大イワナは、9月下旬、雨で流れが濁り、かなり増水した時にヒットしたもの。イワナの遡上は、決まって雨上がりの増水時に開始される。増水を利用すれば、落差のある渓流を楽に遡上できることをイワナ自身が熟知しているからだろう。こうした遡上途中の大イワナは、大場所で釣れる場合は稀で、むしろ釣り人が無視するようなさもないポイントで釣れる場合が多い。事実、上の大イワナも、まさか・・・と思うような小さなポイントでヒットした。

魚止めの滝
 魚止めの滝とは、滝によって魚が自力で遡上できず、魚が止まる終点を意味している。写真の滝は、白神山地の核心部・赤石川に懸かる大ヨドメの滝だが、ヨドメとは魚止めを意味する言葉だ。この滝上には、かつて砂子瀬マタギが放流したイワナの子孫たちが生息している。今ではイワナの楽園である。北東北に限って言えば、滝上に生息するイワナのほとんどは、人の手を加えない天然分布ではなく、山棲みの人たちの手によって放流されたものである。

 俗に鳥が運んだ、あるいはイワナが棲みついた後に滝ができたなどという天然分布説は根拠が薄く、信憑性に乏しい。北海道に行けば、大きな滝が出現すると決まって魚止めになっている。これは、滝上放流を実践した職漁師やマタギなど山棲みの文化がなかったからだと思う。もし天然分布説が正しいとすれば、北海道の渓流でも魚止めの滝上にイワナやオショロコマが生息していなければおかしいことになる。詳細は「渓流魚の移植放流を考える」を参照願いたい。
不思議な生態・・・歩くイワナ
 初めてイワナを釣って誰しも驚かされるのは、陸の上を魚が歩く、という事実だろう。他の魚なら、陸に上がるとギブアップ、決まって横になるしかない。ところがイワナは、ムクッと起き上がり、体を蛇のようにくねらせながら歩くことができる。かつて白神山地追良瀬川源流を下っている時、私たちに驚いたイワナは、陸の上に跳ね上がった。助けるまでもなく、イワナはムクッと起き上がり、河原を素早く歩いて無事流れの中へ帰っていった。こうした行動を見ているとイワナは魚ではなく、魚の形をした爬虫類ではないか、と真顔で思ったりしてしまう。
釣り人の立場で見たイワナの生態的特長
○悪食家・獰猛・・・渓流を流れる餌なら何でも食べる。蛇はもちろん共食いもする。
○臆病者・・・人影に気付けば、岩陰に隠れて数時間は出てこない。つまり先行者がいれば、餌を全く追わなくなる習性を持っている。後から何十人、何百人と釣り人が入渓しようと、釣れるのは先行者だけに限られる。イワナが釣り人に釣り切られることなく生き延びられるのもこの習性があるからだと思う。この習性を無視して、釣り人の数だけみてイワナは激減したのでは?と思うのは早計である。野生のイワナは、釣り人が考えるほどヤワな魚ではない。

○視野が広い・・・イワナは前だけでなく、後ろも見える。イワナ釣りは、アプローチが全てと言われる所以がここにある。
○臭覚が鋭い・・・木の葉が流れ濁流になっても餌を捕獲できる。笹濁りや濁流になれば、ミミズあるいはドバミミズが魔法の餌に変身する理由も分かるだろう。

 この習性から考えると、渇水で天気が良ければ、イワナに気付かれる確率は格段に高く、逆に雨が降ったりあるいは雨後の笹濁り状態の時が絶好の釣り日和であることが容易に想像できる。晴耕雨読では、警戒心の強い大イワナを釣る確率は格段に低いと言えるだろう。
ルアーF、テンカラ、餌釣りを考える
 ルアーF/ルアーに食らいついたイワナ・・・イワナは音や動くものに強い反応を示す。ルアーの利点は、イワナに気付かれないよう、ポイントから遠く離れた位置からでも攻められる点に尽きるだろう。その威力は、ダム湖や広い川ほど大きい。しかし、ルアーの最大の弱点は、ブッシュに覆われた小沢や谷が狭く、渓畔林に覆われた源流部では、障害物に邪魔され釣りにならない点だ。北東北の源流では、一部の川を除き、ほとんど釣りにならないと言っていいだろう(キャストがうまい達人なら別だろうが・・・)。
 北海道日高のルアーフィッシング

 一方、北海道のように源流部でも川が広く、大場所が続く場所では、ルアーは絶大な効果を発揮する。流れは太く、透明度もすこぶる高い。写真のとおり、キャストの際に邪魔をする障害物も少ない。ただし、こんな夢の釣り場でも、濁流になれば、万能と思われたルアーもあえなく敗退せざるを得ない。
 テンカラ/毛鉤を丸呑みしたイワナ・・・かつてテンカラと言えば「早合わせ」が定番だった。私のように目が良く見えず、毛鉤を見失うような釣り人には不可能な釣りのように思われていた。ところが瀬畑流テンカラは「遅合わせ」が真骨頂。しょっちゅう毛鉤を見失うテンカラ一年生にも何とか釣れた。というのも、イワナは上の写真のように毛鉤を丸呑みすることさえある。まさか疑似餌を丸呑みするとは思ってもいなかったが・・・。
 右はテンカラの師匠・瀬畑翁、左はテンカラ一年生でも釣れた小山マタギ

 「遅合わせ」の原理は至って簡単。目立つ黄色の長いラインを使えば、遠投はできるし、FFと同じ原理で、ラインはたるんだまま流せる。イワナが毛鉤に食いついても、緩んだラインはイワナに違和感を与えず勝手に毛鉤を丸呑みしてくれる。これなら早合わせは全く不要で、黄色のラインが走るのを見ているだけで簡単に釣れるのだ。しかもルアーと違って、障害物の多い北東北の源流でも日本で生まれた伝統釣法・テンカラは十分に対応できる。ぜひ皆さんにもお勧めしたい釣法だ。ただし増水して濁れば、一部の達人を除いてあえなく敗退せざるを得ないが・・・。
 万能の釣り方・餌釣り・・・餌釣りの最も優れている点は、ブッシュに覆われたどんな藪沢であろうと、例え大雨が降って濁流になろうとも・・・言い換えれば、悪条件になればなるほど、悪天候になればなるほど、その真価を発揮するのは、やはり餌釣りのように思う。ルアーやテンカラをやればやるほど、この餌釣りの魅力は際立って見える。
 秋田の典型的な源流部。渓に張り出した木や枝葉など障害物が多く、流れの水深も浅い。ポイントを流す距離も短く、線で釣るルアーは、どう考えても不利。しかも、稚拙なルアーでは、無理してキャストしたとしても、あちこちに引っ掛けて、無用なラインやルアーの残骸を残しかねない。従って、こうした場所では、自然に対して負荷の大きいルアーFはやるべきでないと思う。

 今日のルアーFやFF全盛時代になると、餌釣りは何ともダサイ、オジンの釣りの代名詞みたいに思っている人も少なくないだろうが、私は逆に、こうした障害物の多い現場に立つと、ルアーの無力さを痛感する。それだけに日本独自の伝統釣法・ミャク釣り、チョウチン釣りなどと呼ばれる餌釣りを再度見直したい気がだんだん強くなってきた。理由はどうあれ、日本独自の渓流に同化した万能の釣りに勝るものはないと思うのだが・・・。
参 考 文 献
「イワナ釣り そのすべて」(植野 稔著、河出書房新社)
「イワナ その生態と釣り」(山本 聡著、つり人社)

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