概要
 歳差により天の北極点は移動している。BC500頃には「こぐま座β(βUMi)」が北極星だったという。また古代エジプト時代は「りゅう座α(αDra)」が北極星であり、12000年程前には「こと座α(αLyr:織女星)」がそうだった。「天の北極」は25800年の周期で天球上に小円を描いているという。

天球上の小円
 ここではその「天球上の小円」を求めてみる。
 赤緯λ、赤経をφとして、天球は
  x=cosλcosφ
  y=cosλsinφ    (1)
  z=sinλ
で表される。
 天球上の小円は、これと平面
  bxx+byy+bzz=c
との交線である。ただし、北極(λ=0、したがってx=y=0、z=1)を通るから、
  bz=c
 ここで、すべての係数をcで割って、
とすると、平面の方程式は
  Bxx+Byy+z=1   (2)

 そして「天の北極」の軌道は

北極軌道の中心
  =(Bx,By,1)
というヴェクトルを考える(以下、イタリックはヴェクトルを表すものとする)。
 位置ヴェクトルを
  =(x,y,z)
とすれば、平面の方程式(2)は、
  =||||cosθ=1     (4)
と書ける。ここでθはのなす角である。
 ところで、北極軌道小円(3)は、必ず天球(1)上の点である。したがってそれらの点では、
  ||=1
 一方、の成分は一定値であるから、当然||は一定である。したがって(4)から、北極軌道小円上ではθも一定でなければならない。このことは、が北極軌道小円の中心方向を向くヴェクトルであることを示す。
 北極軌道小円の中心の赤緯をλc、赤経をφcとすると、
ただし
  B=||={Bx2+By2+1}1/2
 これから、
 一方、λc、φcの値は次のとおりである。
  λc=66.5°
  φc=18h
 したがって、

 (5)のcosθは、北極軌道小円各点からこの中心方向への射影である。したがってと平面(2)の交点を(xc,yc,zc)とすると、
 一方、(5)および||=1から
 したがって、
は、c=(xc,yc,zc)を中心とする軌道小円の半径である。したがって、小円の周長は
 天の北極はこの周をT= で周回するというから、1年間の移動量は
 回転の角速度は

 現在の北極の位置ヴェクトルをPとする。
  P=(0,0,1)
 t年前/後の北極tは、cを中心として、Pからωtだけ回転した位置である。すなわち、
  (Pc)・(tc)=sin2θcosωt
 これから、
 これと(3)'から、t年前/後のλtおよびφtが求められる。

オレンジの線は過去の天の北極の軌跡。数字は年数。
は1300年前の天の北極。

 λtは現在の北極(90°)とβUMi(74°7.2′)のちょうど中間あたりである。しかしφtは現在の北極とβUMi(14h50m41s)を真っ直ぐ結んだ直線(大円)から2h(30°)以上ずれている。

 t年前の赤道は
  cosΘ=sinλsinλt+cosλcosλtcos(φ−φt)=0
より、
  tanλ=−tan(90°−λt)sin(φ−(φt−6h))  (11)
 黄道は、
  tanλ=tan(ε)sin(φ)  (12)
 ただし、
 これはうお座の中であるが、現在よりもおひつじ座との境界に近い。西洋占星術では春分点をおひつじ座としているが、これは紀元前の頃にそうだったものを未だに踏襲しているのである。ともかく、1300年前には春分点がおひつじ座に近付くというのは、この事実に合致する。


 次に、αLyr(ヴェガ)の現在の赤緯、赤経は
であるが、t年前はどうであったか?
 まず、αLyrを通る子午線は、(λV,φV)と当時の北極(λt,φt)を通る大円であるから、
  cxx+cyy+z=0
と表せる。これを、(xV,yV,zV)と(xt,yt,zt)について連立させたものからcx、cyが得られる。
 すなわち、大円は
 これとt年前の赤道(13)との交点を(λVt0,φVt0)とすると、
 ただし
 これから

 t年前のヴェガの赤緯、赤経度を(λVt,φVt)とすると、
  cosλVtV・xVt0
  cosφVtSt・xVt0
 すなわち、

 一方赤緯は約38.3°で、現在の約38.8°よりやや南に寄る。