「…あ――…さっぱりした」


 二日分の汗を流せて気分爽快

 タオルで髪を拭き終えると、
 カイザルはそのままベッドに横になる

 温まった身体にシーツの冷たい肌触りが気持ち良い



「じゃあ、おやすみ」

 今日は熟睡出来そうだ
 リノライに軽く手を振って毛布をかぶる

 すると目の前の男は途端に焦り始めた



「か、カイザー!?」

「どうした?」

「…ど、どうした…って…
 あの…寝てしまわれるので?」


 怒っている、というより困惑した表情のリノライに、
 カイザルは笑い声を噛み殺した

 入浴中、ずっとリノライの視線を感じていた


 声に興奮が表れないよう抑制していたらしいが、
 身体のラインをなぞる視線や熱を含んだ吐息までは誤魔化せない

 リノライの理性が限界なのはわかっていた



 それでも余裕を失いつつあるリノライが珍しくて、
 つい意地悪な態度に出てしまう

 わざと眠そうに欠伸をしてみせながら、
 横目でリノライの様子を盗み見た


 困ったような、迷っているような彼の顔が珍しくて面白い


 昨日徹夜だった君主に睡眠を与えなければ、
 という生真面目な部下兼教育係としてのリノライ

 しかし、ここでお預けされるのは辛い
 欲望を持て余した恋人としてのリノライ


 そんな二人の自分に挟まれて困り果てている




「ふふふ…っ…」

 思わず笑い声が漏れてしまった
 慌てて口を塞ぐが、リノライには聞こえてしまったらしい


「……カイザー…私で遊んでおられますね…?」

「あー…いや、んーと……ははは…」


 悪戯が見つかってしまった子供の心境
 バツの悪さから笑って誤魔化すしかないカイザル

 遊ばれていたと知ってリノライは一瞬、拗ねた顔を見せる



「…私の貴方を想う心を翻弄なさるなんて、何てご無体な事を…
 ですが悪い子には教育係として、お仕置きをさせて頂きませんと…」

「――――…げっ…」


 魔王直々に教育係として任命されているリノライ

 たとえ忠誠を誓った君主だろうと、
 教育係である以上は、ある程度罰する事も許される


 実際、幼い頃は宿題を放置したまま遊びに行って、
 リノライに尻を叩かれた事も一度や二度ではなかった

 流石にこの歳になって尻叩きされる事はないが…


 彼は普段は優しいが、怒る時は本気で怒る

 それも愛情の一つだと理解はしているが、
 その恐怖は成長した今でも、しっかりと身に刻まれていた





「…お、怒ってる…?」

「忠誠を誓った部下の心を弄ぶなど、
 君主としては絶対にあってはならないこと…
 これは教育の為にも少々厳しく罰せさせて頂かなければ」


 リノライは毛布を捲り上げるとカイザルの下肢に手を伸ばす

 茂みを掻き分け彼自身を探り当てると、
 指先に強く力を入れて握り込んだ


「ひゃ…っ…!!」

 刺激にカイザルの全身が跳ね上がる
 反射的に逃げようとしたその身体にリノライが圧し掛かる



「り、リノ…!!」

 白くて綺麗なリノライの指が絡み付く
 身体を舐められていた時とは桁外れな快感

 初めて他人の手によって与えられる刺激に目が眩みそうになる


「…あぁ…ぁ…!!」

「感じられておられますね?
 そのような可愛らしい声を出されて…」



 リノライの指がそこを摘み上げる
 既に熱を帯び始めているカイザル自身は次の刺激を待って震えていた


「…はぁ…ぁ…リノ、もっと…」

「ふふ…貴方というお方は…
 これではお仕置きにならないではありませんか…」


 口では困った風を装いながらも、
 恋人に求められるのが嬉しいらしい

 リノライは両手でカイザル自身を包み込むと、そこに新たな刺激を与え始めた



「あぁ…ん……もっと、もっとして…!!」


 無意識なのか、淫らに腰を降り始めるカイザル
 こんな彼の姿はリノライも見たことが無い

 まだまだ子供っぽいと思っていたカイザルが、
 まさかこんな淫靡な姿をするとは思っていなかった

 不意打ちのように現れた光景にリノライはゴクリと喉を鳴らす


「…か…カイザー…!!」

 リノライが理性を手放すのに、そう時間は掛からなかった

 欲望を露にした彼は、
 まるで獣のようにカイザルの肌に貪り付く


「あぁぁ…っ!!
 リノ、もっと優しくして…」

「優しくしてはお仕置きにならないではありませんか?
 少しは痛い思いをしてもらわなければ…ねぇ、カイザー」


 そう言うとリノライはカイザルの茂みを掻き分けて、
 その奥にある蕾を指で撫ぜる

 途端にカイザルの身体が緊張で強張った



「ぁ…り、リノ…っ…」

「さあ、力を抜いて…」


 指先を自らの口に含み、
 充分に湿らせると、リノライはそこに指先を滑り込ませた

「ぅ…あ、んぁぁ…っ!!」


 カイザルが顔を歪ませて身を捩る

 その身体を押さえつけると、
 リノライはゆっくりと指の動きを強める


 柔らかな壁の感触を楽しみながら、
 そこを指先で擦り上げるとカイザルから微かな悲鳴が漏れた

 緊張で強張っていた身体が
 弛緩してくるのを確認してから、リノライはその指を引き抜く



「さあ…そろそろ宜しいでしょう」

「ぁ……り、リノ……」


 上気した頬
 潤んだ瞳

 カイザルが頷くのを合図に、
 リノライは自分自身を彼に押し当てる

 そしてそれを、細心の注意を払いながらゆっくりと押し込んでいった


「り…リノ…っ…」

「はい…如何ですか、カイザー…」


「は、早く…っ……早く挿れて…っ…!!」

「…………はい?」


「もう指はいいからっ…!!
 リノのが欲しいんだ、早く挿れて…っ!!」

「…………………。」



 ………………………………。


 リノライが硬直する

 言葉に出来ない屈辱感
 そして切ない感情がどっと押し寄せてきた

 こういう場合、これ以上ダメージを受けずに、
 穏便に事を済ませるにはどうすれば良いのだろう


「……か、カイザー……」

「…うん…?」


 リノライは震える両手をカイザルの目の前に差し出して見せた
 それを、意味がわからないという眼差しで見つめるカイザル

 しかし少し間を置いた後、その意味を理解したらしい


 リノライの両手は空いている
 では、今自分の体内に埋まっているものは――…



「…あ゛…」

 顔を引き攣らせるカイザル
 しかしその直後に、無理矢理笑顔を取り繕った


「え、ええと…
 ――――――…ごめん…」

「謝られるのが一番辛いのでございますが…」


「わ、わざとじゃないんだ!!
 てっきり指の数を増やされたんだとばかり…
 リノライのモノの大きさを確認しなかった僕が悪かった」


 がくっ、とリノライが項垂れる

 謝れば謝るほど、
 リノライがどんどん惨めな男になって行く



「…ご期待に添えず申し訳ございません…」

「い、い、いや、べべべ別に…っ!!
 リノのが小さいとか細いとか短いとか言いたいんじゃなくて…!!」


 言ってるじゃないか
 ハッキリと言ってるじゃないか!!

 カイザル自身も今のは失言だったと気付いたらしい

 屈辱に打ち震えるリノライを
 何とかフォローしようとカイザルは焦る頭で言葉を探す





「だ、だ、大丈夫だ!!
 男は大きさじゃない、技術だ!!」

「……技術…と仰られましても……」


「頭の良いお前の事だ
 すぐにテクニックだってモノにするだろう!?
 だから何の心配もすること無いんだ、大丈夫っ!!」

「……………。」


 ご無体王子にさえ慰められるこの現状
 自分が何だか悲しくなってくる

 しかし、確かにカイザルの言う通りだ
 こうなったら技術面で名誉挽回するしかない

 じゃないと―――…あまりに自分が情けない



「さ、さあ抱いてくれ
 僕は大丈夫だから」

「……それでは、失礼致しまして……」


 何とか気を取り直すと、
 リノライはカイザルの腰を引き寄せる

 それを複雑そうな視線で見守っていたカイザルだが、
 やがてベッドの軋む音が響き始めると彼も微かな声を上げ始めた


「……うぅ……ん……」

「カイザー、痛いですか?」


「いや…全然、全く、何にも感じない
 もう少しくらい圧迫感があるかと思っ――…」

「……………。」


「あ、い、いや、その――…
 リノライが念入りに慣らしてくれたおかげだな、うん」



 全く想像していなかった所で気を遣う羽目になってしまったカイザル

 リノライもかなり屈辱的だっただろうが、
 カイザルの方も胸に抱いた切なさでは負けていなかった


 ジュンから聞いていたような、絶叫するような
 激痛に襲われなかった事が唯一の救いだろうか

 かなり覚悟していただけに拍子抜けした事は事実だが…




「…ん…っ…」

 身体の奥から湧き上がる疼き
 カイザルはじわじわと熱が生まれてくるのを確かに感じていた


「…やっぱり…指とはちょっと…違う、かも…」


 身体の中で脈打つリノライの存在感に、
 カイザルは少しずつ息を乱し始める

 初めての感覚に戸惑う
 けれどそれは快感としか表現のしようが無いもので

 カイザルはその刺激がもたらす快楽にのめり込んで行く



「あぁ…っ……リノ、気持ち良い…
 …もっと…もっと激しく動いて…っ…!!」


 あまり自由の利かない身体だが、
 それでもカイザルは自らの腰をリノライに合わせて振り始める

 二人の乱れた荒い呼吸が混ざり合う


「…かっ…カイザー…!!」

「んっ…リノ……」

「カイザー、私は…私は、もうっ…!!」


 突然、リノライの身体が圧し掛かってくる
 全体重が掛けられて、カイザルは息を詰まらせた



「ぐっ…ぅっ…り、リノ…っ…!?」

「……もう……た、体力が……限…界………」

「―――――…はぁっ!?」


 ぜーはー…ぜーはー…


 逆に酸欠になりそうなほどの荒い呼吸
 そして全身から流れる滝のような汗

 その姿はまるで完走したマラソンランナー


 リノライはカイザルの身体に倒れ込んだまま、
 起き上がる体力も無いほど完全にバテていた



「……リノ………。」


 体力の限界が来たという恋人を、
 自分は一体どういう視線で見つめているのだろう


 もう自分がどういう表情をしているのかさえわからない
 そして自分が今、抱いている感情さえ定かではなかった

 自分は今、果たして怒りたいのか呆れたいのか、
 それとも笑いたいのか―――…


「……リノ…僕、まだ………」

「…も、申し…申し訳ござ…いま…せ…ん……」


 謝られても困る
 まだ自分は満足していない

 身体の中で暴れまわる、
 この煮え滾る熱を一体どうしろと…



「…もう少しでイけそうだったんだけど…」

「……も、もう動…け…ませ……ん……」


 息も絶え絶え

 もう…大きさとか、テクニックの問題ではなく
 それ以前の、もっと根本的な―――…


「リノ…お前……」

「…は、はい……」

「体力無さ過ぎなんだよ馬鹿ぁ―――…っ!!」


 怒りの咆哮と共に、
 カイザルはリノライの身体を張り倒していた







「…………あ、あの…カイザー……」


 ようやく体力が回復して来たリノライ

 背を向けたまま毛布に包まってしまった、
 ご機嫌斜めのカイザルに恐る恐る声をかける

 彼は完璧に不貞寝をしていた



「も、申し訳ございません…」

「…いつも部屋に閉じ篭ってばかりいるから、
 いざという時に体力が続かないんだ…もっと鍛えろ」

「は、はい…」


 いつも彼に小言を言うのがリノライの日課なのに、
 今日は立場が逆転してしまっている

 しかし、カイザルの言う事も尤もなので反論の余地が無い



「リノ…男のピンチだぞ?
 その歳で使い物にならなくてどうするんだ」

「ご、ご尤もでございます
 体力作り…少し真面目に取り組まねば……」


 このままの体力では恋人を抱く事すら出来ない
 突きつけられた現実にリノライ自身もかなりショックを受けていた

 小さい上に、大した時間も持たないとなると、
 もうこれは男として致命的としか言いようが無い




「…じゃあ、僕が筋トレに付き合ってやる」

「か、カイザーが…で、ございますか…?」


「うん、だから毎晩僕の部屋に来るんだ
 ベッドの上で体力消耗させてやるから
 …良い運動になるぞ?」

「…なっ………!?」


 カイザルが意図している事を汲み取って、
 思わず頬が熱くなるのを感じるリノライ

 つまり、毎晩ここに来て彼を抱けと――…そう言っているのだ



「…リノ、返事は?」

「は、はい、その…光栄でございます…」

「よし、決まりだな」


 ぎゅっ…と、リノライの身体に抱き付くカイザル

 それを抱き締め返すのは、
 もう身体に染み付いてしまった習慣だ


「で、ですが…宜しいのですか?
 私は本当に毎夜貴方の寝所を訪れる事になりますが」

「ああ、一向に構わない
 それに、その方がお前の―――…」



「…はい?」

「お前の細いエノキダケも、
 使い込めばブナピー程度には成長するかも知れないし」

「………え、えのき……」


 何もそこまで言わなくても
 そう思いつつも反論の言葉が思い当たらない

 引き攣った笑みを浮かべつつ、
 心の中で号泣するリノライだった



「さあ、そうと決まったら早速、
 明日からリノの身体とエノキを鍛えるぞ」

「…………。」

「エノキの成長を促せるような食材ってあるのかな?
 シェフに尋ねてみるべきだろうか…」


「……カイザー……」

「うん…どうした?」



「やはり…後生でございますから、
 そのエノキと呼ぶのはお止め下さいませ…っ…」

「…じゃあ、綿棒…とかは?」

「…………………。」


 どうして、そう…
 細くて白い、軟弱なものにばかり…

 いや、理由は言われなくてもわかるが



「…カイザー……」


 今に見ていろ

 鍛えてやる
 徹底的に鍛えて前言撤回させてやる…っ…!!

 受けた屈辱をバネに、
 新たなる闘志に燃えるリノライだった



 頑張れ、王子様
 そしてもっと頑張れ、魔法使い




はい、というわけでリノライ×カイザルの話にござりました

攻め=巨根…というわけでは、決して無いだろうと
固定観念を打ち消すべく無謀な挑戦をしてみました


せっかく華奢×マッチョなカップルなのだから、
こっちでも体格差をネタにしてみるのも面白いかと…

そして更に魔法使いは恐らく体力皆無だろうという、
拙者の偏見によりダメダメな男になってしまいましたな


まぁ、一人くらいこういう攻めキャラがいても良いじゃろうて(笑)