「……くっ……!!」


 与えられる刺激が強過ぎて堪え切れない
 歯を食い縛っても呻き声混じりの嬌声が漏れる


「ジュン…我慢しないで声を出して下さい」

「…っ…だ、だって…恥ずかしい…っ…」

 今更恥ずかしがるような関係でもない
 それは理解していても最後のプライドが残っている

 ジュンは唇を噛み、いつも押し殺したような声を上げていた


「ふふ…その快楽を必死に耐える声、好きです…
 でも、たまには素直な声も聞かせて欲しいのですよ」

 ゴールドの白い指がジュンの身体の線を辿る
 やがてその手は限界まで開かされた太腿の付け根を擽り始めた

「……っ…馬鹿……!!」

「馬鹿扱いは酷いのです
 ジュンの敏感な所を刺激しているだけなのに
 あぁ、それとも一番感じる所を可愛がって欲しいのですか?」

「…ちっ…違う―――……んうっ!!」

 敏感な所を強く握り込まれて、ジュンの身体が跳ねる


「さあ、どう可愛がってあげましょうか…
 ジュンが素直に啼いてくれるまで離しませんよ」

 両手で包み込んで緩やかな刺激を繰り返す
 熱が集まってくるのを感じながらジュンは微かな呻き声を漏らした

「……んっ…ぅ……」

「うっとりした顔をして…気持ち良さそうですね
 でも今日はもっと刺激的な声が聞きたいです」

「――――…っ…!?」

 突然、走り抜ける痛み
 瞬間的に全身を竦める

 一瞬何が起きたか理解出来なかった




「…な、なに…?」

「少し強めの刺激の方が素直になってくれるみたいですから」

 黄金色の光に包まれた天使のような優しい微笑み
 けれど、この笑顔の持ち主は悪魔そのものなのだ

「心配しなくても大丈夫ですよ
 怪我だけは…させませんから」

 くすくすと耳元で響く微笑
 そして残酷な悪魔は、尖った爪を容赦無く突き立てた


「…いっ…痛っ…!!」

「そうですね、痛いですね
 じゃあ…こうするとどうですか?」

「くっ…止めろ馬鹿っ!!
 痛いって言ってるだろ!!」

 噛み付くような鋭い視線で睨み上げる
 手が自由だったら突き飛ばしていただろう

 しかしサディストというのは相手が反抗的なほど征服欲が湧くらしい

「まだそんな余裕があるのですか
 思った以上に楽しませてくれますね
 でも…すぐにそんな顔も出来なくなります」

 ゴールドの指が敏感な先端に触れる
 次の瞬間、ジュンの悲鳴が部屋に響いた



「いい声ですよ…」

 うっとりと呟くゴールド
 自らの指先が紡ぎ出すジュンの悲鳴に酔い痴れていた

 カリ、カリッ、と爪で敏感な先端部を引っ掻く
 掻き毟っているうちに、そこは真っ赤に充血を起こして震えた

 ジュンの身体もゴールドの動きに合わせてシーツの上で跳ね上がる
 あまりにも強過ぎる刺激は激痛となってその身を苛んでいた

「ぐあぁ―――…っ!!」

 拘束された手足をバタつかせて悶絶するジュン
 大きく見開かれた瞳は焦点が合わず、何も映してはいなかった


「…嫌…だっ…止め――…うあぁ――…っ!!」

「何言ってるんですか
 まだ10分も経ってませんよ」

 手の動きを止める事も無く、ゴールドは言い捨てる
 ジュンは首を左右に振りながら絞り出すような声で食い下がった

「…たっ…頼む…から……!!」

「懇願するのは早いです…せめて30分は耐えて貰わないと
 せっかくの可愛い声なのですからね…もっと楽しませて下さい」

 笑顔で残酷に告げるゴールド
 ジュンの悲鳴に嗚咽が混じり始めた




 無限とも思える時が経った

 恐らく実際には一時間にも満たないのだろう
 それでもジュンにとっては地獄のような時間だった

「…はぁ…ぁ…っ……」

 ゴールドの手が離れても、なおジュンの身体は痙攣を続ける
 散々掻き毟られたその場所はズキズキと鈍痛を訴えていた


「…官能的で実に素晴らしい歌声でした
 ほら、ボクの身体もこんなに興奮しています」

 ゴールドは身に着けていた黒いシルクのシャツを脱ぎ捨てる
 その下に穿いていた袴も無造作に放ると、ジュンの上に圧し掛かった

 二人分の体重にベッドが微かに軋んだ音を立てる


「ジュンがあまりにも可愛過ぎて我慢が出来ません
 性急な抱き方しか出来そうに無いのですが…許して下さい」

 ジュンは無言で頷く
 むしろ助かった≠ニいうのが彼の正直な感想だ

 既に身体は散々弄られた後なのだ
 これで更に愛撫を受けさせられたら気絶しかねない


「体力、残ってますか?」

「……辛うじて…」

 ジュンは瞳を閉じるとゴールドの胸に頬を寄せた

 初めて見た時には物凄く驚いた、逞しく鍛え上げられた筋肉質の身体
 ただでさえ着痩せする体質なのに、ゆったりとした服を好むせいで余計に華奢に見えるのだ

「…彫像みたいだ」

 神話の登場人物を模した大理石の像を思わせる
 彫りの深い端正な顔立ちと、滑らかで逞しい肉体を持った彫像――…

「生きてる美術品だな」

「…恥ずかしいです…
 でも、そう言って貰えて嬉しいです
 お礼に気持ち良い事してあげますよ」

「…何を―――…んぅ…っ…!!」

 突然の圧迫感に息が詰まる
 指を挿れられた事に気付いたのは少し経ってからだった


「玩具を受け入れていたからでしょうか…思ったよりも柔らかいですね」

 既に広げられていたせいだろう
 大した抵抗も無くゴールドの指を受け入れる

 乾き始めた潤滑剤がペタペタと張り付くような刺激を与えた
 引きつるような感触にジュンの身体は悲鳴を上げる

「…んぅ……も、もう良いから…っ…!!」

「ふふ…もう欲しくなったのですか?
 でも玩具はボクのよりも細かったですからね
 ちゃんと慣らしておかないと、痛い事になります」


 指が体内で暴れ回る
 これはこれで充分痛い

 それでも、この程度の痛みなら耐えられる
 身体がそういう風になってしまった

 欲を言えば媚薬も飲ませて欲しかった

 けれど、今日はちゃんと濡らして慣らしてくれている
 それだけでも、かなりマシな方だと自分に言い聞かせた




「ジュン、そろそろ…良いですか?」

 三本に増やされていた指が引き抜かれる
 代わりに、もっと太いものが押し当てられた

 ジュンは両手を強く握り締めて、歯を食い縛る
 そんな姿にゴールドは苦笑混じりの溜め息を吐いた

「そうやって力むから余計に痛いのですよ」

「…仕方が無いだろ」

 どんなに念入りに慣らされていても痛いものは痛い
 この対格差だけはどうにもならないのだ

 ジュンの髪を優しく撫ぜて緊張を解かせる
 そして少しだけ力が抜けた瞬間、一息に腰を進めた

 鋭い悲鳴が上がった


 壊れそうなほど軋んだ音を立てるベッド
 しかしジュンはそれよりも更に悲痛な叫びを上げていた

「…いっ…痛い―――…っ…!!」

 玩具とは桁違いの質量
 激痛と異物感がジュンを襲った

「…うぅ…助けて……痛いんだ…」

「こんなに泣いて、可哀想ですね
 ボクにどうして欲しいのですか?」

 ジュンを痛めつけている物を抜いてやれば楽になる

 けれどゴールドにはそんな気は更々無い
 そしてジュン自身もそれは望んでいなかった


「…手、解いてくれ…
 お前に縋り付けば、少し楽になる」

 ゴールドはジュンを戒めている縄に手を掛けた
 散々暴れても、びくともしなかった頑丈な縄は彼の手であっさりと引き千切られる

「ジュン…ボクの事、抱き締めて下さい…」

「…ん…ゴールド……」

 長い間縛られていたせいだろう
 両手は力が入らず微かに震えている

 それでもジュンは彼の身体に手を沿わせて抱き締めた


「…くっ…うぁ…ぁ……!!」

 激しく突き上げられてジュンは声を上げる
 もはや彼は足の戒めも解かれている事さえ気付いてはいなかった

「…ぅ…っく…ん……あぁ…」

「ふふ…好くなってきたようですね」

 声に甘いものが混ざり始める
 ゴールドは満足そうに口付けた

「…く…ぁ……もう…っ…駄目……!!」

 全身を痙攣させながら限界を告げる
 手を伸ばして敏感な所に刺激を与えてやると一際甲高い声が上がった

「…いいですよ…ジュン、一緒にいきましょうね…」

「…ぁ…はぁ……くぅ―――…んっ……!!」

 滑る様な濡れた音
 そして二人の荒い息遣いが寝室に響いた




「大丈夫ですか?」

「…つ…疲れた…もう無理…」

 ぐったりとベッドに突っ伏するジュン
 その姿は疲労というより憔悴といった方が当て嵌まる

「…暑い…汗かき過ぎた…」

「冷たい物を持って来ましょうか?」

「それよりも、少し風に当たりたい
 城からは出ないから…外に出ても良いだろう?」

 赤く泣き腫らした瞳
 更に上目遣い…これが確信犯で無いのだから余計に困る

 ゴールドは高々と白旗を揚げた


 ふらふらと覚束無い足取りでドアへ向かうジュン
 しかしその歩みはドアの前に来た途端に止まった

 ドアノブに手を伸ばしたまま石像の様に硬直する

「…どうしたのですか?」

「ドア…開いてるんだけど…」

 よく見ると、こぶし一つ分程の隙間が開いている
 防音された部屋であっても、これでは意味が無い


 ジュンは全身から冷や汗が流れ落ちるのを感じた
 ただでさえ自分たちの部屋の前は見張りの兵士が多く巡回しているというのに…

 そろ〜っと、震える手でドアを開いてみる

 その瞬間だった


「うわぁっ!!」

「うをっ!?」


 聞き慣れた二人分の焦った声が廊下に響く
 その姿にジュンは激しい眩暈を感じた

「…レンさん…と、レグルス…」

「あ――…いやぁ〜…あっはっは…」

「……わ、悪ぃな…はは…ははは…」

 黒髪の二人の青年はジュンから視線を逸らしながら空笑い
 気まず過ぎる空気がどんよりと流れた

 レンとレグルスは、冷や汗を流しながら必死に弁解を始める


「いや…その、何か物凄い声が聞こえたから心配になってよ
 オレたちの部屋ってすぐ隣だから、ちょっと見てみるかって事になって…」

「そしたらさ、ジュン君の部屋の前で巡回の兵士が固まってて…ね
 とりあえず人払いはしておいたんだけど―――…声はかなり響いちゃってたよ」

「流石にこれはドア閉めてやろうって思ったんだけどよ
 そん時の音で気付かれてもヤバいだろうし…どうすっかな〜って迷ってるうちに…」

「―――…わかった、わかったから…それ以上言わないでくれ」

 ジュンは羞恥と屈辱に打ち震えた
 姿を消す魔法が存在するなら、誰かかけて欲しい


「あ、あのね…ジュン君…」

「……はい…?」

「ちょっと気になったんだけど…
 ゴールドさんとはいつも、こんな感じのプレイをしてるのかな?
 ジュン君凄い声出してたから、大丈夫なのか気になっちゃって…」

「何だか声もガラガラ言ってるみたいだしよ
 オレたちが口挟むような事じゃねぇけど…あんまりやり過ぎると体壊すぜ?」

 こんな感じのプレイ…って、一体何を何処まで見ていたというのだ

 羞恥が頂点に達する
 ジュンの中で何かが弾けた

 真っ赤になって怒涛の如く喚き始める


「それはあの変態悪魔に言ってやってくれよ!!
 俺だって今日は本当に死ぬかと思ったんだからな!!」

「―――…呼びましたか?」

 ひょこっとドアからゴールドが顔を覗かせる
 ジュンはその顔面を再びドアの奥へ押しやった

「呼んでないっ!!
 お前のせいで今日は散々だ馬鹿野郎―――っ!!」

 ジュンは力いっぱい叫ぶと、居た堪れずにその場を走り去った
 腰が痛むのか、微かにふらつきながら走るその姿が涙を誘う



「…っていうかよ…変態悪魔≠ナ出てくるお前も相当なもんだな…」

「まぁ、ボクにも一応は自覚がありますから
 ドアにわざと気付かれない程の隙間を開けておく程度の…ですが」

「お前、確信犯かよ!!
 酷ぇよ…信じらんねぇ!!」

 ジュンに同情して叫ぶレグルス
 しかしゴールドはサラリと笑顔で言い放った


「最近、ジュンに対して妙に好意的な連中が増えてるのです
 彼らが変な気を起こさないように牽制しておくのも大切なのですよ」

「牽制って…お前よぉ…」

「ジュンがボクの物だという事を皆に伝えるには一番手っ取り早い方法なのです」

 悪びれる素振りすらない
 がくりと脱力するレグルスだった


「お前、いい加減にしねぇとジュンに嫌われるぞ
 半泣きで走って行っちまったし…絶対怒ってるぜ?」

「大丈夫です、ジュンはすぐに戻って来るのです
 今は丁度兵士の交代時間ですから人通りが多いのですよ
 居た堪れなくなって、結局部屋に逃げ帰ってくるのがオチなのです」

 …悪魔の微笑がそこにあった



 十数分後、本当に部屋に戻って来たジュンの目には涙が浮かんでいた
 好奇の視線を浴びて、かなり恥ずかしい思いをしたらしい

「…お前なんか…嫌いだ…」

 目をこするジュンを、ゴールドはしっかりと抱き締めた

「ボクがドアをきちんと閉めなかったばかりに…
 本当にすみません…でも、わざとじゃないのです
 今度から良く確認しますから、許して下さいね…?」

 憂い顔で堂々と大嘘を吐くゴールド
 この場にレグルスがいたら張り倒されていた事だろう


「……ん…約束だからな…」

 ゴールドの腕の中で素直に頷くジュン
 胸の鼓動を聞きながら彼は静かに瞳を閉じた

「愛していますよ、ジュン…」

 体重を預けてくるその身を抱き上げる
 栗色の髪に口付けながらゴールドは心の中で呟いた

 ―――…今度は、もっと恥ずかしい思いをさせてあげます…


 ジュンの受難はまだまだ続く




 ふぅ…何とか書き終わりましたな…

 これ、実は引越し作業中に、誤って消してしまったのじゃよ…
 しかも指摘されるまで気付かぬという失態

 お詫びのつもりで、同人誌の原文をほぼそのまま載せました
 だからちとラブシーンが多めにござりまする

 …まぁ、一応これでも悲惨なシーンは割愛しておるのじゃよ
 具体的な玩具の内容を告げなかったのが拙者のせめてもの親心じゃ…

 しかし、これでも充分ジュンが可哀想な事になっておりまするな
 本気でいつか身体を壊してしまいそうで心配でござるよ

 何かもう…受難≠チていうよりは災難≠カゃな…