子供の頃から、ずっと住居を転々としてきた
 親の仕事の都合上、仕方が無いと思っている

 でも、一度で良いから落ち着いて生活してみたい
 そう思って俺は高校卒業後、親元を離れて大学へ進学した

 俺が選んだのは北海道の大学


 俺が一番長く過ごした土地は沖縄だった
 だからこそ北国と呼べる土地に行ってみたかったのかも知れない


 初めての一人暮らし
 初めて足を踏み入れた北の大地

 しかし、俺の新生活は思い描いていた楽しいものにはならなかった



 転校を繰り返してきた俺は、そもそも深い友情付き合いにも縁が無い
 仲良くなってもすぐに引っ越さなければならなかった幼少時代

 俺には友達と呼べる存在がいなかった

 別れる事が辛かったから、
 無意識に友達を作らないようにしていたのかも知れない


 だから、いざ友達を作ろうとしても
 その手段が俺にはわからなかった

 元々口下手な性格も災いして、
 気が付いたときには既に、俺は大学内で孤立した存在になっていた


 講義中、雑談を交わす相手もいない
 課題を手分けして片付ける相手もいない
 食事時になっても一緒に学食へ向かう相手もいない

 一言も言葉を発さないまま一日が終わる事も珍しくなくなった


 寂しくて
 ただ、寂しくて

 側にいてくれる存在を探して、夜の街に足を運ぶようになった

 札幌の都心部は人通りも多い
 喧騒に紛れる事で寂しさを誤魔化して過ごす日々

 一人で歩くには北海道の道路は広過ぎる
 沖縄の太陽を浴びて育ったこの肌に、北海道の風は冷た過ぎる


 自分の生活が坂道を転げ落ちるように、どんどん荒んで行く
 北国の生活は俺の身も心も冷たく凍りつかせていた


 でも
 そんな生活の中でも奇跡は起こる

 俺が『彼』と出合えた奇跡


 ……鎌井蘇芳

 この冷たい生活から救い出してくれた人
 俺に北の大地の温もりを教えてくれた人―――……