「夏に向けて、髪形を変えてみようと思うのですよ」
五月もいよいよ終わり
窓の外に咲く八重桜もはらはらと散り始める季節
もうすぐ夏がやってくる
そんなある日の出来事
「ああ、お前の髪っていかにも暑そうだもんな
せめてアップに結い上げるとかしないと見てるこっちまで暑い」
「というわけで、色々と考案してみているのですよ
いかにも夏らしい髪型にしたいと思いまして」
「…というと…？
髪にハイビスカスでも刺すってのか？」
それはどちらかといえばハワイのイメージ
夏といえば―――…何だろう？
「今のところ、涼しげかつユーモア漂う乙女チックさを取り入れて、
髪にソフトクリームを刺すという案を進めてます」
今すぐ止めろ
「溶けるっ、溶けるからそれっ…!!」
頭上からぽったん、ぽったんと乳白色の滴が流れ落ちる姿を想像してみる
…あぁ…なんというか…
連続的に鳥のフン攻撃を食らってるように見える髪型だ…
しかもアリがたかってきそう
ついでに言わせて貰えば生クリームが腐敗して臭ってきそう
「…いけませんかねぇ…？」
「白い液体を撒き散らしながら歩く男と行動を共にしたくない」
でも
それがチョコレート味だったらもっと嫌だ
というか、そもそもなんでソフトクリーム？
「ソフトクリームを選択する理由は何だ？」
「渦巻きが縦ロールっぽくて乙女チックじゃないですか」
「じゃあ普通に髪を巻けっ!!
お前の髪の長さなら出来るだろ」
「ボクって縦ロール似合わないのですよ
どこぞの音楽家のようになってしまって…
だいたい、マッチョな四十路男が縦ロールで歩いてたら怖いでしょう？」
ソフトクリーム刺して歩いてるのも怖いと思う
火の付いたロウソクを頭に結び付けている姿より、ある意味怖い気がする
「…とにかく、ソフトクリームはやめろ…
ちなみにアイスもカキ氷もダメだからな
そんな髪型した男が俺の恋人だなんて思われたくない」
「じゃあ、スイカはどうでしょう？」
「まさか半分に切って中身をくり抜いて、
帽子みたいに頭にかぶる…とか言わないよな？」
「いいえ、そんな恥ずかしい事しませんよ」
「そ、そうか…？
じゃあ、どうやってスイカを？」
「髪を真っ赤に染めて、上からびっしりとスイカの種を貼り付ければ…」
お前はちょっとショッキングなテントウムシか
そのまま肝試しの幽霊になれそうな予感
名前をスイカヘアーとか何とかつければ立派な妖怪の仲間入り
「もしくは…貝殻とか」
「あ、ああ、それはギリギリで許容範囲かな
貝殻の髪飾りとかは普通に店にも売ってるし…」
付けるのが四十路間近のオッサンということは置いといて
「やっぱり貝殻はいいですよね
股間に一枚貼り付ければ、そのまま外も歩けますし」
それはダメ
「お前、まさか本当にその格好で外出歩いた事ないだろうな…？」
「さすがにそこまで露出狂じゃないです
ちゃんと乳首に星型のシール貼ってましたよ」
そのまま夜空の星になってしまえ
「お前さ…今度そんな馬鹿やったら、
首から下の毛、全部剃り落とすからな」
「ある意味頭を丸めろと言われるより辛いですね」
「それが嫌ならこれ以上社会に迷惑かけるな」
「はい、はい
それで髪型なのですが…」
「髪を上の方で結べ
ポニーテールとか…
それだけでかなり涼しくなるだろ」
「じゃあツインテールで行きます」
「それ、涼しさ通り越して寒い」
「そのままチャイナなおダンゴ作っちゃいましょう
二人でチャイナファッションでデートすると目立ちますよ」
「さて…ちょっとカミソリ持ってくるわ
一本も残さず剃り落とすからな、覚悟しとけよ」
「あっ…ウソ、冗談です」
「…よし」
結局、ゴールドの髪型はポニーテールに決定したらしい
今から髪を頭上で結い上げる練習をしている
せめて夏っぽくしてやろうと、
こっそり蚊取り線香をぶら下げてみたところ、
見事にコゲた
「…い、いっそ、このまま…あ、アフロとか…どうだ？」
「ジュン…他に言い残す事はありませんか…？」
「いや〜あ、夏の暑さを吹っ飛ばすには、
怨念のこもった視線が一番効くかもな〜…あはははは…」
「…ふふふ…ふふ…ふふふ……」
「―――――…はは……は………」
翌日ゴールドは美容院に駆け込んだらしい
夏に向け、ちょっぴり髪量が減ったゴールドだった
とりあえず多少は涼しくなった事だろう
本人の望み通り髪型も変わったし
うん、良かった良かった―――…
本日の教訓
『髪に蚊取り線香をぶら下げたらコゲる』
当たり前じゃあああああッ!!!!!!
……という突っ込みはさておきまして……
とりあえず夏
夏をテーマにしたSSにござります
夏は何かとハジケたくなる季節じゃよな
というわけで、ゴールドも少々冒険してみたくなったのじゃろうて…