ときめきの夕暮れ




 今日も日が暮れてきた
 茜色の小道を何気なく歩く

 何処までと遠く高い空
 微かに降り積もってゆく雪
 凍て付くような風にさらわれて何処かへ旅立つ木の葉たち

 目に映るもの全て、一瞬一瞬が名画のように美しい


 ――…あ……

 不意に視界に飛び込む黄金色の輝き
 見間違う筈も無い、見事なブロンドの髪

 ベンチに座って夕日を眺める愛しい恋人、ゴールドの姿

 彼は一体、何を思っているのだろう
 夕日に照らされたその横顔に浮かぶのは微かな憂い
 長い髪が風に靡いてキラキラと輝いていた



 近寄ろうとして、ふと気付く

 彼の唇に何かがくわえられている
 指より太目で、茶色い筒状のもの


 ――…ハマキ…ってやつか…?

 知らなかった
 あいつ、タバコなんか吸うんだな…


 初めて見る珍しい姿に思わず見入る

 普段見慣れている、優しくてどこか愛嬌のある笑顔の彼とはまるで別人だ
 夕日に照らされながら葉巻を銜えるその姿は、大人の男特有の渋さを醸し出している

 自分より18歳も年上の彼
 オヤジくさい奴だと思っていたけど――…



 ……格好良い…な……

 胸の奥が微かに疼く
 寒い筈なのに、身体が熱くなるのを感じた

 彼の逞しい肩に寄り掛かりたい
 そんな衝動に駆られて、思わず歩を早めた



「…ジュン…?
 こんな所で、どうしたのですか…?」


 声をかけるより先に、彼の方が俺に気付いた
 太陽のような笑みを惜し気も無く浴びせてくれる

 ああ、この笑顔が好きだ
 寒い冬空の中でも俺を暖めてくれる


「…姿を見かけたから
 隣に座っても良いか?」

「ええ、どうぞ
 ボクの隣はいつでもジュンの為だけに空けてありますから」


 今、さり気に口説かれた…?
 相変わらず言う事がクサい奴だ

 でも…そんな所も嫌いじゃないんだよな…


 俺の心中を知ってか知らずか、ゴールドは再び唇を開く



「ジュンも要りますか?」

 先程までくわえていた茶色い筒
 でも…俺、タバコ吸わないんだよな…

 それでも付き合いだからと、俺は頷いた


「どうぞ」

 差し出されたそれに指を伸ばす
 そして次の瞬間、俺の中で時が止まった


 ハマキだと思ったそれは、
 こんがりキツネ色のちくわだった




「……な、何で……?」

「美味しいですよ
 ビールに良く合います」


 彼は何処からか缶ビールを取り出した
 良く見ると、彼の傍らには他にもビールの空き缶が転がっている

 チクワをかじりながら缶ビール



「…おい、おっさん…」


 いくら何でも、このオチは酷くない?

 だってさ、ほんのり寂寥感のある冬の夕暮れから始まったんだぞ?
 しっとりとした詩的な雰囲気すら感じるようなオープニングだったんだぞ?

 ――…それがだな?


 最終的にちくわオチ



「…ゴールド…
 さっきまでの熱が一気に引いていったぞ…」


 俺のトキメキを返せ


「…寒いですか?
 はい、熱燗もありますよ」


 トドメとばかりに差し出される、
 暖めたカップ酒 


「………そっか……そりゃ…どうも……」


 もう、『どっから出した!?』と突っ込む気力も無い


 …わかってる
 誰が悪いわけでもないんだ…

 むしろ、お前は良い奴なんだよな
 そうだよな…ゴールド――…?


 結局、行き場の無い物悲しさを抱えつつ
 夕日に照らされながら男二人でちくわ片手に一杯飲んだのだった



 …ときめき…って…何だろうな――… 






ジュンよ、あえて言おう
これはまだマシな方であると!!

…というわけで、おっさんなゴールドのSSにござります

黙ってさえいれば
何もしてさえいなければ二枚目なキャラ
それがゴールドと言う男なのじゃ…(遠い目

どんなに若作りをしていても、隠し切れぬ加齢臭&おっさんオーラ
自然と滲み出てしまうものなのじゃよな…ははは…