「ローゼル」


 見事なブロンドを掻きあげながら、
 ゴールドは信頼する部下の名を口にする


「―――……は、ここに」

 背後に突如現れる気配
 有能な部下は傅くと上司の言葉を待つ

 訓練生だった頃から手塩に掛けて育ててきた部下だ
 その才能は買っているし、信頼もしている

 ――……しかし


「勤務時間外の呼び出しは別途料金を頂きます、ゴールド様」

「え」

「冗談です」

「…………。」


 この上司にして、この部下あり
 能力が高い分だけ扱いも難しい

 部下と言えども一筋縄では行かない、それがローゼルという男だった





「……ジュンさんが風邪……ですか」

「そうなのです
 ここ数日、食欲が無いみたいでお粥も食べてくれないのです
 水やジュースなら飲んでくれるのですが、それでは栄養が足りません」

 鬼畜で名高いゴールド
 そんな彼の唯一の弱点が、恋人のジュンという存在である

 その彼が風邪を引いたらしい
 ゴールドの方が今にも倒れそうな表情だ


「人間はデリケートなのです!!
 ちょっと体温が上がっただけで命の危険があるのですよ!!
 ちゃんと治療しなければ手遅れになってしまうのです……!!」

「そ、そう……ですね」

「ボクにだって風邪薬くらい作れます!!
 でも空腹の状態で薬を飲めば胃が荒れてしまうのです……
 無理に薬を飲ませて胃炎や胃潰瘍になってしまえば本末転倒
 ですが、このままにして風邪が悪化し――……肺炎にでもなれば、それこそ危険なのです!!」

 風邪で寝込んでいる青年よりも、
 目の前の男の方が、ある意味では危険な様子だ

 完全に取り乱している
 残虐非道を絵に描いたような鬼上司が、恋人の風邪で取り乱しているのだ
 微笑ましくもあり、それと同時に少々不気味でもある光景だ

 ……明日は暴風雨にならなければ良いが



「そこで頼みたいことがあるのです――……」

「は、はい」

「ウリ坊、何か良い方法はありませんか?」

「…………。」

 何故、そこでウリ坊に頼る
 その一言を何とか飲み込むローゼル

 ……ちなみにウリ坊とはローゼルの相棒で、
 現在は彼の腕の中で鼻をブヒブヒと鳴らしている


「ウリ坊、頼れるのは貴方しかいないのです」

「…………。」

 私の存在はスルーですか
 額に浮き出そうになる血管を前髪で隠しつつ、極めて冷静な表情を作るローゼル

 ここでウリ坊に嫉妬するのは、流石に惨め過ぎる


「液体なら飲むウリね?
 それなら玉子酒を作ったらどうウリか?」

「ジュンはここ数日、まともに食事をしていないのです
 アルコールを口にして胃に負担が掛からないか心配なのですが……」

「それなら葛湯を作るウリよ
 胃に優しいしカラダも温まるウリ
 昔から愛用されていた民間療法だから安心するウリよ」


 ウリ坊が器用にレシピを書く
 ゴールドはそれを笑顔で受け取ると、優しい手付きでフワフワの頭を撫でた

「どうもありがとうございます
 これならジュンも飲めそうです――……頼りになりますね」

「この位ならいつでも力になるウリよ」

「…………。
 良かったですね、ウリ坊
 ゴールド様からお褒めのお言葉を頂けて……」


 ぐりぐり
 手持ち無沙汰に動物の毛を指先で弄ぶ

「う……う、うり……」

「…………。」


 ぐりぐりぐり

 葛湯どころか米すらまともに炊けないローゼルは、
 無表情を装いながらも不貞腐れるしかなかった







「――……ジュン、起きられますか?」


 すーっと、眠りの淵から浮上させられる
 重い目蓋を開けると、そこには見慣れた金色の男の姿

 随分と長い間眠っていたらしい

 時間の感覚がまるで無い
 窓の外が赤く染まっているが、これが夕焼けなのか朝焼けなのか、それすら謎だ


「ん……」

 もそもそと起き上がると、汗で張り付いていたらしい髪の毛が額から剥がれる

 相当な量の汗をかいていたらしい
 寝巻き代わりに来ているシャツが汗を吸って重い

 しかし、汗をかいた分だけ熱も引いたようだ
 昨夜と比べると随分と楽になった気がする


「そろそろ胃に何かを入れなければダメですよ
 食欲は無いでしょうから、これを飲んで下さい」

 ゴールドが差し出すカップを黙って受け取るジュン
 じんわりとカップ越しに熱が伝わってくる

 彼お手製の薬湯だろうか
 カップの中を覗き込むと、そこには白濁した液体が満ちていた



「…………。」


 何だろう
 本気でこれは一体、何なのだろう

 寝すぎてボケている脳味噌を強引に動かして考える

 白くて半透明
 カップを傾けると微かにとろみがあるのがわかる
 臭いを嗅いでみたが、鼻が詰まっていて良くわからない


「ゴールド……これは何だ?」

「ボクです」

「………………。」

 カタン

 ジュンは無言でカップをサイドテーブルに置くと、
 そのまま頭から布団をかぶって横になる


「ち、ちょっ……冗談ですっ!!
 冗談ですから、ちゃんと飲んで下さいっ!!」

 慌てて布団を引き剥がすと、
 じっとりとした視線が向けられた

 やや軽蔑気味の視線である



「……ゴールド……」

「な、何ですか?」

「お前……あの量、どうやって出した?
 1日やそこらで出る量じゃないよな
 もしかして何日分もカップに溜めてたのか……?」

「だ、だから冗談だと言っているじゃないですか!!」

「……暇な奴だ……この変態が」

「誤解なのです――……!!!」


 ヤバい
 ちょっとした冗談だったのだが、見た目がシャレになっていなかった

 慌てて弁解に走るゴールド



「これは葛湯という飲み物なのです
 風邪に凄く良いのですよ?
 変な物ではないので安心して飲んで下さい」

「……でも、この中に一発や二発くらい出しても気付かないよな……?」

 ジュンの目は真剣だ
 思いっ切り警戒している

 軽蔑が満ちていた瞳の中に、今度は微かな恐怖の色が混ざっている


「だからあれは冗談だったのです!!
 いくらボクでも病人にそんなことしません!!」

「健康体だったらやるのかよ……」

「あ、揚げ足を取らないで下さい
 カップなんかに入れて飲ませても面白くありません
 どうせなら顔面に掛けた方が趣もあってボク好みです!!」


 どんな趣だ
 自分で言っておきながら、思わず心の中で突っ込んでしまうゴールド

 フォローになっていないにも程がある
 むしろ、逆効果だったのでは――……

 恐る恐るジュンの顔を覗き込む




「……確かに、そうだよな」

 少しトゲのある口調
 そして言葉同様に鋭い恋人の視線がそこにあった

「じ、ジュン……?」

「お前は一日に何度も出来るような奴じゃなかった
 カップの中に出すなんて勿体無くて出来ないよな」

「え……」

「好色なくせに一晩の回数は少ないよな
 二回もやれば多いくらいで……空砲を撃つ余裕なんて確かに無い」


 うんうんと頷くジュン
 そして、何の躊躇いも無くカップに手を伸ばすとそれに口を付けた

 それを複雑そうな瞳で見つめるゴールド
 その納得のされ方はちょっと……いや、かなり悲しい


 しかし事実だ

 レンやローゼルたちと比べれば、
 決して自分は絶倫とは言えない

 それでも回数が少ない分、前戯は時間を掛けて念入りに行っている
 それに玩具や小道具を用意して趣向も凝らしている


 内容の濃さでは負けてはいない
 その筈……だ

 しかし責めるような恋人の様子を前にすると、流石に不安になってくる
 もしかすると、全ては自分の自己満足でしかなかったのだろうか





「……甘いな
 薬みたいに苦いかと思った」

「飲み易い様にお砂糖を入れているのです
 変な物は入れていないので生臭くも塩っぽくもありませんよ」

「はいはい、もうわかったから」

 当のジュンは生返事を返しながら、
 ゴールドの不安など露知らず、呑気にシーツの皺を直したりしている


「……あの、ジュン……」

「何だ?」

「もしかして、満足していませんか?」

 あえて主語を抜かすゴールド
 それでもジュンには伝わったようだ


「……ちょっと、な
 欲求不満気味……」 

 肯定の一言
 先程の軽蔑の眼差しよりもキツいものがある

「うっ……そ、そんな……」

 自他共に認める好色男
 知識もテクニックも、それなりに自信があった

 それだけに予想だにしていなかった恋人の一言にショックを隠せない
 絶句するゴールドに、ジュンは言葉を続ける



「お前、ここ最近……何もして来なかっただろ」

「……最近ですか?」

「俺のカラダにベタベタ触って……
 服を脱がせたりもするくせに、それ以上何もしなかったじゃないか」

「…………。」

「体を拭いたらさっさと服を着替えさせて終わりにするし……」

「……………………。」


 ガクッと全身から力が抜ける
 まさに脱力だ

 ショックを受けたり真剣に悩んでいた自分が可哀想になってくる





「じ、ジュン……一つお尋ねしますが
 貴方は自分が風邪を引いている事を忘れているのではないですか?」

 ベタベタ触るというのは恐らく熱や脈を計測した時の話だろう

 汗をかくから服も着替えさせる
 風呂に入れない分、体を拭き清めて
 そして冷えない内に急いで着替えを済ませる
 後は暖かく安静に眠らせておいた

 ごく普通の看病だ
 献身的に彼を看てきたつもりである

 責められる要因など無いと思うのだが……


「お前が涼しい顔で看病してくるのが嫌だったんだ」

「涼しい顔なんてしていませんよ
 凄く心配していたのですから」

「……だって、ただ看病するだけで何もして来なかっただろ……」

 それの一体どこに不満を感じるというのだろう
 熱を出して寝込む恋人を襲う方が明らかに問題がある



「調子狂うんだ
 普段は下心丸出しで色目使って来るくせに
 ちょっと風邪引いただけで急に扱いが変わって……」

「いくらボクだって見るからに具合の悪い相手に手は出せませんよ」

「俺は熱があっても、お前に触れられるだけでドキドキしていた
 それなのにお前は全く意識していなかったなんて……不公平だ」


 ぎゅっ

 ジュンが抱きついて来る
 ……珍しい
 どちらかと言えばクールな印象が強い恋人が、甘えている


「ジュン?」

「……わかってる、お前は悪くない
 単に俺が我侭なだけなんだ
 ちゃんと頭では理解している」


 人は怪我や病気になると不安で心細くなったり、ネガティブになる事がある
 彼が熱のせいで人肌恋しくなった可能性も充分にある筈だ

 安静に眠らせようと距離を取っていたのが裏目に出たらしい


 理屈ではゴールドの行動は正しい
 しかし、ここは一先ず下手に出て恋人の機嫌を直した方が賢明だろう
 機嫌さえ直れば大人しく眠ってくれる筈だ

 そう結論付けるとゴールドは静かに彼の体を抱き返した




「ジュン、すみません
 寂しい思いをさせてしまいましたね」

「……お前に謝られたら俺の立場が無い
 お前に風邪うつすと思って……我慢するつもりだったのに」

 抱き付く腕から体温が伝わってくる
 いつもより彼の腕が熱く感じるのは熱のせいだろう


「ボクに遠慮なんかしないで下さいよ
 我慢して鬱憤を溜め込まれるくらいなら、風邪をうつされた方がまだマシです」

 ちゅっ

 頬に口付けると、ようやく恋人は機嫌を直したらしい
 甘える子猫のように全身を摺り寄せてくる



「……言ったな?
 風邪をうつされた方が良いって」

「ええ、言いましたよ?
 どうぞ気の済むまでうつして下さい
 こう見えて頑丈なのです、風邪くらいでは寝込みません」

 挑発的な笑みを向けると、
 恋人もまた目を細めて笑う


「じゃあ俺を抱け……って言いたいところだが
 そんな事をしたら折角良くなりかけていた風邪が悪化する」

「そうですね
 今は風邪を治す事に専念して下さい
 風邪が治ったら思う存分愛し合いましょう」

 ぽふ
 恋人を優しくベッドに寝かせる

 大人しく横たわる彼を確認して、ゴールドもその隣りに腰掛けた





「今はまだ何も出来ませんが……
 せめて貴方が眠りに落ちるまで添い寝をさせて下さい」

「……なあ、ゴールド
 今日の俺は我侭なんだ
 もう少しだけ甘えていたい……いいか?」

「…………?
 何かして欲しい事でもあるのですか?」


 ゴールドとしては普段から恋人を甘やかしたくて仕方が無いのだ
 可愛く甘えてくる恋人を拒む理由なんてあるはずも無い



「お前は寝ているだけでいい
 少しだけお前に触れて……感じていたいんだ」

「そ、そうですか
 ボクとしては構いませんよ」

 寝ろと言うのなら、と
 素直にベッドに横たわるゴールド

「……どうも」


 ゆっくりと起き上がったジュンがゴールドの上に覆い被る
 両手で体重を支えているせいだろう、重さはあまり感じない

 ゴールドの心音を聞くかのように胸の上に頬を乗せて来る

 彼は言葉通り、全身でゴールドに甘えたかったのだろう
 まるで母親の胸の中で安心して眠る子供のようだ


 ……可愛くて仕方が無い

 予想外の幼い姿に思わず頬がにやける
 恋人に甘えられているという満足感と充実感

 微かな体重と温もりを感じながら、ゴールドは幸せそうに瞳を閉じた







「―――……痛っ!?」


 突然、胸に走る痛み
 驚いて身を起こすと、服の上から歯を立てている恋人の姿が目に入る

「な、何をして……」

「ああ、乳首があるな――……って思ったら、つい」

「…………。」

「ごめん、ちょっと力入れ過ぎた」


 謝りながら、今度は全身で体重を掛けてくる

 成人男性1人分の体重だ、決して軽くは無い
 不意打ちもあって一瞬、息が詰まる



「あー……歯形付いてる」

 ゆったりとしたゴールドのシャツは簡単に肩からずり下ろせる
 露になった胸に視線を向けたジュンは、ゆっくりとそこに唇を落とした

「……っ……!!
 ちょっと、ジュン……!?」

「……何だ?
 もう少し良いだろ?
 甘えてもいいって言ってくれたじゃないか」


 言った
 確かに言った

 ……しかし

 果たしてこれは甘えている部類に入るのだろうか



「な、何かが違う気はしませんか?」

「違わない
 甘えて甘噛みしてるんだ」

「そ……そう、ですか……?」

「そう」


 ぴちゃっ……
 濡れた音が胸から響く
 
 ちろちろと小刻みに動く舌
 指先は胸の突起を摘み上げ、時折軽く押し潰す

「――……っ……!?」

 違う
 断言出来る、これは違う

 少なくとも、既に添い寝の範疇を超えている




「じ、ジュン!!
 今日はここまでです!!
 まだ熱があるのですから、もう寝――……んぅ」

 むにっ

 ……唇を摘まれる
 見事なアヒル口だ

 鏡を見なくてもわかる、今の自分は相当無残な顔をしている事だろう


「ふふっ……変な顔」

「…………。」

 怒ってはいけない
 相手はまだ微熱の残る病人だ

 そう、全て熱のせい
 強引な振る舞いも奇行も熱があるせいだ

 そう、自らに言い聞かす


「……ジュン」

 ジュンの指が離れると、ゴールドは精一杯の笑顔で彼と向き合った

「さあ、もう満足したでしょう?
 続きは風邪が治ってからしましょうね」

 優しく
 極力優しく

 子供に言い聞かせるように、ゆっくり言葉を掛ける




「なぁ、ゴールド」

「……はい?」

「これ、本当に似てるよな」

 彼は先程まで口を付けていたカップへ指を入れ、
 その中身を興味深そうに眺めている


「あー……はい……」

 何に似ているか
 皆までは言わない

 自分から言い出したネタである
 上手く処理する言葉が見つからず、曖昧な返事を返すゴールド

 どうやら我侭な恋人は、
 自分の忠告を聞き入れるつもりは無いらしい


「……こういう感じって、少しエロくないか?」

 ほら、と濡れた指を見せ付けられる
 そこには白く濁った液体――……葛湯が滴っていた

 彼はその指に音を立てて吸い付いたり、舌を這わせては挑発的な視線を向けて来る


 普段のジュンならまず、こんな事はしない
 この積極性も、やはり熱のせいなのだろう

 熱に浮かされている――……というより、むしろ酔っ払いの悪ノリに近い
 さしずめ、今の自分はタチの悪い酔っ払いに絡まれた不運なポジションと言った所か



「……流石にこのままでは目の毒です
 そんなに挑発して、ボクがその気になったらどうするのですか
 貴方だって早く風邪を治したいでしょう?
 いい子ですから、今日はこのまま大人しく眠って下さい」


 早く寝て貰わなければ困る
 
 ジュンは欲求不満だと言っていたが、
 当然、それはそのままゴールドにも当てはまるのだ


 禁欲的な夜を過ごしていたのはゴールドも同じ

 こんな状態で挑発されては堪らない
 向こうはやりたい放題だが、一応相手は病人である

 まだ熱があるし、見るからに具合が悪そうだ
 ここ数日まともに食事すら取っていないから当然、体力も格段に落ちている


 こんな状態の彼に手を出せば病状が悪化するのは明らかだ

 燻る熱を誤魔化しながら、何とか理性を保つ
 全てはジュンを思っての事だ



 しかし――……



「俺が寝るまで添い寝しててくれるんだろ?」

 今日の恋人は、あくまでも我侭モードを貫くつもりらしい
 再び甘えて擦り寄ってくる

「…………。」

 ここまで来ると忍耐力を鍛える修行を受けている気分だ


「お願いですから大人しく寝て下さい
 いい加減ボクの理性も限界ですよ
 このままでは貴方を今夜、眠らせてあげられなくな――……んぐ」

 口の中に突然、ぬるっとした物が滑り込んでくる
 じわりと舌の中で広がる甘い味

「美味しいか?」

「…………んぐ」

 ジュンの指が口の中を弄っていた



「柔らかいな」

 指先が歯列を撫でて舌を弄ぶ
 キスとはまた違った新鮮な刺激

 頭の芯が痺れて来る


「……んっ……」

「気持ちいいか?」

 指を引き抜くと、それを自らの口に含んで笑う

 少し意地悪な笑み
 悪戯な視線はゴールドの辛うじて繋ぎ止めていた理性を打ち砕いた




「……悪い子ですね
 せっかくボクが優しくしていてあげたというのに……」

「お前が悪いんだ
 俺を放っておくから……」


 ジュンにだってゴールドが自分を気遣ってくれている事は理解出来ている

 それでも
 寂しく感じていた事は確かだ

 彼に触れていたいという気持ちは止められない



「んっ……」

 首筋に唇を這わせるとゴールドは軽く身じろぐ
 しかし、拒絶をしている様子ではない

「ボクをその気にさせた罪は重いですよ……?」

 ……むしろ挑戦的な視線が返ってきた


「お前のそういう顔、嫌いじゃない
 腹の内が見えない澄ましたにやけ面より、ずっとマシだ」

「随分な言われ様ですね……」

「褒めてるんだぞ?
 少しは素直に喜べよ」


 ゴールドの顔を覗き込んで笑顔を浮かべつつ、
 そーっと彼の股間へ手を伸ばすジュン

 そして
 少し強めに力を込めた

 ―――ぎゅっ



「――……っぁあああ……!?」

 びくん、と跳ね上がる肢体
 そして部屋に響く、想像以上の大音声

「…………。」


 自分で自分の声に驚いたらしい
 ゴールドは無言で驚愕に目を見開いている

 しかし、程無くして我に返ったようで
 色白の顔が瞬時に赤く染まって行く

 髪の隙間から見える耳の先も見事な赤色だ



「……え、えーと……うん、素直な反応だな」

「…………っ……!!
 じ、ジュン……ボクを怒らせましたね……!?」

「照れ隠しに凄んでも、赤面した状態じゃ迫力無いぞ」

「だ、だって……これ、本当に恥ずかしいのですよ……っ!!」


 握り締めたコブシがプルプルと震えている

 本気で、かなり恥ずかしかったらしい
 不意打ちを受けたというのもプライド的に許せないのだろう



「……火、ついたか?」

「ええ、もう……
 おかげ様で、ね……!!」

「それは良かった」


 にっこり
 満足気に笑うジュン

 その表情はゴールドとは正反対に穏やかだ



「さて……それじゃあ、寝るかな」

「……はい?」

 聞き間違えかと耳を疑うゴールド
 しかし、ジュンは涼しい顔で布団を手繰り寄せる

 その姿は間違いなく、就寝モード

「あ、あの……ジュン?」

「何だ?」

「まさか、本気で寝てしまう気ですか?」


 そりゃないだろ
 そんな気持ちが滲み出た、情けない声が漏れる

 こっちはすっかりその気なのだ
 しかし、恋人はどこまでも我侭だった



「お前、俺に早く寝て欲しかったんだろ?
 まだ微熱があるんだし……早く風邪、治さなきゃな
 わかってるだろうが、静かに眠らせろよ?」

「っ……貴方、最初からボクにお預けを食らわせるつもりでしたね……!?」

「俺だけが欲求不満なのは不公平だ
 お前も俺が欲しくて眠れない夜を悶々と過ごせばいい」


 柔らかく爽やかな、キング・デビルの微笑がそこにあった





「―――……ラナンキュラス、付き合いなさい!!」

「ちょっ……ゴールド様!?
 いきなりどうしたんです!?」

「ボクの愚痴に付き合うのです!!
 さあ、今すぐ酒場に行きますよ!!」

「俺が飲めないこと、知っているでしょう!?
 シラフで上司の愚痴を延々と聞かされるなんて苦痛以外の何者でもないですよ!?」

「わかっています!!
 ですがローゼルやカルラはインテリな分、冷静なツッコミが返って来るのが癪なのです!!
 だから貴方が適任なのです――……そういうわけですからボクと一緒に苦しみなさい!!」

「そ、そんな理不尽な……!!
 というかゴールド様、さり気無く失礼……!!」


 ずるずるずる……
 行きつけの酒場へと引きずられて行くラナンキュラス

 我侭な恋人に振り回された男は、
 今度は我侭な上司として部下を振り回すのだった






 エロではないのじゃが、やや『ああん』的なセリフを含むSSの場合
 どこにアップすれば良いのか悩みどころにござりまするな

 というわけで、出来心で書いてしまったジュン×ゴールドにござります

 うむ
 こういうのを『魔が差した』というのじゃろうな

 やや自重して年齢制限の付かぬ健全(?)な内容にしておいたのじゃが
 裏に置くのなら、もう少し展開を進めても良かったじゃろうか……?